楽天の「送料無料」問題、施策の一律導入見送り ――公取委は緊急停止命令申し立てを取り下げ

石岡教授の意見書を手にする野原彰人執行役員(ライブ配信から)

 楽天は3月18日に仮想モール「楽天市場」に導入した、送料無料となる購入額を税込み3980円で全店舗統一する施策「共通の送料込みライン」について、一斉導入の延期を決めた。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、人員不足や商品仕入れが滞るといった影響が店舗に出ていることから、専用フォームから申し込むことで同施策の適用対象外にできるようにする。現時点では特別措置の期限を決めておらず、5月頃に改めて今後の方針を決める予定。これを受けて公正取引委員会は3月10日、楽天に対して起こしていた、東京地方裁判所への緊急停止命令の申し立てを取り下げた。公取委では、同施策が出店者に不利益をもたらすとして2月28日に緊急停止命令を申し立てていた。

 3月6日にライブ配信で開催された記者会見において、CEO戦略・イノベーション室の川島辰吾氏が、一律導入を見送った理由について「コロナウイルスの影響が非常に大きい。配送や物流に関してはリモートワークができない。共通の送料込みラインで店舗の売り上げは増えると考えているので、今回の問題でスタッフが不足になるようなことがあれば、かえって悪影響が出てしまう」と説明。準備が整った店舗から施策を導入し、それ以外の店舗については同施策の対象外とするよう設定できる。

 同社では「送料込みラインは法令上の問題はないと考えているが、公取委の申し立ては厳粛かつ真摯に受け止めている」(川島氏)としたものの、方針変更については「新型コロナで『店舗が困っている』という声をしっかり受け止めて今回の判断に至った」(野原彰人執行役員)とし、公取委の動きや一部店舗が結成した任意団体「楽天ユニオン」の反発を受けたものではないことを強調した。

 さらに野原執行役員は記者会見で、慶應義塾大学大学院法務研究科の石岡克俊教授による、同施策の独禁法上の問題や緊急停止命令に対する意見書を紹介した。石岡教授は「今回の事案は被疑行為がまだ実施されておらず、競争に対する現実の影響が生じていない段階で緊急停止命令が認められるかは慎重に検討すべき」と指摘。その上で「送料込みラインが競合との競争に重大な影響を与えるかは明らかではなく、新たなビジネスプランに対する事前の介入は起業家精神を萎縮させることにつながる。また、楽天が事業者間の競争で重要と位置づける今回の施策を阻害すれば、公正な競争秩序に重大な悪影響を与える可能性がある」と公取委を批判した。同社では、石岡教授の意見書を東京地裁に提出している。

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店舗への金銭支援は3カ月

 また、不利益を受ける店舗に対する金銭的な支援「安心サポートプログラム」も始める。川島氏は「店舗の不安を解消するようなセーフティーネットとして位置づけている」と説明。安心サポートプログラムの対象となるのは同施策を導入した全店舗で、注文1件あたりメール便100円、宅配便250円を支援金として楽天が提供する。支援期間は4月1日~6月30日の3カ月間。対象となる注文は、税込み3980円以上購入されて送料無料対象となったもの。支援件数は無制限ではなく、前年同時期の税込み3980円以上・送料別の注文件数が上限となる。支援金の金額について、同社では「店舗からの声も参考にしながら、さまざまな観点から総合的に判断して決めた」(EC広報課)という。当初は、送料込みライン対象となる配送方法の注文における利益額と送料差額を対象にして支援額を決めるとしていたが、利益の変動幅は店舗によって異なることから、注文1件あたりの支援額を定めた。

 2019年8月1日以降に出店した店舗は同プログラムの対象外となる。同社では「8月1日に同施策の詳細を公表しており、同日以降の新規出店店舗には施策が導入されることを説明しているため」(同)としている。19年4~7月に出店した店舗の支援件数上限については「検討中」(同)という。

 あるネット販売コンサルタントは「支援期間はやや短いように感じるが、出荷量が多い店舗にとってはかなり楽になるのではないか。施策開始時の店舗数を増やすための支援だろう。参加店舗の特設サーチができるし、いずれは参加店舗が検索アルゴリズム反映されるといった優遇施策を導入する可能性もあるので、迷っている店舗は参加した方がいいのではないか」と感想を口にする。

公取委「緊急性薄れた」

 こうした楽天の動きを受けて公取委は10日、「出店事業者が参加するか否かを自らの判断で選択できるようにすることを公表し、東京地裁における緊急停止命令に関する手続きにおいてもその旨を表明した。当面は一時停止を求める緊急性が薄れるものと判断した」とし、申し立てを取り下げた。

 公取委では、同施策は楽天が出店者に優越していることを利用し、不当に不利益になるよう取引条件を変更しているもので、独占禁止法(優越的地位の乱用)に違反する疑いがあるとみており、今後も審査は継続するとしている。

 これを受けて楽天では「今後も店舗とのコミュニケーションを深めながら進めていき、楽天市場の送料体系の分かりやすさという目的に向かって改善をしていきたいと考えている。今後さまざまな施策を進めていくが、新型コロナウイルス感染拡大の予測が困難なため、さらなる施策については状況を踏まえ、決まり次第順次連絡する」
(EC広報課)とコメントしている。

ユニオンは「措置命令に期待」

 緊急停止命令の申し立てを巡っては10日午前、一部出店者が結成した任意団体「楽天ユニオン」が記者会見を開催。楽天が打ち出した一律導入の延期について、勝又有輝代表が「新型コロナウイルスを理由として、裁判所による緊急停止命令を避けるための施策。除外申請をしなければ強制的に切り替わってしまうだけではなく、作業も煩雑だ」と批判。

 さらには顧問弁護士である川上資人弁護士が「店舗に通知されたサポートニュースを読む限り、楽天は『送料込みライン』をいずれ全店舗に導入するつもりだ。公取委は間違っても申し立てを取り下げることのないようお願いしたい。楽天がすべきことは、確約手続きをして排除措置命令を回避すべきだ」と訴えていた。

 申し立ての取り下げを受けて、勝又代表は「緊急性が薄れたということで今回の事態となったが、公取委は排除措置命令に向けた動きは継続しており、そちらに期待している」とコメントした。

 公取委による緊急停止命令申し立てがあってからも、楽天では「法令上の問題はないものと考えている」と強硬姿勢を崩していなかったが、ここにきてようやく「譲歩」とも取れる姿勢を示した。楽天に対して厳しい姿勢を示していた公取委が、一転して申し立てを取り下げる形となったわけだが、独禁法に詳しい弁護士は「楽天側が違法性のあることを認め、施策を見直して(競争上の問題の早期解決を目的とした)確約手続きへと進むのではないか」と推測する。

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