オイシックス、大地を守る会と経営統合 ――マーケティングと物流のノウハウ共有で競争力高める

オイシックスと大地を守る会は今秋、合併し経営統合する。オイシックスと大地を守る会の2015年度の合計売上高は337億2000万円となり、これまでトップだったらでぃっしゅぼーやの223億円を抜いて、食品宅配マーケットのトップ企業が誕生することになる。両社は統合によってマーケティングノウハウの共有化や共同商品開発をすすめ、売り上げ拡大を目指す。また、物流センターや顧客対応、システムの統合のほか、資材の共通化に取り組み運営コストの削減を目指していく。

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一時的な親会社はオイシックス

両社の経営統合は今秋を予定し、まずは2月末をメドに株式交換を行う。オイシックスを一時的な親会社とし、大地を守る会を完全子会社化する。ただ、統合に向けた協議は、「対等の精神に則り具体的な協議を進めていく」とした。
統合に先駆けて行う株式交換は大地を守る会株式1株に対し、オイシックス株261株を割り当てる。オイシックスの持つ自己株式26万42株を充て、残りは新たに発行する普通株式で対応していく。

株式交換後はオイシックスの高島社長のほか1人が、大地を守る会の取締役に就く。一方、大地を守る会の藤田社長はオイシックスの取締役に就任する予定。株式交換後、オイシックスは上場を維持する。
経営統合後の社長はオイシックスの高島宏平社長が続投し、大地を守る会社長の藤田和芳氏が会長に就く。経営統合後は、既存のブランド「Oisix」と「大地を守る会」は存続させてサービスを継続する方針だ。

競争力の向上を狙い、顧客基盤強化へ

経営統合の背景は、市場への競争力強化だ。アマゾンジャパンの食品通販参入や、大手GMSのネットスーパー強化などで競争が激化する。自然食品はオーガニックなどの認知度向上などを背景にニーズが高まっているものの、宅配サービスは高額イメージがあるためターゲットが限られがちだった。顧客基盤の強化で、商品調達力を高め、コストダウンを図ることで競争力を高める考え。両社で顧客基盤の強化や商品調達とサプライチェーンに取り組み、収益力を高めていく。

また、オイシックスは中期成長戦略の中で、「さまざま年代の幅広いニーズに対応することで圧倒的ナンバーワンプレイヤーに成長する」と方針を示していた。40代以降のターゲットに向けては、三越伊勢丹グループと連携して行う「三越伊勢丹エムアイデリ」と、60代以降をターゲットに移動スーパーを手掛ける「とくし丸」の2つのサービスを展開していた。大地を守る会は子育て層とシニア層を中心顧客層としており、オイシックスは大地を守る会との経営統合で40代以降の顧客基盤を強化することが可能となる。
大地を守る会はウェブを活用した新規客獲得に注力しているものの、30~40代の新規客の定着率で課題があったという。オイシックスのマーケティングノウハウを共有化しウェブでの新規客獲得を加速できれば、顧客基盤の強化に期待できそうだ。

商品調達の安定化でシナジー

一方で、両社の経営統合では、商品調達やサプライチェーンの統合を進めていく。物流センターやカスタマーサポートの共同運営、物流資材の共通化、システムの統合なども視野に入れる。

有機農法や減農薬、添加物不使用の加工品を製造できるメーカーは少なく、規模の小さい生産者がほとんど。大地を守る会は2500の生産者と契約しているものの、このうちの複数の生産者は他社の食品宅配企業とも取引を行っているとされる。オイシックスと大地を守る会が共同で商品調達や資材調達が実現すれば、発注量が増えるため仕入れコストの低下につながる可能性も考えられる。

経営統合後も既存のブランド「Oisix」(画像㊤)と「大地を守る会」は存続させてサービスを継続する方針だ

また、サプライチェーンの構築による効率化も事業基盤の強化につながりそう。過去には、ドライバー不足や燃料の高騰などを背景に、輸送コストを負担する生産者への輸送費の値上げ要請があったほか、生産者と配送業者の集荷契約が解除される事態が発生していた。輸送ができないことを理由に出荷が難しくなるなど商品調達が不安定になる事態が発生していた。

共同でサプライチェーンを構築できれば、こうした物流を原因とした欠品リスクを回避できる。また、荷物量の増加で輸送費の交渉がしやすくなるためコストダウンへの効果も期待できそうだ。

配送サービスの強化も視野に?

さらに物流面では、自社配送によるサービス強化もありえる。オイシックスと大地を守る会はそれぞれ、自社の物流センターを持ち、発注した商品の入荷から発送までを行っている。

特に大地を守る会は配送トラックを持って自社配送を行っており、物流センターで梱包した荷物は、配送センターを経由して顧客の自宅に届けている。オイシックスも自社配送を一部で手掛けていたものの、ドライバーやトラックの確保が難しいなどの課題を感じていた。
配送を巡っては昨今、配送業者が配達できない早朝配送や、包装資材の回収などの消費者ニーズが高まっている。大地を守る会の自社配送のノウハウを活用したサービスの拡充を両社ですすめる可能性もありそうだ。

企業文化違い、相乗効果に時間も

ただ、経営統合を巡っては企業文化が違うことなどが影響し、業務統合に時間がかかるといわれる。これについて、食品通販を行うA社は、経営統合でマーケティングノウハウの共有化することついて「早期に新規客の獲得につながるとは考えにくい。ページの見直しによって購買率が上がる可能性はあるが…」(同)と課題を指摘する。

というのも、折込チラシやカタログで成長してきた企業は、“紙”を重視する文化が根強く残っている場合が多いためだ。ウェブを中心とした戦略を実行する中で、紙を重視しがちな企業文化が足かせになりがちだという。

ただ、オイシックスの新規客獲得については「ゲームを取り入れた新規客獲得策や、商品特長を生かした独特の商品名を付ける商品開発など、消費者の興味を喚起している。特に、初回注文の申し込みまでの導線作りが上手。商品開発やマーケティングなど、関連する部門間の連携が不可欠になるが、それらを実行できる組織力があると思う」(同)と分析。組織力を強化するは一定の時間がかかるとみられ、統合による相乗効果が発揮されるまでにある程度の時間が必要になりそうだ。
通販会社B社は、商品調達力の向上について、「競合する他社を排除するものではなさそう」と指摘する。商品基準の統一による生産者の負担軽減や、商品調達におけるコストダウンを考えれば、経営統合のシナジーの恩恵を市場全体でも得られるとした。長期的に見れば、商品の仕入れコストの低下によって販売価格の見直しも可能となる。統合によるスケールメリットを活かして自然食品の高額イメージが払拭できれば、潜在客の拡大など市場成長の可能性も高そう。
オイシックスと大地を守る会の経営統合は、ウェブマーケティングと商品物流の融合し競争力向上を目指すもの。企業文化や組織の違いが課題となって時間がかかるとの見方もある。両社の強みを活かした経営統合をどのタイミングで実現できるか、今後、注目する必要がありそうだ。

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