化粧品大手、ネット販売に相次ぎ参入――ネット市場へのインパクトは限定的か

【2011年6月号】

4月に入り、化粧品大手各社の動きが活発化している。化粧品最大手の資生堂は来年4月、ネット販売に参入することを発表。化粧品大手のコーセーはすでに通販サイトを立ち上げている。一方、異業種からは、韓国ロッテグループ子会社のロッテドットコムジャパンが通販サイトを立ち上げ、日本市場に参入した。遅まきながら国内化粧品市場で成長著しいネット市場に目をつけた大手各社。圧倒的な知名度と資本力でネット販売に参入する各社の動きは、既存のネット販売事業者にとって脅威となる可能性がある。大手の参入は、ネット市場にどのようなインパクトを与えるのか。

 資生堂とコーセー、ネット販売に参入

 ネット市場への参入を表明した大手各社。だが、その戦略は微妙に異なっている。

 資生堂は、メーカーと小売双方にとって手薄となっている若年層の取り込みを狙い、来年4月をメドに〝美と健康〟をテーマにした仮想モール「ビューティープラットフォーム(BPF)」を立ち上げる。すでに美容関連の商材を扱う異業種のメーカーに出店を打診しているようで、資生堂の顧客組織「花椿CLUB」の会員558万人(09年度)や他メーカーの出店効果により、モールにこの3~4倍の集客を見込んでいる。

 ただ、仮想モールにおける自社ブランドの取扱いは「紹介する程度」(同社)に留め、これとは別にウェブサイトをリニューアルしてオンラインストア機能を持たせて販売するという。オンラインストアで扱うアイテムは、カウンセリング商材を含め約3,000。サイトリニューアルでは、このほかに「オンラインカウンセリング」「店舗ナビ」といった機能も追加。店舗でのサービス情報を検索できるページや、サイト上でサービスを予約できる機能も設ける。資生堂が店舗との相乗効果を強く意識するのは、取り扱うアイテムに百貨店や専門店(資生堂と販売契約を結ぶ個人事業主が運営する小売店)を通じて流通するアイテムが含まれるため。ネットとの顧客の食い合いを避けるためだ。

 一方のコーセーは、「ジルスチュアート」「アウェイク」の2ブランドに限定して通販サイトを立ち上げた。というのも、両ブランドは国内店舗数がそれぞれ48(ジルスチュアート)、15(アウェイク)と流通基盤が弱い点がこれまで新規開拓を進める上でネックとなっていたためだ。ターゲットとなる年齢層も「ジルスチュアートが20~30歳代、アウェイクが30歳代以降」(同)としており、ネットやモバイルと親和性の高い若年層を主なターゲット層とする点からもネット販売が有効と判断した。

 ロッテ、3年で300億円規模めざす

 異業種から日本市場に参入したロッテドットコムは、自社ブランドではなく、日本や韓国、フランス、アメリカなど世界各国の化粧品約100ブランド2,000アイテムを取り扱い、化粧品の総合通販サイトをめざす。韓国や欧州で人気の高い日本初上陸となるブランドも含まれており、アイテム数も順次拡大していく考え。化粧品以外の商品カテゴリの展開も検討する。商品提供の核となるのは「オンラインカウンセリング」。36の設問から約180の肌タイプに顧客を分類し、チャットやメールによる相談も受け付ける。これにより2014年をメドに300億円の売り上げを目指す。

 既存流通との〝摩擦〟解消がカギ

 だが、これら化粧品大手のネット市場参入には課題となるポイントが少なくない。その最大のハードルが、既存流通との軋轢だ。これまでも化粧品大手が通販・ネット市場に参入する動きはあった。花王は通販専用ブランド「オリエナ」で、カネボウ化粧品も同「グラスオール」を通販展開している。コーセーは「フイルナチュラント」を店販、通販で展開している。

