消費者庁、健食の検討会を発足――企業の自己責任による表示制度検討へ

消費者庁で、健康食品の新たな表示制度創設に向けた議論が始まった。制度は、規制強化との一体的な推進の下で実現されるもの。これまで「医薬品」と「食品」の狭間であいまいな範疇に置かれてきた健食に明確な位置づけが与えられる一方、企業の責任は重くなる。表示に対する監視の目も厳しくなることが予想される中、ネット販売事業者も今までの販売手法から大転換を迫られることになりそうだ。
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制度づくり、規制強化と両輪で

新制度は、米国の制度(=ダイエタリーサプリメント制度)を参考に、設計される。企業が自主的に科学的根拠を集め、「自己責任」で表示を行うという制度だ。
消費者庁は2013年12月に「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会」の初会合を開催。その席で消費者の誤認を招かない制度とするため、健食の①安全性確保のあり方、②機能性表示に必要な科学的根拠の要件、③消費者への適切な情報提供のあり方――を議論していくとした。
詳細は後に述べるが、消費者庁では遅くとも7月までに検討会で制度の骨格を固める方針。その後、消費者委員会への諮問、パブリックコメントの募集、事業者への説明会を経て、2015年3月には制度が導入される。
ただ、制度の対象となる食品は、生鮮品から、成分を濃縮した錠剤・カプセル形状のサプリメントまで幅広い。安全性確保や機能性評価の考え方は大きく異なり、初会合では、混同して議論を進めることによる混乱を懸念する声があがっていた。

販売上の「義務」は増える


個別の論点を見ていきたい。「安全性確保」では、消費者団体からたびたび指摘される「過剰摂取」や健康被害情報の収集にいかに対応するかが検討される。医薬品や化粧品は副作用報告が義務化されており、そのあたりの是非も検討されることになるだろう。
より日常的な営業活動に関わる部分で導入が検討されるのは「GMP(適正製造規範)に準拠した工場における製品製造の義務化」と「届出制導入」だ。
GMPとは、企画された製品が設計通り正しく製造されるよう品質を確保するために必要なもの。いかに機能が認められた素材を使っても、不純物が混入したりするような工場で作られた製品であれば、それを「健康に資する製品」とは言えないからだ。つまり「表示」と実際の「製品」のギャップを埋めるために不可欠なものということになる。
このGMP、すでに製造工場を持つ企業の間では数年前から〝任意〟による導入が始まっているが、米国では〝義務化〟されている。義務化されれば、当然、販売事業者も自社製品がGMPの下で作られているか、確認する責任は負わざるを得ないだろう。
ただ、検討会にも委員を送る業界団体の日本通信販売協会(JADMA)では、GMP義務化について「(準拠するのが)望ましい」とするに留め、義務化に慎重な姿勢を示している。製造事業者間の技術レベルは相当な幅があり、いきなりの義務化はハードルが高いためだ。また、仮に義務化となっても日本にはGMPの認証団体が2つあり、認証プロセスにも大きな違いがある。その中で統一的な規範づくりは難航が予想される。

「届出制」は既定路線か

もう一つ、届出制も米国では「製品名」「販売事業者名」「構造機能表示の内容」「原材料」を事業者が申請し、監督する行政機関がデータベースに登録する仕組みとなっている。この時点で表示内容が問題となった場合もその内容は登録され、行政が事業者に改善を求める運用がされている。
そこまでの制度ではないが、JADMAではすでに自主規制として会員企業の商品情報などの登録制を導入している。消費者団体も制度導入を求めており、届出制は導入される可能性が高いと言えるだろう。

どこまで表現できる?

事業者にとって最も関心の高い分野は「機能性表示の範囲」だろう。薬事法ではこれが厳しく規制されており、そのため事業者は〝イメージ〟による訴求を行うほかなかった。
検討される範囲は、いくつか種類がある。一つは「構造機能表示」、もう一つは「疾病リスク低減表示」だ。
米国のダイエタリーサプリメントに認められているのは「構造機能表示」まで。例えば、「○○に使用している原料は、関節の健康を促進することに寄与します」など働きかける部位(=関節)を特定することができるものだ。日本では、大多数のトクホがこれにあたる。
一方の「疾病リスク低減表示」は、「カルシウム摂取は骨粗しょう症になるリスクを低減します」など、より病気の予防的な表現を行えるものだ。米国では、高いレベルの科学的根拠を持つ素材のみ認められている(ダイエタリーサプリメント制度の範疇外)。また、トクホの中でも一定の条件の下で特定の成分のみ認められているが、その成分はカルシウムと葉酸のわずか2つしかない。
このうち、「構造機能表示」までは認められる可能性が高いと言えるだろう。一方、「疾病リスク低減表示」について、JADMAではこれを含めた検討を求めていくとているが、消費者庁は、検討会を前にある会合で「(導入は)極めて難しい」としており、認められる可能性は少ない。国が認証する現行のトクホと、企業が自己責任で表示する健食を差別化する意味において、また、医薬品が担う予防領域に大きく踏み込むものでもあり、消費者団体の反発も必至なことからも実現に向けたハードルは高いと言える。

より厳しく「根拠」が求められる

表示の範囲が広がる反面、そこには「根拠」が必要になる。その要件は、事業者にとって厳しいものになる。
米国のダイエタリーサプリメント制度では、政府がすでに科学的根拠に関するガイドラインを示している。
詳細は省くが、その中では適切にデザインされた「ヒト試験」が科学的根拠の前提とされている。動物試験は根拠になり得ず、ヒト試験でもデザインがいいかげんなものは認められない。海外の文献を使う場合は人種の違いなどを踏まえる必要もある。
研究成果も「論文掲載」が最低ライン。「専門家による査読(=評価)があるものがなお良い」とされる。一方で学会発表しただけで誰の評価も受けていない研究成果は論外とされる。
個別製品ではなく、原料ベースで調べるため、必ずしも自社試験が必要ということはない。ただ、「A社の原料は豊富な科学的根拠があるが、B社はほとんどない」など原料の規格を考慮した上で、自社製品の表示の担保として〝使える論文〟かを、自己責任で判断しなければならなくなる。資本力のある大手は可能だが、中小の事業者には大きな負担となる可能性もある。
実際、米国で最近行われた調査でも事業者が提出したヒト研究557件のうち、ガイドラインの内容すべてに沿うものが1件もなかったことなどの問題が明らかになった。同じことが日本でも起こりかねず、そのための対応策として、規制強化がある。
並行して消費者庁で行われている景品表示法の改正議論では、地方への措置命令権限の移譲や課徴金導入も検討されており、安易な表示にはこれまで以上に重いリスクを負わなければいけなくなることを意識する必要がある。
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