「ニキビ=プロアクティブ」デジタルで確立【藤原尚也 ガシー・レンカー・ジャパン デジタルマーケティング部シニアマネージャー】

ガシー・レンカー・ジャパン(GRJ)は、ニキビケア化粧品の市場がまだ明確に形成されていなかった2000年に日本で事業を開始。圧倒的な広告量を投下するプロモーションで「プロアクティブ」の名を一気に世に知らしめ、ニキビケア化粧品ブランドとしての地位を確立した。だがその後、市場の競争環境は激化。性別や世代の別なく〝オールターゲット〟に訴求するこれまでのやり方が、ブランド価値の希薄化を招く要因にもなっていた。「ニキビ=プロアクティブ」の図式が崩れつつある中、GRJの藤原氏は、テレビ依存のマーケティング構造から脱却し、デジタルを活用したアプローチでブランド再構築に乗り出す。(聞き手は本誌・佐藤真之)

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コンテンツマーケ活用し〝リブランディング〟

競合増加で薄れたブランド価値

――まず、ブランド再構築に取り組まれた背景について教えてください。

「プロアクティブ」は2006年に眞鍋かをりさんをイメージキャラクターに起用し、テレビCMの大量投下で知名度を高めました。当時は、眞鍋さんが〝これで直りました〟と訴求し、「60日間返金保証」「日米売上実績№1」などのコピーを打つことで売れるシンプルなコミュニケーションが成立していました。

しかし、通販市場の拡大とともにテレビ局の考査も厳しくなり、13年頃から治療を呼び掛ける皮膚科クリニックや、競合他社の露出が増え、ブランドの価値が揺らぎました。実際、ウェブでの検索ボリュームを見ると、11年以前まで「ニキビ」と「プロアクティブ」のボリュームはほぼ同じ水準で推移していますが、11年を境にかい離が生まれ、今では15倍前後の開きが出ています(※グーグルトレンドによる比較)。

かい離が生じた時期は、新たなコンペティターが台頭し、ウェブ上にニキビに関するさまざまな情報が溢れた時期と重なります。にもかかわらず、GRJは相変わらずテレビ中心のプロモーションを続けていた。考査が厳しくなる中でテレビの露出も減っていた。認知されなくなっていたわけです。

――当時、抱えていた一番の課題は何だったのでしょうか。

「プロアクティブ」は思春期ニキビや大人ニキビなど悩みや性別、年代の別なく、すべての方に作用することが一番の特徴になります。ただ、「何にでも、誰にでも」と聞くと〝本当に?〟と疑いを持つのが当然ある反応です。

使う側からすれば敏感肌用と言われた方が〝自分向け〟と手に取りやすく、〝オールターゲット〟であることを説明するのは難しい。ただ、15秒、30秒のCMではこれを伝えきれない。そのため、デジタルでリブランディングしていく必要があると考えました。

ニキビにどう作用するのか、あらゆる視点から一つひとつの記事で説明し、その集合知としてオールターゲットに機能を発揮することを理解してもらう手法です。アプローチの場を潜在ユーザーが存在するデジタルに移す必要性を感じ、始めたのがニキビに関する情報サイト「ニキペディア」を通じたコンテンツマーケティングになります。テレビ依存のマーケティング構造を変える必要性を感じました。

〝企業目線〟と一線画すサイト

――「ニキペディア」立ち上げに際し、まずどういった運営方針を立てたのでしょうか。

マーケットリーダーとして本気でニキビに悩む人のための情報サイトを立ち上げようと考えました。ウェブでニキビの検索ボリュームは増えていますが、実際、検索結果として示される情報が正しいかはまた別の話。多くは広告モデルにひもづいた情報で企業目線のものが多い。そこに他社と同じように〝「プロアクティブ」を売りたい〟と入っていっても意味がありません。

チームはデジタルスキルより文章スキルの高い社員をブランドマーケティングやカスタマーサポート、ハガキやDMなど紙媒体のクリエイティブを担当する部署などから5人で編成しました。編集方針で最も重視するのは、「自社商品を必要以上に強調しない」こと。ウェブ上にはさまざまな比較サイトがありますが、本当にニキビに悩む人の立場に立った時、他社商品も自社商品も関係ありません。

