食べログで「やらせ」投稿発覚――くちコミの信頼性揺らぐ

やらせ業者の存在が発覚した「食べログ」

価格比較サイト大手のカカクコムが運営する人気グルメサイト「食べログ」で、飲食店から金銭を受け取って好意的なくちコミを書き込み、ランキングの順位を押し上げる「やらせ業者」が活動していることが判明した。同社では業者に不正行為の中止を要請するとともに、法的措置を検討。さらには、ヤフーの運営するQ&Aサイト「ヤフー!知恵袋」で、不正業者が特定の飲食店に好意的なくちコミを行う「やらせ投稿」があったこともわかった。相次ぐ不正はネットにおけるくちコミや商品レビューそのものの信頼性が揺らぐ事態となりかねないだけに、早急な対策が必要だ。

「ヤフー!知恵袋」でも不正判明

カカクコムによると、やらせ業者から「食べログへ好意的なくちコミを多数書き込んでランキング順位を上げる」といった営業を受けたという通報が、昨年1月に飲食店からあったという。同社の調査では、業者は39社に上る。なお、価格比較サイト「価格.com」で同様の業者が横行している可能性について、本誌の質問に同社は回答していない。

同社では、業者にやらせの中止を要請しており、応じない場合は法的措置も検討するという。また、「価格.com」開設時から行っているくちコミ投稿の全件監視により、不自然なくちコミを特定し、削除する方針。さらに、恣意(しい)的なランキング操作を防ぐため、ランキングの仕組みを変更するとしている。

ただ、こうした対応ではやらせを完全に防ぐのは難しく、やらせとは判別しにくい内容で投稿するなど、業者がより巧妙な手段を使う可能性も高い。「食べログ」のアカウント取得条件を厳しくするといった対策は、投稿数の減少につながるため、導入しにくいとみられる。同社ではこうした対策の導入可否について、本誌の質問に回答していない。

一方、「ヤフー!知恵袋」で行われたやらせ投稿は、不正業者が特定の飲食店に好意的なくちコミを行うというもの。JALUXから羽田空港内の飲食店の運営を委託されている企業が不正業者に依頼したもので、昨年4月~7月に計4回、空港内の飲食店を推薦する「やらせ」の投稿があった。ヤフーでは不正業者に対して特別の措置などは考えていないが、投稿の削除依頼を出すよう求めているという。

JALUXによると、委託先のデリコ・インターナショナルの依頼でビジョナル株式会社」からやらせの投稿が行われていた。投稿内容は、羽田空港内のお勧めのレストランを尋ね、それにデリコ社が運営する中華料理店を「お勧め店」として回答するというもの。質問と回答をビジョナル社自身が行う「自作自演」だ。

昨年の春先にビジョナル社からデリコ社の飲食店を紹介したいという要請があり、デリコ社が承認したのが今回の経緯。金銭の授受はなく、本格的にサービスとして展開する前段階としての意味合いが強いとみられる。

JALUXでは今後の対応について、「グループ社員も含め、重要性を周知して再発防止に努めていく」とする。また、サイト運営元のヤフーでは、「(事前の把握は)技術的には難しいので、引き続き趣旨に反する利用はしないようお願いしていく」としている。

「やらせ」自体は景表法違反ではない

くちコミを利用したやらせに違法性はあるのだろうか。消費者庁では昨年10月、くちコミ情報を自ら、もしくは第三者に依頼して掲載する際に「著しく優良または有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる」との見解を発表している。 法律を改正したというものではなく、ネットでのくちコミのような販促手段を、現行の景表法に照らしあわせたらどうなるか、という見方を示したものだ。

例えば、実際には地鶏を使っていないのに「地鶏が素晴らしい」と書きこむなど、事実とは違う内容のくちコミが不当表示にあたる。ただ、「とてもおいしかった」というような投稿はあくまで「感想」であるため、取り締まることはできない。

消費者庁表示対策課では、今回の食べログ騒動について、「優良誤認させるくちコミがあったとすれば問題になる」とする。つまり、やらせ自体が景表法違反となるわけではなく、くちコミの内容如何(いかん)ということになる。また、内容が問題となった場合、取り締まりの対象となるのはあくまで事業者。仮に広告代理店などの第三者に書き込みを頼んでいたとしても、対象は「依頼主」だ。

