Tue, April 23, 2019

”新端末”で「ノンPC層」を開拓する【山上功 NTT東日本 ブロードバンドサービス部担当課長】

 iPadを筆頭に、今年に入り次々に発表されているタブレット端末。PCとは異なる使われ方、客層が見込めるため、新たな「販売の場」として通販事業者にとっても無視できない存在になりつつある。そうした中、「使いやすさ」を武器にNTT東日本が独自端末「光iフレーム」で市場に参入。シニアや主婦などの「ノンPC層」開拓を目指している。果たしてどのような成功のビジョンを描いているのか。同事業を担当する山上課長に今後の戦略を聞いた。(聞き手は本誌・河鰭悠太郎)

  

  

“導入デバイス”として使って欲しい

 “コミュニティ”への配布がキーに

――まず、サービス開始の経緯を教えてください。

「光iフレーム」は、生活情報などのアプリを配信する独自端末です。09年の11月にトライアルをやると発表して、それから1年を経て、今回のタイミングで商用化となりました。もともとフレッツ光は東日本エリアで約800万のお客様にご利用いただいており、PCでインターネットを使われるお客様に対しては、概ねブロードバンドとして行き渡ったかな、という感じをもっていました。そこで、これからは今までインターネットなんて使わなかった、というお客様や、携帯電話で十分だ、というお客様にもお使いいただける光の利用シーンを創出したいと考えたわけです。ただ、我々はネットワークの通信事業者なので、自社だけではできません。そこで、コンテンツをお持ちの事業者様と一緒にやりたいな、と。コンテンツも、エンターテインメントだけではなく、日常の中で使うアプリケーションをご提供するほうが、ユーザーには長く使っていただけると思いました。そのためには、PCではない、どこでも使えるデバイスが必要です。そこで、コンテンツの配信と端末を合わせて提供するサービスを開発したわけです。

トライアルでは、携帯では小さいし、PCはあまり使えないし……という女性をターゲットに絞っていきました。それと、「買い物をしたい」とか、「台所でレシピを見てそのままスーパーで注文できるようにして欲しい」というようなニーズも多かったですね。そういうご意見を多くいただいたので、商用化に向けてそうした部分に注力しました。

――基本的なサービスモデルは?

コミュニティモデル、というのをいくつか検討しています。これは例えば、ニュータウンなどのある特定の地域に住んでいる方々に対してだけ、事業者側が有益な情報を提供する場合のモデルです。事業者は、例えばそこを開発したデベロッパーさんや商店街の理事の方、ネットスーパーさんなどが考えられます。そうした方々が住民に対してタイムリーな情報を出していく、というわけですね。  

――具体的には。

例えばネットスーパーの場合は、あるスーパーの会員になっている人たちをコミュニティと見なし、そこにだけ会員限定の情報を配信する、とか。ネットスーパーは買い物難民や子育てで忙しい主婦の利用を想定している部分があると思いますが、今はPCでのやり取りが中心で、高齢者などはなかなか煩雑でリーチしきれていません。そうした方々にこのデバイスを使ってもらえれば、と考えています。主婦の方がキッチンで利用する場合や、高齢の方の利用を考えて、アイコンは直感的に触れるように大きくしています。また、画面上にはテロップが流れ、いろいろな最新情報がここで入手できる仕組みです。

このコミュニティモデルの場合は、事業者の方からユーザーへ端末を配布する形を想定しています。つまり、事業者の方が我々から端末を買取り、それを住民の方々に配布するわけです。端末にはIDが付いているので、配布するときにそのIDを登録しておくことで、IDを持っている人にしかアプリを配信しない仕組みにできます。地場の人、あるコミュニティに属している人にだけ提供するサービスというわけですね。もちろん一般の人の利用も想定していますが、今後はコミュニティモデルを中心に考えていきたいと思っています。

ただ、地域情報だけですと面白味がないので、電子書籍が読めたり、天気情報が見られたり……という一般的なサービスも充実させるつもりです。コミュニティに属している人は、そうした普通のアプリに加えて地域のアプリも配信される、ということですね。

――他の事業者の例は。

あとは、マンションのポータルのような使われ方もあるでしょう。つまりマンションの設備の中にこれがビルドインされているイメージですね。で、例えばここで回覧板など紙の配布物を見ることもできるわけです。管理会社などが物件価値を高めるためにこのデバイスを導入するケースもあるでしょう。マンションの場合は「見守り」機能なども想定していまして、これは例えば、高齢の方が3日ぐらい端末を触っていない場合には情報管理会社に通知して電話してみる、という機能なのですが、そうした簡易な見守りもできると思います。管理人に直接つながる専用のボタンを用意することも考えています。

――事業者には、端末は定価で販売するのですか。

そこはご相談、という形になると思います。レンタルも可能ですので、それぞれのビジネスモデル次第でしょう。あと、弊社の代理店契約というのがあるのですが、その契約をされているスーパーさんの場合、例えばそれで会員さんがフレッツ光に入られると、我々から手数料が入ります。端末自体も取り次いでもらえれば、スーパーさんにはいくらかの手数料が入りますので、そうして得たキックバックの料金をこの端末の購入代金に充てる、ということも可能でしょう。端末自体の価格もPCと比べれば安価だと思います。

 “プッシュ通知”で通販情報を配信

――この端末の、通販系アプリでの面白そうな使われ方は?

