Sun, August 25, 2019

広告に「取り消し」導入か、表示のクレーム増加に懸念【特定商取引法・消費者契約法の改正の行方】

      消費者委員会での検討会の様子

レポート①特商法改正の行方

ネット販売を含む通販ビジネスを規制する特定商取引法の改正に向けた議論が進んでいる。中でも、通販事業者に大きな影響を与えられる議論の1つが、ウソを表示する「虚偽広告」や、実際よりも優良と表示する「誇大広告」で売買契約を取り消できるようにするというもの。仮にこれが導入されれば、消費者からのクレームが増え、コスト負担や関連した訴訟が増える可能性がある。法改正に向けた議論のポイントと、事業への影響を探る。

特商法、5年ごとに見直し

法改正に向けた議論は、5年ごとの見直しが定められた特商法の規定に基づくもの。消費者委員会が今年3月に立ち上げた「特定商取引法専門調査会」で検討し、日本通信販売協会の佐々木迅会長が委員として参加している。

通販関連では、広告のほかに、アウトバウンド規制や仮想モールの責任、ネット広告などの規制強化を巡る検討が行われている。8月に中間とりまとめを行い、一定の方向性を示すようだ。

取り消しは消費者団体などが要望

今回の議論の中でも、特にネット販売事業者にとって影響が大きいと思われるものが、「虚偽・誇大広告」への返品ルールの導入だ。

特商法では、事実と異なる“ウソ”の表示や、著しく優良と表示して、消費者を誤解させてはならないと定められている。返品については、商品到着後8日間の返品できる制度はあるものの、破損やサイズ違い、初期不良など“商品”に問題があった場合に限定して運用している。

今回の議論の発端は、これを問題視した弁護士や消費者団体、学識経験者が「返品期間を限定する約款が見られる」「法律を知らない消費者が返品をあきらめてしまう」「広告に問題があった場合に、事業者に返品を求めることができない」などの意見からだ。要は、広告のウソや著しく優良とであるとした表示で誤認した商品については商品購入後も無条件で、返金を主張できる取り消しを導入するべきだとした。

昨今の特商法の処分事例を見る限り、通販の処分実績は少なく2014年度はわずか6件。危険ドラッグの通販サイトが対象で、販売事業者の責任者などの表示ルールの順守を求めており、「虚偽」「誇大」広告での処分は行われていない。都道府県も、特商法に基づいて是正を指示することができるが、14年に指示が行われていない。消費者庁は「取り消しは民事ルールとなるため、当事者間の交渉で解決を図るもの。ただ、法律に明記できれば、企業の法令順守意識が高まり、顧客サービスとしてインセンティブが働くことを期待する」と説明している。

行政処分と返金がセットに

「虚偽・誇大広告」を理由に返金を求めることができるのは、行政処分を受けた場合。消費者が「行政処分を受けた広告を見て誤認した」と説明できれば、事業者は返金に応じる必要が出てくる。

一方で判断に迷うのは、消費者の判断で誇大広告であることを理由に顧客が返金を求める問い合わせや、消費生活センターのあっせんで法律を根拠に返金対応を迫られる場合だ。

行政処分が行われていない以上、返金対応をするかは、当事者間での話し合いの中で決定していくことになる。消費者が表示から受けた印象だけで、誇大広告の事実を認定することは難しく、誇大広告を「誰が」判断するかが問題になってくる。消費者からの問い合わせや消費生活センターのあっせんで解決できなければ、返金を求める訴訟を提起される可能性もある。

さらに、懸念するのは特商法で定められている適格消費者団体の差止請求だ。最近ではライザップへの差止請求を行いメディアで大きく報道されるなど、その存在感は増している。

適格消費者団体は事業者に対して、法律に基づいて広告表示の改善を求める差止請求を行うことができる。要請に従わなかった場合は差止請求訴訟を起こすことが認められている。適格消費者団体の差止請求を受けて表示を改善したとしても、「誇大」広告であるかどうかの事実を認定されていない。消費者に返金対応するかどうかは事業者の判断に委ねられることになる。

裁判のリスクを抱えながらクレーム対応を行う企業の負担は大きくなる。返金を断ってトラブルに発展した場合のコストや業務負担を考えれば、返金の要求を飲む方が良いと判断する事業者が増えるかもしれない。

さらに、返品の多さを理由に取り扱う商品の幅が狭まる可能性がある。一般的に、返品の多い商品は取り扱いを中止しているが、新たなヒット商材を発掘するまでに時間がかかる。クレームが怖くて、新しい商品を取り扱う機会が失われることや広告が出稿できないなど、事業活動の委縮にもつながりかねない。

立法の必要性に疑問

果たして、法改正をしてまで、広告に返金ルールを導入する必要はあるのだろうか。

消費者庁が示す「誇大広告」の相談件数は、通販全体で1000件前後、ネット販売は300件で推移しているという。このうち、返品・交換を求める「解約」の相談は4割を占めていた。行政処分を受けたことを理由に返品を希望する消費者相談があるとし、立法の必要性を主張してきた。

しかし、特商法専門調査会に参加する事業者サイドの委員はこれに反発。JADMAの佐々木委員は「『誇大広告』は消費者の主観が影響するもの。JADMAの消費者相談では『誇大広告』に関する少なく、パイオネットのデータベースで1000件も出るのは不思議」と疑問を示す意見があった。

すでに相談の現場に寄せられている消費者の問い合わせは、必ずしも事業者に問題があるケースばかりではない。例えば「『静か』として表示して販売した掃除機がうるさいと言われた」や、「『スリムフィット』として表示してワイシャツを販売したが、スリムではないとして返金したいと言われた」といったものがある。

法改正についてメディアが大きく報道されることで、「誇大広告を主張すれば返金される」といった間違った認識が広がりかねない。無理筋なクレームが増え、パイオネットの相談件数は減らないばかりか、増える可能性もありそうだ。そうなれば、法改正は何の効果も持たないことになる。

8月をメドに中間とりまとめへ

特商法の改正を巡っては、8月に中間とりまとめを行う方針で、一定の方向性が示される。広告以外にも、仮想モールの規制の必要性や、SNSを使ったアポイントメントセールスに関する規制、アウトバウンド規制などが検討されてきた。ネット販売事業者にとっても関連する法規制なだけに、改正の行方を注視する必要がありそうだ。

広告の返金ルールを巡っては、関連する「消費者契約法」でも議論されている。「広告」を勧誘と捉え、不当な勧誘があった場合に、返金できるようにすることを検討中だ。消契法の結論を受けて、必要があれば引き続き検討することになりそうだ。

次項から、特商法の改正に大きな影響を与える可能性がある消契法の改正の行方を見てみる。

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