百貨店のオムニチャネル化が不可欠 【中島郁 三越伊勢丹ホールディングス営業本部グループWEB事業部長】

三越伊勢丹ホールディングスは、ネット販売を成長領域と位置付けて変革に乗り出している。迅速にウェブ強化を図るために外部の人材を登用することを決断し、日本トイザらスやジュピターショップチャンネルでEC事業を立ち上げてきた中島郁氏をキーマンに指名した。4月1日付でグループWEB事業部長に就任した同氏に、百貨店通販サイトの方向性や今後の戦略などについて聞いた。(聞き手は本誌・神崎郁夫)

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やるべきことをやれる体制をつくる

EC部門を事業部に昇格

――ウェブが販売チャネルのひとつとして定着しています。

現職に就く前の半年間ほど、アパレルや小売り企業が手がけるネット販売の状況を何十社も見て回りましたが、どこも課題は似ています。各企業とも何年か前にネット販売を始めて売り上げは増えているものの、現場は「上がお金を出してくれないからこれ以上は伸ばせない」と言い、経営陣は「現場が求めるから始めたのに、言っていたほどネット販売は儲からない」と感じています。

――百貨店のネット販売事業も同様ですか。

似たような状況です。三越と伊勢丹の通販サイトは10年以上も前にスタートしていますが、2013年3月まではスタッフ部門が運営していました。4月から事業部門となり、本気で売り上げをとりに行く形となったので引き受けました。―事業部スタッフの専門性はいかがですか。元バイヤーだったり、売り場にいたり、総合職で入ったスタッフがほとんどです。何年かすると違う部署に異動してしまうので専門性が低いですね。これまではスタッフ部門だったので知見もなく、発注管理的な業務だけで外注している部分が多いのが実情です。今後はできるだけ業務を内製化してノウハウをため、百貨店らしさをウェブ上でも表現できるようにします。

――現状はいかがですか。

いまは業務調査をしながら社内啓蒙とスタッフの教育に時間を費やしています。事業部長だからといって距離を置かずに、スタッフレベルの仕事まで入っていき、私の知識や経験を移植しようとしています。―全社の組織改正でうたっている“中期的に目指す姿”とは。小売業として顧客満足を高めるためには、消費者の欲しいものを欲しいときに、適正な価格で提供できるようにします。もっと言うと、顧客が欲しいものだけではなく、価値のついた品物を販売していきます。これはウェブ事業でも同じことです。百貨店事業にとどまらず、ECやスーパー、小型店事業も含めて顧客接点を増やしていこうとしています。―では、百貨店通販としての目指すべき姿は。基本的な方向性はオムニチャネルであり、百貨店のマルチチャネル化を目指します。どの販売チャネルで買っても「伊勢丹」であり、「三越」であることが大事です。いまや、小売業としてはマルチチャネルの取り組みは必須です。

――店頭の協力は得られるのでしょうか。

経営層や各店の店長からは協力を約束してもらっています。百貨店というある程度できあがったビジネスの中でさらに売り上げを伸ばすとなると、新しいことに取り組まざるを得ないというのは共通した認識です。そうでなければ、長い歴史を持つ企業が、いきなり外部から事業部長を登用したりしません。

――ウェブ事業の増員は。

外部からもウェブのシステムがわかる人材を採用しています。システムとほかの業務は切り離せませんが、従来は知見がないためにマーケティング担当など各業務の担当者がそれぞれ外注先と話をし、外部企業に判断を委ねてきた部分があります。システムに詳しい人材を入れることで、マーケティングやMDなども効率良く施策が立てられます。ウェブ事業の変革をスピーディーに実行するために専門性の高いスタッフは不可欠です。

商品数を3倍に拡充

――今期の最優先課題は。

今期は、やるべきことをやれる体制を作ります。実際に、「まだこんなことができていないのか」ということがたくさんあります。具体的には、取扱商品数がリアルの売り場と比べて圧倒的に少ないのが現状です。三越や伊勢丹の名前を見て通販サイトを訪れる消費者は、三越なら日本橋か銀座の店、伊勢丹だったら新宿店をイメージすると思いますが、来てみたら商品数が少ないわけです。これでは売り上げは伸びないし、顧客を裏切ることになります。そういう意味で、当社のウェブ事業は顧客に驚きとか感動を与えるというより手前の段階にいます。まずはウェブ上で伊勢丹と三越を表現した上で、さらにプラスαのことを実施できる体制を作っていきます。

――商品数を増やされる。

今は実店舗にある商品の中からウェブで売れそうなアイテムを選んで販売していますが、最終的にはお店の商品を全部登録して欲しいと伝えています。まずは、現状の5万SKUを15万SKUまで増やします。ただ、これまで通販サイトへの商品登録数が少なかった理由は、商品寿命が短かかったり、在庫自体が少ないということのほかに、登録の手間がかかっているので、業務改善も同時に進めていく必要があります。EC専用倉庫を開設へ―フルフィル業務も大事です。今は、ささげ業務も自社ですべてできていませんし、物流も小口配送用の物流ではありません。在庫も店舗共有の部分をどう改善していくかも考えていく必要があります。―専用の倉庫については。中元・歳暮、クリアランスセール用の一時保管倉庫に間借りしていますが、今期中にネット販売専用の倉庫を関東地区に開設する計画です。倉庫内にささげ部隊も置いて、商品アップまでのスピードを上げていきます。当面は従来どおり外部委託しますが、ゆくゆくは内製化したいと思います。

