楽天が出店者向けに独自配送網構築へ ―― 宅配会社より安い運賃で商品配送

楽天が仮想モール「楽天市場」出店者向けに同社独自の配送ネットワークを構築する。2018 年1月30日に都内で開催された出店者向けイベント「楽天新春カンファレンス2018」で三木谷浩史社長が明らかにした。出店者の物流業務を請け負う「楽天スーパーロジスティクス」を拡充。宅配会社よりも安い運賃で商品を届ける。ネット販売に特化した配送ネットワークを、2年以内に全国規模で構築するという。また、現在3カ所で展開している物流拠点についても、10カ所まで増やす計画だ。

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「宅配会社は非効率的」

講演する三木谷浩史社長

サービス開始時期や投資金額など、詳細については明らかにしていない。三木谷社長は「今年は当社にとっても店舗にとっても覚悟の年になる。楽天市場としては“ワンデリバリー”を実現しなければいけないと思っている」と述べた。
自社配送を展開するにあたっては、小規模な配送事業者と提携する可能性もあるほか、大手私鉄との連携も視野に入れる。三木谷社長は「大手私鉄幹部と『沿線では(大手私鉄の)子会社が届ける』という話で合意している。ヤマト運輸や佐川急便、日本郵便よりも安い運賃が実現できる」と自信を見せた。
再配達削減に向けては、人工知能(AI)を活用し、配送ルートの最適化を進める。「宅配会社は非効率的だと思っている。配送ルートも人間が計算している。当社であれば『この顧客は午前8~9時まで在宅している』といったデータを統合し、AIで最適な配送ネットワークが作れる」(三木谷社長)。また、すでに自社配送として「楽天エクスプレス」を展開、同社の書籍通販「楽天ブックス」では都内の一部で同サービスを利用している。SMSで配送予定を通知することで、再配達率が3分の1以下になっているという。玄関先や敷地内などへの「置き配」にも対応していく。さらには、楽天市場のアプリを通じて、ユーザーに配送状況をプッシュ通知する機能も導入する予定だ。

受け取り場所も拡大する。現在、楽天市場ではコンビニエンスストア受け取りに対応した店舗と対応していない店舗があるが、今後は全店舗でコンビニ受け取り、郵便局受け取り、宅配ロッカー受け取りができるようにする。また、「出店者の実店舗で受け取れるようにしたり、出店者の社員が顧客宅まで届けたり、楽天の社員が届けたりといったことも考えている」(同)という。
遠隔地への配送については、ドローン活用を本格的に開始する。自動配送車やシェアリングエコノミーの活用も検討する。
物流拠点についても、時期は未定だが10カ所まで拡大する。同社では一時期、全国5地域に8拠点の物流センターを設ける計画を立てていたが、14年に撤回している。昨今の宅配会社による運賃値上げや荷物の総量規制を受けて方針を転換。三木谷社長は「17年には当社の直販サービスも(総量規制で)出荷制限せざるを得なくなった。『(宅配会社は)何やってんの』という思いもあるが、残念ながら古いプラットフォームだ。新しい取り組みに挑戦しないと楽天市場、店舗の未来はない」と決意を述べた。

チャットを全店舗に導入

その他、チャットツールの活用を進めることも明らかにした(前号で既報)。ユーザーが商品に対する疑問や店舗に対する要望など、店舗とリアルタイムでやり取りすることができるというもの。試験導入している家具ネット販売のタンスのゲンによれば、チャットだけで1日100~200件やり取りがあり、購入転換率向上に貢献しているほか、顧客満足度も向上し、カスタマーサポートスタッフのモチベーションアップにもつながっているという。三木谷社長は「アマゾンを中心とする巨大企業に、どうやって特徴をもって対抗していくかを考えると、チャットのようなものに取り組む必要がある。私も(導入済みの楽天市場店舗で)チャットをしてみたが、やってみると買いたくなる」とその効果を強調する。

