「LOHACO」のスマホサイト、AIで顧客対応開始 ―問い合わせ内容に応じ“表情の変化”も

チャット形式で利用者の質問に回答するAI型チャ ットボット「マナミさん」をPCサイトに続き、ス マートフォンサイトおよびアプリにも導入した

アスクルは5月18日から、運営する日用品通販サイト「LOHACO(ロハコ)」のPCサイトで導入する人工知能型チャットボットによる顧客対応をスマートフォンにも導入、同時に問い合わせ内容や時節に応じた文面を表示するなど新たな試みも始めた。PCサイトでは一昨年から導入を始め、顧客からの問い合わせに対し、人工知能エンジンがチャット形式で回答する試みを行い、営業時間外でも対応できるなど利便性向上や顧客対応のためのオペレーターの省人化などに効果を上げているよう。メインのスマホサイトおよびスマホアプリへの導入でさらなる顧客対応の強化による利便性アップなどにつなげたい考え。今後、スマホでのならではの対応として音声での質問対応の実施なども視野に入れているようだ。


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“マナミさん”が対応

「ロハコ」では売り上げ拡大に応じてカスタマーサポート体制を強化するため、サイト立ち上げ時から実施してきたメールベースの問い合せのほか、電話による
顧客対応の導入を検討、それと同じタミングで単純な質問は利用者自身で自己解決ができるよう2014年9月から、ユニバーサルエンターテイメントが開発した人工知能で自然言語の意味を理解して最適な返答をするエンジン「CAIWA(カイワ)」をベースに、顧客からの質問に対応した“回答”を表示する知能型チャットボットをPCサイトでまず導入した。既存のFAQの回答文をベースに様々な想定質問およびその回答をアスクル側で用意。利用者からの質問を言語解析して、それに合致する回答を表示する仕組みだ。PCサイトのトップページ下部の「お問い合わせページへ」というバナーから誘導した「お客様サポート」のページで顧客の問い合わせにあたかもオペレーターと会話しているようなチャット形式で対応するもの。
導入当初は利用率が伸び悩んだようだが、スタートからおよそ3カ月後には「チャットボット」を、「LOHACOお客様サービスデスク」に勤務する架空のオペレーター「マナミさん」とキャラクター設定し、親しみやすさを醸成したり、質問を入力する質問窓の上部に「よくある質問」を表示したり、日々、寄せられる質問内容を研究し、それに合致する回答を多く用意するなどの使い勝手の工夫などで「解決率」なども高まり、当該サービスの利用率は次第に増えた。これにより、スタッフが対応できない夜間などの時間帯でも問い合わせに対応できるようになったほか、よくある問い合わせや簡単な質問は人工知能が対応することでオペレーターはより高度な問い合わせや顧客対応の質向上に注力できるようになり、顧客満足度が高まったという。

なお、現状、顧客からの問い合わせのうち、約3分の1は「マナミさん」が対応しているという。「(ロハコの売り上げ拡大に応じて)問合せ件数は増えており、本来はオペレーターを増やさなければならないところを『マナミさん』が対応することで、人数はそのままで対応できている」(同社カスタマーサービス&エンゲージメント カスタマーリレーションシップマネジメント・蛯原一朗マネージャー)とし、このことによる省人化効果は6.5人分になるようで、コスト削減にも効果を発揮しているようだ。

スマホ導入、より人間らしく

PCサイトで効果を上げた「マナミさん」をスマホサイトおよび専用アプリでも5月18日から導入。PCサイトに続き、主力のスマホサイトおよびアプリでの導入で顧客対応を強化したい考えだ。今のところ、スマホでの問い合せのうち、「およそ10%を『マナミさん』が対応しており、スタート直後としては悪くない利用率」(同社カスタマーサービス&エンゲージメントカスタマーリレーションシップマネジメント BtoC運営担当・岡田祐磨氏)となっているようだ。
なお、スマホへの導入と同時にこれまでは実施していなかったイラストで表示される「マナミさん」の表情を質問内容に応じて、にこやかな表情から厳しい表情に変化させたり、時間帯によって「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」と使い分けたり、これまではあまり対応してこなかった「父の日ギフトにおすすめの商品は?」などサービスに対する問い合わせでないものについても、ロハコ上で展開する父の日用ギフトの専用コーナーなど「季節の特集」へのリンクを付けた案内を回答文に盛り込むなど新たな試みも始めた。今後はログイン後の利用者に対しては名前で呼びかける試みなども始める考えだ。
「まだまだできることは色々とある」(蛯原マネージャー)とし、将来的にはスマートフォンの特性を活かして、音声入力に対応して声による質問に音声で回答したり、自動学習する新たなAIなどを導入し、AI独自の回答を表示するなどの試みの実施なども構想にはあるようだ。

【担当者に聞く】人工知能型チャットボット「マナミさん」導入の狙いと現状、今後は?

