Sat, December 16, 2017

消費者庁、健増法を初適用 ―― ライオンのトクホに「勧告」

問題となったトクホ飲料の広告

消費者庁は今年3月、ライオンが販売する特定保健用食品(トクホ)に対し、健康増進法の虚偽誇大広告に基づく「勧告(行政指導)」を行った。トクホに行政指導が行われたのは初めてだが、健増法の適用も初。今回の措置は、消費者庁が健増法の運用を変えてきたことを示している。加えて、健増法は、その適用対象を「何人も」としており、販売者だけでなく、新聞やテレビ、ウェブ、広告代理店もその対象にする。勧告が媒体社の萎縮を招き、〝間接的〟な広告規制につながる可能性もある。健増法は4月から「勧告・命令」権限が地方自治体に移譲されることが決まっているが、今回の法適用で何が変わるのか。

「診療機会の逸失」が判断基準

2002年の制定以降、健増法の「勧告」は行われたことはない。なぜ、今回、適用できたのか、そこから整理したい。

今回、対象になったのはライオンが通販していたトクホ飲料「トマト酢生活トマト酢飲料」の広告。広告では、ヒト試験結果のグラフとともに「驚きの『血圧低下作用』」「薬に頼らず食生活で血圧の対策をしたい」といった表示を行い、昨年6月から今年1月末までに約4億7000万円を売り上げていた。

ライオンのトクホ飲料「トマト酢生活トマト酢飲料」

ただ、トクホとしての許可表示は、「血圧の高めの方に適した食品」という範囲。あたかも血圧を下げる効果があると許可を受けたかのように表示していたこと、薬によらず改善効果が得られるかのように表示していたことが許可表示からの〝逸脱〟と判断された。
これまで「勧告」が行えなかった理由は、「国民の健康に重大な影響を及ぼす」という、その要件にある。極端なイメージでいえば、これはガン患者がその広告を見たがゆえに治療を受けなくなる、といった事態を指す。それほど重大な事態の認定は難しいためこれまで適用例はなかった。

だが、今回、消費者庁はそのハードルは大幅に下げてきたとみられる。「健康に重大な影響」とは何か。執行を担う「食品表示対策室」では、健増法の運用指針にある「重篤な疾病を持つ患者が(略)診療機会を逸する(こと)」という解釈を使った。

「高血圧」は薬による治療が必要な病気だが、血圧に作用するライオンのトクホの故国を見た患者は、病院に行かなくなると判断したわけだ。

景表法踏襲も媒体社名は

非公表表示関連の法令といえば、健増法のほかに景品表示法がある。二つの法律の違いはその重さだ。

景表法違反は、行政法上の〝処分〟にあたる「措置命令」、健増法は同〝指導〟にあたる「勧告」が適用される。「勧告」に従わない場合、処分に相当する「命令」が下されるというワンクッションがある。

では「勧告」を受けた事業者は何を求められるのか。今回、健増法による「勧告」は初めてであるため、これが前例になる。

消費者庁では、ライオンに問題となった表示の是正とともに、消費者・従業員に対する違反行為の周知、再発防止策の実施を求めた。これを受けてライオンは全国紙2紙に社告を掲載している。これら指導の内容は、ほぼ景表法の措置命令と同じだ。
一方で、異なるのは新聞やテレビなど媒体社への影響だ。

主に販売者をその適用の対象にする景表法では、措置命令に際し、広告を掲載していた媒体社などの名称もつまびらかにされる。一方、健増法の適用対象は「何人も」。その対象は文字通り、新聞社や放送局、雑誌、広告代理店も含まれる。今回、消費者庁は「処分」ではなく「指導」であることを理由に、媒体社名を公表しなかった。公表された媒体社に影響が出ることを考え、慎重な判断を行ったとみられる。

「トクホより健食の方がやりやすい」

ただ、今回の「勧告」に、業界からは早くもこれを非難する声があがっている。多大な費用と労力をかけ、健康食品と異なる「トクホ」として売り出した商品であるにもかかわらず、措置の対象になってしまったためだ。事業者からは、「血圧低下をヒト試験で実証したのに『著しく誤認』で社名公表はひどい」「これなら健食の方がやりやすい」といった声が上がっている。また、口頭指導など行わず、いきなりの「勧告」であったことにも「指導を繰り返したのに直さないなら分かるが、いきなりの勧告はあまりにひどい」といった声が上がっている。

媒体社への圧力強め、広告を川上規制

消費者庁の狙いの一つは、機能性表示食品に対するけん制にあるとみられる。企業の自己責任を前提とする制度の導入で今後、さまざまな表示を行う商品が生まれてくるとみられる。すでに250件前後の商品の届出が受理され、さまざまな機能をうたっている。これより上位に位置するトクホの表示を規制することで、新たに始まった機能性表示食品も〝聖域〟ではなく、健増法を適用するという意志を示そうとしたとみられる。

もう一つが媒体社への圧力だろう。キャッチコピーなどを多用する広告ではなく、より「容器包装」に近い表示、いってしまえば〝つまらないけれど法律に沿った表示〟に世の中を導く最も合理的な方法は何か。販売者ではなく、より川上の媒体社を規制することによって広告の適正化を図ることだ。行政コストの削減も同時に達成できる。市場に魅力のない商品が溢れ、事業活動が停滞したとしてもだ。

健増法ガイドラインも変更へ

これを裏付けるかのように、今回の「勧告」と時を同じくして、消費者庁では、健増法の運用ガイドラインの改定も行っている。その内容は、「何人も」の内容をより明確に表記すること。これまでその説明について「製造業者、販売業者に限定されない」としてきたのを「新聞社、雑誌社、放送事業者等の広告媒体事業者等も対象になり得る」と踏み込んだ。当然、その中にはウェブも含まれる。この改定に関係者の間では「媒体社への完全な脅し」といった見方が広がっている。景表法は4月から課徴金制度が導入され、罰則が一段強まるが、口頭指導ベースの運用が中心だった健増法も指針を改定することにより、販売者を取り巻く媒体社など周辺事業者へのプレッシャーを強めているといえる。

業界団体は一斉に抗議

機能性表示衣食品制度はまだ始まったばかり、制度化から20年が経過したトクホもようやく消費者に浸透してきたところだ。これら制度が国民の健康に寄与する制度に成長できるか、その成否はまだ定まっておらず、非常に重要な時期にある。にもかかわらず健康長寿社会の実現を目指す政府方針を無視して規制強化一辺倒の施策を進めれば、市場は間違いなく冷え込むことになる。

現在、健増法の運用ガイドラインの改定に新聞や放送、雑誌、広告業などさまざまな業界の団体が声を上げ、反対を表明している。過去には、こうした声を受けて行政が似たような「何人も」の解釈を明記することを諦めた経緯もある。健増法を巡る行政の動きを注視しておく必要がある。

Share This :

Twitter Delicious Facebook Digg Stumbleupon Favorites More

Comments are closed.