京都地裁、「バイブルチラシ」差し止め命じる サン・クロレラ広告訴訟

          問題となったサン・クロレラのチラシ

健康食品を売るのに〝薬効〟をうたってはいけない。これは誰でも分かることだ。だから、「クロレラ」の健食を扱うサン・クロレラ販売も、30年来、「日本クロレラ療法研究会」という別組織を冠にしたチラシを展開することで、クロレラの薬効をうたってきた。だが、京都の消費者団体の訴えを受けて今年1月、京都地裁が広告の「差し止め請求」を認める判決を下した。研究会がチラシを撒き始めて30年、その間に広告手法も進化し、今ではウェブ上に〝サン・クロレラもどき〟の広告手法も溢れている。こうした広告を真っ向から否定する判決に、波紋が広がっている。

ばら撒き続く「バイブルチラシ」

肺気腫や高血圧、糖尿病、パーキンソン病に前立腺がん……、サン・クロレラ販売が「日本クロレラ療法研究会」(研究会)を通じて展開してきたチラシにはこれでもか、というほどクロレラの薬効が書かれている。にもかかわらず看過されてきたのには理由がある。

医薬品医療機器等法(旧薬事法)では「顧客を誘引する意図」「特定の商品名の表示」「一般人が認知できる」の3つの要件をもって「広告」であるとみなす。また、景品表示法はその規制対象が「商品・サービスを供給する者」、消費者契約法の広告差し止め要件は「(商品・サービスの)消費者契約の締結について勧誘する際に不実告知等が行われていた場合」となっている。

いずれも法を適用する要件は、「商品」が介在していること。だが、このバイブルチラシには、「成分」の薬効こそ書かれているものの、一切「商品名」が書かれていない。だから商品の販売者とはみなされず、〝言論の自由〟を前提とした第三者による「健康情報の普及」とみなされてきた。こうして、研究会は長年に渡りバイブルチラシをばら撒き続け、過去には警察当局の追及すら逃れている。

適格団体、広告に待ったかける

これに待ったをかけたのが京都の適格消費者団体である京都消費者契約ネットワーク(KCCN)だ。

適格消費者団体は、通常の消費者団体とは異なる。一定のルールの下で国の認定を受け、消契法、特定商取引法、景表法の3法に基づき、消費者契約の解約や広告の差し止めを事業者に求めることができる一歩進んだ権限を持った団体だ。今後、健食の機能性表示が規定される食品表示法に基づく差止請求権も認められることになるが、現在、全国に12団体が活動している。

KCCNでは、14年1月、サン・クロレラ販売のチラシの差し止めを京都地裁に請求していた。しかしなぜ、これまで〝不可侵〟となっていたバイブルチラシにNOを突きつけることができたのか。

京都地裁、「商品広告」と認定

裁判の争点は2つある。まず、研究会のチラシが「商品広告」にあたるか否か、あたった場合も景表法上の「優良誤認」にあたるか否かだ。

あくまで「商品広告」であることを前提とすればだが、後者については、疑いようがないとみられる。医薬品医療機器等法では、「疾病に対する改善をうたうものは医薬品」とみなされるからだ。クロレラは医薬品として承認を得ておらず、にもかかわらず薬効をうたえば、〝薬じゃないのに薬として売っている〟という消費者の誤認を招くことになるためだ。地裁でも同様の理由で景表法上の不当表示(優良誤認)を認めた。

ただ、繰り返すが、それはチラシが「商品広告」であった場合のみ。薬効をうたっても「商品広告」でなく「健康情報の普及」なら問題にならない。KCCNはこの点、サン・クロレラ販売と研究会の「一体性」を4つの点から主張している。「研究会会長の『中山流石』がサン・クロレラ販売取締役
の中山哲明と同一人物であること」「研究会京都本部とサン・クロレラ販売本店が同一場所にあること」「研究会電話番号の回線契約者がサン・クロレラ販売であること」「研究会に資料請求するとサン・クロレラ販売から商品カタログが送られてくること」だ。

実際、チラシの作成や配布、電話料金、事務所使用量に加え、従業員すべてが研究会会員であるなど、運営コストはすべてサン・クロレラ販売が負担していたようだ。地裁ではこれをもってサン・クロレラ販売と研究会の「一体性」を認めた。

これまで第三者によるものと認識されていたチラシだが、実質的に「商品の販売者(サン・クロレラ販売)=第三者(研究会)」から「消費者」に向けた広告と認めたわけだ。

サン・クロレラ販売、控訴へ

地裁が判決文で示した法解釈はこれまでの法解釈を根底から覆すものだ。

「『商品名』の記載がなくても消費者が広告で行われた不当な説明に誘導され、特定の商品の購入に至る場合、景表法の規制対象としなければ、景表法の規制目的を達成することが困難になる」。つまり、配布主体が販売者ではなくてもチラシで関心をもった顧客が「必然的に商品の購入を勧誘される仕組み」ならこれを「商品広告」とみなす、としたのだ。

「必然的(性)」というのがどの程度を指すのかあいまいではあるものの、「一体性」の度合いがその要件と思われる。サン・クロレラ販売は大阪高裁に控訴しており、まだ、判決も覆る可能性があるが、この判決が及ぼす影響は、ネット販売業界にも及ぶ。

氾濫する〝サン・クロレラもどき〟

ネットでもアトピーに対する乳酸菌の効果をうたう「研究サイト」に誘導するバナー広告を展開、これにアクセスした潜在顧客をリターゲティング広告で「商品販売サイト」に誘導する広告手法がある。

事件化した例もある。14年には、「強命水 活」という飲料水の薬効をうたっていたエーイーエムという会社が医薬品医療機器等法違反で摘発された。

エーイーエムは、「商品の販売サイト」において、「検索サイトで『諏訪不思議な水』と検索」と表示して潜在顧客を「体験談サイト」誘導。体験談サイトで商品表示せずに薬効をうたっていた。「体験談サイト」をバイブルチラシ、「商品販売サイト」をサン・クロレラ販売の販売窓口(電話・サイト)と見れば〝同じスキーム〟といえる。

高裁でも地裁判決が維持されるようなことになれば、これら広告手法も今後、警察当局や行政によって問題視される可能性がある。

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