Tue, March 28, 2017

戦略なければFacebookは失敗する【佐藤俊介 エスワンオー代表取締役社長兼最高経営責任者】

 フェイスブックのファンページ活用で、成功モデルとして注目が集まっている。インターネット広告代理事業を行うエスワンオーの衣料品ブランド「satisfaction guaranteed(サティスファクションギャランティード、以下sg)」。同ブランドのファンページのファン数は22万人を越える。アジアをターゲットに絞った展開が奏功、ファンページが契機となり海外にリアルショップもオープンした。同社の佐藤社長にフェイスブック活用について聞いた。(聞き手は本誌・比木暁)

“これをやればいい”という答えはない

 

タレントブームのアジアで勝負

――2007年7月に衣料品ブランド「sg」を立ち上げた。

僕たちのようにインターネット広告代理事業を手がける企業は在庫を持たないですし、そもそも自分たちのプロダクト(製品)がありません。つまりメーカー業というのが欠けていたため、自分たちでメーカーとして展開して、実際に成功事例を自社で作るということが最初の狙いでした。もう1つは、日本のものを世界に伝えたいという思いがあり、中国など海外で作ると安くできるのですが100%メイド・イン・ジャパンにこだわり、日本製を貫いてきました。

――2010年2月にフェイスブック上にファンページを開設した。きっかけは?

 それまで「sg」のブランディングを強化した結果、有名芸能人の方が着てくれるようになりました。ただ、昔なら有名人が着るとブランドに一気に人気が出ますが、今の日本では予想していたほどの反響はありませんでした。一方、アジアの国を見るとすごいタレントブームで、日本のタレントも大人気なんです。そういう状態を見て、アジアで勝負するのもいいんじゃないかと思いました。また、アジアは経済が伸びていて人口も多く、日本の服がウケていました。それに、アジア人であれば体型が変わらないので服をリサイズする必要もありません。

 そこで、僕たちベンチャー企業が商社にお願いして「アジアでいいところありますか」と相談するよりも、当時日本でほとんど利用されていなかったファンページというものがあったので「これはやってみるか」と始めました。

 その半年程前に個人的にフェイスブックを使い始めていて、こんなにいろいろな人とつながるメディアはないとその価値と将来性を感じていました。フェイスブックは世界に旅立つエアポートのようなもので、世界に出るにはうってつけのツールだったのです。

――現在、22万人を超すファンを抱えていますが、大半はアジアの人ですか?

 毎日、1000人くらいのペースでファンが増えています。99%がアジアの人で、残り1%が日本人です。フェイスブックユーザーの数がファンの数に比例しますので、インドネシアはユーザー数がアメリカに次いで世界で2番目に多く、ファンの割合もインドネシアが多くなります。

――どうして、こんなにファンが増えたのですか?

 よく聞かれるのですが、あまりにも要素が大量にありすぎて、要するにこれをやればいいという答えがないんです。モノづくりから始まり、それを誰に、どのタイミングで、どういうふうに伝えるか、どういうロゴにするか、どういう広告を出すか。それらが最終的にプロダクトとなりファンを増やします。

 もちろん広告も必要ですが、出せばすぐにファンが増えるわけではなく、一方でプロダクトが良くても広告がなければ駄目です。日本製、ロゴ、スタート時期、エリア、ターゲット、服のデザインや色、広告の運用、これらが合致した結果、ファンがうなぎ上りに増えていったということです。実際、目線をいろいろ変えて、「次はアジアのあの国を狙おう」とか、ファンページ上でキャンペーンを行ったり、広告のターゲティングを変えたりなどトライ&エラーの繰り返しです。

――ファンページ上では日本語と英語を使っていますね。

 最初は日本語だけを使っていたのですが、外国の方をターゲットにするので英語にしました。ただ、アジアの人は日本語のTシャツを着るぐらいなので、日本語も好きなんですね。ですから、日本語表記も使っています。例えば日本語で書いたブログをファンページにポスト(投稿)すると、その日本語を翻訳ソフトで訳して「いいね」をクリックしてくれることもあります。そういうことを含め試行錯誤を続けて現在の表記になりました。

――ファンページにはショッピング機能も設けています。

 商品が買えるということを伝える目的でショッピング機能を追加しました。ただ、これもトライ&エラーでした。カートはサードパーティのアプリケーションを使っているのですが、クリックしても在庫が変わらないとか、ドルの決済がうまくいかないとか、ペイパルのアカウントがつながらないとか、いろいろ問題はありましたが、何カ月かやって修正していきました。

 その上で気づいたことは、アジアはまだまだECが普及していないということです。例えば、インドネシアはクレジットカードすら普及していません。あるいは、クレジットカードの番号を入れたくない、実物を見ていないのに買えない、そういった認識がまだまだあります。結局、アメリカの次にECが進んでいるのが日本なので、ファンページで商品を買っているのは大半が日本人です。

――そこで現地にショップを開設したのですね。

 そうです。アジアの方々はインフラの問題などからネットで商品を買いたくても買えない。そこで6月にシンガポールに現地法人を設立し、10月に正式にオープンしました。シンガポールという世界中から人が集まるハブの場所に、3カ月限定でPR的に出しています。

 

次のステージはファンをどう活かすか

――今後の戦略は。

 「ファンを集める」のがファーストステージで、次のステージは「ファンをどう活かすか」だと思います。つまり、見込み客をどんどん増やした後でマネタイズしていくということです。僕たちとしては第1ステージから次のステージとして、“ネットからリアル”というビジネスモデルを作っていく段階になっています。

