“物流危機”なんて怖くない 新時代を生き抜くEC物流とは

人手不足が深刻さを増すなか、配送業者のドライバー不足により運賃の値上げが進んでいる。ネット販売の利用拡大に加え、商品を運ぶ物流人材の不足が合わさることで、モノが届かなくなる“物流危機”も危惧されている。しかし、最新の物流施設ではシェアリングやロボットの活用などによって省人化や生産性アップを成し遂げている。未来を見据えると、自動運転による配送も現実味を増しつつある。危機を乗り越えるためのEC 物流の最前線を見ていく。

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自動搬送ロボットの導入で人手不足対策と生産性向上へ

【物流拠点で進む自動化とシェアリング】

4月に千葉県市川市の物流センター内に立ち上がった「インテリジェント・ロジスティクス・センター・プ ロト」。複数の荷主が作業員や設備を共有するシェアリングモデルの物流拠点だ

顧客からの注文を受けて、保管している商品を出荷して配送するという一連の流れにおいて、物流拠点が果たす役割は非常に大きい。物流拠点や倉庫ではこれまでもさまざまな形で効率化が進められてきたが、テクノロジーの進化によってさらに新しい姿に変わりつつあるようだ。

シェアリング型の物流拠点

4月末、千葉県市川市に新たな物流施設が稼動した。大和ハウス工業がグループのダイワロジテックと共同で立ち上げたもので、その名も「IntelligentLogistics Center PROTO(インテリジェント・ロジスティクス・センター・プロト)」。大和ハウス工業が2016 年に開設した5階建ての物流センター「DPL市川」の2階部分を利用する。倉庫面積(ショールーム含む)は1万1958 平方メートル。

「プロト」のささげ業務では荷主のwajaが開発したクラウドサービスを利 用する

この新施設、大和ハウス工業では「R&D(研究・開発)」の場と位置づけており、随所に目新しい取り組みが見られる。AIやIoT、ロボットなど最先端テクノロジーを導入し、複数の荷主が同じスペースで作業員や設備、システムを共同で利用する“シェアリングモデル”を採用している。大和ハウスグループが物流施設や作業員、設備、システムなどを一括で提供し、荷主企業が物流サービスを利用した分だけ支払う従量課金制を導入、荷主各社は初期投資を削減し、スピーディーに物流サービスを構築できるようだ。

立ち上がり段階として、月額制の衣料品レンタルサービスを手がけるエアークローゼット、海外ファッションのネット販売を手がけるwaja、アニメやゲームのキャラクターグッズなどの越境ECを展開するTokyo Otaku Mode(トーキョーオタクモード)の3社が利用する。ダイワロジテックの秋葉淳一社長によると、荷主同士でささげ業務などをシェアすることにより「30%程度は効率が上がるのではないか」とみている。

「プロト」で利用する自動搬送ロボット「バトラー」。30 台を導入している

この物流施設では荷主企業は商品を預ける以外の役割も果たす。例えば物流拠点内でのささげ業務は、大和ハウスグループのフレームワークスが物流オペレーションやシステム構築を実施するのだが、そこで利用するのは荷主であるwajaがささげ業務用に開発したクラウドサービス「パナマスタジオ」だ。

「パナマスタジオ」は撮影から画像加工、サーバーアップロードまで一括で対応し、画像品質や業務効率で個人差が出ないのが特徴という。作業マニュアルがほぼ不要なため担当者は短時間のトレーニングで作業を行えるため、業務の効率化や撮影加工にかかるコスト削減などが期待できるという。wajaの自社内の数値では「パナマスタジオ」の導入により撮影加工人件費は80%削減されたようだ。
また、トーキョーオタクモードは世界130カ国に越境ECで商品を届けた実績を持つことから、今後は同拠点を利用する荷主企業向けに同社の越境ECのノウハウを提供していきたい考えだ。

