ヤマト運輸が宅配便運賃を全面値上げへ配送料値上げでどうなるEC配送

ドライバーの労働環境改善に向け運賃値上げに

ヤマト運輸が9月末までに運賃を全面的に値上げする方針を決めた。ネット販売市場の拡大に伴い宅配便個数が急増する一方、人手不足が追い打ちをかけて荷物を捌き切れない状況となりかねない。本誌姉妹紙の「通販新聞」が主要通販企業約30社に行った緊急アンケート結果を基に通販企業やネット販売企業の値上げへの対応策、さらに配送に関するサービスへの影響などを探る。また他の大手宅配便会社の動向、再配達の問題についても触れる。

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ヤマト運輸、基本運賃と大口向け引上げ人手不足が顕在化、労働環境の改善も

【本誌アンケート】

今回の運賃の全面値上げ(基本料金改定と通販企業など大口顧客向け割引料金の引き上げ)を決めたのは、ヤマト運輸の労働組合が荷受量を抑制し労働環境の改善を求めていることへ対するためだ。人手不足とネット販売市場の拡大などでドライバーの長時間労働など労働環境が悪化する状況にあり、会社側も労働環境の改善策を行わざるを得ない状況になった。
一部報道では労組側は2018年3月期の宅急便個数が17年3月期の水準(約18億7000万個の見通し)を上回らないよう求めたという。さらに長時間労働につながる再配達や夜間の時間指定サービスなどを見直すこともなども要望したようだ。
一方、親会社のヤマトホールディングスは今期(17年3月期)第3四半期決算でデリバリー事業を中心に想定以上の業務量となり、年末の繁忙期などは特に都市部で物量が集中し、その対応のために外部委託費などコストを要して減益になった。通期の予想でも利益面を下方修正し、2期連続の減益を余儀なくされている。
運賃値上げは、「宅急便」の基本料金(一般個人などに適用)を1990年以来27年ぶりに改定(消費税増税時を除く)するほか、通販企業など大口利用者へ適用する料金も引き上げることになりそうだ。既に大口顧客との交渉に入っている。同時に大口顧客となる法人向け料金の新設も検討すると見られる。14年には大口顧客向けに適正料金収受として値上げ要請していたが、この時は基本料金の値上げはなかった。
同時に配達時間の時間帯指定サービスの見直しや再配達の一部有料化なども検討していく方針。時間帯指定では正午~午後2時の時間帯の指定を廃止し、ドライバーが昼食・休憩をとれるようにするほか、夜間の最も遅い時間帯の午後8~9時の見直しなどが挙がっている(ヤマト運輸は3月17日、6月中に「正午~午後2時」の時間帯を廃止し、「午後8~9時」は「午後7~9時」に変更すると発表)。再配達については荷主と協力して削減するよう努めるほか、協力を得られない場合には料金に反映することも検討している。このようなヤマト運輸の値上げ方針などを受けて、ネット販売企業や通販企業はコストアップにつながるだけに、どう対応していくのか。

これから広く値上げ要請へ

アンケート結果を見ると、値上げについては人手不足やドライバーの労働環境改善など致し方ないと一定の理解を示す一方、最大荷主と思われるアマゾンジャパンとヤマト運輸の問題とした上で、それに他社が巻き込まれることに当惑しているとする企業が少なくない。また配送の時間帯指定サービスの見直しは、顧客サービス低下になりかねないと懸念するところが多い。

ヤマト運輸は既に通販企業などの大口取引先との値上げ交渉を始めたというが、アンケート回答企業で値上げ要請を受けたのは全体の1割ほどで、大半は現状(3月半ば時点)のところないようだ。値上げ要請を受けた1社は「見積額の提示はないが、5~8%の値上率になるのでは」という。値上げ要請を受けたもう1社も具体的提示はこれからとし「(引き上げ額など)交渉するが、最終的には受けざるを得ないと予測している」と回答し条件付きながら受け入れる姿勢でいる。

