話題沸騰の「人工知能」を使いこなせ! EC各社の“AI活用”最前線

世間ではAI(人工知能)の話題が絶えない。将棋やチェスで機械が人間に勝ったり、人形なのに人さながらの感情表現をしてみたり、スピーカーが人間の声に反応して作動したり…。では、このAI がEC 業界ではどのような役割を担うのか。コスト面などから利用に二の足を踏んでいる企業がある一方、大規模な投資をせずに使い方やアイデアでうまく実運営を行っているところもある。例えばサイトの集客やリテンションに活かす企業、商品の仮想利用につなげるケース、類似品の紹介など、そのバリエーションは様々だ。注目各社の活用事例を見ていく。

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ナックが運営する「わたしワイン」。ソムリエがワインの味覚を数値化しており、ユーザーの好みとマッチン グができる

好みに合わせたワインを紹介前月比30%増で伸長も

【事例① ナック】

水宅配などを手がけるナックは5月30日、人工知能(AI)を活用したワイン専門の通販サイトを開設した。ソムリエがワインの味わいを数値化し、それをもとにAIがワインとユーザーの好みをマッチングするというもの。ユーザーはサイト上で遊び感覚で味覚診断を行うと、専用の味覚チャートが表示され、そのまま購入することも可能で、サイトへの集客や購買喚起、リテンションなどにも期待がかかりそうだ。

味覚診断でチャート化

AI による味覚診断では、8つの質問に二者択一で回 答する

ナックが手がける通販サイト「わたしワイン」は、ワインの味わいを渋み・余韻・旨味・濃さ・果実味・甘味・酸味・香りの8つの要素に分類し、複数のソムリエがワインを試飲して数値化している。そのためサイト内のワインを同じ基準で比較することができるという。

「わたしワイン」ではAIによる味覚診断機能を実装しており、ユーザーが通販サイト上で8つの質問に答えると、専用の味覚チャートが立ち上がる。質問は二者択一で例えば「まろやかな渋みの日本茶」と「濃くて渋い日本茶」や、「白身魚のフライ・タルタルソース」と「海老のカレースパイス炒め」、あるいは「チャーシュー麺」と「野菜たっぷりタンメン」などから好きなほうを選んでいく。
回答を終えると、登録したメールアドレスにメッセージが届き、専用のURLから味覚診断結果を見ることができる。
AIがユーザーごとの味の好みの傾向に合ったワインを「赤ワイン」「白ワイン」「スパークリングワイン」の3項目に分けて紹介する。現在、AIによる味覚診断に対応しているワインはおよそ250品だが、今後はソムリエが別のワインをテイスティングして新たに登録することも計画している。
一度飲んだワインなどはマイページに登録でき、感想を点数で残すことが可能。ラベルの写真や味の要素のチャートも確認ができるそうだ。

味覚診断の結果は、個別の味覚チャートとして表示される。そしてAI が好みに合った ワインを紹介する

ソムリエが1つずつ数値化

ナック事業開発部EC事業室の日下部興靖室長は「AIは今の段階では子供のようなレベル。お客様の注文データなどを学習させることでさらに精度は上がっていく。入り口として味覚チャートなどの機能が用意されており、その後さらに自分好みにブラッシュアップできるように質問を投げる機能がある」と説明する。つまり味覚診断の後もマイページなどに質問がランダム表示され、例えば「ワイングラスは大きめを使っていますか」といったものや、「赤ワインを冷やして飲むことはありますか」などを尋ねて、ユーザーは「はい」か「いいえ」で回答する。「こうしたいくつかの質問が用意されており、その注文者さんの好みを判断する。これをいきなり機械が判断することはできない。最初はソムリエのノウハウを覚えさせる作業が必要。実際、今は裏側ではソムリエがそれぞれの質問を見て、1つずつ数値化している。その変数を取り込んで将来的には自動化する」(日下部氏)という。

“いいとこどり”で改善を

「わたしワイン」では「厳選おすすめワイン」や「ワイン1年生セット」などの特集企画も展開しており、ワイン選びに自信がないユーザーが買いやすいように工夫している。ここに昨今注目されているAIを活用して、味覚診断なども取り入れているというわけだ。
サイトの売れ行きについて数字は非公表だが、「サイトを開始して1カ月目は結構売れているという印象だった。次の2カ月目は注文数や売り上げを見ると、前月比130%で推移した。効果が出るにはまだ時間がかかるとみているが、当初想定していたよりは良い」(同)としている。

日下部氏は「時流に乗っているAIを使いつつ、ソムリエの知識や経験も取り入れて、“いいとこどり”して今後はもっといいものにしていきたい」と意気込む。同社では将来的にはシーズンごとに提案するワインを変えるなど改善を行い、AIによるワインの頒布会なども構想しているようだ。

ナック事業開発室EC事業室の日下部興靖室長が語る

AI を使ったEC 運営の現状とこれからの展望

今の段階ではAIとソムリエを掛け合わせたサービスになっています。その母集団が増えることで確率を高めていきます。入り口はそれだけですが、ユーザーに質問をぶつけることで人工知能を賢くしていき、その人たちにより合うワインを提案できるようなパターンを今作っています。
また、今は取扱商品が決まっていて、注文者さんの嗜好が変わらない限り、出てくるワインはそんなに変わりません。味覚で数値化されたものなので、必ず同じ答えを導き出します。
しかし夏と冬で飲みたいワインも変わるであろうし、もちろん料理によっても合わせるワインは異なってきます。そのように人間の味覚が変わる要素があります。あるいは「今日は雨だからこんなワインをお奨めします」というようなものがあってもいいわけです。ただ、飲食店であればその日の天気に合わせることができますが、通販なのでその日の天気ではなく「梅雨の時期にはこれがいい」や、「暑い時期にはこれがお奨め」といった具合に、天気や気候、あるいはシーズンごとの変数を今作っています。それを掛け合わせることで、2回目に味覚を診断した時には違う答えが出てくるようにして、その理由も明確に提示するような仕組みを検討しています。
このサンプルデータが貯まってくると、将来的にはそうしたシーズンごとの変数も掛け合わせた上で、AIがお奨めする頒布会のようなものができればもっと面白くなると思います。

【各社の“AI活用”最前線 事例② 資生堂】、【各社の“AI活用”最前線 事例③ 日本ランズエンド】、【各社の“AI活用”最前線 事例④ 夢展望】、【各社の“AI活用”最前線 事例⑤ アイエント】は本誌にて→購入はこちら

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