自動搬送で生産性高める

「プロト」の作業員が働く様子。バトラーが必要な荷物を積んでいる棚を運んでくる ため、作業員が商品を取りに行く時間を節約できる。これにより生産性が2~4倍向 上するようだ

この大和ハウスグループの物流施設「プロト」の特徴の1つがロボットの活用だ。大和ハウス工業が出資しているGROUND(グラウンド)社が提供している自動搬送ロボット「Butler(バトラー)」を30 台導入している。
自動搬送ロボットは保管スペース内に並べられた荷物の保管棚の中から必要な商品を積んでいるものを作業員がいる場所まで自動的に運んでくるという仕組み。従来、作業員が商品が保管されている棚にとりに行っていた作業をなくすことで生産性を高め、同時に省人化にもつながる。グラウンド社の宮田啓友社長によると、人手で行う場合に比べ生産性は2~4倍向上するとのこと。
また、「プロト」では搬送ロボットのバトラーが運んでくる専用棚を400台用意している。棚が置かれている場所も、売れ筋商品を積んでいるものはピッキング作業に近い場所に配置し、ロングテール商品や動きの少ないものは遠くにするなど、自動的に最適化する。これによりバトラーの走行動線を短縮するというわけだ。

各社がロボット導入に舵

バトラーのような自動搬送ロボットの強みは、商品が置いてある場所まで作業員がとりに行くのではなく、ロボットが必要な荷物を積んだ専用の棚を作業員のもとに自動搬送することだ。

アッカ・インターナショナルが運営する「プロロジスパーク千葉ニュータウン」の物流拠点では自動搬送用 に「イブ」を活用している。6月には新たな荷主向けに台数を増やす

こうしたロボットの導入が複数の物流拠点で進んでいる。最も大きな動きはアマゾンだろう。企業買収によって生み出した独自の自動搬送ロボット「アマゾンロボティクス」を活用した自動化を進める。日本では2016年8月にアマゾンジャパンが神奈川県川崎市に稼働した「アマゾン川崎フルフィルメントセンター」にアマゾンロボティクスを日本で初めて導入した。
このほかに、電動工具や物流用品などのBtoB通販を実施するMonotaROが2017年3月末に茨城県笠間市に新設した物流センターに日立製作所が製造した自動搬送ロボット「ラックルー」を154台導入。これにより以前の物流拠点に比べて作業効率は3倍近くになるとのこと。
ニトリホールディングスのグループ会社で物流事業を手がけるホームロジスティクスも2017 年12 月に、大阪府茨木市の物流センターでバトラーを79 台導入している。

「唯一可能性があるやり方」

大和ハウスグループの「プロト」では、作業員が特殊な服を着用し、 心拍などを計測。このデータを収集し作業員にとって最適な働き方を 探るという

EC実施企業らが物流拠点でロボットの利用を進める中、ここにきて急ピッチに自動搬送ロボットの導入に舵を切っているのが通販のバックヤード業務などを手がけるアッカ・インターナショナルだ。

