日本の「ビューティー」を世界に発信へ 髙谷成夫●アイメイカーズ 代表取締役社長

「@cosme」を運営するアイスタイルが化粧品の自社ブランドを立ち上げた。子会社のアイメイカーズを通じ、日本ならではの美意識や美容文化から生まれた化粧品を発掘。日本の化粧品文化や美容技術とともに世界に発信していく。アイメイカーズの代表に就任したのは化粧品大手ポーラの取締役、オルビス社長を歴任した髙谷成夫氏。国内で化粧品ユーザーから圧倒的な支持を得る巨大プラットフォームが自社ブランド立ち上に踏み切る背景は何か。立ち上げの経緯と展望を髙谷社長に聞いた。

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見直されるローカルグローバルで展開

プラットフォームが最大の競争力

――長くポーラ・オルビスグループで活躍され、退社に驚いた関係者も多い。転機はどこにあったのか。

前職で素晴らしい人たちに支えられながらやってこれたことには今も感謝の気持ちしかないが、改めてこれから自分が純粋に向き合えることは何か、貢献し挑戦できることは何かを考えた結果ではある。
今、時代の変化のスピードはとても速い。「情報革命」という産業革命以来の新しい時代の幕開けの、その戸口に立っていることをビジネスの現場でも感じていた。変化はチャンスでもある。その中でここまで自分が経験してきたことを活かしながら挑戦できることが何かを考えてきた。

――それがアイスタイルだった。

「ビューティー×IT」でこれからグローバル競争に挑む企業であり、その中でアイスタイルが持っていないものを自分が持っていて、その逆もある。アイスタイルが描くビジョンの実現の中に自分が挑戦できるものがあると感じた。

――アイスタイルから求められているミッションは。

アイスタイルは「ビューティープラットフォーム構想(※1)」の実現を目指しているが、そこに命を吹き込むのは、ブランド、プロダクトであり、それを活用するユーザーのコミュニケーション情報そのもの。そのプラットフォームで流通するコンテンツにプロダクトを通じて磨きをかけていくこと、それを世界へ展開していくことに、自分が担える役割があると感じた。また、成長の途上にある企業は各ステージで抱える課題が異なる。ゼロからある規模まで事業が成長していく過程を経験した自分だからこそ活かせるものがあるなら、そういった役割を果たす人間がいてもよいかなと思った。

――市場は新規参入が相次ぎ、飽和感が高まっている。その中で新しいブランドを生み出すハードルは高い。

もちろん簡単ではない。ただ、「@cosme」に蓄積された情報をはじめアイスタイルの持つ経営資源が最大の競争力になる。アイスタイルはメディア、自社流通を持っている。また、そこではビジネスパートナーとなる企業・個人、1400万人を超えるユーザーがつながっている。このプラットフォームから得られる情報はアイデアの宝庫であり、これを反映した「生活者中心」の商品開発が最大の武器になる。この「モノ」と「コト」を作り出し、流通させ、情報発信できるプラットフォームは非常に魅力的なものだ。

─顧客ニーズの分析は有効な手段の一つだが勝算はあるか。

確かにデータはただ存在するだけでは石ころに過ぎない。これを磨きあげ、魅力的な商品にするには、分析・編集・加工する技術力、それを支えるアイデア、何よりブランドに対する想いが必要だ。その作業は人が行うしかない。生活者中心という発想と視点を徹底させながら、それを仕組み化することで実現していきたい。ユーザーに一貫して伝え続けて初めてブランドになる。その仕組みを作り上げたい。

「ご当地コスメ」をリメイク

――「@cosme nippon」というブランドのコンセプトは。

日本に古くから伝わる美容素材や美容技術を発掘し、これを活かして「生活者中心の商品開発」「日本のクオリティの世界への発信」「実際にブランドをストーリー化したコンテンツの発信」を行っていく。これを満たす商品をブランドとして統合していく。

