ニッセン、セブン&アイの子会社に――流通大手が食指、業界の再編加速か

流通大手が通販大手を買収(7&iHDの村田社長㊧とニッセンHDの佐村社長)

セブン&アイ・ホールディングス(HD)は12月2日、ニッセンホールディングス(HD)を買収すると発表した。TOB(株式公開買い付け)の実施とともに、第三者割当増資を引き受ける予定。ニッセンでは、増資で得た資金を、借入金の返済のほか、サービス強化などにあてる。総合通販企業のトップ企業が流通最大手に買収されるという、業界にとっては衝撃的なニュース。これを契機に、さらなる再編が進むことになりそうだ。

買収総額は最大177億円

セブン&アイHDでは、中間持ち株会社のセブン&アイ・ネットメディアがニッセンHDにTOBを実施する。TOBで50.01%に達しない場合は、第三者割当増資を引き受ける。買収額は最大で約177億円となる。ニッセンHDでは第三者割当増資で調達する、約100億円の使途を明らかにしており、通販サイトの使い勝手向上やポイント機能回収など、ネット強化のためのIT投資に約20億円、プロモーション費用などの新規顧客開拓費用に約15億円、商品のコンビニエンスストア受け取りやセブン&アイグループ各社との業務受託・委託など、IT・物流投資に約15億円、金融機関からの借入金返済が約50億円となっている。3月から順次これらの施策を進める計画。

なお、TOBで株式を30.01%以上取得した場合、割り当てられた株式の全部、または一部について払い込みがない可能性もあるが、セブン&アイグループから資金援助を受ける予定としている。

「オムニチャネル」目指し買収

セブン&アイの目的はどこにあるのか。セブン&アイHDの村田紀敏社長は記者会見で「あらゆる販売チャネルを連携させた『オムニチャネル』を目指すために必要だった。ニッセンのカタログ販売やネット技術を高く評価しており、新たなシナジー効果が生まれると判断した」などと説明した。

ネット販売が普及し、店舗と通販の「壁」がなくなる中で、セブン&アイグループが全国に持つ店舗網は大きな武器となる。ただ、これまで子会社を通じてネット販売を手がけてきたものの、以前は強みのあった書籍販売でもアマゾンに大きく水を空けられているのが実情。オムニチャネル化を進めるためにもネットの強化は必要不可欠であり、そのために通販のノウハウを持つニッセンをグループに加えたとみられる。

これまでのビジネスは限界

一方で、買収される側のニッセン。ニッセンHDの佐村信哉社長は「セブン&アイグループはイトーヨーカ堂、赤ちゃん本舗、そごう・西武などで多岐にわたる商品を扱っており、これらを当社の顧客に販売できる。また、セブン―イレブンの店舗でニッセン商品の受け取りが可能になるなど、サービス面の向上も期待できる」などとグループ入りのメリットを語った。

ニッセンHDの2013年12月期業績は、シャディ関連3社を連結したことで増収にはなるものの、最終赤字に転落する見込みだ。同社では中間決算発表時に、カタログ発行時期と販売する商品の「ズレ」やネット限定商品の投入が思うように進まなかったことなどを業績不振の要因として挙げているが、これはカタログを主な販売チャネルとしてきた総合通販企業の限界を示したものといえる。

同社では「ネットを主にする」などといった媒体戦略の大幅な変更を打ち出していたものの、競合がひしめく中、ネットで存在感を出すには、商品力やサービス力の向上は必須となる。そのためにも、流通最大手からの資金調達が必要だったとみることができる。

今後、ニッセンはセブン&アイグループでどのような位置付けとなるのか。あるカタログ通販会社の社長は、「ニッセンの機能が必要に応じて分割されながら、グループの通販やネット戦略のプラットホームと化していくのではないか」と推測する。つまり、カタログとネットを主力とした、ニッセンのビジネススタイルはすでに限界に達しており、セブン&アイグループが今後ネット販売を拡大していくにあたって、ニッセンがこれまで培ってきた、通販に関するノウハウやインフラなどをフルに活用していくのでは――というわけだ。

まず、セブン―イレブンやイトーヨーカ堂の店頭へのニッセンカタログの設置を予定しており、今後はコンビニでのニッセン商品受け取りや、グループの電子マネー「ナナコ」導入なども考えられる。ただ、ニッセンではナナコの競合にあたる、カルチュア・コンビニエンス・クラ
ブの「Tポイント」導入を決めているほか、アマゾンジャパンとは物流面で提携している。こうした「齟齬」は障害にならないのかも注目される。

他の流通大手の通販本格進出も?