社員はどうしても仕事なので〝売り上げに貢献しないと〟という発想に陥りがちです。しかし、「プロアクティブが良い」とは一切書かなくてよいと伝えました。むしろ社員が自ら体験してどうだったかを重視しています。

――実際どういった形でサイトに掲載する記事を編集しているのでしょうか。

記事は「1キーワード、1ペルソナ」を決めてから編集しています。キーワードは、「ニキビ×おでこ」「背中ニキビ」など「ニキビ×○○」を基本に考えます。ネタに悩んだときは「プロアクティブ×くちコミ」など「プロアクティブ×○○」といったワードも使ってよいと伝えており、中程度のキーワードを攻めていこうと考えています。その方がニキビに悩んでいる人の温度感が高いからです。

例えばチョコが好きな社員であれば「チョコとニキビ」の関係を書いたりします。ただ、そのキーワードで調べている人がどんな年齢で、年収がどのくらいの人で、どういう気持ちで検索したのか、というペルソナをしっかりイメージした上でタイトルを決めます。例えば、「ニキビ×デコルテ」の記事のタイトルは「すぐにできるデコルテニキビの直し方、隠し方」となっています。

なぜこのようなタイトルになったかといえば、ペルソナとして設定されたのが〝友人の結婚式を間近に控え、デコルテにニキビができてしまった女性〟だからです。結婚式を控えている人を想定したので「すぐにできる直し方」を調べる必要があります。一方で、式までに直すことが難しいかもしれないと考え「隠し方」に関する情報も提供しました。実際にそのような方が存在するかどうかが大事ではなく、ペルソナを明確にイメージして書くことが重要だと考えています。

――ウェブ上にはさまざまな情報が溢れています。適切な情報を提供するため、どのように記事化しているのですか。

ウェブを使うのはキーワードに関してどの程度の方が関心を持っているか、検索ボリュームを調べるまでです。ただ、記事編集にあたっては、ウェブは活用しません。意図的に販売に結びつける情報などさまざまな情報が溢れており、これに引きずられてしまう可能性がるためです。

ですから、記事は、社内のスキンケアアドバイザーや外部の提携クリニックの医師に意見を窺ったり、これら専門家の方が推奨する書籍などで自ら勉強して書きます。ユーザーがどういった悩みを抱えているか、カスタマーサポートのスタッフにインタビューして把握することもします。ですから1つの記事の編集に時間がかかり、1人月2~3本の更新ペースです。安定期に月20本程度の更新ペースが維持できるようにしていきたいと考えています。

――これまでの運営で失敗例というのはありますか。

記事を編集する上でどうしても「プロアクティブ」寄りの記事になってしまったり気持ちが出過ぎてしまうことがあるのでその点は注意しています。また、日本での事例ではありませんが、同様のコンテンツマーケティングは米国が「アクネドットコム」というサイトで先行して行っていましたが、昨年、運営を止めた経緯があります。

問題は、実体験に基づく記事ではなく、自社商品やニキビについて客観的に説明しているサイトだった点だと考えています。専門医の方がニキビについて説明したりするのですが、どうしても法律上の制約があり、また、診断しているわけではないので客観的なアドバイスしか言えません。そうなるとユーザーはよく分からない。それよりも自分と同じ悩み持っている人がどうなのか、自分でやってみてどうだったかというのがお客様目線で見て正しい情報なのではないかと思います。

マーケットリーダーとしてニキビに悩む方のための情報サイトに

「ウェブ広告止める」

――「ニキペディア」の開始後、事業では実際どういった成果につながっていますか。

14年2月にサイトの運営を本格化しましたが、当時、3万5000件(ユニークユーザー数で2万7000件)程度だった週間PVが今では20万超まで増えています。

大きく違うのは「ニキペディア」経由で通販サイトで購入される方のコンバージョン率が1.2%ほどあること。関心の高いユーザーが訪問していることもありますが、通常のディスプレイ広告の運用では0.1%前後。購入単価も全体では平均5600円ほどですが、「ニキペディア」経由に限ると6400円になります。

