くちコミは正しく使わねば潰れる【ジャーナリスト・藤代裕之氏】

 人気グルメサイト「食べログ」のやらせ騒動でにわかにクローズアップされた「ステルスマーケティング」(ステマ)。広告と消費者に知らせず、くちコミにみせかけるという手法だが、ひとたび発覚すれば消費者の反発を招きかねない。ステマの問題点とは何か。そしてくちコミの公平性を保つには何が必要なのか。任意団体であるWOM(くちコミ)マーケティング協議会でガイドライン作成を担当し、「ガ島通信」を主催するアルファブロガーでもある、ジャーナリストの藤代裕之氏に聞いた。(聞き手は本誌・川西智之)

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くちコミが信じられないということは

会話が信じられないということ

 「健全性確保」への関心は低かった 

 ――WOMマーケティング協議会(WOMJ)とはどんな団体ですか。

 WOMマーケティング、つまりくちコミ(Word of Mouth)を活用する業界の、健全な育成と啓発に寄与するため、2009年に発足しました。電通や博報堂の関連会社といった広告代理店や一部のくちコミ事業者など、くちコミビジネスに関わる法人・個人が参加しています。クライアントはもちろん、楽天のようなプラットフォーム事業者にも入っていただきたいと思い、アプローチはしてきました。ただ、今回の「食べログ」騒動があるまでは、「ステマ」が社会問題になる雰囲気はなかったように思います。実際のところ、依頼するクライアント側に問題意識があったかといえば、なかったのではないでしょうか。当団体の活動に広がりがなかったことは確かですが、関心の低さもその原因と考えています。今回の騒動を機に、「くちコミは大事なもの」ということを訴えていきます。

――これまでもネット上では「ステマ」が話題になることもありました。

 確かに、ネットメディアで記事になることはありましたが、今回はワイドショーなどで大きく取り上げられたことで注目を集めました。私が問題だと思うのは、みんながくちコミに関わっているのに「健全に保とう」という意識は薄いということです。

――「みんな」というのは、ユーザーも含めてということですか。

 そうです。ただ、今回の騒動で一番問題なのはクライアント側でしょう。一部のマスメディアでは食べログがやり玉に挙がっていますが、彼らはあくまで被害者です。まずは依頼したクライアントと、不正を行った広告代理店の問題を考える必要があります。

――それはモラルの問題ですか。

 くちコミを汚せば最終的にはチャネル自体が潰れかねません。要は、自分たちの首を絞めているわけです。くちコミは、みんなが使う共有財産です。「やらせ」をくちコミに見せかけるようなことをすれば、くちコミそのものの信用度が下がります。当然、ネット販売事業者も売り上げが落ちるといった痛手を被りかねないわけです。目先の利益ではなく、長期的な枠組みを考えるためにWOMJを立ち上げました。

 「関係性の明示」が原則

 ――くちコミの信用度低下は、すべてのネット事業者にとって大きな問題となります。

 くちコミが信用できなくなる、というのは重大なことです。今回の「食べログ」のように、プラットフォームに縛られてくちコミを考える人が多いのですが、くちコミは会話そのものです。例えば、友人に「駅前のあのラーメン屋がおいしいよ」と薦めるのがくちコミの原点です。それが駄目となると、フェイスブックに代表される「友人知」も信用できなくなるわけです。

 私の友人が、フェイスブックに「今日ランチした店はとても良かった」と書き込んだところ、「ステマかよ」とコメントが付けられて、非常にショックを受けたそうです。もちろん、そのコメントは冗談なのですが、くちコミが信用できないということは、友人のフェイスブックの書き込みですら「店からお金をもらっているのでは」と最初から疑ってかからねばならないわけです。こういう社会は悲しいですし、すべての情報を自身で確認しなければいけないのは、とても不便です。

――「くちコミを頭から信じるのがおかしい」というユーザーもいます。

 「疑うことが前提」といっても、「おおむね信用できるが、中には嘘もある」「おおむね嘘だが、中には真実もある」ではまったく違う社会です。どちらを選ぶのか、消費者も含めて考える必要があると思います。

――くちコミはコミュニケーションに欠かせない存在ということですね。

 いわば潤滑油のようなものです。「あのお店おいしいよね」という意見がたまたまソーシャルメディアなどに載っているだけ。ネットでビジネスする人も一般のユーザーも、誰もが活用しているわけで、「ステマ乙」と書き込まれる社会が嫌ならくちコミの健全性を保たないと、会話が社会の基盤としてなりたたなくなる危険があります。

――そういう問題意識を持つ事業者は少ないでしょうね。

 自分たちは旅行をしたり、食事をしたりするのにくちコミを参考にしているのに、マーケターの立場になったとたん「都合よく書いて欲しい」と思う。これは、自分も参考にしている有益な情報を使えなくする行為です。

――WOMJではくちコミマーケティングのガイドラインを設けました。

 ソーシャルメディアはグローバルなメディアですから、アメリカの基準も参考にする必要があるということで、アメリカのWOMマーケティング団体、WOMMAと提携しました。アメリカでは連邦取引委員会(FTC)がくちコミマーケティングに関するガイドラインを設けており、違反すると罰金を課せられる恐れもあるなど、こうした枠組み作りでは進んでいます。

――ガイドラインはどのようなものですか。

 くちコミはあくまで消費者から自発的に行われるものです。くちコミ的表現の広告を使う場合、それがどのように行われているか、関係性を他の消費者に分かりやすく示す必要があります。つまり、金銭の授受が発生していたり、商品を企業からもらってレビューしていたりするのであれば、そのことを明記する必要があります。

