「ロコンド」の黒字化は2、3年後 【ジェイド田中裕輔代表取締役】

「全品送料無料、99日間返品OK」などのサービスを掲げ、1年半前にEC市場に参入して注目を集めた靴の通販サイト「ロコンド」。“3年後に売上高1000億円”という強気な目標を設定し、開設直後からテレビCMを放映して集客を図ったものの、震災の影響や仕入れ体制、広告戦略などの失敗から初年度は売上高9億円弱、営業損失14億円と振るわなかった。サイトを運営するジェイドの田中裕輔代表に前期の総括と今後の戦略を聞いた。(聞き手は本誌・神崎郁夫)

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「テレビCMは早かった。あまりに成長を焦りすぎた」

垂直立ち上げはならず

――ECは垂直立ち上げが難しいビジネスだと言いますが、初年度(2012年2月)を振り返っての感想は。

率直なところ、赤字については織り込み済みでした。ECで先行する欧米企業の例を見ても2~3年は赤字が続き、その間にいかに多くのファンを作っていくかが事業拡大の肝と言えます。ただ、当社が間違ったのは、商品仕入れ先と顧客、従業員の三方と着実に関係を築いていく前に、あまりに成長を焦りすぎて、無駄な費用をかけたと反省しています。

――無駄な費用とは、テレビCMのことですか。

そうですね。いま考えれば、テレビCMは早すぎたと思います。直後に震災もあり、タイミングも悪かった。また、スタート当初の仕入れ形態は100%買い取りで、在庫が膨らみました。ただ、資金面では設立時のロケット・インターネットだけでなく、2011年10月に三菱商事系のリード・キャピタル・マネージメントと、伊藤忠テクノロジーベンチャーズという国内のベンチャーキャピタル2社がサポーターとして入ってきてくれたので、いまは問題なく、上を目指せる状態にあります。

――決算数字について、ベンチャーキャピタルの反応は。

前期赤字部分の大半は両ベンチャーキャピタルが参画する前に分かっていた部分です。それよりも、昨年の秋冬からは毎月、売り上げが前月比で約10%伸びていて、「ロコンド」のファンが増えているというのを認識してくれています。

――ご自身では、14億円という赤字額をどう見ていますか。

売り上げは想定通りとはいかなかったのは確か。しかし、それ以上に垂直立ち上げを狙って無駄な広告宣伝費を使ってしまった。2011年11月にオフィスも移転したが、コスト意識が甘かったと思います。いまは絞れるコストは絞り、その分を顧客サービスに回している。痛い失敗だったが学びもあったし、「ロコンド」が追求すべき姿は明確になりました。

――昨年の秋から業績が好転している理由は。

最初の春夏シーズンでうまくいかなかった部分を、秋冬から大きく変えたためです。例えば、仕入れ形態も当初の買い取りから日本の商慣習に合わせて委託販売方式をとり入れたり、会員の獲得手段ではマス広告への集中投下から、くちコミやSNSでの地道な取り組みにシフトして、これが効いてきています。

――物流センターを移転された。

2011年2月に「ロコンド」が本格稼働して以来、大手物流企業が持つ埼玉県三郷市の物流施設をセンターとして活用してきましたが、2012年3月末に日本通運が東京都江東区潮見に持つ大型倉庫内に移転しました。新物流拠点の倉庫面積は三郷センター(約3000㎡)の1.5倍となる約4500㎡まで拡張が可能で、商品の保管能力も靴換算で従来の1.5倍となる20万足程度まで対応できます。

――移転と同時にフルフィルメント業務の内製化にも着手された。

これまで、「ロコンド」のビジネスの肝となる返品対応を除いて、商品の仕分けやピッキング、発送作業などの倉庫業務は物流専門企業に委託していたが、移転後は当杜が全体のオペレーションを担いながら日本通運とも協業して、従来以上にQCD(品質・価格・納期)の向上が図れる。倉庫移転については、保管能力の面ももちろんあったが、それ以上に業務を内製化することが大事だった。当社が「楽天市場」や「アマゾン」「ゾゾタウン」に対抗するには資金力ではなく、サービス力で勝負する必要がある。そのためには倉庫運営の柔軟性が欠かせないと判断しました。

“ほっこり”通販サイト

――経営理念に変化はありますか。

基本は同じですが、表現を少し変えました。当初は「感動と笑顔を提供すること」でしたが、いまは日本一の「ほっこり」通販サイトを目指しています。「ほっこり」というと難しいですが、忙しい毎日の中でも「ロコンド」を見てほっとしてもらい、商品を手にとって喜んでもらう。そうした日常の小さな幸せを届けたい。初年度は全社員がこのことを共有できていなかったが、この半年でだいぶ変わってきたと感じています。

――黒字化のメドについては。

ひとつの目安が取扱高100億円です。2014年2月期か2015年2月期までに到達して、同時に黒字化も狙えると考えています。内向きのコスト削減にメドがついて、いまはファンをさらに増やして売り上げを作っていく時期にきています。じわじわとではなく、45度の角度で成長したい。多少の広告費は必要ですが、収益化のバランスを見て投入します。

