組織のベクトルが 合うと生産性が高まる ヤッホーブルーイング× メルカリ対談

ヤッホーブルーイングの井手直行社長

ヤッホーブルーイングとメルカリは5月11日、トークイベント「メルカリ×ヤッホーブルーイング ビアトーク~“バリュー”が誰にも真似できない会社をつくる~」を開催した。クラフトビールの製造を手掛けるヤッホーブルーイングの井手直行社長(以下、井手)と、個人間取引アプリを運営するメルカリの小泉文明社長COO(以下、小泉)が登壇。モデレーターを人材育成支援などを手掛けるリンクアンドモチベーションの麻野耕司執行役員が務め、成長を続ける2社の組織作りをテーマに「ミッション」や「バリュー」について語った。バリューなどの経営理念の浸透や、企業の成長につながる人材採用・育成のポイントなどを語った。

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ミッションは「社員が同じ方向を向くためのもの」

井手:主力商品「よなよなエール」などのクラフトビールを製造販売しています。経営理念の上位概念に「ミッション」を置き、「ビールに味を人生に幸せを」を定めました。ミッションを達成するあるべき姿として「ビジョン」置き、その下に「文化」(目には見えない当たり前のこと)、「価値感」絶対に譲れない決まり事)「バリュー」(ファンに支持されている価値)を設けています。バリューは3つあり、「革新的行動」「顔が見える」「個性的な味」です。

メルカリの小泉文明社長COO

小泉:CtoC アプリ「メルカリ」を運営しています。ミッションは『新しい価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを作る』とし、スタートから世界を意識した組織作りを行っています。バリューは『Go Bold(大胆にやろう)』、『All for One(すべては成功のために)』、『Be Professional(プロフェッショナルであれ)』の3つを定めました。ミッションとビジョンは人によって差が分かりにくい点があると思い、会社の存在意義とあわせて1つにしました。
麻野:両社のバリューはいつ、どのような方法で決めたのでしょうか。
井手:ミッションは08年に作りました。97年に創業して、クラフトビールのブームとともに順調に売上が伸びていましたが、ブームが終わると何をやってもうまくいかなくなるんですね。そうすると、社内に険悪なムードが広がり、「営業が売って来ないからダメだ」「製造が売れる商品を作らないらだめだ」「そもそもこんなビールを根付かせることが難しい」などと言い合うようになるわけです。社員の仲が悪くなり社員が減ってしまい大変苦労した時代がありました。

当時は経営理念がなく、社員が同じ方向を見ていませんでした。これを解消するために08年にミッションを作り、同年に2020年のビジョンを決定しました。その後、文化・価値感・バリューを作りました。08 年に策定したビジョンは半分ほど達成したので14年に見直しています。
バリューを策定したのは、会社が大きくなる中で、製品が支持される理由が見えにくくなっていたためです。その不安を解消するために、顧客の声の分析や、米国クラフトビール市場の調査を行いました。米国市場で大手と支持されていないビールメーカーの違いは何かを徹底的に分析しました。そこで洗いだしたものの中から絞りに絞って、定めました。世界に出ていっても顧客に支持される製品の価値を「バリュー」として定めました。

ヤッホーブルーイングは08年にミッションを作り、ビジョン、文化・価値感・ バリューを策定した

ミッションとバリューを分かりやすく定める必要がある

小泉:失敗を経験していることが、両社が共通しているのかもしれませんね。メルカリの経営陣は全員、会社を経営した経験があり、売却や買収をしています。自分たちの成功と失敗の経験を活かしているのがメルカリです。

私は、ミッションとバリューを分かりやすく定める必要があると考えています。というのも、ミクシィのCFOを務めた経験から、強いプロダクトがあれば経営陣とは関係なく会社は成長すします。一方でプロダクトのライフサイクルが下がると、会社の求心力も同時に下がってしまうことが分かっていたためです。社員がそれぞれの持つ勝手なイメージでサービスや事業のあるべき姿を語るようになります。

私がメルカリに参画したのは創業して少し経ってからです。メルカリのミッションは当初「インターネットで世界を変える」でした。バリューはなかったので、中長期的にみると何のための会社か分からなくなる可能性がありました。私の最初の仕事は、ミッションとバリューを作ることでした。