今後にヤマト運輸側が広く取引先に要請することは確実と見られるが、値上げ要請を受けた場合への対応を尋ねたところ、「交渉する」や「内容次第」との回答が多い。そのうちの1社は「引き上げに応じる方向」とし、「以前他社に変更した際、顧客からサービス品質についてクレームが多く寄せられた」とヤマト運輸の配送品質は変えがたいとしている。
また同様に値上げへ応じる意向を見せる通販企業は「コストが上がることは厳しいことだが、人材確保が難しくなっていたり、配達量が急激に増加していることなどを考えると理解できる」との意見を寄せている。
全般的に引き上げ額に応じて対応などを協議するとの考えの通販企業が多く「ネット販売の成長により宅配便の荷扱い量も飛躍的に増加していることで、配送ドライバーの労働環境は悪化していることが窺える。その上で人材不足の問題も併せてあがっているとなると、値上げは苦渋の判断」と見ている。また「運送業界だけでなく産業全体で人手不足は大きな問題であり、各社が対応を迫られていることは認識している。この機会に当社としての配送に関する方針を見直す必要もあると捉えている」とヤマト運輸の姿勢に共感を示しつつ、配送に関して取り組みの変更を検討するところもあった。
ただ、理解を示しつつも「従来の料金に基づいたサービス設計となっているため、事業収益上のインパクトが大きく自社の経営努力でのコスト吸収は難しいと考えられる」と苦慮を訴えるところもあった。
一方で「他の宅配便会社へ変更することを検討する」や「他社との併用も踏まえ思案中」との企業もあり、ヤマト運輸の利用の取り止めや削減を検討するところも見られる。コストアップを避けたいとの考えだ。

アマゾンが値上げ要因?

ヤマト運輸が今回値上げの方針を決めたことに対しては、アマゾンなど大手ネット販売企業の影響を指摘するところが多い。「アマゾンによる影響と他通販企業による影響については本来、個別に切り分け、経済合理性に基づいての構造説明がなされることが交渉における前提として必要」や「総量の抑制が目的であるならば、まずアマゾンと交渉するべきだと考える」との意見だ。さらに他の宅配便会社の値上げ追随を懸念する声もある。ヤマト運輸以外と取り引きしている通販企業は「ヤマト運輸の影響は大きいので、他社を使う当社にとっても大きな課題」という。
その他の意見では「ヤマト側で解決できる問題が多いと感じる。通販荷物の増加件数に対応できていない上、前回の料金引き上げ(14年の料金の適正収受)から短期間での再値上げは到底受け入れられる状況でない」と値上げの受け入れを拒否する意見があった。ヤマト運輸を利用していない企業だが、同様の見解を述べているところは「対応が後手後手になっており、数年前から対処していれば今回のような事態にならなかったのでは。もちろん通販企業も協力する必要があるし、仮想モール側も動かなければならない状況」としている。

各社、時間帯指定見直しを懸念

時間帯指定については顧客サービスとして重要なものと位置付けているところが多く、見直しに賛同できないとの意見が多い。「ユーザーにとって明らかにサービスダウンになる」「弊社のサービスにも影響が出るので、見直しはして欲しくない」「顧客が求めるサービスの中でも優先度が高いだけに見直ししてもらいたくない」など顧客サービス低下を招きかねないことを理由としている。さらに「サービス低下になり当社通販の利用を止める顧客も予想されるため、何らかの代替案の提案が必要となる」と顧客離脱に向けた対策に追われることになるとする意見もある。
少数派の意見だが、「ある程度(の見直し)は仕方ない」や「サービスレベルの悪化については通販企業も横並びで顧客に対して説明を行う必要のある局面と感じる」との回答も見られた。

