Sun, May 27, 2018

「低価格」の軸からぶれない 張本貴雄●クルーズ取締役 SHOPLIST 事業管掌

2016年11月にそれまでの基幹事業であるゲーム事業を譲渡し、ネット販売専業企業として新たに生まれ変わったクルーズ。今後は高成長が続くファッションECモール「SHOPLIST(ショップリスト)」についてどのような戦略の下で運営し、また、更なる事業拡大に向けた投資を行っていくのか。SHOPLIST事業管掌の張本貴雄取締役が思い描く、今後のEC戦略に迫る。

ゲーム事業譲渡でEC専業企業に脱皮

毎年50%前後の成長率を維持

――現在のファッションECの市場環境についてどう見ていますか。

ファッションに限らない話ではありますが、基本的には母数の多いところを誰が抑えるのかということだと捉えています。ショップリストを立ち上げたのが2012年の7月ですが、その当時はいわゆる「ファストファッション」と言われる言葉はそもそもファッションジャンルの中には明確になかったと思います。ところがちょうど4~5年前頃にForever21さんやH&Mさん、ZARAさんなどが現れて、ようやくファストファッションが一つのジャンルとして確立されてきたのではないのでしょうか。それからは「安いファッションは決してダサいものではない。着回しできることがいい」というような文化が根付いていったのだと思います。

――そうした状況の中、ショップリストは毎年50%程度の成長率を継続しています。支持される理由とは。

やはり、消費者は色々な商品の中から買いたいものを選びたいという思いが強くあります。逆に言えば、ショップリストで売っている商品は(他サイトなど)どこでも買えるものです。しかし、それでも伸びているのは顧客が便利を求めているからです。
全身を上から下まですべて同じブランドに統一して買っている人は中々いません。おそらくトップスはここのブランド、ボトムスはあそこのブランド、靴は別のブランドといった感じで選んでいるでしょう。そのため、仮に大手の仮想モールでそれらの商品をすべて購入した場合、ブランドそれぞれで店が違うので決済も異なり、送料も別々にかかってしまうことになります。そういった点から、(複数ブランドが一度に買える)ショップリストの便利さが支持されているのではないでしょうか。

――ターゲットとする層は明確に決めていたのですか。

ファッションEC業界の上位10社について年齢軸や単価軸などで見てみると、低価格を求める10代の層がちょうど空いていました。そのため、「ファストファッション」「低価格」であることは今後もぶれることはありません。

事業開始から4年で売上高を150億円規模まで成長できました。開始当初からここまでの急激な伸びを想定していたわけではないのですが、アパレルのEC化率が上がっていくことやボリュームゾーンがファストファッション領域になることは分かっていました。将来的には年間で購入者数500万人、購入単価2万円を目指しています。

――その数字を掛け算すると年間では1000億円くらいの売り上げ規模となりますが、その内容とは。

イメージとしては送料無料ラインである5000円程度の購入を、春夏秋冬で年4回ぐらいしてもらえるように期待しています。今は(年間平均の購入回数が)2.5~2.6回なのでその部分をどれだけ上げられるかだと思います。現在のショップリストの商品単価が1980円くらいなので、1回の買い物で2.5個くらいの商品を買ってくれればと考えています。

――年4回購入のハードルをクリアするための施策とは。

テレビCMなどでもアピールしている大型セールが年4回あります。1回に2万円以上の購入で自動的に4000円割引となるキャンペーンがあるため、セール対象外のブランドの商品もまとめて買えば結果的には安く買えることになります。これが一番購入金額の上がる機会なので、セール時期にはそういったプロパー価格(定価)商品を大量に入れており、それがうちのバリューになっているのだと思います。

最優先課題は「物流」機械化への投資進める

プロパー価格でも売れる魅力を

――他のファッションモールと違って、ブランド側がキャンペーンのコストを負担する仕組みがない。

ブランド側が原資を出す仕組みではありません。商品単価が低い中で、セールの負担もかかるとなるとブランド側が大赤字になってしまいます。最近ではブランドの動きもモール依存をどれだけ無くすかというようになっているので、(自前の)アプリ開発が盛んになっているのではないのでしょうか。だからこそどれだけ商品をプロパー価格で売っていくかが今後のECで重要になっていきます。プロパー価格でも売れる魅力がないようなプラットフォームでは衰退してしまうでしょう。

――現在の取扱ブランド数はどれくらいですか。

現在は約500で、2016年度の上期だけでも220は増えています。結局ECは商品数と在庫量を最大化しないと勝負できないと考えています。品ぞろえのためにうちはすべて(ブランドと)在庫データを連携しています。通過型の倉庫なので当日配送できる商品は限られてしまいますが、ブランドごとに売れ筋の在庫は適量分を預かるようにして効率的に運営しています。

――ゲーム事業を譲渡したことでEC専業企業となりました。今後は最大50億円の規模で投資することも発表していますが、その具体的な投資先について教えてください。

物流について倉庫自体の運営は内製化していますが基本的にはマンパワーでやっているので、相当な投資余地があると考えています。2016年7月に自社開発のWMS(倉庫管理システム)を導入しましたが、今後はその投資の一環として、マテハンを動かすようなシステムも導入していきます。機械化が進むだけで来期には今の倍以上は出荷できるようになると思います。

