Wed, December 12, 2018

店舗との在庫連携や ITツールで接客力磨く 注目紳士服各社のEC 戦略

大型デジタルサイネージを導入した青山商事の新形態の実店舗「デジタル・ラボ」

「クールビズ」や「ビジカジ」などサラリーマンに向けて新しいファッションスタイルの提案が広がるなか、年々苦戦を強いられているのが既存のメンズスーツ市場。若年層を中心とした“スーツ離れ”の傾向が今後も加速することが予想され、各社では拡大が見込まれるECを軸に巻き返しを図りたい考えだ。
様々な工夫をこらす動きが見られるが、新サービスを活用することでネットによって実店舗を補完するような取り組みが注目されている。通販サイトとの商品在庫連携をはじめ、オーダースーツのネット受注、チャットの導入など新しい技術を取り入れ、これまで実店舗での接客だけに依存していた古い販売形態からの脱却を目指している。

青山商事が実店舗の来店者に配布しているリーフレット

青山商事、小型店舗で見せた通販サイトとの在庫連携

青山商事はオムニチャネル戦略の強化に向けて、通販サイトと融合した新形態の実店舗「デジタル・ラボ」を2016年10月6日に都内・秋葉原に開設し、ネットとリアルの相互送客への足がかりとしている。
秋葉原駅前に開設した同店舗はタブレットを持った接客スタッフに加え、通販サイトの在庫にアクセスして注文できるタッチパネル式の大型デジタルサイネージを店内に複数台導入している。小型店舗でありながら通販サイトで扱う全ラインアップから選ぶことができ、顧客が商品を持ち帰る手間も省けるなど新コンセプトの1号店として注目されている。
これまで同社では、CM動画やイメージモデルの着用シーンを見せたりするなど商品ディスプレイの一部としてサイネージを利用したことはあったものの、注文ツールとして活用するのは今回が初めて。基本は店頭での現物販売を優先しているが、顧客が希望する商品の在庫が置いていない場合はネットでの注文を促す接客導線にしており、今後もその接客ノウハウを積み上げていく。
同社のようにスーツ販売を行う実店舗は、大通りに面した大型店舗で商品在庫を豊富に積んだ店内レイアウトで展開していくイメージが非常に強い。しかしながら、アパレルの中でもスーツ商品はかさ張るため他のカジュアル衣料のように店内で重ねて大量に平置きすることができず、必然的に陳列スペースが大きくなるという課題を抱えていた。同じ柄のスーツを何着も展示できず、1つ売れると同商品の同サイズの在庫がその店から無くなってしまうことも珍しくないという。

小型店舗の場合は特にそういったケースに陥りやすいことから運営が難しいと思われていたが、今回のコンセプトを採用したことで「品ぞろえで不利な条件の敷坪でも、ネットとつながったサイネージがすべてクリアしてくれる。ほぼ100%近くの商品が扱えるので、この秋葉原店が最大級の品ぞろえの店になると言ってもいい」(同社)と説明。今後の店舗戦略での広がりにも手応えを感じている。

実際に同店舗のスタッフによるとネットと在庫を連携させたことで、店舗内に置く在庫数を現状よりももっと減らしても顧客対応が十分に成立できると見ている。同店舗の立ち上がりの状況としてネット経由の注文率は想定以上で、希望する商品が在庫になかった来店客を接客の途中で離脱させないツールとして効果的に機能しており、現状で同店舗の1~2割程度の売り上げを作っているという。

また、実店舗側のもう一つのメリットとしてはスソ上げといった商品の補正作業について、従来は店舗内で行って完成品を上下組み合わせてバックルームに保管するという一手間があったが、ネット在庫で注文を受けた場合は通販の物流センターがそれらの作業をすべて行うため、店舗内作業の省力化にもつながるという。なお、同店舗でネットを経由した商品の売り上げについては同店舗に帰属する仕組みとなっている。

AOKI ではタブレットによるオーダーメートスーツの受注を開始した

店舗取り置きの申し込み機能も導入

また、同社では10月よりブランドサイトと自社通販サイトを統合して、実店舗検索やブランド情報発信機能とショッピング機能を一本化した。その際に、実店舗に商品取り置きを申し込める機能や近隣店舗・利用頻度の高い店舗を「マイ店舗」として登録できる機能も導入。通販サイトから実店舗に送客されるきっかけにもなるとして期待している。
この背景には2015年に通販サイトに導入した、商品の「店舗在庫表示機能」の利用率の高さがあった。1年の運用の結果、在庫照会した商品のスマートフォン画面を持って当該店舗に訪れる顧客が数多く見られ、そのほとんどが購買モチベーションも非常に高かったという。実店舗側としても購入希望商品が決まっている来客であることから、一から商品を提案する手間がいらず接客効率が高くなったようだ。
今回追加した「取り置き」はそれをさらに進化させたもので、通販サイトからの予約によって当該店舗側は顧客がどの商品を見に来るかがあらかじめ分かるため、スタッフが事前に関連商品をコーディネートして合わせ買いを勧める準備ができるメリットもあるという。両サービスのPRに向けては10月より来店者に専用のリーフレットを配布しており、ネットとの併用で実店舗での購入がしやすくなることを訴求。実店舗と通販サイトを併用する顧客の数は順調に拡大しているようだ。

