Tue, October 16, 2018

オムニで価値観に共感する顧客を増やす 岩間建作●クオカプランニング 代表取締役

製菓・製パン材料のネット販売を行うクオカプランニングはオムニチャネルの取り組みを積極化している。岩間建作氏が社長に就任した2015年9月以降、店舗やネット、卸、キッチンスタジオを繋ぐオムニチャネルを推進。統一した空間で共通のメッセージを発信する。あわせて、マーケティングオートメーション(MA)や人工知能(AI)などの新しいツールの導入も積極的に進めている。岩間社長は「価値観に共感する顧客を増やす」と話す。同社が目指すオムニチャネルとは──。

動画で 疑似体験、「私もできそう」を喚起

どの接点でも「クオカ」は「クオカ」

――オムニチャネルについて基本的な考え方は。

オムニチャネルの前提として、当社のミッションを「料理を楽しむ“クオカ(料理人を意味するイタリア語)”を創出し、クオカ(ユーザー)が他のクオカ(ユーザー)を連れてくることを目指す」と明文化しました。当社のスタッフは“クオカ”の象徴として事業を進めることをミッションとしています。

オムニチャネルを考えるときに、最も大切にしていることは、手作りの温かさや安心感と、新しさの両立です。手作りのノウハウや良さを分かっている人たちが手掛けるビジネスであるという考えをベースに、新しい提案をする必要があると考えています。

昨今、新しい技術は多くあり、マーケティングオートメーション(MA)や人工知能(AI)なども活用すれば面白い展開ができると期待しています。ですが、技術に注目しすぎてしまうと、温かさや安心感のないサービスになってしまいます。

とは言え、自宅でもプロ並みに手作りできることを追求した商品やサービスだけを展開していては、新規顧客にとっては敷居が高くなってしまいます。ですので、トレンドに合わせて新しい技術を取り入れていく必要も、一方ではあると考えています。

――目指すべきオムニチャネルの形とはどのようなものでしょうか。

当社はネット販売や実店舗、クッキングスタジオ、卸の4チャネルをもっています。お客様を中心に、4つを繋ぐオムニチャネルを目指したいと考えています。お客様にとってどのチャネルでも「クオカ」は「クオカ」であるべきです。接点によってブランドイメージが違うことや、お客様がクオカの製品と気が付かないまま購入し利用しているなど、そういったことをなくしたいと考えています。

――すでに着手していることがあれば教えてください。

ネット販売や実店舗、スタジオで、色使いなど統一したルールを定めて空間を統一しました。統一した空間の中で、季節の提案など共通したコンテンツを発信しています。
具体的には9月末に旗艦店の「自由が丘店」をリニューアルしましたが、リニューアルのプロジェクトの中で色使いのルールを作りました。各チャネルで同じトーンになるようベースとなる色を決め、季節ごとに使用できる色を限定しています。他社とのタイアップなど既存の4チャネル以外の新しいきっかけで接点が広がることも想定しており、どのチャネルからでもしっかりとクオカに気が付いてもらうようにしました。

日常の中で手作りのきっかけを増やす

――統一した空間の中でどのようなコンテンツを展開していくのでしょうか。

何気ないキュレーションの中でユーザーには「面白そう」「私にもできそう」「やってみたい」と思ってもらうことが重要だと考えています。秋の販促では、通販サイトと実店舗で、「モンブラン」を作る動画を作成して配信しました。手作りの雰囲気や疑似体験を動画で提供し、動画への共感を購買のきっかけにしたいと考えています。

――これまでも「YouTube」を使って動画を公開していたと思います。どのような違いがあるのでしょうか。

今回、進めているのは、40秒程度のショートムービーの活用です。手作りの雰囲気を伝え、疑似体験を通じてイメージを持ってもらうための施策です。
ユーチューブでこれまで公開していた動画は数分~十数分のものがあり、作り方の手順やコツを説明するものでした。作るものが決まっている人や作り方を調べている人など、手作りの意欲がすでに高い人には良いと思います。ですが、迷っている人やイメージが固まっていない人に長時間の動画を視聴してもらうにはハードルが高いと思います。日常の中で、なんとなく目にとまり、「作ってみようかな」「私もやってみよう」と気が付いてもらうことは重要だと思っています。

