ゲーミフィケーションが向いてないものはない【ゆめみ 深田浩嗣代表取締役】

ゲームの要素を取り入れる “ゲーミフィケーション”という手法が注目を集めている。ECサイトにゲームの要素を導入することで、ユーザーのリピートや購入率の向上などが期待できるという。まだ認知度はそれほど高くはないが、一部では成功事例を創出しているネット販売事業者も出始めており、今後、本格的に普及する可能性は高い。EC支援事業を行いゲーミフィケーション専用のサービスも提供しているゆめみの深田代表取締役に、ゲーミフィケーションの現状とツボを聞いた。(聞き手は本誌・河鰭悠太郎)

スポンサードリンク

娯楽の要素を盛り込んで楽しませることがゲーミフィケーションではない

ゲーム要素で「動機づける」

――ゲーミフィケーションの定義とは何ですか。

利用者を「動機づける」ために、ゲームで使われている要素をゲーム以外の領域に活用することです。よく勘違いされるのですが、娯楽の要素を盛り込んで利用者を楽しませることがゲーミフィケーションだと思われがちですが、そうではありません。例えば「勉強しなければいけない」など、楽しくなくても動機づけられるケースはありますよね。エンターテインメントの要素はありませんが、動機づけられるわけです。

なぜ人間が動機づけられるのか、というのは心理学的なメカニズムに則って考えるのが一番整理しやすいと思います。ポイントは3つあります。ひとつめは目的が明確になっていること。何のためにそれをするのか、それが自分にとってどういった意味があるのか、などですね。

ふたつめは自立性が確保されていること。目標、目的を自分で選んでいる、ということです。そしてみっつめは有能感。行動する中で、「達成した」というフィードバックが得られたり、あるいはそれを通じて自分の能力が上がったことが実感できたり、ということですね。これら3つが揃っていると、人間は動機づけられると心理学的に説明されています。

こういうことをユーザーが実感できるように、ゲームで使われている要素を使ってゲーム以外の領域で活用しましょう、というのが「ゲーミフィケーション」というわけです。

ゲーム領域ではそのメカニズムが出来上がっているんですね。例えばドラクエでも世界を救うとか明確な目標があって、目標を達成するために謎を解いたり敵を倒したり、自律的に動かしますよね。達成感、有能感、能力が上がったことを感じられる機会はたくさん用意されています。そこで活用されている考え方には他の領域でもそのまま使えるものが多くあります。

――国内ではいつごろからゲーミフィケーションを導入する動きが活発化したのでしょう。

ごく最近、ここ数カ月の話だと思います。手前味噌ですが、6月後半に我々が開催したカンファレンスはきっかけとして大きかったのではと思います。実際にそれ以降、具体的に予算をつけて導入したい、という話は増えました。以前は、ビジネスとしての引き合いはそこまで大きくはありませんでしたね。

――ECに導入する動きも増えているようですね。

そうですね。EC系のお客様からの問い合わせは多く、相性がいいなと思っています。

――相性がいいと考える理由は。

結果が売り上げという形で明確に出るので。数値として上がってきますので、我々も説明しやすい。

――明確に数値が上がってきている例も出ているのでしょうか。

これからですね。今はようやく導入が始まった段階ですから。もちろん導入してすぐに効果が出る場合もありますが、1年ぐらいプロセスを見て回していくことが重要です。導入して終わり、ではなく、継続することが大事ですね。

ユーザー行動が分析しやすくなる

――具体的なサービス内容を教えてください。

まず、そのサイトの中でどういう行動をさせるとユーザーがもっと盛り上がるのか、そういうことを考えて実際に試してみます。で、結果をデータで見て、良かったかどうかをジャッジして施策に反映させる、というサイクルを実行できるプラットフォームを提供しています。ゲーム要素の提供などもやります。

具体的には、クライアントのサイトに行動の情報を取得できるタグを入れます。プラットフォームには、ある行動をとったユーザーに対してリワード(報酬)を付与できる仕組みが入っていて、「どういうことをした人にどういうリワードを付与できるか」を設定できる管理画面があります。達成感や有能感を感じてもらえるメカニズムをもともと持っていて、そういう仕掛けを入れることでお店の気持ちをユーザーに伝えていこう、ということですね。ユーザーも反応が返ってくることは嬉しいですし、マイページに今までの実績が貯まっていけば自分の行動がサイト内に蓄積されていく気分になるので、愛着が湧き、リピートするようになるでしょう。

これをやると、「どんなユーザーがどんな行動をしているか」や、「商品を買っているユーザーは典型的にこういう行動をしている」などがリワードという形でぜんぶ見ることができます。どの行動をドライブさせればどこで買うようになるのかなどが把握でき、非常に分析しやすくなるわけです。行動と行動の関係性を分析できるのが特徴ですね。

――リワードの種類をいくつか設けることでユーザーの行動を分析できるわけですね。

そうですね。どういう行動をよく取っている人なのか、普通の人と比べてどういう人なのか、分かることはたくさんあります。例えば、ロイヤリティーやエンゲージメントの高いユーザーがこういうことをしているのなら、「普通のユーザーにも同じことをしてもらえるように、フィードバックをこう返してあげたほうがいいですよ」とか。ユーザー行動を分析しやすいことは重要なポイントです。

――ユーザー行動の分析を目的に導入するケースも多いのですか。

分析だけ、フロントのゲーム部分だけ、というのではなく、分析とゲームがお互いに連携しながらどういう意味があるのかを探ることが重要です。

お店とユーザーの関係性をより強固にすることで、ユーザーのロイヤリティーの度合いをきちんと表現してあげることができます。例えばプラチナ会員であれば限定の商品を紹介してあげたり、セールに招待してあげたり……。なにより、「この人はこういうランク」と他のユーザーから見えるので、ユーザー間で評判が立ち、ステータスを感じることができるようになるわけですね。