オンラインだけで儲かるわけがない

――百貨店店頭との連携は。

現在、店頭ではウェブでも販売している商品にマークを付けたり、通販サイトでも店頭に取り扱いのある場合は表示するなどしています。ネットだけで顧客を囲い込むのではなく、店頭と併用してもらうことが重要で、そのためにタッチポイントを増やします。パソコンだけでなくスマートフォン対応も始めますし、店頭でも露出を増やします。事業部になったからといってウェブの売り上げだけを増やそうということではありません。

――やはり、成長にはオムニチャネル化が欠かせません。

オンラインだけで儲かるわけがありません。通販売り上げが大きい企業を見ると、一部の会社を除けば紙媒体の活用や実店舗を持つ企業がほとんどです。ネット専業であってもテレビCMを放映したり、実店舗を持とうとする動きが盛んですが、彼らが実店舗を持つよりは、当社がオンラインを強化する方がはるかに簡単だと思います。

――商品情報や顧客情報の一元化も必要になります。

顧客情報の一元化に取り組んでいるところですが、あまり細かいことをしなくても取扱商品数を増やし、通販サイトのユーザビリティーを改善して、実店舗での露出を高めれば売り上げはまだまだ伸びます。その上で精度の高いアプローチをしていきます。

3年後に200億円目指す

――百貨店通販サイトの売り上げ計画は。

三越と伊勢丹の通販サイトの合計で、2013年3月期の約80億円に対し、14年3月期は90億円を見込んでいますが、16年3月期には200億円を目指します。ただ、やるべきことをやれば、百貨店売り上げの10%はネットで売れると思っています。

――ネットの独自商品などは。

ウェブ上では商品の広がりは必要です。お店に置いてない商品も扱いますが、優先するわけではありません。ネットで買い物をする場合、知っている商品の方が買いやすいですよね。ナショナルブランドということだけでなく、お店で見て実物を知っていることも大事です。まずはそのベースを作った上でネットでは商材のバリエーションを広げたり、店でイベントとして展開する商品をネットでも同時に扱ったりしていきたいです。―両百貨店通販サイトのシステム統合も控えています。来期中に三越と伊勢丹の通販サイトを統合する計画です。入り口は別々に作ってそれぞれの“のれん”を残しますが、ひとつのIDで両サイトを行き来でき、両方で買い物した商品が共通のカートに保持されるようにします。

――それまでに修正すべき点は。

現状の通販サイトは見栄えはいいのですが、情報量が少なく使いにくいのが問題です。システムの改修を待たずに両サイトは変えていきます。フルリニューアルやシステム刷新は話題性があって訪問者も増えますが、実際には情報の更新頻度を高め、コンテンツの見せ方を少しずつ変えるなど、消費者に飽きられない工夫をした方が売り上げは伸びます。

――売り場としての魅力が大事に。

ウェブと実店舗は別々に考えられることが多いのですが、実はネット販売はリアル店舗と似ています。フルフィルメントや受注システムといったインフラの部分は通販そのものですが、ウェブ上の展開は実店舗に近い。売り場担当者はどこにどの商品を置くか、どうやって商品の良さを顧客に伝えるかなどを日々考えています。同じ商品でも置き場所を変えたりして新鮮さを失わないようにしますが、それをウェブ上で実施するのが店舗力です。ウェブのMDは独自商品の開発よりも前に、バイヤーが誰に買ってもらいたくてこの商品を仕入れ、なぜこの価格にしたのかをウェブ上で正しく伝えることが大事です。それができて初めて、見せ方やテーマによって催事エリアを設けたり、実店舗と連動したイベントを仕掛けていきます。商品はどんどん変わっていきますので、見せ方だけでなく、商品でも新鮮さを感じられますし、そこに提案の仕方も変えていきます。

――広告宣伝については。

徐々に広告費もかけていきます。いろいろな改善、効率化を行うとお金が生まれ、それを売り上げのとれる部分に投入します。効率化して余った人員も売り上げが取れる部隊に再配置してビジネスを大きくしていきます。メディア事業が始動―メディア型の事業も始めました。日本の良いものを世界に発信していくことがメディアビジネスの重要な目的です。2012年12月にオープンしたファッションのニュース配信サイト「FASHIONHEADLIN(ファッションヘッドライン)」は中立なメディアとして展開しています。もうひとつの「ISETAN PARKnet(イセタンパークネット)」は新宿店の再開発に連動し、同店が掲げる“ファッションミュージアム”というコンセプトを発信していきます。

――物販の売り上げだけでなく、送客による手数料収入にも期待されている。

まずは百貨店の通販サイトを中心にトラフィックと売り上げを作り、トラフィックを色々な部分に活用していきます。やはり、小売りとしての存在感でアクセス数と顧客を増やします。その顧客に当社が良いと思うものを紹介するのが送客だったり、アフィリエイトだったりするわけですが、当然ながら、まずはトラフィックが大事になります。

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