“TV電話で容認”報道に委員が反発──薬ネット販売検討会、厚労省議論誘導の見方も

厚生労働省の「一般用医薬品のインターネット販売等に関するルールの検討会」(ルール検討会)が進める医薬品ネット販売のルール作りに向けた議論が混乱の様相を呈している。5月9日に、一般紙でテレビ電話の導入を条件に国が一般用医薬品ネット販売を容認する方針を固めたとする内容の報道があったためだ。

ルール検討会は5月10日開催の第10回会合で、事務局の厚労省が作成した“たたき台”資料をもとにルール案の議論を行う予定だったが、その矢先に結論が決まったかのような報道が出たことに各委員は反発。厚労省側に報道の真偽をたずねる場面も見られた。検討会会合のタイミングを計ったかのような報道に、委員の間でも厚労省が議論を誘導しようとしているのではないかという見方も根強いようだ。

“検討会として抗議すべき”の声も

「まるで検討会の結論が決まったかのような報道だ」。5月10日の8回目会合の冒頭、日本薬剤師会の生出芳郎委員は前日の新聞報道に困惑したように、こう口火を切った。実際、これまでルール検討会では、テレビ電話に関する議論はほとんど行われず、ネット販売で扱える医薬品の種類についても、第1~3類全てを主張するネット販売推進派委員と、副作用リスクの高い第1類や指定第2類は除外すべきとする薬業団体などの慎重派委員の間で意見が平行線をたどっている。委員からすれば、全く予期したことの容認案だったわけだ。

さらに生出委員は、事務局の厚労省に記事内容の真偽を確認したが、事務局は、「報道にあるような方針が固まったという事実はない」と回答。さらに日本医師会の中川俊男委員は、事実に反する今回の報道は「社会的にも重大な影響を与える」として新聞社に抗議すべきとした。

また、新経済連盟の國重惇史委員は、事務局が作成した議論のたたき台となる資料でテレビ電話に関する記述があることに触れ、一連の報道は厚労省のリークによるものではないかと指摘。さらに、学習院大学経済学部教授の遠藤久夫座長に対し、たたき台資料の内容は座長の意向を反映したものではないかしたが、遠藤座長は、議論の方向性の指示や自らの意向が反映させるようなことはないとした上で、これまで参加してきた審議会や検討会でも「そうしたことを指示したこともなければ、(委員から)言われたこともない」と不快感を露わにするなど、一時、険悪なムードが漂った。

論点案にそっと盛り込まれたTV電話

ルール検討会での議論が佳境を迎える中で出された結論が決まったかのような報道。國重委員は、厚労省のリークとの見方を示したが、他の委なからず同様の疑念を持っているらしい。

それというのも、以前、厚労省が作成した論点案に、それまでほとんど触れられることのなかったテレビ電話に関する記述が盛り込まれたことがあり、この際にも、國重委員が恣意的に議論を誘導しようとしているのではないかと指摘。修正された論点案でもテレビ電話の記述が残ったが、特に議論されることなく会合が重ねられてきた。

それにも拘わらず、突然報じられたテレビ電話の活用を条件とした医薬品ネット販売容認報道。厚労省がその方針を固め、既成事実を作ろうとしたのではないかとも受け止められかねないわけだ。

厚労省が“落としどころ”を模索?

では、何故、厚労省が暗にテレビ電話に固執したような動きを見せるのか。理由として考えられるのは、ルール検討会としての結論出しを急がなければならない状況に追い込まれていることだろう。

もともとルール検討会については、田村厚労大臣が立ち上げを公表した際、数カ月で結論を得たい考えを示していた。厚労省側も早期に決着がつくと見ていたようで、関係者によると、厚労省も5月末に期限切れとなる経過措置の再延長はないとの見方をしていたという。

だが、実際に検討会のふたを開けてみると、最高裁判決を後ろ盾にネットでも安全に医薬品を販売できると主張するネット販売推進派委員と、販売時の情報提供など安全確保の観点から、ネットで扱える医薬品を制限しようとする慎重派委員の間でネットと対面の優劣論が繰り返され、本筋の議論が進まない状況となっていた。

このため厚労省も、同じく医薬品ネット販売のルールを検討する規制改革会議の結論出しの時期を踏まえ、6月中下旬頃をリミットと見ていたようだが、4月下旬の産業競争力会議で田村厚生労働大臣が5月末までに結論を出したい意向を表明。結論出しを急がなければならないわけだ。

だが、これまでのネット販売推進委員と慎重派委員のやり取りを見る限り、ルール検討会としての方向性をまとめるのは難しいのが実情。厚労省が具体的なルールを作るにしても、ルール検討会での議論を全く無視することはできないはずで、何らかの“落としどころ”が必要になる。

その中で登場するのがテレビ電話。慎重派委員が主張する対面の状況を擬似的に作ることができるテレビ電話の活用を条件に、推進派委員が主張する第1~3類医薬品の販売を認めることにすれば、双方の主張を反映した形になる。あくまでも推論の域は脱しないが、厚労省がそうした“落としどころ”考え、テレビ電話に触れようとしている可能性はありそうだ。

いまだ隔たり大きい推進派と慎重派

一方、10日に開催された8回目会合では、テレビ電話の報道に関するやり取りの後、厚労省が作成した“たたき台”資料をもとにルールの方向性を議論した。

たたき台案は、ネット販売のルールや安全確保策、コミュニケーション手段の特徴など4つの大項目を設け、それぞれ検討ポイントを整理したもの。委員側も結論出しのリミットを意識しているもようで、当日は従来以上に議論が進んだが、第1類医薬品の扱いを巡り、慎重派委員が副作用リスクの危険性を強調したのに対し、日本オンラインドラッグ協会の後藤玄利委員が第1類医薬品を医療用医薬品に戻すべきと発言するなど、丸の部分では、依然、推進派委員と慎重派委員の意見の隔たりが大きいことをうかがわせた。

また、5月16日に開催された第10回会合では、たたき台資料に記載された医薬品の販売時に薬剤師が購入者から収集され得る“最大限の情報が収集される必要がある”という表現を巡り、一時議論が混乱。同表現をテレビ電話への議論誘導と捉え、難色を示した日本オンラインドラッグ協会の後藤委員が「中途半場なにわか素人がお医者さんごっこをすることを義務化する必要はない」と、薬剤師を軽視したような発言をしたのに対し、日本薬剤師会の生出委員が、「あなた自身が薬局を経営していて、薬剤師の仕事をどう思っているのか」と怒りを露わにするなど、小競り合いが見られた。

厚労省が“落としどころ”と考えているとみられるテレビ電話の活用を条件とする医薬品ネット販売の容認案だが、ネット販売で扱える医薬品を抑え込むことが至上命題の推進派委員、対面を前提とした考え方に否定的な推進派委員からすると、受け入れ難いのが実情。加えて、検討会での議論をないがしろにしたかのような報道が出たことで、厚労省に対する不信感を持っていることも考えられる。

ルール検討会の結論出しのリミットが迫る中、今回の報道が医薬品ネット販売のルールの方向性にどのような影響を及ぼすのか、今後が注目されるところだ。

NO IMAGE

国内唯一の月刊専門誌 月刊ネット販売

「月刊ネット販売」は、インターネットを介した通信販売、いわゆる「ネット販売」を行うすべての事業者に向けた「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の月刊専門誌です。ネット販売業界・市場の健全発展推進を編集ポリシーとし、ネット販売市場の最新ニュース、ネット販売実施企業の最新動向、キーマンへのインタビュー、ネット販売ビジネスの成功事例などを詳しくお伝え致します。

CTR IMG