Tue, July 16, 2019

日本のノウハウは海外でも活かせる

大手総合商社の住友商事が、海外での日用品や食品のネット販売に乗り出した。グループ企業の爽快ドラッグのノウハウを活用したもので、4月から中国・上海で、8月からはインドネシアで事業を開始する。成長が見込まれるアジアを中心に海外での事業展開を目指すネット販売事業者は後を断たないが、まだ、目立った成功事例はないのが実情だ。大手総合商社がネット販売事業をどう位置付け、海外で展開の拡大を図っていくのか、爽快ドラッグ前社長で、現在、住友商事モバイル&インターネット事業部部長代理を務める巽達志氏に話を聞いた。 (聞き手は本誌・後藤浩)

このビジネスは成長率が勝負

爽快ドラッグが順調推移
――爽快ドラッグの業績が好調なようですが、前期(2012年3月期)の感触は。
売上高が前期比40%増の120億円程度になる見込みで、今期には累損が一掃できると思います。爽快ドラッグは、まだまだ成長の余地はありますので、もう少し頑張らなければと思います。やはり、このビジネスは成長率勝負。少なくとも40%の成長率は維持していきたいですね。
――爽快ドラッグの好調要因は。

まず挙げられるのは、取扱商品の拡充です。前期末時点の取扱商品数は約9万点で期中約1万5000点増加しました。前期は家電やペット用品の拡充したのですが、特にペット用品では、
猫砂やペットシーツなど、かさばる消耗品を中心に強化しました。郊外であれば、ホームセンターなどがありますが、都市部ではなかなかペット用品を購入できるような場所がない。そこでネットで購入できれば、利便性が上がると考えて強化しました。今後も、取扱商品数を増やしていこうと考えています。
――前期は東日本大震災の発生もありましたが。
震災関連の特需で新規顧客が増えました。これから重要なのはリピートですので、新しいCRMツールを導入し、より精度の高いターゲットマーケティングを進めていこうとしているところです。

――日用品や食品を扱うGMSなどのリアル店舗もネットの取り組みを強化していることを考えると、今後、競争が厳しくなっていきそうです。

そうですね。ただ、リアル店舗が展開するネットスーパーなどが普及することで、食品のネット購入が広がるでしょうし、多様な事業者が参入することでネット販売の利用が増えるという
側面もあります。その中で、顧客に支持されるためには、商品の幅を広げる、あるいはもう少し面白い商品を揃えるということが必要になると思います。その意味では、商品調達力の強化がポイントになるでしょう。

――特に日用品や食品は、価格競争が激しいカテゴリーでもあります。
リアル店舗の売価をウォッチし、同じような値付けをしていけるかは課題だと考えています。爽快ドラッグでも、よく売れる商品は安いのですが、まだ高いものも少なくない。特売にどこまで追随するかという問題はありますが、一般的なリアル店舗の売価水準には持っていきたいと考え
ています。

――取扱商品の拡充に合わせ、物流体制の強化も必要になりますね。
物流センターについても、現在の大阪1カ所だけでは厳しくなると思いますので、現在、関東に拠点を設けることを検討しているところです。
――商品の当日配達などサービス面での差別化についてのお考えは。
配送リードタイムの短縮については、社内でもよく議論をしています。ただ、翌日配達と当日配達では、オペレーションやコストがだいぶ違ってくる。コスト的な部分では、販売量の拡大によるボリュームディスカウントの原資をサービス向上に充てるという手 法もありますが、日用品は、まだ売価に対するニーズの方が強いというのが我々の感触です。今後、サービスに対するニーズが強くなった場合の対応も念頭に置いていますが、今は、売価をもっと安くしていこうという方向性ですね。
海外展開は数年前から検討

――爽快ドラッグの実績をもとに、海外で日用品のネット販売を始めることになりましたが、いつごろから検討を始めたのですか。
爽快ドラッグが立ち上がってきた4年ほど前に海外事業を検討しようという話が出たことがあったのですが、なかなか着手できずにいました。その後、住友商事としてもう少し海外市場を考
えていこうという方向性になり、具体的に動き出したのが2年くらい前になります。展開地域については、中国のほかにASEANを想定し、特に今後の成長が期待できるインドネシアで事業
を行うことにしました。

――類似した商品を扱うケンコーコムでは、現地のドラッグストアチェーンとアライアンスを組み、中国で店舗向け卸やネット販売事業を始める計画です。御社では、現地企業と組むことは考えなかったのでしょうか。

当社でも、現地のパートナーと組むことは検討しましたが、早期に中国EC市場に参入することを考え、独資100%の現地法人を作り事業を始めることにしました。現地パートナーとの
交渉に時間が掛かることも考えられましたので。
――中国については、総合商社のノウハウを活かし単独で事業展開をしてくと。

将来的に現地パートナーと組む可能性がないわけではありません。今でも考えてはいます。
――中国現地法人の体制は。

住友商事本体からの駐在員を数名と現地で採用した人員の構成で、20人程度の陣容になると思います。爽快ドラッグでオペレーションをしていた人員と日本からの社長がマネジメントしな
がら事業を運営していく形ですね。
――販売する商品の構成はどのようなかたちになるのでしょうか。
中国の現地商品も扱いますが、日本の商品を増やしていきたいと考えています。カテゴリーとしては爽快ドラッグに近い形で、化粧品や食品、日用品、ベビー用品などを中心にカテゴリーを
増やしていくことになるでしょう。当然、日本とは売れるカテゴリーが違ってくると思いますが、そのあたりは調査しながら現地のニーズに合わせていくつもりです。4月のサイトオープン
段階では、商品数をある程度絞り、数千点でスタートする予定です。まず、テストオペレーションをし、それを踏まえて本格的な展開にしていこうと考えています。
――商品の在庫や配送の体制は。

