“アラフォーの通販”を創る【栗原順子クリプロ代表取締役】

日本最大の通販専門チャンネル「ジュピターショップチャンネル」で、商品の特徴を的確に捉えた分かりやすい説明と巧みな話術でいくつものヒット商品を生み出し、多くのキャスト(番組司会者)の中でも特に人気を誇っていたカリスマキャストとして知られる栗原順子氏が今春、そのショップチャンネルを退社し、起業した。起業の理由――。それは40歳前後の、いわゆる「“アラフォー”の女性が購入したい通販」が日本にはなく、「ならば自分で創ろう」と考えたからだ。“通販を知り尽くしたカリスマ”が描くアラフォー向けのネット販売とは。

(聞き手は本誌・鹿野利幸)

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通販はとても便利な買い物方法

でも買ってみたい通販がない

“売り方”を学んだ8年間

――栗原さんは通販専門チャンネル「ショップチャンネル」で非常に人気の高いキャストでした。

私は東京の大学を卒業後、出身が広島なので、地元のテレビ局である広島テレビにアナウンサーとして入社しました。4年間、お世話になったのですが結婚を機に退社し、再び上京して縁あって映画の配給などを行うギャガ・コミュニケーションズに入社、広報を担当していました。

それから「一生できる仕事」を求めて、幼少の頃、アメリカに住んでいたこともあり、通訳になろうと、通訳の学校に行き始めました。そんな中、当時、ショップチャンネルさんが通訳を募集していると聞き、面接にお邪魔しました。その際、「商品を紹介するキャストも募集しているので、そちらも受けてみませんか」とおっしゃって頂いたのがショップチャンネルのキャストになった経緯です。

――8年間に渡ってキャストを務めてこられました。

とにかく本当にこの8年間は楽しかったですね。アナウンサーの時の“しゃべり”とは全く違っていました。用意された原稿を読むのではなく、もちろん、一応、番組進行の道筋は簡単にはあるのですが、生放送ということもあり、各キャストに割りと進行や演出の裁量を持たせてもらえ、「この商品はここが押しどころかな」とか、リアルタイムで分かる商品の販売状況などを見ながら「お客様はこっち(の言葉)に反応してるな」とか、キャストがそれぞれの個性で“商品の良さ”を伝えていくと。

例えば、ある美顔器を紹介する際、モデルさん顔の半分だけに美顔器を使ってもらって、「違い」を見てもらうという演出をしようということになりました。ただ、それだけでは商品の良さが伝わらないと思い、毎日ようにお客様に接している私で実演した方が効果が分かりやすいと考え、普通のアナウンサーは絶対にやらないことなんでしょうけど(笑)、顔に専用ジェルを塗って美顔器を実演したこともありました。

各キャストが独自に試行錯誤するのはもちろんですが、傍から見るとライバルのように見えるかも知れませんが、当時、20人近くいたキャスト同士の仲もよく、それぞれ努力していることが分かっているので、自分がやってよかったことは次のキャストに伝えたりとか、コツをみんなで共有していましたね。とにかくどうやったらお客様に商品の良さを分かってもらえるかを徹底追求して、試行錯誤を重ねてきた8年間で、本当に楽しかったですね。

もっと通販を使って欲しい

――そのショップチャンネルを今年3月に退社され、起業されました。起業した理由は。

ショップチャンネルでキャストをやる前は“通販”に接する機会がなく、分からなかったのですが、通販に触れるようになって実感したのは「通販は買い物手段として非常に便利」だということです。

ですから、もっと“通販”を世の中の方、特に私と同年代の40歳前後の、いわゆる”アラフォー“の女性に利用してもらいたいと考えたからです。今、この年代の女性はすごく忙しくなっています。仕事や家事、育児、介護も人によってはあると思います。洋服や化粧品などおしゃれにもちろん、まだまだ関心がある世代なのに、なかなか買い物に出かけるのが難しい方も多いと思います。そういった意味で通販はすごく良い買い物スタイルだと思います。

ただし、アラフォーにおいて通販はまだまだ一部の方しか利用されていません。もちろんテレビ通販のコア利用層である50~60代、また若い世代でもネットショッピングなどで通販は利用されていますが、アラフォー世代はあまり利用していません。なぜなら、買ってみたい“通販”がないからだと私は感じていました。私自身も38歳でアラフォーなのですが、やはり欲しいと思う「通販」がテレビショッピングにもネットショッピングにもないと。ならば、私がそれを創りたいと考えたのが起業のきっかけです。

「クリプロ」を起業

――自らが代表を務める「株式会社クリプロ」を今年5月に設立しました。クリプロには大手芸能事務所のホリプロも出資(議決権ベースで34%の株式を保有)しています。ここで何をするのでしょうか。

まずは私のショップチャンネルでの経験を生かして、テレビ通販で商品を販売したいメーカーやベンダー、小売事業者向けにテレビ通販で売るための商品企画とテレビ通販番組やインフォマーシャルの出演者のコーディネート事業を柱にビジネス展開します。

ホリプロさんの出資は偶然というか、私がギャガ・コミュニケーションズに在籍していた時に信頼していた上司が、ホリプロで新規事業を担当している方と知り合いで、そのつながりでご紹介頂いた。ちょうどホリプロでもテレビ通販に興味を持っているということで、出資頂きました。資金面のほか、営業面の支援、またテレビ通販の出演者コーディネート事業でホリプロ所属のタレントさんやモデルさんにも協力頂く予定です。