――前期の売上高は9億円弱でしたが、取扱高ベースでは。

初年度、「ロコンド」の取扱高は10億円台前半で、足元は月商2億円程度で推移しています。

アパレル商材を開始へ

――2012年秋冬シーズンに向けての取り組みは。

カテゴリーについては、アパレル商材の取り扱いを7月中に始める予定で、システムの改修を進めています。主軸が靴であることに変わりはないが、総合アパレルメーカーとの関係性が強まると思います。

――アパレル商材の返品対応はどうされますか。

基本的なサービス水準は維持するが、肌に直接当たるTシャツなどは返品に付帯条件をつけることになります。まずはトライアルとして5000品目でスタートし、返品状況などをしっかりと検証します。もちろん、人気ブランドでないと意味がないので、消費者に支持されているブランドを取り込んでいきます。まだ日本でアパレル商材が送料無料で返品完全無料という通販サイトはないと思う。アパレル商材の対応は難しいだろうが、消費者のニーズは非常に高いので、当社としては果敢にトライをして、顧客満足度の向上につなげたいです。

――消費者にとっても選択肢が広がりますね。

バッグの売り上げも全体の十数%まできている。靴は毎月のように購入する商材ではないが、一度、靴を購入した顧客がバッグも購入している。今後はこれにアパレルも提案できる。自宅にいながら全身コーディネートを試せるインパクトは大きいと思います。

――靴やバッグの取り扱い先も増えていますね。

6月下旬にセレクトショップの「ナノユニバース」公式ショップがオープンしましたが、8月中旬からは「ユナイテッドアローズ」のアイテムも取り扱いが始まります。他にも高単価な有名ブランドが秋冬シーズンから入ってくる予定です。

――利益率が高いPB(プライベートブランド)商品については。

PB商品も強化している。PBの品ぞろえも増えて、売り上げ比率も高まっている。利益率の面だけではなく、顧客に高品質な商品を安価に届けることも大事。そういう意味でも、PB商品の取り組みは強化していく必要があります。

――オフライン販促についてのアイデアはありますか。

街中でクーポンを配ったことはありますが、それでは「ロコンド」の価値が伝わらないと考えて、1回でやめました。当社にはシューフィッター(靴選びの専門家)がいるので、彼らが消費者の足を見て最適な商品を提案することなどはやってみたいですね。リアルでのつながりは大事。オンラインコンシェルジュとの会話に慣れている顧客は対面でも抵抗がないと思います。

――今後のコストの使い道は。

当社のサービスの基本である「オンラインコンシェルジュがいて、送料無料、99日間は無料で返品できる」という部分を消費者にしっかりと伝えていきたい。テレビCMの準備も進めていて、実は、地方でのトライアルは行った。どこかのタイミングで再挑戦したいと考えているが、よく検証する必要がある。テレビCMありきでは必ずしもない。スタート時のCMは「コンドーです、ロコンドーです」という台詞で非常にインパクトがあり、「ロコンド」という名前を広めることはできたが、何の店だが分からなかった消費者も多かったようです。こうした部分は修正する必要があります。

――CM以外では。

通販サイトのトップページ左上の部分に、当社の「買ってから選ぶ」という最大のメリットをアピールして、大きな文字で「全アイテム送料無料、99日間返品無料」と表記しています。サービスナンバーワンの通販サイトを目指しているので、伝えるべきことはしっかり伝えていきます。

「サービスナンバーワンの
通販サイトを目指す」

 

サマンサのEC運営受託

――新しい事業にも取り組まれる。

メーカー自社ECの受託事業を始めました。7月2日にサマンサタバサジャパンリミテッドのECサイト「サマンサタバサ公式オンラインショップ」をスタートしたところです。同社のバッグはすでに「ロコンド」でも販売しているので、両サイトの在庫を一元化できるのもメリットです。サイト構築やフルフィルメントなどのバックヤードも請け負う。EC受託事業は収益のひとつの柱になるだけでなく、取引先メーカーとの信頼関係も高められるため、力を入れていきたい。そのためにも、フルフィルメントの内製化が必要でした。

――欧米で流行しているサブスクリプション(定期購入)型ECの参入も検討している。

これも率直に言って、プロトタイプは作りましたが、事業の集中と選択を考えると、現時点での優先順位は低いですね。商品やサイト、キュレーター(お薦めする人)などが100%そろって、「これは、いけるぞ」という状況にはないため保留にしている。ただ、「ロコンド」で顧客の悩みを聞く機会が多く、1人ひとりに合った靴を提案するのは得意です。既存事業の収益化が軌道に乗れば、再考する価値はある。100%成功できるという自信を得るためには、他社と組むことも選択肢のひとつです。

――定期購入だと収益も安定する。

サブスクリプション型ECについては、収益性の肝は定期購入であっても、顧客が感じるメリットはパーソナライズ性で、キュレーターに安心できるものを選んでもらえるということが大事だと感じています。

――返品された商品専用のサイトなどを立ち上げる計画は。

現状、再販できないくらいの乱暴な返品はほとんどなく、仕入れもリスクの少ない委託販売型に移行している。「ロコンド」内にアウトレットコーナー自体はあるが、売り上げに占める比率を高めていく計画はありません。

――今期の課題は。

アパレル商材の追加やサイトの機能向上を前提にオペレーションの精度を上げることです。倉庫だけでなく、IT面やオンライン広告の運営も含めたブラッシュアップは必要です。2013年からは倉庫の人員やコンシェルジュも増やす計画です。

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