なお、同社では2017年度を最終年度とした3カ年の中期経営計画で、ネット販売単独での売上高を40億円にすることを目指している(2016 年3月期のネット販売売上高は本紙推定で15 億円。同連結売上高は2402 億円)。

AOKI、オーダースーツ注文にタブレットを採用

AOKIでは成長著しいオーダーメードスーツの分野において通販での受注も視野に入れた新たなサービスの導入を図っている。11月8日から全国の実店舗(568店舗)で開始したのは、スタッフによるタブレット端末を使ったオーダースーツの受注サービス「AOKI OASYS(オアシス)」で、2017年秋には2着目以降の注文を通販サイトでもできる仕組みを導入していくという。
これまで同社ではオーダースーツの受注に関して、店頭での生地見本や発注書といった紙ベースを中心に対応していた。しかし、2015年度のオーダースーツ販売数量が前年比1.6倍と順調に伸びていることから、さらなる需要の獲得に向けて画面上で細かく仕上がりのイメージが表示でき、2回目以降の注文も手軽に受けられるタブレット端末による接客を開始した。まずは都内の「銀座本店」において専用の受け付けコーナーを導入している。

ブランド・サイズは300パターン以上から提案し、ボタン、裏地の色、ネーム刺繍などにも対応。注文から最短2週間で完成する。商品価格は4万9000円からで、現在も30~40代を中心に6万9000円の価格帯がオーダースーツの売れ筋となっている。
なお、AOKIの通販サイト会員数は2015年度末が前年比1.4倍の約9万人、直近では15万人以上と伸長している。拡大の背景には2016 年9月末に会員証機能などを持つ自社アプリを刷新して通販サイトへの購入導線を取り入れたほか、リアルとネットのポイントも統合したことで店舗利用者が流入する機会が増加したと分析している。アプリに関しては、実店舗での購入履歴についてもマイページで見られるようになっており、近年増加するリアルとネットの併用客に対応している。
さらに、集客導線の強化という点では2015 年6月に通販サイトと企業サイトを統合。元々、企業サイトで実店舗検索やクーポンを探すニーズは高かったため、優良な見込み客であるサイト訪問者に対して、そのままネットで購入できることを訴求する手段などを検証しているようだ。そのほか、今期からカゴ落ちや途中離脱を防止するツールをトライ&エラーで導入しており、一定の成果を得ているもよう。

若年向けブランド「オリヒカ」の通販サイトを刷新

AOKIの若者向けブランドである「ORIHICA(オリヒカ)」については10月1日より、ネット支援事業などを手がけるSCSKプレッシェンドとの提携を開始し、通販サイトの刷新や物流・業務プロセスの効率化に向けて動きだした。
サイト刷新ではコーディネート提案やトレンドキーワード、ランキング、新着アイテムなどの情報をサイト上に反映させるように変更。また、実店舗との連動性についても、商品ごとに実店舗の在庫状況をチェックできるサービスを導入したことで通販サイトを通じてチェックした商品を実店舗で購入する需要にも応えていく。そのほか、電話、メール、チャットによるサポートサービスなども取り入れるなどカスタマーサポートの充実を図っている。

はるやま商事、ブランドごとに多店舗展開を推進

はるやま商事は「はるやま」のほか、20~40代の層をターゲットに据えた「P.S.FA(パーフェクトスーツカンパニー)」、大きいサイズを扱う「フォーエル」などを運営している。同社経営企画部でEC事業を担当する原田直生之部長は、はるやま商事のEC戦略について「面をとる」と表現する。

「本店」と呼ばれる自社通販サイトをベースとしつつ、多くの固定客を抱えている大手の仮想モールには継続的に出店を行っていく方針のようだ。

ブランド別にネット上の店舗展開を整理すると、「はるやま」は本店・楽天市場・アマゾン。「P.S.FA」は本店・楽天市場・アマゾン、そして10月にはZOZOTOWN に出店。「フォーエル」は楽天市場のみだが、本店の開設も「来年度(2017年4月~2018年3月)の開設を予定している」(原田氏)という。
「TRANSCONTINETS( トランスコンチネンツ)」はZOZOTOWN に出店しているが、10月から新たにアマゾンにも出店。これもウェブにおける多店舗戦略の一環。「はるやま」「P.S.FA」「フォーエル」の3ブランドで楽天市場を活用しているが、「多くのお客様が集まっていることに魅力を感じる」(原田氏)とする。商品ラインアップはリアル店舗とネットで大きく変わることはないが、スーツはネットでは低価格のものが売れるため、安い価格帯のものはECの在庫を多めに抱えいる。

一方で、小物類については実店舗のほうが品ぞろえは豊富で、例えば類似したネクタイをネット上ですべて取りそろえるというようなことはしていない。ネットではある程度商品を選択して販売している。というのも、サイトで商品を掲載する際には撮影コストが発生するため、掲載する商品点数とコストの兼ね合いを見て品ぞろえを決めている。