「まだ今が最終形ではない」

「ロハコ」に導入し、効果を上げているというAI型チャットボット「マナミさん」。導入からの現状や今後について、同社の蛯原一朗氏㊧と岡田祐磨氏に聞いた。

Q:「マナミさん」の導入の経緯を教えて下さい。

蛯原:「ロハコ」でのお客様対応はお問い合わせフォームからメールで質問頂き、メールで返答する形でしたが、「ロハコ」の売り上げの伸びに伴って、お客様からは電話での対応を求められていました。ただ、電話対応を始めると同時にFAQも強化したいと考えました。わざわざ電話をしなくとも自己解決できるようにすることでお客様には好きなチャネルでお問い合わせを頂ければという想いと、単純な質問などは電話で対応することなく、本当に人でなければ回答できないような質問にこそ電話で対応すべきと考えたためです。コスト的な観点でも極力、単純な質問の電話対応は減らしたいとも考えました。そこでFAQを強化するためにどんなソリューションがよいのかと色々と検討した結果、バーチャルエージェント(VA)を呼ばれるテキストチャット形式で、会話をしながら質問を深堀し、回答まで行き着く新しいタイプの「CAIWA」と呼ばれるエンジンでした。自己学習して回答を表示するタイプのAIもあったが、我々が自ら作成したFAQの利用頻度を上げることでその価値を最大化したいという想いが強く、その際に一番、連携を取りやすいASPであった「CAIWA」を当時はスマホよりもPCサイトの利用率が高かったので、2014年9月からまずPCサイトに導入しました。

Q:導入後の成果はいかがでしたか。

蛯原:導入から3カ月くらいは成果が出ず、苦労しました。セッション(利用)数が伸びず、それが伸びませんと質問に合致する適切な回答を検証するなどの精度アップもできないし、電話での問い合わせを軽減するという目的も果たせられないわけです。そのため、スタート当初は設定していなかったのですがVAを「マナミさん」というキャラクターとして設定し、会話の内容に合わせて表情を変えたり、FAQの延長上だった会話も「ですね」など語尾を砕けたものにしたり、解決方法を掲示する前に「申し訳ございません」などのような会話を入れたりしました。また、質問を入力する欄の上に「よくある質問」を表示したことで親しみや使い方などを理解頂き、セッション数が伸びていきました。また、回答文の精査を繰り返したことも大きかったです。特に2015年の初めのころに、最も問合せが多かった「領収書」に関わる質問に対する回答を徹底的に手当したことで会話後に表示する「問題は解決しましたか?」という問いに「はい」を選択したユーザーの割合である「解決率」が大きく増えました。現在では「マナミさん」が全問い合わせの1/3を受け、それによる省人化効果は6.5人分となっています。売り上げの伸びに合わせて問い合わせ件数も増えており、本来であれば、顧客対応のためのスタッフを増やしなければいけないところ、人を増やさずにすんでいることは大きいです。

Q:質問に対する回答の精度は?

岡田:お客様の質問に対して、何かしらの答えを当てる比率は98%程度です。
その先の実際の回答が適切だったかという「解決率」は直近でPCで6割弱、スマホでは66 ~ 67%です。
岡田:精度を高めるには回答数を地道に追加していくことと質問のグルーピングが必要です。スタート時点での回答数は200でしたが、現在では400まで増やしました。加えて、内容も精査を繰り返しています。あとはサービスに対する問い合わせだけでなく、興味を持ってもらうために「年齢はいくつ?」「好きな色は?」などのスモールトーク(雑談)にも対応してその回答も100以上は用意しています。また、質問について、例えば商品に破損があった場合、「壊れていた」や「傷ついていた」など様々な表現がありますが、それに対する適切な回答は「商品が不良だった際について」ですから、それらをグルーピングすることによって、言い回しが異なる質問でもしっかり適切な回答が当たるようにしていきます。

Q:今後の方向性を教えて下さい。

蛯原:スマホに「マナミさん」を導入したタイミングで“親しみやすさ”をもう少し出したいと考え、質問の内容によってマナミさんの表情が変わって笑ったり、申し訳なさそうな顔に変化するようにしました。また、午前4~ 11時までは「おはよう」、午前11 ~午後5時までは「こんにちは」、午後5~午前4時までは「こんばんは」と時間帯によって挨拶を変えました。また今年に入り、テスト的に開始していたクリスマスなどイベントごとの特集の案内も本格的に行い始めました。これまではお客様のお困りごとを解決するというところのみでしたが、これまでにイベントの際にギフト用商品を探されているであろう人の質問が一定数ありまして、それに対応することにしました。特集の内容とそのページへのリンクを設けて遷移を促すものです。また、ログインされた会員には名前で呼びかける試みも今、実施に向けて準備しています。まだ今が最終形ではないと思っています。例えばですが20代ではスマホで検索する際の音声入力は当たり前になっていますから、そこへの対応も実施していきたいです。

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