売り上げ50億から加速できる会社を目指す【ズーティー 今石雄介●代表取締役社長 浅野かおり●取締役/バイヤー】 

ファッション通販サイト「イーザッカマニアストアーズ」を運営するズーティーは「楽天市場」に出店して約13年経つが、ファッションカテゴリーでは常に売り上げランキングに登場するなど人気店として知られている。2015年は消費者のスタイリングの相談に乗るラボの開設や、着こなしを指南する書籍の発刊などオフラインの取り組みも目立つ。同社の今石雄介社長と浅野かおり取締役に、8月初旬に開催された「楽フェス2015」の成果や今後のネット販売事業の取り組みなどを聞いた。 (聞き手は本誌・神崎郁夫)

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「楽天ってファッションもいいよね」と言わせたい

楽フェスでチーム力底上げ

――最近は、オフラインの取り組みにも積極的です。初開催の「楽フェス」にも参加されました。

浅野 楽天が新しいことに挑戦しようとしているときに、「楽天市場」で長く商売をさせてもらっている当社が「自分たちは知りませんよ」という顔はできません。楽フェス開催に当たって開かれたサミットに数社が呼ばれ、当社もそのうちの1社でした。いざ話を聞いてみると、楽フェスに参加するのにはたくさんの課題がありました。くに最初は、ファッションカテゴリーのブースはショールームの役割だけで、物販はないということでした。楽フェスにスタッフを張り付けて売り上げが立たないのでは、EC事業者にとっては厳しいイベントになると感じました。最終的には責任感から参加を決めましたが、物販も含めていろいろと意見を聞いてもらいました。

――こうしたイベントで利益を確保するは難しいと言われます。

今石 率直に言って採算の問題ではありません。当社が参加を決めたのは、「イーザッカマニア」の名前を広めたかったからでもありません。リアルとネットの融合をテーマに楽天が初めて企画した大型イベントですが、グルメは「うまいもの大会」での経験からある程度の成果を見込んでいたものの、ファッションは未知数だったはずです。当社が参加せず、意見も言わずにいて、「楽天市場は食品や消耗品を買うのは良いけど、ファッションはちょっと違うな」とイベントに来た消費者に思われてはファッション領域で商売をする当社にとっては痛手です。当社が犠牲になるくらいの覚悟で参加を決めました。

浅野 楽天市場が悪く言われることは当社にとても面白いことではありません。「うまいもの大会は良いけど楽フェスは…」となってしまったら自分たちの首を絞めかねません。当社の場合は神戸から毎日スタッフを送り出しましたし、商品の手配など後方支援も含めると楽フェスには約15人のチームで参加しました。来場者がブースを見て「楽天市場ってファッションもいいよね」と言てもらえるように頑張りました。

――出店ブースではどんな取り組みをされましたか。

浅野 売り方としては、詰め放題企やタイムセール、フィッティングルームを予約できる大試着会、着こなしの相談に乗る「ズーティースタイリングラボ」の楽フェス版としてプチラボを設置したりもしました。楽フェス開催期間中に通販サイトで使えるクーポンが当たるスクラッチカードを配布しましたし、手作業で売り上げを作っいった感じです。

――大所帯での参加ですね。

今石 今回は楽フェスに参加したいスタッフに挙手してもらいました。メルマガやシステム担当者、ウェブデザイナー、実店舗の販売員、新入社員まで部署の垣根を越えて集まり、ブースのデザインから企画までメンバが自主的に決めました。実際に消費者と向き合って、普段は見えにくい購入まの過程を体験すると物販の重みが分かります。そうした経験が少なからず通販イトに反映されるはずです。部署をまたいだチームですので、今後は会社全体の底上げにつながればいいですね。いまや楽天のスタッフも「楽天市場」が有名になってから入社した社員が多くて、出店すれば売れる、イベントでブースを構えれば売れると思っているスタッフも少なくありません。そういう立ち位置ではダメで、彼らも物販の難しさを楽フェスで実感できたのではないでしょうか。

――第2回に向けての要望はありますか。

浅野 楽フェスが「うまいもの大会」の延長ではなく、いかに“お買い物フェスティバル”にできるかが大事ですね。今回はフラッと来ているお客さんも多かったと感じています。もっと朝から晩まで楽しめるイベントになっていけば、わざわざ東京まで駆けつける人も増えるのではないでしょうか。

“らしさ”復活へサイト大幅刷

――ECの課題はありますか。

浅野 「イーザッカマニア」はそこそこ知られるようになりましたが、他店から言われるほどうまくいっているわけではありません。メルマガもトップページもすべてが悪くはないですが、“まあまあです。不便なことはないですが、面白いかと言われるとそうではありません。これまで、スタッフが取り組んでいるこに対して『ダメだ』とは言いませんでした。すると、そのスタッフは下の子にも同じように任せてしまいます。「悪くはない」ということが指標になってしまい、こんなことをしたら面白いけれど、お客さんに怒られるかもしれないことはやらなくなり、結果的に面白くなくなっています。

――キレイにまとまっているようにも見えます。

浅野 知人から増改築を繰り返した旅館みたいと言われたこともあります。良かれと思って宴会場や大浴場を作ったのに動線が悪くてうまくいっていない感じです。そうであれば、すべて壊して新築にした方が良いものができます。そこで最近、「私がメルマガを書くし、トップページも作り直すから、これまでのデータのバックアップをすべて消すよ」と宣言したら、スタッフも腹をくくったようで、「多少のアンチ(イーザッカマニアの消費者)が出てきても、自分たちが面白いと思うことをやります」と言ってくれました。

