Fri, December 14, 2018

人工知能はネット販売に貢献するのか? EC運営の“AI活用”最前線

AI(人工知能)を巡る話題が尽きない。我々の生活や労働環境を大きく変える可能性を持つだけに、企業の関心も高まっているようだ。そんなAIだが、果たしてネット販売の世界において役に立つ存在となるのだろうか。調べてみるとEC業界でも様々なトライアルや実運用が進んでいる。例えばフルフィルメント業務の作業現場での効率化であったり、通販サイトの商品訴求に新たな切り口を提供したり、あるいは顧客対応の場でも日夜、試行錯誤が続いている。一部では具体的な成果も出始めているという。まだまだ黎明期とも言えるAI活用。ネット販売での最新動向を探った。

“声”による採寸で作業時間を短縮へ

【EC 運営の“AI 活用”最前線 事例① 音声認識】

音声認識技術を現場に応用

作業員が商品のサイズを声で言うと、その音声から採寸データがアプリに自動的に登録される

通販サイトに商品を掲載する際に必要となる作業が「ささげ」だ。「撮影・採寸・原稿作成」の頭文字からなるこのささげの現場で今、AIを使った新たな取り組みが進行している。

衣料品や雑貨、アクセサリーなどのささげ業務を手がけるささげ屋が導入を目指しているのが、作業員の“声”による採寸データの入力だ。
通常の採寸業務は、作業員がメジャーを使って衣料品など商品のサイズを計測し、その数字をキーボードで入力する。繁忙期などは「採寸」と「入力」で業務担当者を分けて2人体制で行う場合もある。その作業を音声認識技術を使うことで効率化しようというわけだ。
ささげ屋では東芝デジタルソリューションズのコミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」に着目した。リカイアスには音声合成、音声翻訳、画像認識など複数のサービスがあり、その中に音声認識技術を使って作業記録を入力する「フィールドボイス」というサービスがある。フィールドボイスは、声で業務改善を行うというもので、その作業に必要な項目を設定しておくと、作業員の声を受けて、ふさわしい項目に発話内容が入力されていくという仕組み。
ささげ屋の秋山宙士社長は「(フィールドボイスが)作業報告などを音声で行っている事例を聞き、それを当社で当てはめて、採寸で利用できないかというのが最初の発想だった」と振り返る。
こうしてささげ屋ではフィールドボイスの技術を採寸作業の現場に生かすために動き出すことになる。

作業員の声でデータを登録

ささげ屋が目指す“音声採寸”の仕組みは、ヘッドセットを装着した作業員が衣料品などのサイズを計測し、メジャーの数字を見たままの状態でその値を声に出す。するとその発話が自動的に認識されて、アプリ画面上に採寸データが登録される。
ささげ屋が実施したデモでは、「サイズ、M」「着丈、72」「肩幅、41」「袖丈、13」「原産国、中国」「素材、綿100」といった具合に作業員が順に計測し、その都度数字や単語を言っていくと、アプリ画面上に音声データが入力されていく。

音声認識のAIエンジンは東芝デジタルソリューションズから提供を受け、アプリのインターフェイスなどはささげ屋が現場の作業を行いやすいように改善を進めている。
例えばデモでは「センチメートル」や「%」などの単位まで言わず、メジャーの数字を言っただけだったが、数字のあとに来る単位まで言わなくても、「肩幅」であれば「41cm」、「素材」であれば「綿100%」といった具合にその項目ごとにふさわしい単位で自動的に登録される。これはささげ屋側が手を加えた結果だ。さらには、アプリ内にはどのような項目が必要か。計測するのはどの部分か。その項目は大体何センチメートルの範囲になるのか。そうした細かなノウハウをアプリに注入しているのだ。

負荷軽減や誤入力低減に期待

ささげ屋が着手している音声採寸は現在、トライアルの段階で、何度もテストを行っている最中だという。それでも近日中に現場に正式導入を行う予定。さらに、ささげ屋と東芝デジタルソリューションズでは音声採寸の技術について共同で特許を出願している。

この音声採寸だが、ささげの現場に導入されることで、作業員の作業負荷を軽減できる。加えて、キーボードの入力の場合は桁を間違ったり、点を打ち忘れるといった“打ち間違い”が起こりかねないが、音声は見た数字をそのまま読み上げるだけなので誤入力の低減も期待される。
一方で、ささげを依頼する側であるアパレルや百貨店などのEC実施企業にとっても音声採寸によって大きなメリットが出てくるようだ。

スピードアップで機会ロス減へ

音声採寸の仕組みを使えばキーボードの入力に比べて、採寸業務の時間が短縮できる。秋山社長によると「トータルで考えて話したほうが圧倒的に早くなる。テスト段階で現場の感覚では作業時間は半分くらいになりそう」という。
作業時間がスピードアップすれば、倉庫に商品が着荷してから商品画像を通販サイトにアップするまでのリードタイムを短くできる。通販サイトへの掲載が早まれば、販売機会のロスを防ぐことにもつながってくる。商品ごとの採寸事業が短縮されれば、一定時間で扱える商品ボリュームも増加するので、商品数が豊富な仮想モールなどにとってメリットは大きくなると言えそうだ。
音声採寸によって、現場では作業負荷の軽減、依頼主であるEC事業者にはスピードの提供が期待できるというわけだ。
「音声認識は以前からあった技術だが、それをささげの現場に持ち込むことで音声採寸という今までなかったものに気づけて良かった。競合他社はどこも手をつけていない。世の中にはほかにもいっぱい可能性が埋もれているのではないか」(秋山社長)という。同社では「音声認識を使えば、倉庫業務などに応用することもできるのではないか」(同)とみている。
また、現在開発中のアプリでは、画面上に商品のシルエットが現れて、計測すべきポイントをガイドする。こうすることで新人であっても間違えずに採寸作業ができるようにする計画だ。

ビッグデータ解析も見据える

このようにささげ屋では音声採寸の本格導入を進めていく構えだが、見据える先にはさらに大きなビジョンがある。
秋山社長は音声採寸について「あくまで情報を集積するためのツール」と述べる。「アプリを経由することで採寸データがテンプレートに合わせた形できれいに残っていく。その集まったデータを活用して売れる提案につなげていきたい」(同)という構想だ。
つまり、アプリを通じて衣料品などファッションアイテムの採寸データを収集する。そこで蓄積したビッグデータを解析し、ブランドやターゲット、価格帯、色、素材などのデータからトレンドをつかむ。それをECサイト側がマーケティングデータとして商品の仕掛けに活用する……。そんな青写真を描いている。
そのため、音声採寸用のアプリはささげ屋の各拠点に配備するだけでなく、海外の製造工場に導入するなどグローバル展開を見据える。多くの作業現場で使うことで、蓄積するデータ量を増やしていくのが狙いだ。

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