店舗とネットの融合を仕掛ける 吉田卓司 五反田電子商事代表取締役社長

実店舗のネット販売は将来のEC像を変えるかもしれない。ネット販売への進出が加速しているアパレル業界だが、実態は在庫処理としてネット販売をしているケースも多く、彼らの最大の強みである実店舗を活かしきれていないのが実情だ。実店舗のサービスをネット視点で考えれば、店舗のネット化が実現できると、食品のネット販売大手のオイシックスから独立し実店舗小売業者のネット販売の支援事業を行う五反田電子商事の吉田卓司社長は言う。「5年以内に間違いなく店舗とネットの融合が始まる」。(聞き手は本誌記者・兼子沙弥子)


「店舗のサービス」をネット視点で考える


オイシックスから独立

――(09年12月18日付)親会社であるオイシックスから、オイシックスECソリューションズ(現五反田電子商事)は経営陣による企業買収(MBO)で独立しました。その理由は。

オイシックスECソリューションズは店舗をベースとした通販の拡大に戦略を置いて、実店舗を持つアパレル小売事業者のネット販売をトータルでサポートしています。コンサル業務をする中で私は、店舗とネットのシナジーの追及にチャレンジしたいという思いが高まりました。オイシックスが当初から考えていた食品通販に使えるノウハウの蓄積と、私がいるアパレル業界でのネット通販の方向性とでなかなかシナジーが出せませんでした。またオイシックスも本業である食品のネット通販に注力する必要があり、両社話合いの結果、それぞれの分かれるのがベストと判断しました。


「世界標準のサービスを作りたい」

――「五反田電子商事」という社名の由来を教えてください。失礼ですが、なんだか古風なイメージです(笑)。

由来は3つあります。1つ目は世界進出を前提とし和名にしたことです。「世界標準となるサービスを生み出す」というのが私たちのビジョン。3年後には中国などのアジアへ進出し、将来はITの本場、アメリカへ進出したいと考えています。私は日本が大好きなんですよ。でもネットやケータイのインフラがこれだけ普及しているのに、日本発のビジネスは少ない。グーグルやアマゾンにやられてしまっている。ですので、会社のロゴも「商事」という漢字と英語名をデザインしました。
2つ目は、10年、20年後に設立した2009年12月を遡ったときに、この社名で良かったと思いたいんです。スタート地点である「五反田」という地名を入れ、どこに行ってもルーツが分かるようにしました。3つ目は、今後、世の中が進化することで”ネット”という言葉がなくなる可能性も考えられました。そこで「ネット」よりももっと古い「電子」にしました。「五反田電子商事」はすでに古い社名なので、何十年たっても、これ以上古くなることはありません(笑)。

――海外の企業と勝負する、「世界標準のサービス」とは何ですか。

リアルとネットが融合するようなソリューションを持って行きたいと考えています。今の有力小売業者のネット販売は、ネットはネット、実店舗は実店舗と、それぞれ戦略が違います。ですが、最終主役が”お客様”という点ではネット販売も実店舗も同じです。お客様の買い物の都合に合わせて「ネット」と「実店舗」の売り場を提供していけばいいんです。今の実店舗小売は通販サイトを開設し売り上げを上げることに注力していますが、やはり実店舗を構えていることは強い。5年以内には、間違いなくネットと実店舗でシナジーを生み出す仕組みになっていると思います。

年内にデジタルサイネージで通販サイトのコンテンツ配信を

――デジタルサイネージを使ったサービスも事業化される予定と聞いていますが。

それがネットと店舗の融合の1つです。われわれが行おうとするデジタルサイネージは「広告」ではなく、「POP」のイメージで考えてください。ネット販売している会社にとって大きな強みは商品画像などのデジタルデータを持っていることです。このデータを使って、実店舗の収益アップに活用することが可能と考えています。リアル店舗のデジタル化ですね。
年内の事業化を考えていまして、まずは、通販サイトの特集や新着情報などのコンテンツを実店舗に設置したデジタルサイネージ画面できれいに流していきます。売れ筋や新着商品だけでなく、アイテムごとのコーディネート提案なども配信したいと考えています。
これまで高価とされ普及が遅れていたモニターもリースなら安価ですし、一度設置してしまえば、後は通販サイトで制作したコンテンツを一斉配信するだけなので低コストで実現できます。もしかしたら、ポスター100枚制作するよりも安いかもしれませんね。通販サイトを運営するようになり、画像の見せ方のノウハウも成熟していることを考えると、すでに実現可能なレベルになっています。
私は買い物が好きで、よく外出しますが、実店舗に行くと新商品が何か、売れ筋商品が何か、また目的の商品を陳列している棚はどこか分からないんですよ。店舗側からすると、店員さんが接客することが当たり前とされている部分ですよね。ネット販売ではカテゴリー選択や注目情報、新着情報などのコンテンツを設けて目的の商品の陳列棚まで迷わせないようにしています。実店舗のサービスをネット視点で考えると、やれることがたくさんあることに気が付きました。