――刷新する怖さはないですか。

浅野 おかしなことになるかもしれませんが、それはそれでしょうがないです。これまでのように小手先だけの取り組みではうまくいきません。中途半端なことばかりしてきた恥ずかしさを感じています。大きく変えて“新生イーザッカマニア”を作りたいと思います。商品にはこだわりを持っていますので、見せ方を変えていきます。

――メルマガも変えるのですか。

浅野 誰もが担当できるような、のっぺらぼうなメルマガを配信するよりも、「なんなの、この子は!」というくらいキャラクターが立っている子がメッセージを送った方が読者に伝わるものです。いまは覚悟を決めたスタッフのやりたいようにさせます。ただ、社長はヤキモキしていると思います。

今石 仕事が引き継ぎベースになっているのは感じています。リスクがありそうなことはしなくなり、お客さんとの距離感が生まれてきています。お客さんに近寄り過ぎたらひけばいいのですが、最初から一定の距離をとって接客していると感じます。8月に開催した「楽フェス」には当社のメルマガ担当者なども参加していますので、実際にお客さんと接したことで意識が変わればいいですね。過去にやったことのアレンジばかりでは、「イーザッカマニア」の面白味がどんどん薄れてしまいます。商品へのこだわりは変わらないですし、サービスややりたいこと自体の本筋も変わっていないので、どのように壊されても怖くはないです。実際に、核となるメンバーが育ってきたタイミングでもあるので、今なら全部壊しても何とかなると思います。

不謹慎でも“仏滅セール”くらいのインパクト出す

――企画についてはどうですか。

浅野 以前、サイト上で“仏滅セール”というのを実施したことがあります。いま思えばすごく不謹慎ですが、とくにクレームはなかったですし、お坊さんから怒られたわけでもありません。仏滅セールは、当時、別の会社で働いていたスタッフの記憶には鮮明に残っているようで、今こそそういうインパクトが欲しいですね。ユニクロさんが仏滅セールをやったらSNSで炎上して、夕方のニュースで流れそうですが、当社くらいの規模感だからこそできることがあるのに、この数年はそういうメリットをまったく生かせなかったと思います。

オリジナル商品が成長をけん引

――2015年9月期の成長率はどうなりそうですか。

今石 伸びるのは間違いないです。10%伸びるかどうかで、40億円前後での着地といったところです。ただ、アパレルの9月と言えば秋シーズンの立ち上がり時期で、残り1カ月の状況にもよりますね。

――今期はどんなことに重点を置いてきましたか。

今石 人に力を割いた1年でした。上のスタッフがやればもっと伸びたかもしれませんが、人と組織を作ることを優先しました。この先、もっと伸びるタイミングがくると思っていて、そのときに機能する組織を作っています。50億円の売り上げは作れる感覚はあります。普通は踊り場と言われていますが、その水準からグンと加速したいですね。

――オリジナル商品の取り組みについてはいかがですか。

今石 オリジナルの型番数は全体の3~4割程度ですが、今後の成長をけん引するのはオリジナルで、この秋冬シーズンからかなり強化しています。最初は、メーカーから「できない」と言われたら諦めるしかなかったのですが、生産の現場に入り、なぜできないのかを詰めていくことで、「こういう形ならできるのでは」と一歩踏み込めるようになりました。今までならできなかった商品のサンプルが届くと、サイト運営スタッフも興奮します。売る側がそれだけ思っている商品は消費者にも伝わります。商品の企画・デザインを仕入先業者に任せるODMから、当社で商品企画を行って生産を依頼するOEMにもっと近づけたいですね。

――今後、チャレンジしたいことはありますか。

浅野 神戸の中心から車で30分くらいの場所に、80歳くらいのおばあちゃんたちが楽しく、おしゃれに働ける場所を作りたいですね(笑い)。低カロリーのきんぴらがすごくオシャレなトレーで出てくるような店ができたら面白いですね。おばあちゃんたちが「もっと生きたい!」と思えるようなお手伝いがしたいです。収支が成り立つなら、シニア事業部のような部を立ち上げてもいいですね。最近、独身のスタッフが家庭菜園に凝っていて、ボタニカルカフェをやりたいと言っています。スタッフが本気でそう思ったときに、挑戦させてあげられる会社でありたいと思っています。そのためにも、本業でしっかりと利益を出さないといけません。

今石 ECは人と人のつながりがないようにみえて、実際には人と人、会社と会社のつながりが非常に大事です。つながりを楽しめる人たちと付き合っていければ会社も成長できると思っています。

◇プロフィール◇


今石雄介(いまいし・ゆうすけ)氏(写真左)/浅野かおり(あさの・かおり)氏

2002 年3月にふたりで有限会社ズーティーを創業。現在、通販サイトは「イーザッカマニアストアーズ」と「ファブリカ」を公式サイトと楽天市場、ヤフーなどのネットモールで展開。実店舗は「zootie」「fablica」を神戸と大阪、横浜を拠点に7店舗展開するほか、14 年には東京事務所設立と同時に消費者のファッションに関しての悩みをスタイリング提案で解決する新しいサービス「zootie styling lab」を
スタート。業理念は“テンション高めの女子をつくる”。


◇取材後メモ◇

今石社長も浅野取締役もいまの「イーザッカマニアストアーズ」には満足していないようで、「すべてが、まあまあ」と言います。“仏滅セール”といった多少不謹慎な企画など、100人中100人が賛同してくれなくても熱狂的に喜んでくれる人が何十人かいればいいという凄みが以前の「イーザッカマニア」にはありました。アンチが生まれない企画やメルマガに終始し、面白味が薄れている現状を打破するために、今期はトップページやメルマガなどを一新するようです。同時に、組織やインフラの強化を進めていて、ひとつの踊り場とも言われる売り上げ50億円の壁を突破し、「一気に加速スピードを高めたい」という同社の動向に今後も注目が集まりそうです。

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