高い点数を付けてランキングの順位を操作した件については「ランキングを作っているのは事業者(飲食店)ではなくカカクコムであるほか、点数が示すものがはっきりしないため、問題とするのは難しい」(表示対策課)。店に付けられる点数が「料理の味」なのか「(価格や量などの)サービス」なのかが切り分けられず、「優良誤認」と「有利誤認」のどちらにあたるかも判別しにくいためだ。

現状では今回のようなやらせのくちコミや、広告と消費者に知らせず、くちコミにみせかける「ステルスマーケティング」を取り締まるのは難しいのが実情といえる。

定期的なパトロールなどで対応

とはいえ、こうしたやらせが横行すれば、消費者のくちコミへの信頼は大きく低下するだけに、各事業者には、くちコミの透明性確保のための対策が求められる。くちコミが大量に投稿される、仮想モール事業者の対応はどうなっているのだろうか。

楽天では、こうしたやらせ対策として、購入者のレビューしか表示されないようにしているほか、定期的なパトロールを行ったり、不適切なレビューを検知できる仕組みを作り、必要に応じて削除したりしているという。さらに、「不適切な行為が発見された場合には契約解除を含む厳しい措置を   取るガイドラインを設けている」(PR推進グループ)という。7600万件を超えるレビューの中で、 やらせのような不適切なレビューは「ごくわずか」(同)としている。

ヤフーでは、通常のパトロール以外には「特に対応は取っていない」(広報)としながらも、店舗には「ガイドラインに沿った形で運用するようしてもらいたい」(同)とする。

一方、広告代理店側の動きとしては、電通や博報堂関連会社などの大手が参加する任意団体「WOMマーケティング協議会」(WOMJ)が、2010年にくちコミマーケティングに関するガイドラインを設け、順守するよう呼びかけている。

これは、くちコミマーケティングがどのように行われているか、その関係性を他の消費者に分かりやすく示すべきというもの。つまり、金銭の授受が発生していたり、商品を企業からもらってレビューしていたりするのであれば、そのことを明記する必要があるということだ。

ガイドラインには罰則規定などはないものの、「まずはくちコミに見せかけた広告がグレーということを知らない事業者に周知していきたい」(WOMJガイドライン委員長の藤代裕之氏)としている。

早急なルールづくり

今回のやらせ騒動は、ネットだけではなく大手メディアでも大きく報道され、カカクコムの株価は急落した。この手のやらせが行われているのではないかという疑念は、以前から消費者の間にあっただろうし、実際に行われていた例もあるだろう。ただ、こうした組織的なやらせの事実が判明したのは初めてなだけに、消費者に与えるショックは大きい。

これまで事業者は、くちコミを活用する一方で、その運用手法や健全性の確保にはあまり関心を持ってこなかったといっていいだろう。いわゆる「ステルスマーケティング」(ステマ)は、くちコミの公平性を前提とする消費者にしてみれば、害悪というほかない。ステマが一時的に効果を発揮したとしても、その事実が発覚すれば、代償を支払わなければならない可能性が高いといえる。

ステマが横行し、消費者がくちコミを信じられなくなっていけば、通販企業の売り上げにも影響する。そればかりか、法的な規制を求める声が強くなる可能性も十分にあるだろう。

通販企業はもちろんのこと、楽天やヤフー、カカクコムのように、プラットフォームを提供する企業も含め、くちコミの健全性を守る手段を早急に考えなければならない。くちコミを活用したマーケティング手法はまだ過渡期ともいえるだけに、こうした枠組みづくりは未整備。くちコミに関連するすべてのネット事業者が真剣に取り組む必要がありそうだ。

NO IMAGE

国内唯一の月刊専門誌 月刊ネット販売

「月刊ネット販売」は、インターネットを介した通信販売、いわゆる「ネット販売」を行うすべての事業者に向けた「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の月刊専門誌です。ネット販売業界・市場の健全発展推進を編集ポリシーとし、ネット販売市場の最新ニュース、ネット販売実施企業の最新動向、キーマンへのインタビュー、ネット販売ビジネスの成功事例などを詳しくお伝え致します。

CTR IMG