タンスのゲン販売部販売促進1課の石橋貴司課長によれば、電話と同様に午前10時~午後10時までチャット対応をしている。「画像や文章だけでは分かりにくい場合でもすぐに答えられるのは大きい。購入を迷っているときにリアルタイムで対応できれば、購入転換率向上につながるのではないか」という。
今後は簡単な質問についてはAIを活用して効率化を進める。三木谷社長は「店舗の皆さんにも準備をしてもらう必要があるが、今年は全店舗にチャット機能を導入する。巨大自動販売機であるアマゾンにどう対抗するかを考えなければいけない。当社のモットーは『ネット販売は自動販売ではない』。楽天市場は店舗とユーザーが楽しんでコミュニケーションしながらショッピングする場だ。また、楽天市場は出店時に店舗を選別しており、審査も厳しい。そこはヤフーショッピングと違うところだ」と競合への対抗心をあらわにした。

SNS関連サービスを刷新

「R‒SNS」で店舗ページからSNS へリンク可能に

また、楽天新春カンファレンスでは、楽天市場における18年の新機能などが紹介された。楽天市場では11年から、「フェイスブック」などのSNS上で展開する企業ページの制作代行・運用支援サービスとして「楽天S4」を展開しているが、18年2月に「R‒SNS」として刷新する。同サービスに店舗が申し込むと、楽天市場の店舗ページから「LINE@」「インスタグラム」にリンクを張ることが可能になる。
LINE@ の場合、の出店者が同サービスを導入すると、R‒SNSを利用する出者者は店舗ページ上にLINE@ アカウントの「友だち追加」ボタンが設置される。当該店舗に訪れたユーザーが同ボタンを押すと、店舗のLINE@アカウントの「友だち(フォロワー)」になるという仕組みだ。
獲得した友だちに対して店舗側はLINE@を通じてクーポン配信やメッセージ配信、問い合わせ受付などのコミュニケーションを行うことができる。これまでメールや電話で行っていた顧客対応をLINE@上で実施できるようになるわけだ。
導入が進む「楽天ペイ(楽天市場決済)」の今後のスケジュールについては、18年2月にCSV/API試験環境を順次公開。3月にCSVの導入を開始、4月にAPIの導入を開始、10月からは後払いを順次導入していく。
すでにサービスを導入した店舗からは「オーソリ対応やユーザーへの入金確認などの手間が軽減された」「入金サイクルが早くなったので資金繰りが助かっている」「チャージバックが発生しているので補償制度は魅力的」といった声が出ているという。
近年強化している、配送手段の多様化に関しては、店頭受け取りサービスを拡大している。これは、楽天市場で注文した商品を、実店舗で受け取れるようにするもの。組み立てが必要な商品や、付属品の取り付けが必要な商品、裾上げが必要な衣料品に代表されるサイズ調整が必要な商品などをネットから購入しやすくするのが目的だ。RMS(店舗管理システム)から申し込むことができる。
導入した店舗の事例によれば、客単価は約1.5倍、新規ユーザー数は約1.5倍、購入転換率は約1.7倍に伸びており、売り上げは約2倍に伸びたという。黒住昭仁執行役員は「全国に拠点がないと意味がないのではないかと考える店舗もいるようだが、少ない店舗数でも効果はある」と話す。
また、18 年上期には検索結果や商品ページに、ユーザーの住所にあわせた送料を表示するようにする。これまで、楽天市場では商品をカゴに入れて、購入画面に進んでからでなければ送料が表示できなかった。
17年10月からは、店舗の営業日カレンダーと、買い物カゴの配送日指定機能の連携を開始した。これにより、ユーザーは店舗の営業日をふまえて配送日が指定できるようになった。今後は、「午後11時までに注文すれば翌日中に発送できる」など、時間も取り入れた形にしていく。

CPC広告の効果改善

楽天市場が提供するCPC(クリック課金型)広告は、「検索キーワードに対して表示したい商品」を店舗が登録する仕組み。8000 店舗以上が利用し、ROAS(売り上げ/広告費)は平均500%となっている。
今後はデータを活用することで精度を高める。現在のCPC広告の場合、ユーザーが掲載商品と同じ商品を購入する割合は55%、店舗内の別の商品を購入する割合は45%となっている。つまり、キーワードに対して登録した商品が最適でない可能性がかなりあるわけだ。
18年4月には、CPC広告に掲載する商品を自動で最適化する「楽天プロモーションプラットフォーム」を開始する。これは自店舗の全商品を登録するだけで、楽天に蓄積された購買データなどを利用し、最適な商品が表示される仕組み。最低クリック単価は現在の50 円から25 円に下がる。
また、検索キーワードの表示率の改善も期待できる。今までリーチできなかったユーザーにリーチできるようになるため、広告経由流通は従来の6倍になるという。

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