それにホリプロはCMやドキュメント番組を制作する映像事業部を持っています。この部署の力も使って事業を行っていこうと思っています。この部分が私としては一番、ホリプロさんとのシナジーが出てくる部分だと思っていますが、すでに現在、一緒にインフォマーシャルの製作を始めているところです。薬事法など関連法に遵守しながらも、見ているお客様がすぐに注文のお電話をかけてしまうように、商品の魅力をうまくテレビ通販で表現してきた私の8年間の経験とノウハウ。これにテレビCMやドキュメンタリーを制作していたホリプロの映像制作力を組み合わせることで、いわゆるインフォマーシャルっぽくない新しいインフォマーシャルを作れるのではないかと思っています。

クリプロが関わった商品が世に出るのは来年からになると思いますが、インフォマーシャルの製作にしろ、商品企画にしてもすでに動き始めています。

商品が生活をどう変えるか

――テレビ通販のプロである栗原さんから見て、通販でモノを売るための一番のポイントとは何ですか。

それぞれの商品ごとに変わってくるとは思いますが、基本はその商品を手にすることで生活がどう変わるのか、ではないでしょうか。

分かりやすい例で言うと、ドライヤーを説明する場合、ただ髪を乾かすだけではなく、最近では髪がつやつやになる性能を持ったものもあります。女性は髪の毛がうまくまとまるだけでも生活が本当に変わります。このドライヤーを使うと、皆さんの生活の何が変わるのかということを重点的にお伝えして、であればこの値段で、と納得してもらえると思うんです。要はそれが1万円なら、『1万円で買えるならお得』と思って頂けるポイントを探し、伝えることだと思います。

あとはやはり、「楽チン」というのがキーワードになるのではないでしょうか。ショップチャンネルの時はこれは重要なキーワードでしたね。楽じゃないものは使わなくなるので、せっかく買っても痛い靴は履かない、重いカバンは持たない、激しい運動器具は使わない、だけど楽でおしゃれ。楽で効果があるとか、簡単で楽じゃないと女性って年齢に関わらず、続けられないですから。そういった意味では「楽」というキーワードは大事です。

“テレビ通販”を盛り込んだ

通販サイトを立ち上げる

価格と価値に見合った商品を

――今後の方向性について教えてください。

私が考える「クリプロ」という会社のミッションは、繰り返しになりますが30代後半から40代の忙しい女性が利用できる通販を作りたいということです。便利なのにこの年代の女性にはあまり使われていない通販をもっと利用してもらいたいと。通販をもっとメジャーにしたいんですね。私が今、できることは、まずはショップチャンネルで培ったテレビ通販のノウハウを活かしたビジネスです。まずはこれをしっかりやって、それと並行して“アラフォー”の皆様に向けた通販を創りたいですね。

――アラフォー向けの通販とは。

アラフォー世代は「良い商品が良い値段で買える」ということが1つのポイントです。単に安いというよりは、1万円なら1万円を出すに値する商品なのかどうかをすごくシビアに皆さん見ていると思うんです。単に価格だけに惑わされなくなってきているというか、安くても変なものは買いたくないと。私がショッピングする際も感じることなんですが、そういった意味で日本の服って高いと思うんですね。良い商品なのでしょうが、それで1万円は高すぎる、価格と価値が見合わないと。一方で実際、私もよくネットショッピングをしますが、アメリカなど海外には価格が価値に見合った商品は多くあると思います。

こうした価値に見合った価格の商品が並ぶセレクトショップをいつでもアクセスできるネット上に作りたいと思っています。そしてここにテレビ通販の良さを組み込みたい。具体的には映像、動画を使って商品の特徴を分かりやすく伝えることです。

やはり、動画は商品を説明する上で非常に重要なツールです。ショップチャンネルのキャストの時に経験したことですが、ハンガーに掛かってると、あまり素敵に見えないものも、モデルさんが着て歩くと、とっても素敵に見えて、その映像が流れたとたんに、注文のお電話がかってくると。

私たちは「キーショット」って呼んでいるのですが、「その商品が欲しくなるシーンの映像」を載せつつ、魅力的な商品を販売する私たちの年代向けのネット通販サイトを立ち上げたいですね。商品はいずれは自社企画のオリジナルもやりたいとは思いますが、良い商品を海外から買い付けたり、可能であれば、日本ではまだ販売していない欧米ブランドの日本における販売権を取得する形など様々な方法を考えています。基本的にはアパレルと靴を販売していきたいですね。「選ぶ目」と「紹介の仕方」を強みとした通販サイトですね。これは何とか来年中には形にしたいと思っています。

取材後メモ

年商1000億円超を誇る日本最大規模の通販専門チャンネル「ショップチャンネル」において、不動の人気キャストの地位を8年間に渡って守り続けた栗原さん。

栗原さんのキャストとしての人気と実力は折り紙つき。同氏が紹介した「抱き枕」が記録的な売り上げを上げたり、通販番組の司会者でありながら熱狂的なファンも少なからずいたようで、通販業界ではまさに得がたい人材であることは間違いないようです。

「先輩から、同僚から、お客様から様々なことを学べた本当に楽しく勉強になった8年間だった」――。そんな栗原さんがショップチャンネルで学んだ経験を携え独立し、何を目指し、何を成し遂げようとしているのか。今後も注目していきたいです。

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