――今回発売する商品を見ると各商品にそれぞれ特徴はあるが、いわゆる統一感を持ったブランド、という印象とは異なる。

「@cosme nippon」はある約束事を軸にそれぞれの商品シリーズが緩やかな共同体を形成していくイメージに近い。アイスタイルとして日本のビューティーを世界に発信するプロジェクトを通じて、日本の化粧品業界全体を盛り上げていくという目的がブランドを企画した前提になっている。

――国産原料にこだわった「ご当地コスメ」もすでに存在する。コンセプトに革新性はあるのか。

確かに自治体が中心となって作られているものなどがあるが、多くがマーケティングに課題を抱えているように見受けられる。ただのお土産需要にとどまってしまうのはもったいない。「@cosmenippon」では単にご当地の素材やコスメからスタートしない。あくまでユーザーのベネフィットをどのように実現するかが重要で、そこには必ず人を惹きつけるストーリーが生まれ、単なる機能や効果で終わらない物語が生まれる。これを伝えるには総合的なマーケティング活動が必要になる。これこそがユーザーや多くのビジネスパートナーとのネットワークとメディア、流通チャネルを持つ「@cosme」というプラットフォームを持つアイスタイルだからこそ可能な総合的なサポートであると思う。

――国内のローカルコスメを集めて販売するようなサイトもある。

単に商品を集めてきて販売するというレベルでこのプロジェクトを考えていない。化粧品の原料開発やすでに商品化された「ご当地コスメ」をリメイクするケースが中心になるが、より生産者個人や地方自治体と連携し、素材開発から商品化するプロセス自体を商品化することで世界に発信できるストーリーとクオリティを持ったものにする。地方創生というと大げさだが、プロジェクトを通じて日本各地の魅力を発掘し、そこで生きる人々にスポットをあて、共に成長していくことに貢献できる道を目指してみたい。

不可欠な「グローカル」の視点

「輸出産業」としてのプレゼンスを高める

――自ら販売に乗り出す背景には、国内ブランドが海外に打って出る上での障害を感じていた部分があるのか。

海外では「@cosme」で評価された中小規模の企業の商品を購入したいニーズもある。ただ、自らリスクをとって海外に出るには人的リソース、資金力に課題がある。結果的に機会損失が生じている。一方で海外に目を向ければ韓国コスメが席巻している。これから資本力のある中国・台湾など海外資本に日本のブランドが買収されていく時代になると思う。市場がシュリンクする中で同じような戦い方をしていては勝てない。ただ、逆にいえばそれほど日本のブランドが魅力的だということ。自らリスクをとり、パートナー企業との協業、M&Aをしつつ日本の化粧品を世界に発信していくことで「輸出産業」としてのプレゼンスを高めていけないかと考えた。
また、自社ブランドの取り組みをテストケースに、「@cosme」そのものをビジネスパートナーにとってより魅力的なものにしたいと考えている。「@cosme」で効果的な情報発信や流通が行える形になるよう検証・改善し、各ブランドに提案していくという狙いもある。

――今の化粧品市場の課題をどう捉えている。

国内市場はこれまでそれなりの規模があったために、日本の化粧品メーカーは日本の市場だけをみていればよかった。だが、日本市場だけで今後の成長が望めない現状においてさらに新たに追加できる化粧品ジャンルの隙間もなくなってきている。大手、中小ともにグローバルという視点は不可欠になる。

グローバルな視点は巨大なグローバル企業だけに必要なわけではなく、最近では「グローカル(※2)」ということも言われている。ローカルとしての魅力をきわめることでグローバルで戦える力を身につけることが重要。ローカルコスメほどいかにその価値をグローバルにつなげていくかという視点が必要になる。世界がグローバル化することで商品がより画一化する反面、ローカルの価値もグローバルの中で見直される時代であると思う。

まずはプロダクト領域で40億円を目指していく

――商品展開の計画は。

年間6~7シリーズの投入を予定している。

――フェイスマスクや馬油を使ったハンドケア(予定)から展開した理由は。

まずは海外市場、とくに中国と台湾のマーケットを意識した。参入障壁、市場での差別性も重要だが、何よりビューティープラットフォームを活用したテストマーケティングという目的からそのPDCAの検証プロセスを回すために最もテストに適したアイテムを選んだ。

