会員138万人をアクティブ化する【岡隆宏 夢展望 代表取締役社長】

夢展望は7月10日、東証マザーズに上場した。これまで、SPA型の衣料品ネット販売を展開し、「安くて」「かわいい」「トレンドアイテム」で他社との差別化を図ってきた。上場に伴い調達した7億円の資金は、主にシステム開発に充当し、経営の意思決定の迅速化を図る。これにより、商品力を高めて138万人の既存客をアクティブ化する考え。売上高100億円を視野に入れた今後の成長戦略について聞いた。(聞き手は本誌・兼子沙弥子)
スポンサードリンク

上場で7億円の資金を調達

――東証マザーズに上場しました。株式公開の狙いを教えてください。
狙いは、人材の確保と、大手企業とのアライアンスを実現するための信用力の向上です。上場により、資金調達が多様化も実現しました。今後は、東証一部での株式公開を視野に、事業を拡大していきます。
――公募価格2600円に対し初値は5210円でした。市場は大きな期待を寄せているようです。
市場の期待に応えられるように、業績の拡大を目指していかなければならない。同時に、コンプライアンスやガバナンスをしっかり取り組む必要があると感じています
――市場からはどのような点が評価されたと分析していますか。
今後の成長性でしょう。SPA型の衣料品のネット販売は他社にはないビジネスモデルです。ランニングコストがかかるリアル店舗やカタログ通販とは、収益モデルが異なります。今後、自社ブランドをネット専用で販売するモデルは増えそうですが、これまでの上場企業にはない新たなビジネスモデルとして期待されたのだと思います。
――アパレル通販は大手が参入し競争が激化しています。競争力をどう打ち出していくのでしょうか。
アパレル通販は今後、楽天やアマゾン、スタートトゥデイなどの大手に集約されるのではないでしょうか。ですが当社は、製販一体の事業モデルにおいて、ほとんど全ての商品がオリジナル商品で他社での取り扱いがありません。
加えて、40代の中高年を中心とした大手アパレル通販に対して、当社は20代をターゲットとしています。カタログとネットとチャネルを見ても、全く違う収益モデルになっています。ですので、市場そのものが違っているので競合とは考えていません。
――今回、上場で約7億円の資金調達を実施しました。調達資金の使用用途は。
販売管理ソフトなど販売関係のシステムに投資したいと考えています。今はデータを解析できるスタッフが限られていますので、今後はだれでも解析できるユーザビリティの高いツールにしていきたいと考えています。売り上げの拡大に対して、人件費の割合を抑えられるので効率化につながると想定しています。
具体的には、販売と企画、物流などそれぞれの部門のデータを一元的に管理できる新たなシステムを導入したいと考えています。一元管理することで、各部署がリアルタイムで同じ数字を見ることができますし、データの抽出や分析が短時間で行えるようになります。経営判断が早くなり、意思決定の迅速化につながります。これにより、発注や追加、値引き販売を最適なタイミングで行えるようになります。
――今後、ますます意思決定の速さが重要になります。
そうですね。優秀な人材を確保するだけでは成長に限界があります。優秀な人材を活かすためには、経営の意思決定を迅速化することが重要です。販売機会のロスを最小化し、定価販売商品の最大化を目指していきます

広告や開発技術は二の次、
重要なのは“商品力”
会員数が増えるだけでは意味がない

――調達資金7億円のうち、来期以降の広告費も確保しました。スマホでの集客を強化するため、広告展開を積極化していくのでしょうか。
他のサイトが当てはまるかどうかはわかりませんが、当社の場合は会員数が増えても意味がありません。商品力がなければ購買につながらないためです。広告やウェブ開発技術は二の次で、集客の要は、『かわいい』『安い』『トレンド』のアパレルという“商品力”に尽きます。
――なぜでしょうか。
先ほど申し上げました通り、重要なのは商品力です。かつてガラケーが主戦場だった数年前は広告を打って新規客を開拓してきましたが、そういう時代は終わりました。スマホが主流になったことで広告費を投資しなくても、商品力によってソーシャルメディアでくちコミが拡散されるようになりました。人気商品をランキングなどで認知してもらって、購入につなげるという次のステージに入ったと考えています。会員138万人にどうやって購入してもらうかが重要になります。
――では、広告費はどのように活用するのでしょうか。
新たな広告――例えば、展示会などのイベントや、異業種とのコラボになどこれまで積極的に取り組んでこなかったことに活用したいと考えています。特に、異業種でも同業種でも構いませんが、他社とのアライアンスを進めていこうと思います。デザイナーやウェブ、物流などの両社のリソースを活用することで、アプリやコンテンツ、商品開発などで良いアライアンスを実現したいと考えています。他社とのコラボによって、見込み客をアクティブ化したいと考えています。
――純広告への投資は行わないということでしょうか。
広告は従来通り出稿する予定ですが、今以上のコストや時間をかけてやることはあまり考えていません。