――集客や販売チャネルへのテコ入れについてはいかがでしょう。

販売チャネルと集客システムは似ているものだと捉えており、とにかくどれだけその機会を増やしていくかです。これまで4年間やってきてアプリのダウンロード数も増えてきました。元々のウェブアクセスや、以前から運営している「クルーズブログ」の700万人の月間訪問者も含めると相当なアクセス数があります。その母数の中で月に購入してくれる数が決まってしまっているので、それを掘り下げるような作業については投資を行っていきます。
また、販売チャネルについては、リアル店舗や海外展開などももちろん視野にあります。最終的にはウェブで買ってもらうためにチラシやカタログといった紙媒体も含めて色々吟味しているところです。今までどうしてもIT業界はネットで解決できるような投資しかしてきていないので、リアルがやっている良い部分は積極的に取り入れてネットと融合させて自分達だけの価値を出していきたいです。

――実店舗の展開についてはどのような内容で運営していくイメージを持っていますか。

実店舗で売り上げを上げようとは全く考えていませんし、そこに対して店員など多くの人件費をかけるのもナンセンスだと思っています。しかし、何か新しいテクノロジーを使えば店員が一人でも店舗を回せるような仕組みができるとは思っています。

例えば大手の小売りなどでは「RFID(ICタグ)」を商品在庫の管理やセキュリティーの面で使っていますが、それをマーケティングにも使えるのではないかという考えもあります。同じような領域でこれまでのリアル、ネットの会社がやってこなかったようなことをやろうと思っています。

――「IoT(モノのインターネット)」やAI(人工知能)といった最新ツールについての興味や導入予定などはありますか。

試験的に導入しているものはあって今は反応を見ていますが、まだまだこれからのものだと思います。今後は入れるものと入れないものの選択と集中をしていかないといけないでしょう。
それよりもうちの特徴として、7つのログイン手段と10の決済手段を持っていることがあります。アマゾンさんや楽天さんの利用者が多いことは間違いないので、ショップリストのIDだけにこだわるのではなく、顧客が一番使いやすいIDで来て見てもらう方が便利ですしコンバージョンにもつながります。

「検索」から「提案」の時代に

――LTV(顧客生涯価値)やCRMを上げるための取り組みとして何を考えていますか。

最終的には1to 1だと思います。現在、ショップリストには20万点の商品がありますが、いくら検索ツールが進化しても膨大な商品数の中から自分の好きなものだけを見つけるということは非常に難しい作業です。今後はITの進化によって検索される時代はいつか終わりを迎えるでしょう。検索されなくても、例えば過去の履歴などから商品を表示してその中で取捨選択されるような「提案する」時代になると思います。そこがCRMの部分の最終形態になるのではないでしょうか。

――ブランディングの価値を高める施策についてはいかがでしょう。

毎回、テレビCMが終わった後に第三者機関を通じてアンケートを行っていますが、やはり認知度は大事だと感じています。ゾゾさんや楽天さん、アマゾンさんと比べるとショップリストの認知度はまだまだなので、それをどうやって高めていくかは「ウェブだけ」「テレビだけ」ではないと思います。人の目に触れる様々なものに露出することも大事になるでしょう。あとは絶対に通販で買わない人もまだまだいるので、そこに向けたアプローチも必要になります。ネットによって時間の使い方や生活スタイルが大きく変わるのでECは絶対に便利なものです。

――ショップリスト以外の通販サイトやサービスを新たに開始する計画はありますか。

もちろん考えていますが、軸となる「低価格」からはぶれないでやりたいです。その中で、今自分達がやっていないことは何か、他社で出せない価値とは何かを探していくような状況です。とりあえず、直近ではアパレルから離れるようなことはないと思います。自分たちはシステムとユーザー資産があるのでそれを使わない手はないでしょう。アパレルが好きな人に向けて(関連性のある)商品を横展開するか、アパレルジャンルの中で縦展開していくのがいいか、うまくシナジーが出るものを見極めていきたいと考えています。

――売り上げ拡大に向けてECブランドだけでなく、リアルの人気ブランドの出店を開拓する作業もかなり重要になりますが、今後の方針や課題とは。

そこには向けては、先日出店したForever21のような誰でも知っている人気ブランドなども特に誘致したいです。それがブランディングにもなっていくと思います。
また、そのほかに解決していく課題としては、やはりロジスティクスの部分になるでしょう。当然、ユーザーが欲しいと思うタイミングでしっかり届けられることが大事です。現在は当日配送も始めていますがそれはPR的な要素にも近いので、とにかく顧客が遅いと感じないタイミングで届けられるようにしていきたいです。また、人材に関しても今はエンジニアが多いので、営業マンやMDの分野で人を増やしていくことになると思います。もちろん投資とのバランスはかなり重要視していきます。

◇プロフィール

張本貴雄(はりもと・たかお)氏 1984年8月6日生まれ。2007年4月にクルーズ入社。2010年5月に同社コマース開発担当執行役員、2014年6月に取締役。現在は取締役SHOPLIST事業管掌としてEコマース事業全般を統括する。

◇取材後メモ

低迷が続く昨今のアパレル市場において、ファッションECモールでゾゾタウンと並ぶ数少ない勝ち組サイトとして成長し続けているのが同社のショップリスト。後発参入ながらも、サイト開設からわずか4年で150億円規模にまで成長した勢いは未だに衰えることがない。ネットビジネスを母体としながらも、ネットだけにこだわらない柔軟な経営姿勢も成長を支える大きな要素となっているようだ。昨年よりEC専業企業に生まれ変わったことで事業への投資スピードもさらに加速し、将来的には新領域でのコマース展開も予想されている。これまでの常識を打ち破るような新たな通販ビジネスの創出に期待したい。

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