企業と消費者の橋渡し役担う【岡本洋明 ジェネレーションパス代表取締役】

「リコメン堂」の屋号で大手仮想モールに20店舗以上を出店し、主にドロップシッピング方式でインテリア商品をはじめアパレルや食品、雑貨など幅広い商材を販売している。自社開発のマーケティングシステムを駆使して、収集したビッグデータを基に商品ごとに最適な販売計画を設計。売り上げを順調に伸ばし、9月24日には会社設立当初から構想にあったという株式上場(東証マザーズ市場)も実現した。今後の展望について岡本代表に話を聞いた。

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会員や自社商品を持たずマーケティング力で勝負

――ビジネスモデルについて教えてください。

当社はマーケティングのシステムとノウハウが一番の力になっています。従来のネット販売と異なるのは自社で会員組織や商品を持っていないということです。会員を保有している企業だとあくまでもその会員に対して商品を販売するということが主目的になります。当社では提携先(取引先)の企業の商品をいかに適したマーケットに出して販売していくかが主眼になるので、提携先企業数の増加=ジャンルの増加=売り上げの増加という形になるのです。

――従来のネット販売専業の企業とはスタイルが異なるということでしょうか。

大事なことは当社はマーケティング企業だということです。「商品はあるけれどもどうやって売っていいか分からない」という企業に対して最初に相談される相手になることを目指しています。すでにネット販売を始めている企業についても「集客ができない」「他モールへの新規出店を考えている」という悩みに対して当社の技術を提供することを行っています。それは当社が運営する「リコメン堂」はマーケットの調査をする場だと考えているからです。

――自社で手がけているマーケティングの具体的な手法について。

当社では各モールでの自社出店店舗だけでなくウェブ全体からマーケティングの基礎となるビッグデータを収集して分析などを行う自社開発のマーケティングデータシステム「MIS」を活用しています。日々変わりゆく情報の中から収集したデータを基にネット上で売れている商品ジャンル、使用画像・テキスト、価格、消費者からの評判などを自動で収集・分析します。その結果を基に当該商品の販売に適した売り場を選択してページ制作や価格など各種条件を設定して販売。日々その設定を変化させながら最適な販売結果に結びつけているのです。

――マーケティングデータをより多く収集・分析する観点から多店舗展開を行っているのですか。

現在、複数のモールに25店舗を出店しています。多店舗展開することで商材によってそのモールごとでマーケティングのやり方を変えられるというメリットがあります。例えばこちらのモールではポイント施策をとり、あちらのモールでは配送を重視、またあるモールでは画像での見せ方に注力するといったことです。これがAB分析になってどこの売り場に一番アクセスがあるかが分かり、最終的に最良の売り場を決めて広告投下して集客をかけて購買までつなげているのです。この仕組みができているからこそ当社は売り上げに対しての広告費を一般のネット販売企業と比べて抑えることができています。

――効率的なマーケティングができる一方、多店舗展開することでのデメリットや課題などは。

当然モールごとにインフラが違うので、それぞれの店舗での受発注業務がすべて変わるわけです。多くの取引先からの複数ジャンルの商品を多店舗で扱っているので、その業務をすべて人の手でやろうとなると受発注コストは当然上がっていきます。そのため売り上げが順調に伸び続けた一方で、利益は伸びなかったという辛い時期もありました。

――課題解決に向けて取り組んだことは。

2012年にシステム構築企業のトリプルダブルを完全子会社化して受発注システムの開発を加速させていきました。結果的に「GPMS」という複数のモール店舗や取引先に対応できる受発注処理の自動管理統括システムを自社開発し、2013年12月から運用を開始しています。同システムによってこれまで10人くらい人手が必要だった受発注業務が今では3人程度でできるようになり、大きくコストを抑えることにつながりました。今は利益率を改善することが出来ています。複数のモールごとにシステム対応できるようになれば先ほどのデメリットもメリットに変わりますし、逆に言えばこの仕組みがないと多店舗展開は難しいのではないでしょうか。

ネットはマーケティングで遅れ

――マーケティングの重要性を意識したきっかけとは。

自分自身が海外でマーケティングの勉強をしていたこともありますし、日本でもシステム会社をやっていたので、マーケティング論に基づくシステム開発が重要だということは強く意識に植え付けられていきました。基本的にマーケティングは統計学です。それをきちんと勉強して数値化することができないといけないと思います。リアルの世界ではそれができる人がいるのですが、(仮想モールに初出店した)2008年頃のネット販売の世界ではそういった人たちがあまりいなくてかなり遅れている印象を持ちました。

――具体的にいうと。

当時のネット販売の世界は、(購買状況など)せっかくデータがデジタルになっているにも関わらず数値化できていないケースが多くて、なんとなく「こんな売り方がいいのでは」「こんな雰囲気で出せば大丈夫だろう」というように〝勘〟に頼った手法が多かったと思います。それでも市場自体が成長していたのでそこそこ売れることはできたのかもしれませんが、今となってはそのやり方では絶対通用しないでしょう。
ネット上には店舗があふれているので購買などに関するデータは日々膨大に蓄積され続けていきます。そのためシステムでそのアルゴリズムを解析した結果を使ったほうがよりよい成果につながることは間違いありません。簡単に言うと“目利き”をデータ化するということです。例えばインテリア家具商品について、20年、30年とその業界にいた人なら何が売れるか売れないかということはなんとなく分かります。しかし、新規参入した会社ではそれが分かりません。だからこそ、データを分析・検証する作業が必要になってくるのです。

