アスマル 代表取締役社長  木村 美代子 氏

“本気”で挑むBtoC通販 【木村美代子 アスマル 代表取締役社長】

アスマル 代表取締役社長  木村 美代子 氏

法人向けオフィス用品通販の最大手として知られるアスクルが個人向けに本腰を入れ始めた。これまで「本業の片手間」で行い、伸び悩んでいたBtoC通販戦略を一新。個人向け通販にノウハウを持つネットプライスをパートナーとし、アスクルの創業メンバーの1人で同社のネット戦略を支えてきた木村美代子氏を社長に迎えた専門子会社「アスマル株式会社」を新設。2010年9月1日から新たな通販サイト「アスマル」のグランドオープンに踏み切った。アスクルが本気で挑む個人向け通販の戦略とは。 (聞き手は本誌・鹿野利幸)


アスマルで「30代の働く女性」 のライフスタイルを支えたい
 
出足は順調なスタート

――9月1日に主に生活用品を販売する新しいBtoC通販サイト「アスマル」が本格オープンしました。出足はいかがですか。

好調と言ってよいと思います。

――反応の良い商品やコンテンツは。

そうですね。コンテンツでいうと、これはこのサイトの”売り”の1つでもあるんですが、「アスマルシェ」というコミュニティが非常に活発です。グランドオープンからまだ10日もたっていませんが、お客様の書き込みの数は1700を超えています。「1dayプライス!」という特価コーナーも人気です。これは日替わりで様々な商品を安価に提供するコーナーです。販売終了までカウントダウンするなどをして盛り上げており、皆さんに毎日、「アスマル」をのぞいて頂くための「引力」的な役割を担わせています。
それから本稼動前のテスト段階の「アスマル」では販売しておらず、グランドオープンから始めた化粧品を販売する特集ページ「ビューティースタイル」やサプリメントなどを集めた「ヘルススタイル」も人気で特に「ビューティースタイル」には皆さん、非常に長く回遊頂いているようです。それからすごく反応がいいのは食品。パスタとかトマト缶とか、ペリエとか。そういった生活に密着する商品はいいです。アスクルでいうところの「コピーペーパー」のようなトラフィックビルダーを「アスマル」でもこれから探していこうと思っています。

――「アスマル」自体は割りと早めにできていましたよね。その後、「テスト中」としてグランドオープンまでに結構、時間がかかったようですが。

「アスマル」が目指しているのは、単に商品を販売するサイトではなく、「お客様と生産者の顔と思いが通い会うオープンでにぎわいのある場」の提供です。アスクルの強みはこれまでのビジネスを通じて、多くの有力メーカーさんと直接、つながっていることです。個人向け通販「アスマル」でもここを1つの強みになるはずと考えました。そこでお客様と商品を作っているメーカーさんが互いに意見を言い合えるようなサイトにしようと。この仕組みが先ほどの「アスマルシェ」などにあたるわけですが。これがきちんとできるまで、グランドオープンしたくなかったんですね。
それと「アスマル」をコアターゲット層でもある「30代の働く女性」のライフスタイルを支えるものの一部にしたかったんです。この層に生活に深く入り込んでいきたいと考えています。そのために、どうしても必要な機能がありました。「まとめ配送」です。要は平日、「アスマル」で購入頂いた商品を仕事が休みの土曜日、日曜日にまとめて届ける機能です。アスクルでも「まとめ配送」はやっていなかったのでシステムを組むのが結構、大変で時間がかかってしまいました。


アスクルがなぜ、個人向け通販?

――そもそも法人向けオフィス用品通販が本業のアスクルが個人向け通販を行う理由はなんですか。

アスクルで取り扱っている業務用商品を個人用にも買いたい、という要望が多かったことです。アスクルでは近年、北欧のデサイナーさんを起用したデザイン性の高いテッシュペーパーなどの生活用品も多く販売していますし。そういった商品などは家でも使いたいというご要望が、アスクルの顧客事業所で物品の発注を担当している社員の方々からすごくありました。我々としてもそうした方々とパイプもすでにあるわけですし、「ここに市場があるのではないか」と考えるようになりました。
もう1つは、アスクルは非常に多くのメーカーさんとの取引があります。こうしたつながりを活かして、飲料系や食品系、日用雑貨系、家電系のメーカーさんや大学の先生方などと共に、これからのネット時代の新たな流通プラットフォームを確立しようと、08年から「ウェブマーケティングコンソシアム」という組織を作って、アスクルの販売データなどを元に様々な話し合いを行ってきたのですが、そうしたデータ収集にあたって、BtoBよりもBtoCビジネスの方がネット上の購買行動が細かく分かると。当社はもちろん、メーカーさんのためのネットを使ったマーケティングの装置としての側面でもありました。


足りなかった品ぞろえ

――98年から通販サイト「ポータルアスクル」をスタートして、07年には「ぽちっとアスクル」に改め、長く個人向け通販に取り組んできました。でも、売り上げが伸び悩んでいた理由は何だと思いますか。

個人向け通販の成功のポイントは配送などのサービス力と商品力、サイトの使いやすさです。このどれも十分ではなかったのだと思います。やはりアスクルのシステムは法人向けですので非常にしっかりとした頑丈なシステムで、物流の仕組みも頑丈です。個人通販向けに「ちょっと変えよう」と思っても、それなりに費用も時間もかかってしまい、やりにくかった部分がありました。
商品についてはこれまでは「アスクルの法人向け商品をどう個人に売っていくか」というのが基本であり、また、ターゲットも個人ではありますが、個人事業主などSOHOも対象にしているところもあって、個人の生活をサポートするには全然、足りないと思っていました。例えば、「アスマル」でまさに取扱い始めた化粧品やサプリメント、食品など。アスクルでも食品、飲料なども販売していますが、嗜好性の高いものは扱っていません。例えば、野菜ジュースにしてもそんなに豊富な種類は扱っていません。その辺の商品がやはり足りなかったです。