――今後、スキンケアを扱う可能性もあるのか。

もちろんその可能性はあるがスキンケアはブランドスイッチしてもらうのが難しい商品でもあり、「@cosme nippon」として投入するには、準備と検証プロセスに時間がかかるだろう。

――テストマーケティングの狙いは。

沖縄のインバウンドの多くは台湾からの旅行者になるが、「琉球美肌」はもともと沖縄限定で販売され、台湾の旅行者に人気があった。今後台湾、中国など海外での展開を見据える中で戦略商品になり得ると考えた。第2弾として販売するハンドケアの原料である馬油は中国で人気が高く、海外の富裕層マーケットを見据えた時にどう活きるかを検証したいと考えた。

――それぞれ特徴をもった商品を限定で販売していくイメージか。

基本的には定番商品として考えている。『琉球美肌』であれば、主原料のモズクや沖縄県産の素材で別の商品を開発したり、個別にラインアップを強化していくことは考えられる。

――売り上げの計画は。

グループのプロダクト領域でまずは40億円を目指している。ただ、ワンブランドでその規模を実現するよりも、小規模でもエッジの立った顧客としっかりエンゲージメントしたブランドを複数立ち上げていくほうがこれからの時代に即していると考えている。

――どう認知向上を図っていくのか。

まずはアイスタイルのプラットフォームを十分に活用する。そこで伝わらないものは外部顧客にも伝わらない。販路は通販と直営店。ブランドのストーリー、価値をできる限り丁寧に伝えながら育成していきたいため、卸販売の強化は今の時点で考えていない。

――「@cosme」の中立性は確保できるのか。

当然今後もコミュニティの独立性は保っていく。(独立性が)なくなれば「@cosme」の存在価値がなくなってしまう。その考えは変わらない。

――メーカーやユーザーの反応は。

今回の成果を「@cosme」におけるブランドの活性化や、メディア・流通の使い方、ユーザーとのコミュニケーションのモデルケースにしたい。そのことが国内ブランドにとってもメリットになる。ただ、「@cosme」に信頼を寄せてくれているユーザーほど身内への厳しさを持っており、おそらく最初はユーザーから厳しい声も入ると思う。ただ、それでいいと考えている。厳しい意見をどう商品に反映させてPDCAサイクルを回していくか、そうした検証と改善こそがこのビューティープラットフォームをユーザーからもビジネスパートナーからも必要不可欠な存在にしていくことにつながる。
※1「 @cosme」、これに関わるユーザーデータ、ビジネスパートナー企業、美容に関わるすべての商品・サービス、流通をつなぐ基盤をつくること。

※2「 グローバル」と「ローカル」を掛け合わせた造語。国境を越えた視野と地域の視点の双方から物事を捉える考え方。

◇プロフィール

髙谷成夫(たかたに・しげお)氏 1988年ポーラ化粧品本舗に入社。92年、オルビスに出向後、情報システム、商品企画、物流、マーケティングなど各部門を経て04年、社長に就任。ポーラに籍を戻す直前の11年に売上高は500億円に迫り、ポーラに並ぶ基幹会社に育てた。07年ポーラ・オルビスホールディングス執行役員、09年同取締役を経て昨年3月に退社。同年7月、istyle makers設立準備会社(現アイメイカーズ)社長に就任した。

◇取材後メモ

髙谷氏は通販大手、オルビスの成長期を支えた「中興の祖」といえる存在だ。オルビス時代は、商品企画、物流、マーケティングなど通販に不可欠なオールラウンドなスキルを身につけ、39歳という若さで社長に就任した。DHC、ファンケルの大手2社を猛追、三強時代の礎を築いた。それだけにポーラ・オルビスグループを退社した当時、「通販化粧品を深く知る数少ない人物」と惜しむ声が聞かれた。その髙谷氏が選んだ戦いの場がアイスタイル。グローバル競争に突入しようという中でその心境を聞くと「新しいチャレンジ。生きている感じがする」と語った。成長著しいアイスタイルは日々、その経営環境、組織も変わっている。その中でオルビスの成長を支えた髙谷氏の今後の活躍が注目される。

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