コミュニティモデルでいうと、やはり「会員に特化したプッシュ情報の配信」ですね。テロップやカレンダーなどが使えるので、プッシュ通知が有効に使えます。それにより、これまではわざわざPCを立ち上げないと見ることができなかった情報などを会員に伝えることができるわけです。

――具体的には。

カレンダー連携について言うと、通販系アプリの場合、特売日のようなものが決まっていれば、その日を自動的にカレンダー機能に入れることができるのです。例えば、ユーザーがある日パッとカレンダーを見ると、そこに星が付いていて、それをクリックしてみるとします。そうすると、『通販の特売情報』や『配送料無料』などの情報がプッシュ通知で降りてくる、というイメージです。こうした使い方はいろいろと応用できると思います。

――お勧めのアプリの紹介などは。

「お勧めのアプリガイド」を用意しています。初心者向けマークなどを付けていて、そこをクリックしてもらえば「新着アプリ」や「高齢者向けアプリ」、「主婦向けアプリ」などを紹介できる仕組みです。当然、人気のランキングなどもあります。今後、アプリが増えてユーザーの属性も増えれば、ご提案できるパターンも増えていくと思います。

――集客の手段は。

具体的なプロモーションとしては、時期はもう少し先になると思いますが、テレビCMなどを考えています。それと、実際に見てもらわないと分からない部分もありますので、ショッピングセンターなどの商業施設でキャンペーンをしたり、デモ機を置いたり……といったことも検討しています。「フレッツ光」の会員のみを対象にしたサービスではないので、これをきっかけにフレッツ光に加入してもらえれば、という狙いもあります。また、せっかくフレッツ光会員になっていただいても、途中で辞める方もいますから、このデバイスによってフレッツ光の価値が高まって長く使っていただければ、という目的もあります。

――とはいえ、ネットを使っていなかったユーザーを新たに引き込むのは難しいのでは。どういう戦略を立てているのでしょう。

まずひとつは価格面です。レンタルでお使いいただくケースとして、端末とマーケットの利用料を合わせて月額500円で、今はキャンペーンで半年間無料とさせていただいています。自分用に一台PCを買うのはちょっと、という方にもお使いいただける価格設定だと思いますので、コミュニティに属していない人にとっても、ハードルは低いと思います。あとは、ネットにない情報をいかにコンテンツとしてご提供できるかですが、そこは、これからアプリ提供事業者を増やしていくことが重要になるでしょう。

――ただ、ユーザーからすれば、端末を貰っても「フレッツ光」に新たに加入する必要があります。そう考えると、ハードルは低くはない気もしますが。

確かに、今まで電話しか使ってなかった方にとっては数千円のアップになるでしょう。ただ、まったくネットに興味がない人をターゲットにしているわけではありません。『なにかきっかけがあれば(ネットを)使ってみたいな』と思っていたけれど、これまでなかなか踏み切れなかったという人にとっては、「導入デバイス」として最適なのではないでしょうか。通常のウェブも使えますし、いろいろなアプリも落とせます。そうしたところからネットを始めるきっかけとして使ってもらえればいいのでは。確かに意欲がゼロの人を100にするのは難しいですが、そうでなければ、シルバー世代の背中を押せる端末だと思っています。事業者の方にとっても今までリーチできなかった高齢者の方にリーチできますから、検証しながら使ってもらえればいいのではないでしょうか。

 iPadとは“使いやすさ”で大きく異なる

 通販企業には多く参加して欲しい

――今はiPadなど同じような多機能端末がいろいろとありますが、違いはどこにあるのでしょう。

やはり使いやすさに尽きると思います。アプリが地域や自分に密着している、ということも含めての使いやすさという意味で、いわば『身近な端末』ですね。コミュニティにあった形でどんどんカスタマイズすることもできます。

――今は2社が参加していますが、通販事業者がこのサービスに参画するメリットは。

今は世の中が紙からネットに移っていますが、例えばPCの前でずっと洋服などを検討する、というのは疲れるし、難しい部分もありますよね。でも、この端末であればユーザーは家中持ち歩く、ということができるので、自然と商品の選び方なども変わると思います。あとは、例えば、この端末で申し込んだら配送料が安くなるとか、そうしたことができればお互いにユーザーを広げていくことにもなりますので、そうしたキャンペーンなどもこれから共同で展開していければ、と考えています。

参加には関しては、特に制限などを決めていませんので、通販事業者様には公序良俗に反しない限り、どんどん参加していただきたいと思っています。iPadや他のアンドロイドのように、1万~2万まで広げるかどうかはデバイスの特徴や目的との兼ね合いもあるので、考えていく必要があるとは思いますが。ただ、今のところは特に数を制限しようとは考えていません。

――今後の課題は。

もう少しユーザーが導入する障壁を下げられればと思っています。レンタル料はそれほど負担ではないと思いますし、提供価格も頑張って抑えましたが、今後は市場の動向などを見て、端末価格をもっとお手ごろにしていきたいなと。それが結果的には普及にもつながるわけですから。

 取材後メモ

  iPadに始まり、ギャラクシー、ガラパゴス……今や、タブレット端末市場は戦国時代。国内外のメーカーが入り乱れ、消費者はもはやどれを選ぶべきか判断するのも容易ではありません。おそらくこの流れは今後、より加速するのでしょうが、ただ面白いのは、各社が高機能・高精細を売りに「新しいもの好き」ユーザーを取り込んでいるのに対し、NTT東日本は「使いやすさ」をスローガンに掲げ、あえて反対の「ノンPC層」を囲い込む戦略を選んだことです。この狙いが吉と出るか凶と出るかはおそらく数年先まで分かりませんが、宝は未開の荒野にこそ眠るもの。シニアの「定番」デバイスになるかどうか、今後も注目したいと思います。

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