徹底して行った結果として収益を追う

――動画はどのように売り上げにつなげていくのでしょうか。

レシピ動画サイト「デリッシュキッチン」と連携して、チーズケーキを手作りする動画を公開しています。チーズケーキの動画の再生回数は約40万回と多く、好評だったと思います。
動画と連動して、レシピに使用したリジナルの道具の売れ行きは良いものでした。また、道具に記載していた「クオカ」のブランドロゴも視聴中はずっと見える状態だったのでブランドの認知度も高まったと思います。

とは言え、瞬間的な収益を狙ったものではなく、あくまでも手作りするイメージや疑似体験を通じて、ユーザーに共感してもうことが重要だと思っています。共感してもらう取り組みを徹底的に行った結果として、収益をあげていくわけです。動画はタイムラインで流れてしまいますがウェブ上にストックが増えますので、視聴をきっかけにお客様の手作りへの関心を高めることができればいいと思います。

「ライン」でコミュニケーションを深める


――最初にオムニチャネルについて、お客様を中心に4つのチャネルを繋ぐというお話がありました。具体的にどう繋ぐのでしょうか。

ソーシャルメディアを使いながら、オムニチャネルを展開しやすい環境を整えていこうと考えています。オムニチャネルは顧客のデータベースを統一したり、人物の位置特定、在庫連携などさまざまな方法はあると思いますが、実現するには時間がかかります。
まずは、すでに当社が持っている既存の接点を活かしつつ、新しくソーシャルメディアでコミュニケーションする形で着手していくことが最適だと考えました。今年のバレンタイン商戦で構想しているものですが、手作りキットの外箱にQRコードを記載します。ユーザーは無料通信アプリ「ライン」のアカウントを通じてレシピ動画を視聴することが可能です。一度アクセスしたユーザーは今後、リターゲティングで接点を増やすことができます。卸販売とネットをつなぐことで、オムニチャネルを実現したいと思います。

――動画を視聴のきっかけを作ることは簡単ではなさそうですが、どうやって誘導するのでしょうか。

バレンタインは誰かにあげるために作るので、失敗したくないと考える人が多いと思います。キットは材料がセットになっており、簡単な手順で失敗せずに作ることが可能です。キットを選ぶユーザーは絶対成功したい気持ちがあるので、デバイスを持っている人のほとんどが失敗を回避するために、事前に動画を視聴すると予想しています。

バレンタインの手作りキットは卸販売を中心に15万個を販売するヒット商品になっています。リターゲティングによって顧客化を進め、15万の接点を有効活用していこうと構想しています。

――ソーシャルメディアをどう活用するのでしょうか。

手作りの製菓・製パン材料を販売するので、お客様にとっては作るプロセスがあるわけです。作る前の不安や心配事、失敗した体験や難しかったことなどすべての体験を、レビューやくちコミ、SNSで発信してほしいと思います。お客様1人1人に違った体験があるはずなので、ソーシャルメディアにそうした情報が増えればいいと思います。

直近では、今秋のハロウィンでは、SNS「インスタグラム」の投稿を促し、投稿された画像を通販サイトで紹介する試みを行いました。今後も、お客様が投稿できる「場所」をしっかりと整える必要がありそうです。

AIで顧客 ニーズや背景を踏まえた接客を構想

今夏から離脱抑制でAIをテスト導入

――AIなど新技術の活用をする計画はありますか。

中長期の計画の中ではAIを接客で活用することを盛り込んでいます。今夏から実験的にAIを導入し、実験を開始しています。AIがスクロールやスマホのスワイプの動作を解析し、あと一押しで購入しそうなユーザーを見つけてクーポンを出すという試みをしています。AIを活用した場合の方が、なにもない場合と比べて購買率が高い結果が出ています。
ただ、今後検討が必要かなと思っているのは、アウトプットをクーポンにしていることです。お客様が、迷うとクーポンをもらえることに気が付いてしまうと、“クーポンを待ち”をしてしまう恐れがあります。今後、購買の一押しの一手としてクーポンじゃないやり方を模索する必要もあるかもしれません。お客様の買い物が楽しくなるような仕掛けを実現できれば、リピート率や購入単価のアップにもつながると期待しています。

