ヤマト運輸、宅急便運賃見直しの背景は?

トータルコスト削減のカギを握る「ゲートウェイ」(2013年8月に稼働した厚木ゲートウェイ)

ヤマト運輸が今年に入ってから進めてきた法人荷主への「宅急便」契約運賃の見直し要請。従来、“1個いくら”の形となっていた契約運賃を荷物のサイズに応じて厳密に収受するというこの要請を適用した場合、実質的に運賃負担が増加する荷主が多く、「宅急便」を利用するネット販売事業者でも、コストの上昇を懸念する声が聞かれる。通販・ネット販売を中心とした荷主の獲得を狙い運賃単価の価格競争を繰り広げてきた大手宅配便事業者。すでに日本郵便の「ゆうパック」、佐川急便の「飛脚宅配便」が採算性の改善を目的に大掛かりな運賃引き上げを要請行っており、ヤマト運輸も利益確保に走り出したと見る向きもある。だが、話はそう単純ではないようだ。

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一律運賃適用でサイズが把握できず

「今のままだと、物流が健全な通販市場の成長を阻害するボトルネックになる恐れがある」。ネット販売事業者など法人荷主に対する「宅急便」のサイズ別契約運賃収受の要請の背景について、ヤマトホールディングスの木川眞社長はこう語る。

「宅急便」はネット販売関連荷物を取り込む形で順調に増加を続けている。だが、宅配便も含めた輸送業界では、人員の確保が共通した課題となっており、車両はあっても動かす人員が手配できないという事態も起きているという。

荷物の増加に対し限られたリソースの中で確実に作業をこなそうと考えると、予め荷主から出される荷物の情報を把握し、必要な機器や人員を手配し効率的に配置することが不可欠になる。この部分では、ヤマト運輸でも以前から数量の情報を捕捉し対応を図ってきたが、さらに荷物の増加が見込まれるなかで、もうひとつ重要なファクターとして浮上しているのが荷物のサイズ情報だ。

では何故、荷物のサイズを把握する必要があるのか。結論を言うと、荷物の量に対する現場の対応能力を見誤らないようにするためだ。

例えば、同じ幹線輸送のトラック、あるいは物流拠点の運搬機器でも、荷物のサイズによって積載できる荷物の数量が異なる。つまり、数量に応じた機器を配置しても、サイズが大きい荷物が集中すると、用意した機器の対応能力を超え繁忙期に現場の業務が混乱する可能性があるわけだ。

ただ、これまでの展開では、法人荷主から出される医荷物の数量は捕捉できていたものの、サイズについてはほとんど把握できていないのが実情。その背景にあるのが“1個いくら”の形で契約運賃を適用していたことだ。「宅急便」は60 ~ 160まで6サイズがあり、サイズごとに運賃を設定している。法人荷主の場合、発送する荷物の数量などに応じて割引を適用し、見積もりでサイズ別の契約運賃を提示する形になっている。だが、実際には、他の宅配便事業者との競争の兼ね合いから、現場の判断で、荷物の大きさに関係なく一律に最も小さいサイズの契約運賃を適用するケースが少なくなかったという。

現状、「宅急便」はネット販売関連の荷物を取り込む形で増加を続けている。だが、人手不足の問題が深刻化する輸送業界の現状を考えると、このまま荷物が増え続ければ、オーバーフローを起こす恐れがある。ヤマト側としては、「今後の荷物の増加に備え、本当のサイズの荷物がどれだけ流れているのかを把握する」(木川眞社長)ため、改めてサイズ別契約運賃の収受を要請したとする。

物流のトータルコスト削減を目指す

法人荷主に対するサイズ別契約運賃収受の要請は、いわば本来の運賃体系に戻そうとするもの。だが、荷主側からすれば、実質的に運賃引き上げとなるため反発も予想される。

これに対し、ヤマト側では必要な投資を行い、高付加価値サービスを提供していくことを構想。配送部分だけにとどまらず、「トータルの物流の仕掛けを大きく変えることで品質が格段に上がり、お互いがコストメリットを享受できる状況は作れる」(同)とする。

では、ヤマト側はどのようにしてネット販売事業者など法人荷主のトータルコスト削減を実現していくのか。その基盤となるのが、2011年度からスタートした9カ年の中長期経営計画「DAN-TOTSU経営計画2019」のなかで打ち出した「バリュー・ネットワーキング」構想(VN構想)の取り組みになる。

VN構想とは、国内各地に新設する最新鋭の機能を備えた大型物流拠点と既存の「宅急便」ネットワークと有機的につなぎ、事業者のトータル在庫圧縮や配送スピードの向上、高付加価値サービスの付加などを目指すもので、前期で終了した9カ年経営計画の第1次3カ年計画で基盤となる大型物流拠点として最新のマテハン機器を導入した「厚木ゲートウェイ」、海外と日本を結ぶ基幹物流拠点「羽田クロノゲート」、日本からのアジア向け荷物の翌日配達を実現する「沖縄国際物流ハブ」を設置している。

国内の展開で特にポイントと言えるのは、大都市部の玄関口に設置を進める「 ゲ ー ト ウ ェ イ(GW)」。「 厚 木GW」はその第1号となるもので、2016年度までに愛知および関西でも同様の拠点を設ける計画だ。

GWは、最新鋭のマテハン機器を導入し大幅な作業の効率化を図ったのが特徴で、荷物を流しながら併設するロジ倉庫部分で同じ送り先の荷物を同梱するなど付加価値サービスを提供するという。

また、GW間で多頻度幹線輸送を行うことで配送リードタイムの短縮を実現し、16年度をメドにGWが設置される関東・中部・関西間で「宅急便」の当日配達を計画。また、ヤマト側の物流ネットワーク内に最小限の商品を分散して在庫し、注文顧客が在住する最寄りの拠点から商品を発送する“分散在庫型スピード通販”の展開も視野に入れる。

ヤマト側では、商品配送のスピードアップによるネット販売購入商品のキャンセル率低減で、返品に関わるネット販売事業者側の作業負担やコストの削減につなげることを構想。また、よりローコストで分散在庫ができる仕組みを構築し、ネット販売事業者側の倉庫設置コストやピッキングなどの作業コストを軽減するなど、運賃以外でのコストメリットを打ち出していく考え。関東・中部・関西にGWができ、当日配達が稼働する段階にまで到達すれば、「数量が増えてもコストが過大に増えず、品質も管理できる仕掛けができる」(同)とする。

プレーヤーが一緒になって考える時

ヤマトグル―プでは、前期までの第1次3カ年計画で「厚木GW」の設置など物流ネットワークの改革に取り組み、今期からの第2次3カ年計画で、関東・中部・関西間での「宅急便」当日配達、“分散在庫型スピード通販”など付加価値サービスの展開に着手。荷物の増加への対応と同時に、従来にない新機軸のサービスを支える高度なオペレーションをこなす上でも、荷物のサイズ把握は重要と見ているようだ。

ネット販売の利用が拡大し、当たり前の購入手段となるなか、商品配送に対する顧客の要求レベルも高まっていくはず。その中心的な役割を担うのが宅配便事業者だが、ヤマトホールディングスの木川社長は、「通販市場の拡大に向けたあるべき物流の姿を作っていくためには、運輸事業者だけが頑張っても限界があり、市場に参加するプレーヤーが一緒になって物流のあり方を考える必要がある」とする。

今回の「宅急便」サイズ別運賃収受要請の問題は、ネット販売事業者側の物流を含めた商品配送やコストの捉え方を変える布石になる可能性もありそうだ。

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