その先に待っているのは、ソーシャルのメカニズムを入れること。まだ国内では事例がありませんが、ユーザー間でやり取りできる仕組みを入れると、お店からのリワードだけではなく、ソーシャルのリワード……評判がいいとか、誰かから評価されるとか、金銭以外の価値が得られます。我々のプラットフォームではそこまで提供することができます。

――ECの場合、ポイントとか現実的なインセンティブの付与をまず考えてしまいそうですが。

ポイントなどの現実的なリワードは必ずしも重要ではありません。むしろ、金銭的なところに動機を置くと、かえってユーザーの動機を引き出しづらくなるので、内容によりますが、あまりお勧めはしません。仕事が楽しいとか、勉強が楽しいとか、自分の心の中から自然に湧き出てくるモチベーションってありますよね。そういう動機の方が強くて、長続きすると思います。

ゲーミフィケーションは導入した方がいい

継続的な運用が重要

――向いているジャンル、商材は。

ECで向いてないジャンルというのはあまりないでしょう。基本的にはゲーミフィケーションの考え方が向いてないものはありません。ただ、動機の付け方について、心理学的にはお金やポイントで動機づけるのは長続きしないので止めたほうがいい、とは言われています。例えば「安さ」にしかフォーカスできないサイトだとやりづらいかもしれません。

これは我々の営業方針でもあるのですが、「本当にお客様のことを考えているサイトに営業に行け」と言っています。例えば顧客のことはどうでもいいからとにかく売り上げを上げろ、というスタンスの企業はユーザーのことをちゃんと考えているとは言えません。なので短期的なリターンを重視する場合は向かないでしょう。無理やりゲームをやらせても限界がありますから。

――モチベーションが続かないわけですね。

ユーザーが本当にそれをやりたいと望んでいるのか、そこが一番重要です。例えば、コンプガチャなどは無理やり競争させたりしますよね。ただ、そういうものは3カ月後ぐらいに「あれ、頑張ってやったけど何の役に立つんだっけ」と、「我に返る瞬間」があります。そして一度我に返ってしまうと、もう二度とそのサイトには来なくなります。

――注意すべき点や導入リスクは。

継続的に改善するプロセスを入れるわけですから、やっておしまい、というものではありません。ずっと運用し続けるものだと理解して導入していただきたいと思います。実際、我々は年単位で契約するようにしています。

――導入コストは。

ECサイトであればだいたい月額数十万円前半で収まります。年間で500万円以上かかることは少ないでしょう。オプションには運用サポートを併せてご提供することが多く、これはデータを見てどう展開すればいいのか、そこの仮説設計や分析まで我々が担当するものです。

――クライアントの規模は。

ある程度以上のユーザーを抱えている方がデータは溜まりやすいですね。ただ、基本的には、ゲーミフィケーションは導入した方がいいと考えています。ある程度こなれてくれば、自然と広告効果が上がるようになります。途中の離脱も減るようになる。「ここで離脱が多いからこういうフィードバックを返した方がいいんじゃないか」とか、表現を直してみるとか、いろいろなチューニングができます。それを続けていると自然にスムーズな導線が出来上がるので、結果的に広告効果も高まるわけです。継続的に改善するプロセスを入れることがもっとも重要ですね。

成功パターンをたくさん作りたい

――ECにおけるゲーミフィケーションの動きは今後どう進むと思いますか。

導入は広がっていくと思っています。最初は事例の量がネックになりますが、ただ、認知度はだいぶ上がっていると思います。

――今後の計画は。

カンファレンスが成功したので、今後必要なのはやはり事例ですね。成功事例をたくさん作ることにフォーカスしていこうと思っています。導入してもらって、数字が作れる事例をたくさん作り、ECでの成功パターンを見つけて提供していきたいですね。成功事例は、来訪頻度を増やすとか、商品の閲覧点数を増やすとか、メルマガを購読してもらうとか、そうしたシンプルなものであればメドは立っています。ただ問題はその先。1回購入してもらったあと、2回、3回と買ってもらうためにはどういう行動をドライブさせる必要があるのか、もう1段階、データを見ながら運用していく必要があります。ただ、1年間の契約で運用できれば、十分パターンは見出せると思っています。

取材後メモ

ゲーム要素を導入するゲーミフィケーション。取材中に聞いた「ゲーミフィケーションの考え方が向かないものはない」という説明が印象的でした。確かに、我が身を振り返ってみると、ゲームに没頭しているときのあの集中力や興奮度というのは凄まじいものがあるような……あの「ついやり続けてしまう」引力をECサイトで上手く引き出せれば、その先に面白い結果が待っているのかもしれません。はたして本当に「やらないよりやった方がいい」のか、それは今後、先駆者たちの事例から明らかになっていくのでしょうが、とりあえず今は期待して注目し続けたいと思います。

NO IMAGE

国内唯一の月刊専門誌 月刊ネット販売

「月刊ネット販売」は、インターネットを介した通信販売、いわゆる「ネット販売」を行うすべての事業者に向けた「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の月刊専門誌です。ネット販売業界・市場の健全発展推進を編集ポリシーとし、ネット販売市場の最新ニュース、ネット販売実施企業の最新動向、キーマンへのインタビュー、ネット販売ビジネスの成功事例などを詳しくお伝え致します。

CTR IMG