会社の未来を語ってミッションを定め、そのミッションを達成すべき行動をポストイットで貼り出して分類しました。そこから徹底的に減らし、3つに絞りました。3つ以上あっても人は覚えることはできませんから(笑)。ただ、会社と事業が近すぎると、事業の思いが会社の思いにオーバーラップするので、会社と事業をしっかりと分けるように意識しました。

メルカリは、ミッションとビジョンを会社の存在意義として1つに

トップがあきらめなければ理念は浸透する

麻野:理念を作ったが浸透していない会社は多いと思います。浸透させる秘訣を教えてください。
井手:うまくいくかどうかは1つで、トップがあきらめないことです。浸透させるためにさまざまなことを行いました。研修だけでなく、ミッションやビジョンを壁に張り出すこともしました。覚えていないチームにはしっかりと覚えてもらって発表してもらいます。ここまで徹底していたら、浸透しないはずはありません。
小泉:まったく同じです。テクニック論を紹介すると、メルカリはバリューを英語で定め、日本語でサポートしています。英語は短いセンテンスなので人によってイメージがぶれてしまう可能性があったので、日本語を加えることで全員が同じ理解になるようにしました。
さらに、それを「見える化」しています。例えば会議室の名前や、Tシャツのデザインにしています。社員が1日に何度も口に出すようになると、早く浸透します。そうすると社員同士が勝手に“言葉遊び”をし始めるようになるんですね。こうなれば社員の理解が進んだことになります。
井手:理念が浸透すると、社員が自ら意識するようになります。会社が大きくなって新しい人が増えると、一時的に全体の理解度は低くなるんですが、以前、社員が勝手に「日めくりカレンダー」を作ったことがありました。カレンダーの絵柄を通じて、バリューや文化を、ビジュアルとともに解説しました。真面目にやるとみんな嫌がるので、ユーモアのあるビジュアルを撮影して遊びを入れたことが良かったと思っています。

事業に紐付いたバリューを策定すべき

麻野:事業に目を向けている経営陣に、どうしたらバリューを重視してもらえるのでしょうか。


小泉
:事業に紐付いたバリューを策定できているかどうかではないでしょか。バリューを作ったら浸透させようと思うのが通常。なので、経営陣にとって心地よいバリューを置いただけではまったく意味がありません。
麻野:バリューが浸透すれば、事業にコミットメントしますよね。
井手:僕は1人の営業マンとして、会社がダメになっていくのを見ました。その時に二度とこんな会社にしたくないと思って、経営理念を作りました。ヤッホーブルーイングは12年連続増収増益を達成しています。日本のビール会社が縮小する中で、急成長したのは当社だけ。日本の企業の中でも何十年と業績を伸ばし続ける会社はほとんどないと聞きます。社員に同じ方向を向かせたら大きな結果が出るわけです。市場の波やトレンドで会社は簡単に倒れてしまいますが、勝ち続けることができるのは経営陣の能力ではなくチーム力です。中長期的に勝っていくには理念と組織がとても大事になっています。

理念は判断や考え方の「道具」に使う

麻野:バリューを浸透していてよかった場面はありますか。

小泉:メルカリの社員やスタッフは「Go Bold」が大好きです。ボールドは一般的に「Be」が付きますが、あえて「Go」を付けました。言葉の魔力があって、Go には「行くぞ!」という気持ちになるんですね。リスクをとっていくことを怖がらず、迷うならやってみるという文化が根付いています。
井手:社員全員に定期的に伝えていますが、経営理念を習慣化してもらいたいと考えています。経営理念を、物事の考え方や業務、経営の判断の道具として使うように話をしています。
そうするとどんなにいいことがあるかというと、経営陣と社員の判断のブレが減り、社員は経営陣と同じように考えられるようになります。ベクトルが合うと生産性が高まり、業績が向上するわけです。社員も経営陣も登る方向が同じなので、会議が早く終わります。会儀で全員が納得したら全員がやるので、会社は成長します。会社が成長する中で人数が増えて、スタッフの多様性が出た時に、ベクトルが合っていれば、スタッフの多様性は強みになるわけです。経営理念はただの集まりをチームに変えて、経営理念が納得感や理解につなげます。
一方で、経営理念が浸透していないと、よくないことはたくさんあります。例えば、会議が終わらない。会議が終わらない時は賛成多数で決まるんですが、賛成多数で決まったことでも違うと思う人は納得感がないのでモチベーションは低いので、生産性は上がりません。会社が成長しなくなると、スタッフは目標達成のために手段を選ばなくなります。同僚の足を引っ張り、不正を犯すようになるわけです。

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