9月24日にマザーズ上場、信頼性とシステムを強化

取引先とアイテム数を拡大

――今回の上場の経緯とその目的について教えてください。

最大の目的は取引先企業に対しての「信用」です。国内の有名企業と取り引きするためには、きちんと「上場」してオープンな形にしたいと考えていました。また、最近では海外の企業からの問い合わせも多くいただくようになりました。日本の証券市場は信用力が高いので、そこに上場しているということですぐに信頼してもらうことができます。

――上場を機に取引先が大きく増えていくということでしょうか。

そう思います。現在250社と70万アイテムの取り引きがありますが、年内にはそれが300社、100万アイテムの規模にはなるでしょう。商品ジャンルが偏らないというのが当社の強みなので、何か特定のジャンルだけを拡充するということではありません。例えば、2020年に東京でオリンピックが開催されるのでそれを見込んでスポーツ用品店やスポーツメーカーとの取り引きが拡大するということは多少あるかもしれませんが。

――社内での設備投資などの予定は。

上場の2番目の目的として(上場資金で)システムを拡充していくという計画があります。それは人材の獲得をはじめ、他のシステム会社との業務提携・資本提携も含めてということです。先ほど説明したマーケティングデータシステムの「MIS」が現在は全商品の1%ぐらいにしか対応できていない状況なので、年内中にこれを10%ぐらいにまで引き上げていきたいです。それにより、当然売り上げも伸びていくでしょう。

――人材獲得の上で求めている人物像などはありますか。

やはり技術力とやる気がある人です。若いということもありますが、新しい技術や分野に意欲的で抵抗なくチャレンジしていく気持ちを常に持っていることが大事です。実際に、大手のIT企業に入ったものの思うようにやりたいことが出来ずに辞めて、また自分の才能を生かしたいと考えた意欲的な人たちがたくさん入社してくれています。

――具体的な補充計画は。

今年、来年くらいの間にシステム関係で10人くらいは純増させたいです。あと現在は営業の人員がいないのでこれから取引先を増やすに当たって、その対応窓口となる人員や制作部門の人員も増やしていきたいです。

――そのほか、上場後に強化していくことなどは。

当社のマーケティング技術を生かしたネット販売のサポート事業を伸ばしていきたいです。単純にビックデータを扱ってデータ分析した結果だけを提供するのではなく、結果に基づく検証を我々は行っているので検証に基づいた成果までを提供したいです。この事業を第2の柱に育成することを目指しています。

――近年はメーカーや大手小売りなどがネット販売に次々と参入しています。こういった企業も取引先の対象となるのでしょうか。

大手が参入するということは、それだけ我々にとってチャンスでもあります。彼らがマーケティングする時に当社を利用してもらえればより多くのマーケティングデータが集まるでしょう。例えば自社通販サイトしか持っていない企業がモールに出したいと考えた時に、当社に商品を持ってきてもらえれば国内ほぼすべてのモールで販売ができ、当社のコストでマーケティングを行えてどのモールで売れるのかを結果として提示することもできます。

――そのほか、O2Oでの取り組みなどについて考えていることはありますか。

繰り返しになりますが、当社はマーケティング企業なのでリアルだけでやっている店がオンラインでやりたい時、どうやって連動をとっていくかということに対しての提案ができます。例えば「リアルで扱っている商品の売価がネットではマッチするのか」「ネットでの正しい売り方とは何か」といった声にデータで答えられます。

今期売上高は46億円を計画

――今期の業績予想は。

2013年12月期の売上高は前年比約29.4%増の36億7000万円でした。2014年12月期の計画としてはとりあえず売上高を同25%増の46億円という数字にしています。システムの方が立ち上がってきており「GPMS」も数百億円くらいの規模まで対応できるので、来期以降については更にブラッシュアップしていきたいです。

――今後のネット販売市場の展望をどう見ますか。

ネット販売のマーケットは2008年頃と比べ現在は倍以上になっており、今後も毎年15%ずつぐらいのペースで拡大を続けるでしょう。取扱高で3兆円ぐらいの市場が毎年それだけのぺースで伸び続けるのであれば、マーケティングのサポートをする当社としてはその取扱高の10%くらいと何らかの関わりを持ちたいと考えています。そうすることで、大手仮想モールだけでなくモノづくりを行う企業の活動も活性化してくると思いますし、そこで消費者への橋渡し役をしっかりと担っていければと思います。

◇プロフィール◇

岡本洋明(おかもと・ひろあき)氏
1964年4月1日生まれ、静岡県浜松市出身。86年駒澤大学経済学部卒業後に日本信販(現三菱UFJニコス)に入社し新規事業開発を担当、99年ハーバード大ビジネススクールPMD卒業、2000年にソフトブレーンの取締役として経営全般と営業部門を統括。2002年にジェネレーションパスを創業し、代表取締役就任。2014年9月東証マザーズに上場。

◇編集後メモ◇

株式上場が決まってから非常に慌ただしい日々を送られている中での取材だった。初めて取材をした4年前から毎年のように会っているが、今回もいつもと同じように岡本代表はジーンズにシャツというカジュアルな姿で登場。会社の規模は4年前から何倍にも成長しているが、肩肘を張らずに胸襟を開いて気さくに話をしてくれるスタイルは今も昔も変わりがない。時折冗談を交えながらも、マーケティングの重要性について語る時は少し熱をこめて説明。「『EC事業』ではなく『ECマーケティング事業』を行っている」ということは繰り返し強調した。
大手企業でビッグデータの分析・解析に取り組んでいるところは多いが、それをネット販売の世界で実践して具体的な検証・成果までを提示できる企業はそうはいない。おそらく上場を機に様々な業界から関心を集めることは間違いないだろう。今後の同社の活躍に期待したい。

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