――アスクルは多くのメーカーと直接取引があるので、個人向けの商品も販売できたはずです。

ただ、物流センターにはキャパがあります。当然、売れるモノから優先して在庫していくので、個人向け商品にスペースを割けなかったわけです。今回は「アスマル」専用の在庫スペースを東京・江東区にあるアスクルの物流センター「アスクルDCMセンター」の5階に設けました。すると、「アスクル」で販売しており、在庫している商品は下から持ってこれますし、「アスマル」のみで販売する個人向け商品はこのスペースに置けばよくなりました。また、それほど売り上げが期待できない商品などに関しては、受発注でメーカーさんからの商品を一旦、物流センターに入れて、すぐに発送するように5階に送ってもらえばいいですよね。「在庫型」と「非在庫の受発注型」をうまく組み合わせた体制で多くの商品を取り扱えるようになりました。

――「サイトの使いやすさ」に関しては「アスマル株式会社」の株主でもあるネットプライス(※2010年2月に資本参加、現在、アスマル株20%保有)と組んだことが大きい。

それは大きいですね。アスクルには商品力やマーケティングノウハウが持っていますが、ウェブならではのコミュニケーションやスピード感を持った機能など、ネット販売にとって必要なノウハウがないことは我々もわかっていました。そこでアスマルの新設にあたって、パートナーを探そうと実は何社もお会いしていたんですね。その中でネットプライスさんとお話をしたら、我々にないものをすごく持っていました。これにアスクルが持っているサプライヤーとのネットワークや物流システムの構築力を掛け合わせたら新しいものができるのではないか、というのが「アスマル」の誕生のきっかけででもありました。

――アスクルにはシステム構築力も商品力もある。パートナーと一緒になっての通販サイト作りも、これまでだってできたはずです。個人向け通販事業が伸び悩んでいたのは単に「本気か否か」という覚悟の問題だったのでは。

そうかも知れません。確かに今、本気で今後の成長に必要な「第2の波」をアスクルは作ろうとしています。例えば、大企業向けの消耗材の一括購買システム「ソロエル」や中国進出などの「海外事業」。それにこの個人向け通販です。だからこそ、今回は物流の仕組みも整え、パートナーも探して、本気で個人向け通販事業に臨んでいるわけです。


3年後に売上高は約600億円
会員数は1000万人に拡大する


今後の戦略の方向性は?

――「アスマル」は個人向け通販サイトとしては後発です。競合との差別化になるキラーコンテンツなどは。

「商品」に尽きるのはないでしょうか。一流メーカーさんのモノがお得に買えるということ。また、他社の場合、問屋経由ですが、我々はメーカーさんと直接、つながっていますから、先のコミュニティの中で商品について一番分かってるメーカーさんが語ったり、ユーザーさんの疑問に答えたりと、良いものを安く安心して購入できます。これは強いと思っています。今、メーカーさんに集まって頂いて「まずは一言」とコメントの入れ方を教えたりとかしていますが、皆さん非常に熱心です。今後、お客様の声をメーカーさんと一緒に聞いて、アスマルオリジナルの商品などここでしか買えないモノなども販売していこうと思っています。

――「30代の働く女性」という切り口では、今の日用品という品揃え以外にブランド品や衣料品、アクセサリーなども考えられますが、どうですか。

そこも可能性はあると思いますが、まずは日用品を取り揃えて、お客様の生活に入り込んでいきたいなと。ただ、『出会い買い』みたいなものもないと面白くありませんので、例えばトートバックなど日用品以外も品揃えも必要だと思っていますし実際、話を進めているものもあります。


10月から本格的な集客開始

――「アスマル」の目標は初年度で売上高約60億円、会員数は100万人。3年後に年商約600億円、会員は1000万人。現状の個人向け通販の年商は22億5000万円、会員数は25万人ですから、非常にアグレッシブな数字です。どう達成しますか。

もちろん、根拠がなく言っている数字ではなく、戦略はあり、顧客数拡大と客単価アップで達成できると思います。集客で言うと10月からちょっと大々的な集客のための販促展開をしようと思っています。まだ詳しくはいえませんが「アスマル」に関心がありそうなECとも親和性の高い会員を持つ企業さんとタイアップするものです。これである程度の数の顧客は獲得できるだろうと思います。
客単価アップの部分は品ぞろえの拡充です。これでお客様のシェア・オブ・ウォレット(顧客が一定の期間に使用したお金のうち、当該企業での買い物がどのくらいを占めているかを表す指標)が上がると思います。私がそうだったのですが、「ぽちっと」だと3000円しか購入しなかったのですが、この前、「アスマル」でサプリメントとペットシートとペットボトルを購入した時、1万円を超えていました。例えば、今まで「ペット用品」は別のサイトが購入していたからなんですね。ですから3年以内に100万点まで品揃えを増やそうと思っています。
あとは9月21日からモバイル通販サイトもスタートさせました。「1dayプライス」などはむしろ携帯のほうが使いやすいと思いますので、期待していますし、「iPhone」「iPad」などにもこれから対応していこうと思っています。

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