――将来的に、AIは接客での活用を構想しているとのことですが、どのようなイメージなのでしょうか。

ぼんやりとしたイメージを持ったお客様に、その人の背景や生活リズムから導きだして提案するような接客を、MAとAIを組み合わせて行おうと考えています。ユーザーの動機やニーズだけではなく、サイトの閲覧履歴から生活リズムを解析して、読んでいるコンテンツを掛け合わせると、一人ひとりの姿が見えてくると思います。そうして見えた姿にあわせて、レシピやコラムなどを提案するアプローチができれば面白いと思います。人による接客では、そういった導きができていますよね。例えば店舗では、お客様は「来週は来客があるし、なにか手作りでもしてみようかな」と目的があいまいな状態で来店します。店舗のスタッフが、「先週来店したほかのお客様はこんなことをしていました」などと案内していくうちに、「私もやってみようかな」などとお客様の中の漠然としたイメージが固まるわけです。


共感生まないセールを減らす

――就任して1年が経ちました。ネット販売の課題を教えてください。

クオカプランニングは創業15年の歴史がありますが、これまでに蓄積されたコンテンツが有効的にビジネスに活用されていませんでした。例えば事業間の連携がなく、売り上げを上げるアセットとして価値を生み出せてはいませんでした。これを1年目で整えるべく動きました。スピード感はまだまだ足りない気もしていますが、1年前からすると今の時代に合った形に整ってきたと思います。

――ネット販売事業は今後、どのように拡大していく計画でしょうか。

ネット販売の中長期の目標として顧客拡大とリピート促進を掲げています。顧客リスト数は60万人ですが、アクティブ顧客をどう定義すべきか判断が難しいと感じています。例えば、バレンタインやクリスマス、誕生日など年1回の特別なシーンだけ手作りする人をアクティブと定義して良いのでしょうか。目標を明確にしながらしっかりと判断していく必要がありそうです。

――今期(2017年6月期)の収益への貢献度は。

売上高は前期比数%増を予定していますが、営業利益は2倍を計画しています。共感を重視した施策をすすめる一方で、お客様の共感を生まないセールやウェブ広告を抑えているためです。売り上げへのインパクトは少ないですが、クオカが提案する価値観に共感して購入する顧客の基盤をしっかり作りたいと考えています。

◇プロフィール

岩間建作(いわま・けんさく)氏 大学卒業後、システムエンジニアとして様々な分野のプロジェクトを成功させる。その後、独立し複数のベンチャー企業の起業や経営を経て、1999年に創業期のエクスペリアンジャパンの経営に参画。ベンチャー企業からグローバル企業に発展させる経営のかたわら、日本のデジタルマーケティング界を牽引する。2015年9月クオカプランニングの代表取締役に就任。

◇取材後メモ

オムニチャネルの考え方が浸透し、チャネルをシームレスに繋ぎ顧客満足度を上げることは生き残りには必須になっています。ただ、それを決断することは難しいと指摘する声があります。顧客リストの統合や在庫の一元管理などを推進するには、コストや時間がかかるためです。市場が大きく変わる中で、時間とコストをかけすぎてしまうと次のトレンドに出遅れるリスクがあると言います。このようなジレンマを抱えるネット販売事業者は少なくないのではないでしょうか。岩間社長はオムニチャネルの取り組みについて「日常的なキュレーションの中で、『私にもできそう』と気が付いてもらうことが重要」と話します。重きをおくべきは各チャネルをどう繋ぐかではなく、繋いだチャネルの中でどのようなコミュニケーションを図るか、なのかもしれません。成功事例の1つになることを期待しています。

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