 ですので、今はファンが20万人ですけど、これが50万人、100万人になれば違うことがいっぱいできます。僕たちの楽しみはこれからなんですが、現時点がピークのようにメディアなどで扱われるので困っているのですが(笑)。もっと楽しいことがフェイスブックを使ってできるんだということを実現したいです。

――具体的には。

 次の段階として、店舗を出店する可能性が高いです。アジアのEC環境が整うまで待っていられないので向こうに直接実店舗を展開していく。あるいは、海外向けの広告をどんどん出していくであるとか、現地でファンを集めたイベントを催すとか、ファンと一緒にコラボ企画を立ち上げるとか、これはファンページ同士のコラボも面白いかもしれません。

 リアルショップは現状、代官山とシンガポールの2店舗ですが、どんどん出店して売り上げを出していったり、あるいはデジタルコンテンツを販売したりであるとか。要するにネットでつながっている限りなんでもできます。とはいえ、これらはすべてファンがいてこそできるビジネスなので、まずはとりあえずファンを集める必要があるのですが。

――これまでに投じた金額は。

 1000万円ぐらいは使ってきました。ほとんど広告費ですが、当社の場合はコンサルティングや運用まですべて自社でやっていますので通常はもっと掛かるでしょう。具体的にはフェイスブック上での広告出稿のほか、以前からネットワーク媒体の広告を手がけていましたのでソーシャルメディア向けのプロモーション展開も並行して行いました。

 広告展開にも段階があって、これまではネット上の広告でしたが、これからはリアルなメディアに出していくべきだと考えています。例えばですが、インドネシアやシンガポールなどにフェイスブックのアドレスを記した大きな看板を出すとか。こうした広告戦略は、海外ではすでに当たり前となっています。

――とはいえ、フェイスブックに投資するのは勇気がいるのではないでしょうか?

 僕たちはベンチャー企業なので可能性を見出せばそこに投資することができますが、大企業はそうはいかないでしょう。そもそも稟議が通らないですから予算が出ないでしょう。ですからベンチャーにとってはチャンスです。僕たちは主軸の事業で利益を出しつつ、フェイスブックに投資しています。また、外部資本が入ってないのでどこに投資しても誰からも文句を言われません。恐らくあの当時、フェイスブックにお金を使うと言うと、普通であれば投資家が否定したでしょうね(笑)。

 

手を出さないのはもったいない

 

お金を掛けないと成功しない

――自社の事例をもとにファンページの企画・運用サービスも行っています。

 「SFO(ソーシャル・ファン・オペレーション)」という名称で展開しています。フェイスブックという名前に踊らされて“とりあえず”展開していく企業が増えていくと思います。独学でも広告を買うといったことはできますが、それ以上に重要なことはたくさんあります。ソーシャルメディアはケースによって対応が変わってきますし、フェイスブックそのものにも新機能がどんどん増えています。

 そういう作業を専門的にやっている人間でないと分からない面は多いと思います。ただ、日本は風習としてソーシャルメディアにお金を出しません。それが日本で成功事例がない理由です。フェイスブックは世界に出て行くための良いツールなので、SFOの提供で成功事例をもっと作りたいと考えています。

――逆に世界を意識しない企業にとってフェイスブックはどうなのでしょうか?

 お薦めしません。ただ、今の日本の経済状況で世界をまったく意識しない企業はほとんどないと思います。モノを売買するのであれば、世界を見ないとこれからは厳しいです。

 フェイスブックは今、ユーザーが6億になっているとも言われていますが、そのうち300万人弱しかいない日本人だけをターゲットにするのはどうなのでしょうか。ミクシィであれば数千万人の日本人を抱えているのでまだ分かりますが、フェイスブックの場合に世界を目指さずに日本向けにやっても、少なくとも今は何のメリットもないでしょう。

 ですから、世界をにらんだ際にはしかるべき投資をすれば有効なツールですが、お金を出し惜しむと結局うまくいかないのではないでしょうか。

――これだけの実績を出した御社から、EC事業者へアドバイスはありますか。

 インターネットがずっと伸び続けているのと同じように、フェイスブックが伸び続ける限り、成長している産業やプラットフォームに乗っかるということは絶対にプラスだと思っています。伸びている産業に手を出さないのはもったいないです。もちろん投資も含め選択するのは難しいかもしれません。僕たちも立ち上げ時は世界のファッションのランクでファン数がエルメスと同程度になるなんてさすがに想像できなかったです。

 フェイスブックの場合、ファンが集まってもそれがすべて顧客とは限らないので指標が見えづらい。とはいえ、“これだけのファンがいる”ということが可視化されるので価値はあるのですが、その価値と売り上げという価値はベクトルがずれているので、それを合致させるためにもしっかりとお金を掛けないと成功しません。今はそういうことを伝えていかなければならない立場だと思っています。

取材後メモ

 小さなベンチャー企業が展開するアパレルブランドがアジア各国で“ファン”を集めています。しかし、実はベンチャーだからこそ、フェイスブックでここまでの成果を生み出せたのかもしれません。なぜなら、フェイスブックに可能性を感じた段階で素早く行動に移すといったそのスピード感は大企業にはない要素だからです。そしてもう1つの要素は“投資”になるのではないでしょうか。 “タダより高いものはない”ではありませんが、ファンページ運用の裏には、フェイスブックの可能性を活かす思い切った決断があったようです。いずれにしろ今は、集客後の次のステージという「ファンを活かす」戦略に注目したいと思います。

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