実店舗のネット化を実現、両方で集客できる仕組みに

――デジタルサイネージを使って、ネット販売の購入しやすさを実店舗で提案するということですか。

そうですね。これまでは通販サイトでは実店舗並みのサービスを提供するとして、ネットの実店舗化は進んでいますが、実店舗をネット化する取り組みは進んでいません。デジタルサイネージに近い技術を使って、これを実現したいと考えています。
極端な話ですが、店舗に陳列する商品は全部サンプルだけにして、気に入った商品があった場合、店頭のデジタルサイネージに住所を登録すれば次の日自宅に届いているというサービスも可能です。そうすれば、実店舗で売れない商品の在庫を抱える必要はなくなり店舗面積が縮小されますのでコスト削減につながります。
実店舗で無駄な在庫を抱えることもなくなって、売れ筋商品を集中して生産できるようになれば、これまで在庫処理として位置付けられていた通販サイトで実店舗と同様の品ぞろえが可能になるかもしれません。ネット販売の品ぞろえを充実させるだけでも、充分に集客効果があるでしょうし、実際には、実店舗で購入した商品を届けて欲しいというニーズもすごく多いので、店舗とネットの両方で集客することができると考えています。現在このあたりを研究しています。

デジタルサイネージで購入できる店舗開設へ

――デジタルサイネージの活用に取り組む企業は少なくありませんが、目立った成功事例は少ないのが実情です。

実験的に考えています。理論的にみるとメリットは大きいので、まずはやってみれば何か見えるんじゃないでしょうか。こうしたことにチャレンジしやすくなったことも独立の利点で、すでに、デジタルサイネージの事業者さんと話を進めていています。
おそらく、五反田電子商事がリスクをとって実店舗を作り、今のクライアントさんに出店してもらう形が考えられます。通販になるのか、実店舗小売なのか、ビジネスカテゴリーはわかりませんが、実店舗でもなくネット販売でもない新たな流通チャネルになる期待を持っています。

店員の販促トークをネット販売に

――先ほどから、店舗とネットのシナジーについてお伺いしていますが、すでに始めていることはありますか。

あるアパレル小売業者さんの通販サイトを、立ち上げました。我々がやりたかった「こうやったら絶対売れるのに」と考えてきたことを全て機能として詰め込みました。

――”やりたかったこと”とは。

具体的には、ショップの店員さんの販促文句をモバイルから投稿できるようにしました。店員さんが実際に店舗で有効だった販促トークを入れることで、親近感が高まります。
また、これまで感じてきたことですが、通販サイトを外からみると結構地味。ユーザーからすると実際にお客さんがいるのかもわからないですし、他のお客さんが閲覧している商品も見えません。買い物のライブ感を出すために、商品画像の吹き出しを作り、商品の残りの在庫数量や「今売れました」などのコメントを表示する機能を搭載しました。表示するメッセージもカスタマイズできます。これらの効果かはまだわかりませんが、立ち上がりは非常に好調でした。

――今あるクライアントさんは何社くらいですか。

およそ10社です。既存ビジネスで売上高100億円以上で実店舗を持つ事業者さんを対象にしていますので、1社で複数のブランド、数十から数百店舗を持っているケースがほとんどです。立ち上げたサイトは20サイトで、アパレルを中心に、百貨店や化粧品などの通販サイトの運用をトータルで支援しています。
私はオイシックスの創業メンバーとして、Oisixサイトの責任者をしていましたので、細かなメールマーケティングや、メルマガのABテスト、特集ページの見せ方などオイシックスで培ったノウハウを応用しています。

アパレルは通販NO.1カテゴリーに

――親会社だったオイシックスは食品を専門としています。五反田電子商事ではアパレルの通販支援を中心としている理由は何ですか。

市場の伸びしろが大きいためです。アメリカのネット販売のカテゴリーナンバーワンはアパレルです。日本のネット販売はアメリカから2~3年遅れていることを考えると、アパレルは今後、日本のネット販売市場で最も大きなカテゴリーになると考えています。
食品もそうですが、アパレルの場合、通販に着手するのが遅れました。今だに残った在庫だけを処理するのにネット販売している企業も多いのです。実店舗優先の文化が根付いていて、力の強い売り場に在庫を持っていかれるので、ネット販売はいつまでたっても売れ筋商品をラインアップできないでいる。サービス面もそう。もっとこうすればいいのにと思うようなサイトも多いです。だから、売り切れも売り逃しも多く、売り上げが上がらない。その辺りが今後、伸びると感じている部分です。
例えば、アメリカだったらネットで注文したものを実店舗で受け取るというサービスも増えているようですが、日本ではまだまだ。日本でも店頭での受け取りサービスは実店舗のインフラを活用すれば可能です。送料を払いたくないユーザーにとっては、それだけでネット販売の利便性は高まります。
また、実店舗の在庫数を通販サイトでお知らせすることも考えられます。ユーザーにとっては、実店舗へせっかく買い物に行ったのに売り切れだったという状況も回避できますし、事業者側にとっても売り逃し防止できる。通販で購入のハードルとなる部分や、普段買い物に行く際に不便だと感じる部分を店舗と通販でそれぞれフォローし合うサービスを提供するだけで、ユーザーは随分と便利になります。その分売上も上がるはずです。

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