ストアと一緒に “ベストプラクティス”を作りたい【ヤフー・秀誠コンシューマ事業統括本部モバイル企画部部長】 

今年に入り、ネット販売業界で一気にブレイクした“ソーシャルコマース”。TwitterやFacebook、Google+などの「ソーシャルメディア」の利用者は今後より拡大することが予想されており、いかにそこに対応していくかを重要課題とみる企業は多い。こうした動向をみて、ヤフーでは今年の夏ごろからソーシャルメディア活用支援を積極化。自社仮想モールの店舗を対象に、フェイスブックページやアプリ制作などの支援を無料で行っている。同社のソーシャルコマース戦略をモバイル企画部の秀誠部長に聞いた。(聞き手は本誌・河鰭悠太郎)

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最終的には全ストアに場を作ってもらいたい

無料でソーシャル周りを支援

――今年の夏頃からソーシャルコマースを積極化していますが、どのような背景があったのでしょう。

ソーシャルコマースは将来的に大きなトレンドになることが予測できたので、しっかり取り組もう、と2011年の頭ごろから決めていました。それから戦略的に進めていて、ようやく今年の夏以降、お客様の目に見える形でいろいろリリースできるようになった、というのが経緯です。スマートフォンの場合も同じなのですが、スマートフォンは2011年の1月から専門の部署を立ち上げて、1年間かけてウェブの最適化やアプリの配信などを行っていました。それから1年ぐらいかかって10%を超える規模感になったわけです。マジョリティ化するのはプロジェクトの立ち上げからみて次の年ぐらいになるわけですね。ソーシャルコマースも同じだと思っていました。

――具体的なサポート内容は。

今はフェイスブックのソリューションに関しては大別すると3つ提供しており、1つはフェイスブックページの制作代行。2つ目はフェイスブックアプリの設置。そして3つ目が「ヤフー!SM3 for ソーシャルコマース」です。

――どういうサービスなのですか。

「SM3」は「コマースパートナー」の一社であるモディファイさんがお持ちのソリューションで、基本的には法人向けのSNS投稿ツールです。大きく2つの特徴があり、ひとつ目は1つの投稿でマルチのSNSに投稿できること。複数のSNSを運営している法人さんは運用しやすくなると思います。もうひとつは、ワークフローに沿った法人向けの機能がついていることですね。例えば、承認されないと投稿できないとか、時限で投稿できるとか、一投稿あたりのRT数やいいね数を見ることができるとか、そういうことが可能です。「ヤフー!ショッピング」に出店しているストアは運営の負荷をどう下げるかが重要なので、これはいいなと思いました。それで、モディファイさんと相談しながら「ヤフー!ショッピング」向けにチューニングしてもらい、「ヤフー!SM3 for ソーシャルコマース」というプロダクトを作ってもらったんです。これは、「ヤフー!ショッピング」の商品・在庫情報とも連携しているので、一個一個の値段を投稿に書いたりとか、商品画像を登録したりする必要がありません。投稿内容にプリセットされる形で使えるようになっています。

――サービスの利用費用は。

基本の機能は無料で利用できます。ただ、一日の投稿件数を大幅に増やすとか、投稿ツール名をストアごとに変えるなどのオプションが入ると、さらにストアからモディファイにその分のコストを支払う形になっています。ベーシックな機能でも十分に対応できると思いますが、より細かくこだわりたいストアにはそうした形で対応していただいています。

――無料とは気前がいいですね。

(笑)最初からここでお金を取る発想はありませんでした。ただ、手間は設定側にかかることはかかるし、ホスティング費用や人的リソースの問題もあるといえばありますが。

――フェイスブックページの制作代行の利用状況は。

今は数百社に利用されています。ただ、サービス全体としては追いきれない部分もあって、例えば、弊社に関係なく、ご自身でフェイスブックページを制作されているストアもありますので、そこの規模は把握できないわけです。

――フェイスブックアプリはどのようなサービスですか。

法人・個人に関係なく、誰でも簡単にフェイスブックページ上で「ヤフー!ショッピング」の商品を紹介できるものです。その結果、流入がどんどん増えればいいなと。利用状況は、まだ設置数ぐらいしか取れておらず、法人か個人かも切り分けられないのですが。設置数自体は1000フェイスブックページアカウント以上に設置されていて、すぐに2000はいくでしょう。

――ソーシャル周りの支援サービスは、どういうストアの利用を想定しているのでしょう。

最終的には、全ストアに積極的にソーシャルメディア上に場を作っていただいて、その結果、取扱高が上がればいいな、と考えています。ただ、弊社に限らず業界全体がそうだと思いますが、どういうプロモーションがフィットするのか、どういうやり方がいいのか、まだまだ試行錯誤している状態です。我々は「ベストプラクティス」と呼んでいるのですが、今はとにかく感度の高いストアと一緒にいろいろトライしてみて、その結果としてモデルとなるストアが出てくればと考えています。例えば数千、数万単位でソーシャルメディア上にとにかくページを作らせて、というケースもありますが、実態をみると、実はほとんどファンがついていなかったり、そもそも投稿すらされていない「アカウントだけのページ」というものあります。ですので、まずは細かくコンサルも含めてサポートさせていただいて、見本となるストアが出てきてから一気に全体に広げていく、という手法をとろうと思っています。

