「オタク文化」発信し、ECにつなげる【秋山卓哉 Tokyo Otaku Mode 共同創業者/執行役員】

Tokyo Otaku Mode(トーキョーオタクモード)は英語で運用しているフェイスブックページで「いいね!」の数が約1700万と驚異的なファンを獲得している。うち99%は海外のユーザーだ。こうした日本のオタクグッズやポップカルチャーの愛好家たちを自社サイトに送客し、情報の発信だけでなくネット販売にもつなげている。EC売上高が右肩上がりに伸長しているという同社。共同創業者で執行役員の秋山卓哉氏が考える越境EC戦略とは。(聞き手は本誌・比木暁)

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FBのユーザー層は99%以上が外国人

FBで約1700万の「いいね!」

――まずは事業を始めた経緯について教えてください。

当社はもともとフェイスブック(FB)ページの立ち上げから始まりました。FBページを1年程運用した後に、アメリカのベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けることになり、受け皿が必要で法人化したのです。つまりサービスが始まって法人化するまで1年間ずれがあります。そしてアメリカのデラウェア州に登記しました。ただ、サイトの開発やもろもろのオペレーションは東京になります。というのも、扱っている商品が基本的に日本で買い付けているためです。

その後、引き続きFBの運用を進めながら、最初はメディアとしてスタートします。いわゆる「オタク文化」を海外向けに英語で発信するメディアとして、サービスを運用してきました。そして、国内のVCなどから出資を受ける段階で、メディアだけでマネタイズ(収益化)をするのではなく、“もう一本柱が欲しい”ということになり、Eコマースのほうに進むようになって今に至ります。

――今でも主力メディアはFBでしょうか。

メディアは主にFBページを使っていますが、それともう1つ自社サイトとして「オタクモード・ドットコム」を運営し、日本のポップカルチャーを英語で海外に発信しています。FBは今、約1700万の「いいね!」を獲得しています。

――「いいね!」がそこまで増えた要因は。

FBというプラットフォームに合ったコンテンツが多かったのだと思います。キャラクターグッズやコスプレなどビジュアルが分かりやすい。FBのようなSNSで反応を得るには写真がすごく有効ですが、そこでみんなが知っているコンテンツを扱ったのが大きかったと思います。もちろん日本のコンテンツ自体に力があり、海外でも人気で根強いファンがいたということもあります。

――ユーザーはどういった層でしょうか。

特徴としては99%以上が外国人です。日本人は0.3~0.4%程度です。ユーザーが若いのも特徴で、それは扱っているコンテンツがアニメやゲーム、コスプレという趣味の領域で、かつ若い人に支持されていることが影響していると思われます。また、アジアなどはそもそもFBのユーザー層が若いということもあるでしょう。男女差は56:44でほぼ半々です。

「オタク」と言うと男性が多いようなイメージですが、海外では比較的バランスがとれています。かつ、アイテムもいわゆる“萌え”ばかりでなく、もう少し幅が広くなっていて、“ハラジュクカワイイ”系などもカバーしています。日本人が思う「オタク」よりもう少し幅広くいろいろな情報を扱っているため、女性の割合も多いのだと思います。エリア別で見ると、今はアジアが多いです。インドネシア、フィリピン、インド、マレーシアなど若年層が多い国が占めています。次はアメリカ、メキシコ、カナダとなっていて、南米、ヨーロッパという順です。

――FBはどのように活用しているのでしょうか。

1つの広告媒体や集客媒体のようなイメージです。ソーシャルメディアの機能を使って、ユーザーがシェアやコメントをしてくれることで拡散させて、ニュースやコンテンツ、販売している商品を目にしてもらいます。そして興味のあるユーザーをウェブサイトの「オタクモード・ドットコム」に送客する形です。「オタクモード・ドットコム」ではEコマースのショップだけでなく、ニュースや、ユーザーが投稿できるページなども用意しています。ニュースはいわばヤフーニュースの“オタク版”です(笑)。日々、日本で起こっている最新のアニメやゲーム、イベントのニュースを翻訳して、記事を書いて掲載しています。

買いやすい場所がなかった

――越境ECを始めたきっかけについて教えてください。

日本のオタク文化が好きな人が非常に多く、我々も日々、「もうすぐこんな商品が発売されます」「こんな新しいコンテンツが始まりました」というようなことをニュースで流しています。それに対してFBで「いいね!」がつくのですが、中には「それ欲しい」「どこで買えるの?」というようなコメントや問い合わせが来ていました。そこで考えると、リアルもネットも含めて海外のユーザーがそうした商品を買いやすい場所というのがなかったのです。

もちろん「アマゾン」や「イーベイ」はあるのですが、例えば限定品が手に入らなかったり、CtoCの場合であれば本物かどうか分からない。もしくは割高である。また、正規の販売でも海外対応をしておらず、サイトが日本語で書かれているため分からない。日本語を一生懸命訳して買おうとしても、住所が海外だと発送できないという具合に、海外のファンにとって気軽に買える場所というのがないということに我々も気づいていました。そこを解決すれば、よりファンに喜ばれるのではないかなと思って始めたのがEコマースです。

――開始時期はいつですか。

2013年の夏です。最初のうちは商材もなかなか集められず、いわゆる“お店に入っても棚がガラガラ”みたいな状態でしたが、徐々に集まってきて今ではSKUで2万点弱になります。平均購入単価はおよそ7000円です。キーホルダーやステッカーのようなものから限定品まで扱っているため商品単価は100円~60万円とかなり幅広いです。

――越境ECのユーザー層に特徴はありますか。

Eコマースの購入者はアメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、フランスなどアメリカ、ヨーロッパ圏が非常に多くなっています。これは先ほどのFBのファン層とは異なります。FBではアジア圏が多かったですが、Eコマースでは完全にGDPの高い先進国が多くなっています。