在庫はECと店舗用で分けて保管している。ECの在庫については、小物類などは少ない数量で保管しておき、足りなくなった場合は店頭の商品を取り寄せて消費者のもとに届けることもあるようだ。
そうした在庫運用をしている関係から、ブランドごとにEC在庫の持ち方も異なってくる。郊外型紳士服店の「はるやま」の場合であれば、大きな店舗を構えて店内に在庫を多く持つ。一方、都市部に出店している「P.S.FA」は、ショッピングモールなどに入ることが多いため、店頭在庫の保管スペースが限られる。
「はるやま」は店頭に商品をたくさん保管できるため、ECでの在庫は少なくても、なくなれば店から取り寄せればいい。それとは対照的に「P.S.FA」は、店頭に在庫を保管できるスペースが「はるやま」よりも少なくなるため、ネットで持っておく在庫は必然的に多くなる。
また、店とネットをつなぐオムニチャネル化を進めているはるやま商事だが、会員情報についてはすでに本店サイトと店頭とは統合している。しかしブランドごとの会員情報はバラバラに分かれている。そのため顧客はそれぞれのブランドで会員登録が必要になる。

これに対して同社では「お客様の層が分かれているため、(ブランドを統合することに)ニーズがあるとは判断していない」(原田氏)という考えだ。「P.S.FA」を利用している顧客が年齢の上昇に伴って「はるやま」に移行することが理想的だが、実態としてはそういう状態ではない。その背景には郊外型と都市型といった具合にブランドごとに店舗戦略が異なることが挙げられる。出店している場所が違うため、顧客層も棲み分けされているというわけだ。
ECでの強化ポイントについて原田氏は「ユーザビリティを高めて、コンバージョンレートを上げていきたい」と述べる。「ネットのいいところは使い勝手や便利さ。そこを追求しないと長く使ってもらえない」(同)という考えだ。

その一環で、「はるやま」と「P.S.FA」の本店ではマーケティングオートメーションツールやウェブ接客ツールなどを積極的に導入している。「いかにお客様にストレスなく使っていただくか。お客様に適したコンテンツを提供できるかというところは強化している」(同)。サイト内での顧客の利便性拡充の一環で「P.S.FA」の本店では、9月にチャット機能を導入した。

サイト内で顧客の問い合わせにリアルタイムで対応することで満足度を高め、購入率や客単価の向上につなげるのが狙いだ。

導入したチャットシステムは空色が提供する「オーケースカイ」で、午後4時から12時の間、空色の担当者が顧客対応を行う。通販サイト内にチャット機能を設けるにあたっては「はるやま商事の特性なのかもしれませんが、新しいことについてはトライしていこうというところもあり、経営陣からも承認してもらった」(同)とのこと。
新しいことへのチャレンジはAIの活用にもつながる。
カラフル・ボードが運営するファッションAI「センシー」を6月に試験的に導入。まずは「P.S.FA」の会員向けにダイレクトメール(DM)の掲載商品に活用したところ、店舗への来店数で一定の成果を出した。同社では現在「P.S.FA」の本店サイトに「センシー」を導入する計画で、早ければ今年中にも実装する予定だ。

はるやま商事は通販サイトにチャット機能を導入

“サイズの壁”の解消目指す

はるやま商事ではEC化率が2%前後で推移しており、3~5年以内に5%まで高める計画。
この計画を実現するためのポイントとして同社では「サイズ」を指摘する。そもそもスーツなどの紳士服の場合は、カジュアルな衣料品に比べて非常に細かくサイズを展開しており、身長の号数と、横幅で体型を定めている。しかし、ネット販売で初めてスーツを購入する顧客は自分のサイズは分からない。「そうしたサイズの課題は乗り越えないといけないところ」と原田氏。

同社ではこの“サイズの壁”をクリアするために様々な取り組みを行っている。その1つが「マイサイズ機能」だ。
この機能では会員登録している顧客が自身の体型・号数・ウエスト・首回りなどのサイズ情報を登録しておくことができる。次回の購入時はこのサイズ情報を参考にできる。本店サイトで「マイサイズ機能」をオンにすると、登録しているサイズに合った商品が検索結果に出てくるという機能も備えている。
そのほかにもサイトで商品情報を伝える際にスペック情報を詳しく掲載するようにしている。単純に「A 5」などだけでなく、胸囲など細かなサイズを掲載することでユーザーの不安を解消するのが狙いだ。
また、これまでキャンペーンとして期間限定で実施してきた返品対応にも手応えを感じている。施策を実施している時期は返品数も増えるが、コンバージョン率は3倍に伸びる。同社はこの数値から「やはりネットで買うのが抵抗あるという人がいらっしゃる証拠」(原田氏)と分析する。今後はこうした返品サービスの強化も検討していく。
“サイズの壁”をクリアできればはるやま商事に限らず紳士服業界全体に風穴が開くという意見もある。スーツを扱うネットショップのEC化率が上がり、業界全体が潤うのではないかというわけだ。
今後ECによって紳士服業界に新風が吹くのか、注目したい。

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