師走に入り、業界を驚かせた買収劇に関して、通販各社の反応はさまざまだが、「通販ノウハウが欲しい流通と手詰まり感のある通販企業。資本提携は自然の流れ」(A社)のように、“当然の成り行き”と見る声が圧倒的だ。

業績の維持・拡大で“手詰まり感”を抱える通販各社、特に総合通販各社にとって今回の件は他人事ではない。「各社カタログとネットの融合を目指しているが、それが付加価値を生み出しておらず、ネットから新規顧客を取り込めていない各社ともに今のビジネス規
模を維持するのは難しいだろう」(B社)と現状の閉塞感を打破するためこうした選択肢は十分に考えられる。

そうしたことから今後もオムニチャネル化を進めるため、通販を強化したい大手小売業者による通販企業の買収は増えそう。まず注目されるのは流通最大手のイオンだ。すでにデジタルダイレクト(現・イオンダイレクト)を連結子会社としているが、さらなるM&Aによる通販本格進出は十分考えられる。他にも、共通ポイント「ポンタ」を持つローソン、さらには「アマゾンへの対抗」という点で考えると、家電量販店最大手のヤマダ電機の動向も注目されるところだ。

今回の総合通販トップの買収劇により、今後通販企業の買収が加速する可能性は高い。一方で、マガシークのNTTドコモによる買収のように、ネット専業でも淘汰は進んでいる。市場の寡占化が進む中で、各社は生き残りに向けた施策が必要になりそうだ。

セブン&アイHD村田社長とニッセンHD佐村社長に聞く 提携の背景と狙い

200メートルの距離感が勝負を決める

12月2日に資本業務提携の締結を発表したセブン&アイHDとニッセンHD。提携の狙いや背景、今後の展開などについて、セブン&アイHDの村田紀敏社長(写真左)とニッセンHDの佐村信哉社長に聞いた。(同日の記者会見での本紙記者を含む報道陣との一問一答から、一部を要約および抜粋して掲載)

――資本業務提携の背景は。

村田:これからの消費マーケットはIT技術の進歩により、お客様はインターネットを駆使して、あらゆる販売チャネルに接続・連携し、多様な購買活動を行ういわゆるオムニチャネル時代になってくる。当社グループはこのような消費マーケットの変化に対応し、グループのあらゆる販売チャネルをシームレスに連携させ、よりお客様の要望に応えていきたいと考えている。我々はニッセンHDのカタログ販売やインターネット技術を高く評価しており、当社グループのリアルな店舗という強みと融合することで、新たなシナジー効果が生まれることと判断し、提携することにした。

佐村:今回の提携で当社のお客様に対し、当社がこれまで持ちえなかった色々な商品をこれから販売できるようになり、品ぞろえの幅が広がる。例えばイトーヨーカ堂の戦略商品や赤ちゃん本舗のベビー・マタニティ商品などだ。また、セブンイレブンをはじめとした各店舗での販促・顧客獲得。加えて、例えばセブン-イレブン店頭で当社の商品の受け取りが可能となるなどのサービスの向上、物流面でも一緒に効率を上げることができそうで、ニッセンにとって非常に大きなメリットがあると感じている。

――ネット販売子会社であるセブンネットショッピングとニッセンのグループでの住み分けは。

村田:最終的に(通販事業は)一元化するというのが私どもの考え方だ。

――ニッセンは「Tポイント」導入を決めているがどうするのか。

佐村:我々は(Tポイント導入を)やると意思決定しており、セブン&アイ側にも伝えている。

――ニッセンHDでは業績面でどの程度のプラス効果を見込んでいるか。

佐村:何%増とか何億円増とかいう具体的な数字ははかりかねているが、商品面や販路の拡大、サービス力は確実に強化される。さらにカタログに関しても強化が見込める。当社でもネットの売り上げ割合が直近で60%程度まで達しているが、50 ~ 70代では『ネットよりもカタログだ』というお客様もたくさんいる。そういったカタログの技術をセブン&アイグループの対象となるお客様に提供できれば、間違いなく効果はあるはずだ。

――アマゾンや楽天などネット専業の小売業が売り上げを伸ばしている。今後どう差別化を図るか。

村田:日本でもこれからオムニチャネル時代を迎える。それを踏まえ、当社グループでもオムニチャネル戦略をこれからやっていこうと今年9月にアメリカに視察に行った。アメリカのセブン―イレブンには、アマゾンから『アマゾンロッカー』(※私書箱のような専用のロッカーを利用して購入した商品を受け取ることができるサービス)を置いてほしいという要望があるという。その背景は『ラスト1マイル』、つまり、お客様に手渡す最後の1マイルが勝負を決めるようだ。日本で考えた場合は恐らく200メートルの距離感が非常に重要になってくると思う。我々は今、セブン-イレブンを含めて1万7000以上の店を持っており、それらの店舗を活用すれば、これからのネット社会では非常に有効になってくるのではないか。単にモノを売るだけでなく、同時に商品面や店舗での接客やネットを使った説明など含めたブランド力が重要になるだろう。

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