また時間帯指定サービスに対し別の観点から問題点の指摘があった。「現行の2時間単位で指定できる指定サービス自体に無理が生じているのではと考える」というもので、確実に指定した時間帯に届けられないケースもあるため現状でもサービス提供が難しくなっているとの意見だ。

求められる再配達削減への協力

再配達削減についてヤマト運輸が通販企業などへ協力を要請することや、協力を得られなかった場合に料金へ反映する可能性も示唆していることに対しては「再配達はどう考えても時間と資源の無駄なので、協力できることは協力していきたい」などの前向きの意見が多かった。既に時間帯指定を行えるようにして再配達抑制に取り組んでいるとする通販企業は「協力要請についてはコスト削減が見受けらえると判断した場合は是非協力させてもらう」という。
ただ時間帯指定との関連では「『聞かれたからとりあえず時間指定した』というお客様もかなり存在すると思われ、通販企業サイドでどのように協力できるかは未知数」と再配達の一因とも考えられる時間帯指定の運用に課題を挙げる企業もあった。
また「エンドユーザーに請求すべき」と受益者負担の考えから通販顧客への負担を求める回答もわずかながらあった。

他の大手2社の追随の可能性は?

ともに基本料金値上げは否定

ヤマト運輸が運賃値上げへ動き始めたことから、他の宅配便会社も値上げに踏み切るのではとの憶測も出てきた。佐川急便と取り引きしている通販企業もヤマト運輸の値上げ報道後に値上げ要請があったという。他の大手2社は追随して運賃の値上げに踏み切るのだろうか?
値上げ要請について佐川急便へ聞くと「おそらく基本料金と法人契約とを一緒に捉えられているのではないか。基本料金を改定するとの決定は現時点ではない」(経営企画・広報部)との回答が返ってきて、料金全般の値上げを否定した。法人契約を結ぶ取引先とは契約更新時などに料金見直しを要請しており、それがこの時期と重なったことが“追随”と捉えられてしまったことのようだ。2012年から始めた料金の適正収受に向けた一環として毎年料金の改定について取引先と協議するのが慣例となっているとし、法人契約先とは契約更新時となる際に随時料金について交渉するという。
日本郵便も一部で値上げするとの報道があったが、同社は佐川急便と同様に値上げを否定。「運賃には(主に一般ユーザーに適用する)基本料金と、(法人を対象に)相対で決めるものとがある。法人と新年度の料金について改定を協議するのが今の時期(年度末)で、値上げではない」(広報室)という。日本郵便は15年8月に宅配便「ゆうパック」の基本料金を値上げしている。2年弱での値上げへ動く可能性は低いと思われる。
ただ、佐川急便にしても、日本郵便にしても法人など大口取引先の料金については、取引先の個数や市場の状況、自社の経営状況を勘案して決定している。今回のヤマト運輸が値上げの理由として挙げる人手不足や労働環境の改善など、2社とも同様に抱える課題でもある。そのため通販企業などの大口顧客の値上げに動き出す可能性は否定できない。

料金追随に関する事柄ではないが、今回の値上げ問題に関連し、ある物流関連事業者は「アマゾンの荷物を扱う大手2社のうちの1社である日本郵便は、もう1社のヤマト運輸がアマゾンへどう対処するかを注視していくのでは」と推測している。
アマゾンに関しては13年に佐川急便が同社の荷物の配送業務を取り止めた。その後はヤマト運輸と日本郵便の2社がアマゾンの主要な配送業者として続けてきている。しかし今回、ヤマト運輸がアマゾンを含めた荷物量の大幅な増加などから、労働組合側に荷物の総量抑制を求められ、値上げを検討する事態となっている。
同氏はこうした状況などから日本郵便がアマゾンからの引け受け数量を増やす方向に動きだす可能性があると指摘している。また「日本郵便はまだキャパシティがあり、物量の増加には対応できるはず」とも付け加えている。ただし、日本郵便側も料金の引き上げなどを条件に対応していくことになると同氏は見ている。

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