来年は市場ができあがる「最初の年」になる

双方向性が高いのはフェイスブック

――「ヤフー!ショッピング」でもアカウントを取ってSNS上で企業ページを運営していますが、現状はどうですか。

ツイッターを入れると、ツイッターが一番規模が大きいですね。次がフェイスブックで、ぐっと落ちてミクシィ。グーグルも少ないです。「mixiページ」や「Google+ページ」はまだテスト的というか、我々も勉強しながらという段階です。ただ、「mixiページ」は「フェイスブックページ」とは明らかに利用者層が違うと思っていますので、コミュニケーションの内容に年代や性別を意識したものは取り入れていくつもりです。

――利用者層の違いとは。

ミクシィは30代女性が中心なので、その辺りを意識して、ということですね。ただ、すべてにおいてそれができているのか、というと、あまりできていないのが正直なところです。今はほとんど同じ内容が投稿されているので、規模が出てくればそのあたりを改善したいですね。

あと、ツイッターに比べるとですが、フェイスブックの方がバイラルしたりコミュニケーションしたりといったインタラクティブ性は高いと思います。

――確かにフェイスブックは“共有”という要素が強いですね。ところで「Google+ページ」はどうでしょうか。

これは完全に未知です(笑)。ただ、「ヤフー!ショッピング」が「Google+」に向いているかどうかはまた別の話なのですが、ソーシャルコマースの担当者として一般論を述べさせていただくと、「Google+」はサーチやマップなど、いろいろなグーグルのサービスと融合していくことが予想できますので、サービスの拡張性という意味では一番高いのでは、と思っています。ただ、「ヤフー!ショッピング」として積極的に取り組むかどうかはまだ分かりません。あくまで一般論としてはそういう分析ができるかな、と。

――では、今後もっとも可能性を感じるのは「Google+ページ」ですか?

あくまでも個人的には、です。「ヤフー!ショッピング」としては、やはりフェイスブックがそれなりの規模になっていくと思いますので、そこでストアがしっかり取扱高を上げられるようにしていくことが一番大事。そこを中心に考えています。ただ、「Google+」がプラットフォームとして優れた形に進化すれば、例えばリアル店舗をお持ちのストアにとってはマップとの連携も期待できるのでいいかもしれません。

「ファン」を増やすことが最優先

――ソーシャルメディア活用が現在抱えている課題は。

運用の話につながると思いますが、まず、現在はぜんぜん売りにつながっていない、という問題があります。ソーシャルメディア上で、もの凄く売り上げを上げている小売店舗というのは、世界的にみてもそれほどいないでしょう。まだ、売り方そのものが定義されていないわけですね。

ただ、メディアとして使う手法――例えば自社サイトに流入させる手法などは工夫が出てきていると思います。ですが、フェイスブック上で決済させる手法については、まだ誰にも正解は見えていないのではないでしょうか。そういう意味では、業界全体が課題だらけ。成功を定義できていないのが現状でしょう。

――フェイスブック上で決済まで行うやり方に可能性はありますか。

十分あると思いますが、どういう風にすれば商品を買っていただけるのか、販促の仕方をしっかり工夫しないと難しいとも思いますね。

――では、「ヤフー!ショッピング」アカウントのSNSページ上での基本的な戦略は?

基本的には3つのコミュ二ケーションがあると思っています。ひとつは「ヤフーと消費者」、次に「売り主と消費者」、そして「消費者同士」のコミュニケーションです。それぞれが違う戦略、ロードマップになると思うので、そこはバランスよくやっていきたいなと。ヤフーとしてはキャンペーンの情報や販促の情報を、コミュニケーションを含めてソーシャルメディア上のお客様に受け入れられるやり方で展開していきたいですね。それが取扱高に直結するとは、あまり思っていません。「ヤフーのコマース」といういわばある種の人格として、お客様に近い存在になりたいな、と。プロモーション的な意味合いが強いですね。ブランディングの一環として、中長期的にファンの方を増やすことに主眼を置いてやっていきたいです。

――アカウント運営はファン作りが中心、と。

そうですね。モールの取扱高の拡大を第一義的な目標にするのは違うと思っています。例えば、ソーシャル上でいいキャンペーンを展開しているストアをヤフーのアカウントで紹介するとか、そういう役割が本当はいいんじゃないかな、と。

――今後、ソーシャルコマースはどう進むと思いますか。

今年で市場の定義のようなものがなされたので、来年は、市場がそれなりの規模にできあがる最初の年なのかな、と思っています。ヤフーとしても先頭グループの一員として、スピーディーにソリューションを提供していくつもりです。今年はいろいろリリースできたので、今後はより、その規模を拡大していければ。2,3年かけて、それなりの規模のマーケットにしたいですね。

取材後メモ

フェイスブックのブレイクにより、いよいよ本格的な広がりを見せつつあるソーシャルコマース。今年の後半にはミクシィやグーグル+などの大手SNSも相次いで企業ページを開設しており、2012年に一層通販企業の活用が進むことは間違いないでしょう。取材中に秀部長が語っていたように、まだコマース分野においては売り上げに大きなインパクトを与えるような事例はほとんど出ておらず、試行錯誤の段階を脱していない感があるのは否めませんが、規模が拡大するであろう今後は、おそらくロールモデルとなる事例が多く出てくるはず。どのような成功事例が作られるのか、期待してみていきたいと思います。

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