成果が得られていることもあり将来的にはリターゲティング広告など一部を除くディスプレイ広告の出稿をなくしてしまうことも考えています。

――デジタルはすべて「ニキペディア」経由の顧客獲得に移行すると。

背景にはニキビケア化粧品特有の広告運用の難しさもあります。ニキビケア化粧品は、ニキビができなければ購入に至らないという特徴を持っています。だから、リアルタイムにニキビに悩む人を見つける必要がありますがリターゲティングを除くウェブ広告では〝買いそうな人〟は探せても、今、悩んでいる人を見つけるのは不可能に近い。

ただ、多くの女性は日常的にニキビの悩みを抱えており、ほとんどの人が〝買いそうな人〟として対象になってしまいます。そうなると、広告運用では「クリエイティブが駄目だ」「ランディングページを変えよう」と、込み入った世界に入っていきます。

ウェブ広告の運用はテクノロジー的な発想から効率化を図ろうとしますが、そこはPDCA(効果検証)を回す限り終わりがなく、コストも尽きません。それならば優良な自社メディアを作り、広告原資をお客様に還元した方が良いのではないかと考えています。

――実際、広告原資の還元という点ではどういった取り組みをしていますか。

例えばテレビCMなどでは行っていない「68%オフ」など高い割引率のオファーで訴求するなどしています。今はテストですが、ニキビに悩んでいる人が絶対ここに来る、という入口さえ作れれば、広告などにコストをかける必要がなく、そのコストをイニシャル原資に充てて商品を安く提供できます。今後、ダブルオファー(商品購入で2つのプレゼントをつけること)のテストも行っていきたいと考えています。

――今後の展望は。

1月から試験的にフェイスブック上に「ニキビ相談室」を開設しました。スキンケアアドバイザーの方に相談できるものですが、このコンテンツを通じて1to1マーケティングを実現したいと考えています。今までは記事を読んで納得して商品買う人もいれば、納得して終わりの人もいました。ただ、そこで納得しない方も多くいます。その方の温度を高くするために直接、質問できるサービスを始めてはどうかと考えました。

無料会員制にしてフェイスブックIDなどを取得し、広告運用に活用することも考えています。質問への回答も質にこだわり、チャット対応などで安易にアドバイスするのではなく、その方の悩みに丁寧に回答していこうと考えています。

――コンテンツマーケティングの将来像をどう捉えていますか。

企業発の情報サイトに集客することで広告費用を抑制できるのがコンテンツマーケティングになります。 た だ、現在、協力会社のシステムを通じて複数のウェブメディアにも記事がレコメンド配信されるようになっています。

これら記事をキュレーションサイトが拾い、そこからキュレーションサイトで記事を見た読者が「ニキペディア」に訪れる流れができています。現在はスマートフォンのトップページからの検索流入が中心ですが、検索以外の方法で集客できる手法が開拓できつつあります。

スマホトップページからの検索ボリュームが減っていくことが予想される中、今後、ユーザーの検索だけに依存してサイトを運営するのは危ういと感じています。

◇プロフィール◇

藤原尚也(ふじわら・なおや)氏
1996年4月にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に入社。TSUTAYAの店舗運営に携わったほか、ツタヤオンラインでEコマース事業やC&M事業、モバイルコンテンツ事業の統括を行う。その後TカードとTポイントを活用したデータベースマーケティング事業の立ち上げを経て、12年4月にガシー・レンカー・ジャパンに入社し現職。デジタル戦略、Eコマース事業の統括責任者を務める。

◇編集後メモ◇

日本での開業からわずか数年でニキビケアのトップブランドに成長したガシー・レンカー・ジャパンですが、競争環境が激化する中、ニキビケア市場はシュリンクする傾向にあります。ニキビは女性の8割以上が悩むものであり、その都度〝対症療法〟の形で化粧品が使われてきました。その中で強力な殺菌成分を含む「プロアクティブ」は高い効果実感を得ることができる商品として支持されてきました。ただ、対症療法的な使われ方は継続率が課題になります。「ニキペディア」が今後どの程度の存在感を発揮できるか注目されます。

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