 資生堂にしてもグループ子会社のアユーララボラトリーズがポイント制度や通販限定キットの展開によりネット販売を強化しており、すでにネット経由の売上高は15%にまで高まっている。同イプサも昨年8月のサイトリニューアル以降、ネット販売を本格化させており、2016年をメドにネット経由の売り上げ比率を20%にまで高める計画だ。通販専用ブランド「草花木果」を展開する同キナリも売上高は約60億円(推計)に達しているとみられ、ネットを中心に新規開拓を進めている。

 ただ、これら化粧品大手によるネット市場への参入は、「通販専用ブランド」の展開か、「流通補完」を目的としたものに分けられる。既存流通との軋轢を避けるためだ。アユーラ、イプサとも国内店舗数は70前後。加えて百貨店を主販路とする展開であり、専門店流通は含まれていない。このため、ネットと店販の競合という構図は生まれにくく、マルチチャネル化によるブランド認知の向上や新規客との接点といった相乗効果が発揮される可能性が高い。その意味で、コーセーが流通基盤の弱い2ブランドに限定して展開を始めたことは〝無難〟な判断と言えるだろう。

 ネットと店舗の競合生む戦略

 だが、資生堂は、一部のブランドを除き、専門店でも取り扱いの多いカウンセリング商材を含んでいる。このことに対する同業他社の身かだは冷ややかだ。というのも、資生堂にとって百貨店や専門店流通は、今日の規模に至る礎となった流通基盤。専門店は資生堂の国内売上高の25%を占めるに至っている。ただ、百貨店や専門店は女性のライフスタイルのや購買行動の変化、異業種からの新規参入を受けて昨今、売り場が低迷している。そうした状況下での資生堂のネット販売参入は、店頭で地道な販促活動を展開するこれら個人事業主の日々の活動をないがしろにし、店頭から顧客を奪うことになりかねないからだ。

 資生堂では今回の参入について「店舗ナビ機能などの機能を追加し、専門店と一体となって店販を盛り上げていくのが目的」としている。ただ、ネットで新規客を獲得するには、ポイントプログラムやサンプル配布、収益性向上に向けたリピート施策も必要になる。「顧客満足度の向上を図り、ネットを頑張れば頑張るほど、顧客はどんどんネットに流れる」(業界関係者)というのが妥当な見方だろう。逆に専門店というしがらみが制約となり、有効な新規獲得策やリピート施策を打ち出せないとなれば、ネット市場で与えるインパクトも小さなものにならざるを得ない。加えて、ネットを開けばディスカウント化粧品が氾濫する時代。公式サイトであえて定価販売される必要もない中で、〝専門店との軋轢〟というリスクを侵してまで行う価値のある戦略とはいえそうもない。

 ロッテ、市場で存在感発揮できるか

 一方、ロッテドットコムが参入するのは寡占化度合いの低いネット市場に勝算を見出したため。国内化粧品市場は2兆円超とされる中、ネットの占める割合はわずか2,000億円。中小の化粧品サイトが乱立する傾向がいだけでなく、「価格訴求によるサイトが乱立する一方、高品質・高価格帯の化粧品をプロのアドバイスの下で販売するスタイルは見られない」(同)ことに勝機を見出したものだろう。今後、中国やインドネシア、ベトナムなどアジア展開も視野に入れており、「日本市場で存在感を確立することは、今後のアジア展開の上でも優位に働く」と考えたようだ。

 ただ、今後課題となるのは、数百あるブランドのオペレーションをどう行っていくかという点だ。「データベースの構築と人材の育成により対応する」(同社)としているが、全ての顧客の肌に合う製品が存在しないのが化粧品の宿命。このため、各社、顧客対応のマニュアルを整備し、独自のノウハウで顧客満足を高めてきた。数百に上るブランドのオペレーションを適切に行える体制を整備して顧客対応を充実させ、顧客満足を高めていくことができるかがカギとなりそうだ。

 まだ、これら大手各社のネット販売はテスト運用の段階で続いており、市場での動向が明らかになるのはまだ先となりそう。だが、これら大手の参入が呼び水となり、市場の拡大や顧客の増加などネット市場はますます活性化することになりそうだ。

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