これにはいくつか理由があり、もちろんお金を持っているということもありますが、そもそも欧米圏の人々はEコマースでモノを買うことに馴れているのかなと思います。インドネシアやタイなどを調査すると、まず若い人がクレジットカードを持っていないというケースが多い。通信販売で購入するときに、購入の習慣としていわゆる「代引き」や、タイなどはセブン-イレブンに引き取りに行ってそこでお金を払うという形が多いです。我々は基本的にクレジットカードやペイパルでの決済ですので、そうした決済面がきちんと整っている国であることが必要になります。とはいえ、アジアでもインフラはどんどん整ってきており、経済も成長しているので、ポテンシャルはあると感じています。

英語ネイティブによる翻訳

――「オタクモード・ドットコム」の越境ECの強みは何でしょうか。

1700万人のFBのファンがいて、お客様をある程度抱え込んでいます。もともとクールジャパンコンテンツ、いわゆる日本の「オタク文化」に興味関心の高い人たちだけで構成されている1700万人です。そこに対してターゲティングができています。そして、翻訳のクオリティーもすべて英語ネイティブの外国人のスタッフが運営しています。アメリカ人が多く、イギリス人もいます。全員が自国に暮らしながら翻訳しています。人数的には変動はありますが、7、8人くらいの体制です。

――翻訳で工夫している点は。

サイトではキャッチコピーが大事になります。単純に日本語から英語への翻訳ではなく、メーカー側からもらう商品説明は日本語で書かれているので、もちろん日本語が分からないといけないのですが、翻訳したものを読んでいかに外国の人が飛びつくかを考えてやっています。日本語を直訳しても生きた英語でなかったり、魅力的なキャッチコピーにはならないというのは経験で分かっています。実際、翻訳担当者の中には、好きだから勝手にどんどん調べて、提供している商品情報以上の内容を盛り込んでくれるような人もいます(笑)。

――商品は日本から発送するのですか。

そうです。EMSで送っています。発送作業は、これまでは外部の物流業者さんに依頼していたのですが、以前から借りていた倉庫のキャパが足りなくなって、今年2月に移転するタイミングで内製化に切り替えました。

――内製化に切り替えたほうがやりやすいのでしょうか。

越境ECの特徴だと思いますが、国内で海外向けのノウハウを持っている倉庫会社さんがあまりないということがあります。荷受け、梱包、発送までのノウハウは、国内であればそれほど大変でないと思います。しかし海外になってくると、例えば長い距離を移動するので、梱包資材も日本の段ボールはすぐにベコベコになるので、海外向けに強度の高いモノが必要になります。また、送り状も異なりますし、基本的に住所もすべて英語です。結局、トーキョーオタクモード用にカスタマイズする必要があるわけです。もちろん、外注してしまうとノウハウが内部にたまらないという面もあります。

越境ECに可能性はあるが時代が追いつかなければ

FAQなどで多言語に対応

――「オタクモード・ドットコム」で使用している言語は英語のみでしょうか。

以前は英語だけでしたが、最近になり多言語化を行いました。とはいえ、商品ページをすべて多言語対応するのは難しいので、購入ページやFAQのページで中国語(簡体・繁体)、スペイン語、インドネシア語、日本語に対応しています。返品や返金など、比較的お客様が気になる項目に関しては多言語で閲覧できるようになっています。

というのも、お客様が購入する上でハードルになるようなところ、つまり買う時に疑問に思う部分の回答が、自国の言葉で理解できれば購入しやすいのではないかという判断がありました。実際、私たちも海外の通販サイトで購入する際、決済画面で完了ボタンを押す時に英語よりも日本語で説明されているほうが安心してクリックできます。これと同様に、なるべくユーザーが普段使っている文章で安心して買ってもらえるような形にしています。

――Eコマースでの売り上げの規模感は。

数字は公表していないのですが、毎月順調に右肩上がりに伸びています。これは海外ならではなのかもしれませんが、年末商戦が一番“熱い”です。12月に売り上げのカーブがぐっと上がります。昨年は円安の影響もあって正確な比較はできませんが、12月の月商は1億円弱でした。そこがピークでその後また落ち着き、今年の年末に向けて再び上がっていければいいなと考えています。

――越境ECについて可能性はあるでしょうか。

可能性はありますね。ただ一方で、インフラなどを含めてある程度時代が追いついてこなければいけないかなと思います。実際、越境ECはそんなに簡単ではなく、本当にモノが届かないなど日本の常識では考えられないことがたくさん起こります。その辺を1つずつ乗り越えながらやっていく必要があります。

◇プロフィール◇

秋山卓哉(あきやま・たくや)氏
大学卒業後、ソニー株式会社に就職。商品広報、コーポレート広報のほか、シンガポールのアジア・パシフィック地域本社に駐在し、アジアを中心とした海外事業の広報も担当するなど幅広く広報業務を経験する。2012年4月にTokyo Otaku Mode(トーキョーオタクモード)の創業に参加。現在はこれまで培ってきた広報業務に加え、人事総務部門の責任者を務めている。

◇編集後メモ◇

トーキョーオタクモードの取り組みは、「FB」という世界中で活用されているプラットフォームと「越境EC」がうまく作用した事例と言えます。もちろん1700万もの「いいね!」からECサイトへ送客するということは特殊なケースかもしれません。しかし、翻訳へのこだわり、物流の内製化、さらにはビジュアル重視の訴求などは海外に打って出ようという企業にとって参考になる部分もあるのではないでしょうか。そして今後も同社が発信する「オタク」や「カワイイ」など日本のポップカルチャーの情報が世界中のユーザーを楽しませ続ける限り、同社の越境ECも好調に推移するのではないかとも思うのです。

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