物流倉庫については、グループ企業の住商グローバル・ロジスティクスが担当します。すでに日系の通販事業者のバックヤード業務で実績があり、今回、事業をスタートする上海に倉庫も
持っている。将来的に事業展開エリアが広がれば、第2、第3の倉庫を考えることになるでしょう。また、商品配送については、すでに上海に進出している日本の宅配便事業者にある程度お
願いしようと考えています。
――中国の場合、日本とは異なる消費者の購買行動があると思いますが、どのように対応していくのでしょう。
CSの担当経験がある中国人スタッフを中心に、ローカライズした仕組みを構築するつもりです。中国はECが急成長しており経験者も豊富。そうした経験者を何人か採用していますので、我々が培ってきたものと、中国ならではのものを取り入れながら事業を展開していこうと考えています。
――インドネシアについては、どのような状況なのでしょう。
インドネシアは、まだこれからですね。現地法人を設立したのは今年2月ですから。現在は、8月の事業開始に向けた人材の確保やフルフィルメントの体制など、色々と検討を進めている
段階です。基本的な商品構成は中国と同じになると思いますが、実際にやってみながらでないと分からない部分もありますので、色々と試行錯誤しながら、現地ニーズに対応した形にしていくことになると思います。

各事業にECを取り入れる流れはある

有望市場でポジション確立へ
――中国とインドネシアでは、ネット販売の環境が違うと思いますが、それぞれの市場についてどのように見ているのでしょうか。
確かに、中国とインドネシアではECのステージが違いますし、ビジネスとしてやろうとしていることも若干違っています。中国はすでにEC市場があり、2,3年後には日本市場を追い抜くと言われるほど急成長しています。一方のインドネシアは、まだECが普及していませんが、人口が多く経済の調子もいい。将来的に有望な市場です。EC市場が形成されるまでには、時間が掛かると思いますが、楽天さんなど日系企業の進出の動きも出ている。当社としても早い段階でインドネシアに参入しポジションを確立したいと考えています。
――他の国・地域で日用品のネット販売を行う計画もあるのですか。
まだ、具体的なものはありませんが、もう少し展開エリアを広げていきたいと考えており、いくつか候補も考えています。
――住友商事では、ネット販売をどのような位置付けで考えているのでしょう。
ECは、今後も市場の拡大が期待できますから、重要な事業分野だと言えます。爽快ドラッグもそうなのですが、消費者向けの小売ビジネスは、国内をメーンとしたドメスティックなものが
多く、海外展開を考えた場合、やはりECがひとつの切り口になってきます。どのビジネスも日本で実績がありますから、そのノウハウが海外で活かせるでしょうし、住友商事自体も中国をは
じめ海外でビジネスをしておりノウハウがある。実際、すでに上海に進出している携帯電話販売のティーガイアは、1店舗あたりの売り上げが上海でトップクラス。今回の日用品の海外
EC展開も、そうした実績を踏まえたものです。
――グループ企業に食品スーパーやドラッグストアなどがありますが、ネット販売に対する方向性は。
それぞれの事業のなかにECの要素を取り入れ、インベストメントとしていこうという流れはあると思います。グループ内のセグメントについて言うと、食品スーパーのサミットやドラッグストアのトモズ、テレビショッピングのジュピターショップチャンネルなど、消費者向けのリテイル関連ビジネスはライフスタイル・リテイル事業本部が担当し、爽快ドラッグは、ネットワーク事業本部のモバイル&インターネット事業部が担当しています。モバイル&インターネット事業部は、もともとIT寄りのユニットで、爽快ドラッグを始めたのも、ITを活用したビジネスの切り口としてECがあったことがきっかけです。そのため爽快ドラッグは、どちらかというとスタンドアローン的な展開になっていたのですが、リアル店舗の世界でもECの取り組みが広がるなか、リテイル部門も
対応の強化を考えなければならず、担当者と話をする機会も増えています。
――今後の目標は。
海外日用品ECの数値は公表していませんが、EC事業全体で、数年後に売上高1000億円にすることが当面の目標です。

取材後メモ

2005年に小林製薬から爽快ドラッグを買収し、日用品のネット販売を始めた住友商事。当時、巽氏は小林製薬との交渉を担当し、自ら現場に出たいと申し出て爽快ドラッグの社長に就きました。子会社の社長として出向した場合、2,3年で本体に戻ることが多いようですが、巽氏は約6年間爽快ドラッグの社長として在籍。「会社から、“黒字になるまで帰ってくるな”と言われていました(笑)」とは本人の弁ですが、自らが手掛けた新規事業を軌道に乗せたいという思いが強かったようです。その爽快ドラッグを基盤にした海外の日用品EC。消費者の嗜好や商習慣が違う海外で、総合商社のノウハウを活かしながら、どのように展開を拡大させていくのかが注目されます。

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