――「レビューを書けば割り引き」というキャンペーン中に、割り引きを目当てに投稿されたレビューは「自発的なもの」とは言えないわけですか。

 「キャンペーンがあったのでレビューを書きました」という旨を明記するよう、消費者にお願いする必要があるでしょうね。それが分かれば、読んだ人は多少なりとも割り引いて評価しますよね。一方で、投稿者がキャンペーンを知らなかった場合に書いたレビューは自発的なものですから、純粋な「くちコミ」と言えるわけです。

ステマが発覚すれば

依頼者も無傷ではいられない

 

 自浄作用発揮し規制を回避

 ――ガイドラインに実効性はあるのですか。

 罰則規定がないことを疑問視する声もありますが、当団体への加盟にあたり、2社が自社の規約を改定し、関係性を明示するというポリシーを定めたケースもあります。

――法的規制が必要だ、という声が出てくる可能性もあります。

 表現の自由にも絡む問題ですし、基本的には規制強化には反対です。自由で自立した枠組みこそがインターネットらしいと思っていますから、自主的な取り組みを進めていこう、というのがWOMJの考え方です。また、他社をおとしめる書き込みなどは、業務妨害や名誉毀損など、現行法上で対応できるケースもあるはずです。

 そもそも自分自身がくちコミマーケティングに関わっていることすら知らない担当者も多いと思います。「好意的なくちコミを書けばポイント進呈」というキャンペーンを無自覚に行う広告代理店やネット販売事業者はたくさんあるはず。まず、自分たちの行為がグレーであるという“事実”を広めることが必要です。

――ガイドラインに関して、通販事業者や楽天やカカクコムのようなプラットフォーム事業者には話をしていたのですか。

 話をしていこう、と協会内で相談していたのですが、なかなか関心を持っていただけなかったのが実態です。会員社の大手広告代理店の中では、ガイドラインが取り組みに反映されつつありますが、会員社の中での浸透を図るべく、勉強会をもっと開催しよう、と考えていたところで起きたのが今回の騒動です。現在は「もっと啓発活動を行うべき」という議論が進んでいます。消費者庁などと協力して啓発活動をすることも重要になるでしょう。

――ただ、ガイドラインの存在を知っても受け入れない企業もあるのでは。

 やらせを主導する不正業者は別として、やはり問題となるのは依頼するクライアント側の意識です。これまでソーシャルメディアを使っていなかった企業でも「流行っているから」と安易にくちコミマーケティングに頼ってしまうこともあるようです。

 ただ、今回のような騒動になれば、依頼した側も無傷ではいられません。ネット上でも「ここがステマをやっているのではないか」という話はたくさん出てきています。嘘を重ねても、いずれはバレてしまうのがソーシャルメディアの特徴です。ネットユーザーの目もステマに対して厳しくなっていますから、そのリスクを考えるべきです。彼らの「パトロール」は甘く見ないほうがいいでしょう。

――今回のカカクコムのような、プラットフォーム側の責任に関しては。

 不正をなくす努力は必要でしょうが、すべてのくちコミに厳正なチェックを求めるのは無理があります。また、チェックされているということは「検閲されている」のと同義であることも忘れないで欲しいですね。「関係性の明示」は、実社会であれば友達を失わないために誰もが行うことですから、さほど高いハードルではないと思います。法律を作ったり、コールセンターでたくさんの人間が書き込みをチェックしたりすれば、社会的なコストが必要になるわけです。その前に当事者が自浄作用を発揮すれば、トータルでみてコストも安くなります。

――ユーザー側の意識改革も必要となります。

 大学生がアルバイトでやらせのくちコミを請け負うケースもかなりあるようです。今後の消費者は「良い消費者」であると同時に「良い発信者」でなければいけません。彼らのメディアリテラシーを高めるためにも、WOMJが一役買えれば、と思っています。

――具体的には。

 例えば大学で講座を持つということが考えられます。社会に出る前に、ソーシャルメディアの使い方を学んでもらうと同時に、くちコミの重要性も知ってもらう機会を設けたいですね。

――ステマに対するネットユーザー目はさらに厳しくなりそうですね。

 ステマに問題があることが周知されたのは大きな一歩だと思います。今後はくちコミの透明性に対する消費者のハードルは、どんどん上がっていくはずです。こうした問題に関心を持たないと、何をやっても「ステマ」と言われて、マーケティング施策が効かないという事態になりかねませんからね。

 

取材後メモ

 

正月からネット上を席巻している「ステマ」という言葉。食べログ騒動や、「2ちゃんねる」のログをまとめたアフィリエイトブログでステマが行われているのでは、という疑惑が持たれたことがきっかけとなっています。

なぜステマに嫌悪感を抱くネットユーザーが多いのか。もちろん、今までもくちコミを頭から信じていたわけではないでしょう。ただ、「星の数が多ければ良いものである」という漠然とした認識は、多くの人は持っていたはず。今回の騒動は、これを覆すに値するものだったわけです。

くちコミは、行動を起こす際に参考となる重要な指針です。昨今はフェイスブックのような友人間のくちコミがもてはやされていますが、知らない人からの情報は「より世界を広げてくれるもの」です。その価値を失わせる行為を許して良いはずはありません。

販売する側も消費者としてくちコミを活用しているはず。果たして自分はどんなくちコミに価値を感じるのか、という原点に帰るべきでしょう。

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