ポートフォリオを埋めるマルチブランド化へ

――見込み客をアクティブ化することに向けて、商品力をどう強化していくのでしょうか。
当社の平均顧客層は25~26歳で、メーンが22歳です。今後、少子化に伴い、ターゲットが縮小するという危機感を抱いています。限られたカテゴリーだけでは先細りしてしまいますので、マルチブランド展開を推進することで、顧客の離脱を防ぎ、少子化時代にあってもターゲットに支持される商品を展開します。
現状、ターゲットの好みに合わせて、5つのブランドを展開していますが、これらに重複しない新たなブランドを展開したいと考えています。例えば、ナチュラルやキッズ、ランジェリーなどが考えられます。また、非アパレルとして、美容雑貨を強化していくこともあるでしょう。ファッションのテイストによるブランド化だけでなく、高価格帯ラインや、小さなサイズや大きなサイズなどのニーズに合わせた新ブランドの立ち上げも考えられます。
これまで、自社でデザイナーを抱えてオリジナル商品の開発を実施してきましたので、既存のリソースを使い、大きな投資を行うことなくブランドを増やすことができます。100万人規模の顧客を抱えていますので、顧客の反応を見ながら、ブランドを統廃合していこうと考えています。
――マルチブランド展開は離脱対策としてどのような効果を発揮するのでしょう。
マルチブランド展開を推進することによって、既存顧客の成長スピードに合わせた商品を提案できます。当社では“ギャルからガールへ”、“ガールからレディへ”と表現していますが、10代、20代、30代といったように顧客が年令を重ねることによって使える金額が増えます。これまで1000円以下のアイテムしか買えなかったユーザーも、4980円のワンピースを購入するようになります。マルチブランド化によって、こうした年齢の変化に応じたニーズに対応していきます。20代後半になって離脱していたユーザーを取りこぼさない商品展開を進めます。
そのためにも、人材の確保は必須です。東京を中心に優秀なクリエイタ―やデザイナーを確保したいと考えています。
テレビ通販を第2の柱へ
――離脱した顧客の取り込みを狙い、3月からはQVCを通じた衣料品の販売を開始しています。立ち上がりの状況は。
順調です。毎月1回のペースで放送していますが、7月の放送回数は2回となりました。そもそも、QVCと共同で行うテレビ通販は、離脱した30代の開拓が狙いです。QVCにとっても、これまで開拓できなかった30代の取り込みを目的としているもので、両社のメリットが合致しました。まずはテストマーケティングの一環として、専用のブランドを立ち上げました。
夢展望にとっては、テレビ通販が第2の事業の柱になることを期待しています。ネットだけでは成長スピードに限界がありますので、ネットとテレビの両面で、相互にカバーし合いながらじっくりと取り組んでいこうと考えています。
――テレビ通販はこれまでのSPA型のネット販売とは収益性が異なります。卸販売では返品リスクも抱えることになります。
当社にはもともと、デザイナーがいますし、社内の異動で1人の専任スタッフを配置しています。人的なリソースを活用することができるので、初期投資を抑えて展開することができました。順調に推移しているので、在庫リスクはほとんどなく、合理的に取り組んでいけるチャネルと考えています。

損益分岐点を超えた売上高100億円を視野に
アプリの広告効果は高い

――これまでスマートフォン通販を強化していました。
スマホ通販について、早い段階から注力してきたので、他社に対するアドバンテージは当社にあると考えています。また、後払い決済を導入し決済の利便性を高めたことで購買機会の増加につながっています。これまで前払いのみだったため、注文キャンセルが課題となっていましたが、決済サービスの強化で販売機会のロスの抑制につながっています。
――複数のアプリを配信し顧客の回遊性を高めています。効果は。
現状、着せ替えアプリ「夢展望コレクション」や商品検索アプリ「夢展望プラス」などを配信していますが、ダウンロード件数は順調に伸びています。話題性やニュース性が高く、ターゲットの20代に認知されていますので、広告効果を発揮していると評価しています。
――今後、スマートフォンをどのように強化していく考えでしょうか。ARなど最新技術も進化しています。
技術よりもコンテンツが重要です。色検索などもやっているが、商品やコンテンツなど、技術よりもサイトの“中身”を重視しています。ですので、コストを投資して最新技術を導入することはあまり考えていません。アプリは広告として考えればパフォーマンスは良いので年間2~3本を配信できればいいです。ただ、実際の費用対効果は見えないので、数千万円規模の投資は難しいのが実情です。
それよりも、クオリティの高い画像や動画を導入できるように、システムの導入や、必要に応じてサーバーを増強していきたいです。
――今後の計画は。
数年後に売上高100億円の達成を目指します。前期売上高は62億円となり、損益分岐点を超えたため通期で黒字化を果たしました。今後、100億円を突破すれば、利益を大きく確保することができますので積極的な投資を行うことができると思います。
――売上高100億円への課題は。
秋冬衣料品を中心とした上期は好調ですが、春夏は商品単価が安い課題があります。春夏商戦の底上げを図ることで、売上高の平準化が課題となります。ランジェリーや美容雑貨などの季節性の低いカテゴリーが必要になるでしょう。
岡隆宏(おか・たかひろ)氏
1961年、大阪府生まれ。85年に関西学院大学商学部卒業後、大手企業に就職。その後、レンタルCD・ビデオ事業などを展開する中小企業へ再就職。小売り、卸、メーカー業務を担当。1998年に独立・起業し、OEM事業を主とする、夢展望株式会社(旧・ドリームビジョン)を設立した。06年より、ファッション、アパレルのネット販売事業を開始。
NO IMAGE

国内唯一の月刊専門誌 月刊ネット販売

「月刊ネット販売」は、インターネットを介した通信販売、いわゆる「ネット販売」を行うすべての事業者に向けた「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の月刊専門誌です。ネット販売業界・市場の健全発展推進を編集ポリシーとし、ネット販売市場の最新ニュース、ネット販売実施企業の最新動向、キーマンへのインタビュー、ネット販売ビジネスの成功事例などを詳しくお伝え致します。

CTR IMG