同社は昨年11月に全株式をダイワロジテックに譲渡し大和ハウスのグループとなった。そのアッカだが、2017年8月に千葉県印西市の物流センター「プロロジスパーク千葉ニュータウン」内に、中国のギークプラス社が開発したロボット「EVE(イブ)」を30台導入。受注件数の波動や人材不足への対応からロボットの導入に至ったようだ。
アッカの加藤大和社長によると、ロボットの導入によりピッキングの作業時間は3分の1になるため、生産性の向上が見込めるようだ。これに加え、作業員に専門のスキルがいらないのも特徴だ。「通常、倉庫内のロケーションを把握してピッキングをするとなると一定の熟練度が求められるため、長く安定的に働ける人しか現場でのコアな人材にならなかった。イブであれば30分単位で現場に入れる人材を配置すればいい」と加藤氏。
セキュリティ面でもロボットが効果を発揮するという。通販商品の在庫量が増えた際に、倉庫内をくまなく監視するのは限界がある。しかしロボットに商品棚を運ばせれば、作業員が移動する場所は限られる。その限られたエリアだけカメラなどで管理すればいいというわけだ。その延長で労働環境面でも「人がいるエリアだけ空調を入れて、後の部分は照明を落として真っ暗でも大丈夫」(加藤氏)とのこと。
アッカの千葉ニュータウンの倉庫はシューズブランドなど複数の荷主が利用しており、荷主がロボットをシェアリングして運用している。4月からはスポーツ用品販売のアルペンがEC向け物流拠点として利用を開始。アルペン向けに新たにイブを56 台導入している。
アッカでは「今は人を雇うのが難しい状況。通販物流の需要が高まる中で、ロボットの導入は唯一と言っていいほど可能性のあるやり方」(同)と、ロボット活用にアクセルを踏んでいく考えだ。同拠点には6月にも新たな荷主が入り、イブの台数も数十台規模で増やすもよう。アッカが神奈川県川崎市に構える既存の物流拠点でも7月からイブを数十台導入する計画だ。

人のデータ収集も始まる

ロボットが徐々に物流拠点の中で大きな役割を果たしつつある。その動きと並行して、働く人にフォーカスし作業効率を高めるためにテクノロジーを使うケースも出てきている。

最初に紹介した大和ハウスグループの新拠点「プロト」では、従業員の生産性の維持や向上を狙って、一部の作業員が特殊な服を装着している。内部にセンサーが付いており、心拍や皮膚温などを計測することができる。

服を使ってデータを収集し、そこから読み取ったデータを活用。心拍が変わったり、手の動きが変化した段階で休んでもらう。一定の傾向値が分かると、その作業員にとって最も生産性が上がる働き方が見えてくるというのだ。それによって物流拠点全体の生産性を高めるという狙い。
ダイワロジテックの秋葉社長は「ロボットだけでなく、人にどうやって働いてもらうかということに対してもデータを収集するきっかけになれば」と述べる。

【アッカ・インターナショナルの加藤大和社長に聞く 次世代型物流拠点のロボット活用について】

Q:自動搬送ロボット「イブ」を積極的に導入しています。

A:千葉ニュータウンの拠点には当初の30台に加えて、アルペンさんの56台を合わせて86台稼動しています。夏にはあと60~90台増やす予定です。当社の川崎のセンターにも夏に向けてイブを60~90台程導入します。すでにフロアにはQRコードを張ってロボットが走れるようになっています。

Q:ロボットを利用する際に荷主が負担するコストはどのような配分になっていますか。

A:当社で購入し、それを荷主企業に従量課金の形で共有して使ってもらっています。この仕組みでは、搬送する棚には複数の荷主の商品が保管されています。ロボットも棚も複数の荷主でシェアリングしています。これにより物流波動に合わせて必要なところに必要な資源を割り振っています。この波動の吸収というのは荷主企業の事業の継続を考えた場合に非常に大きいです。ほかには、使用する倉庫スペースも3割程度削減できます。仮に1000坪使っていれば700坪程度に圧縮できます。というのも、人間がピックするための通路が必要ありませんし、棚が通常よりも高いので、多くの荷物を保管できます。棚の高いところにあるものは、作業員は台を使ってピッキングしています。

Q:ロボットを使うことで人件費は減りますが、ロボットの料金は掛かります。全体で見ると荷主のコストは下がるのでしょうか。

A:下がります。ただ、仮に人件費が3割下がるからといって、単価が3割下がるわけではありません。ロボットへの投資回収もありますので。人が作業していたよりも若干下がるかもしれませんが、それ以上に出荷のリードタイムを早くしたり、人がいないから年末年始に出荷できませんということはなくなります。

Q:ロボットを使うことに可能性を感じていますか。

A:それはすごくあります。特に今、人が雇えない状況です。その中で通販物流の需要が高まっており、そこにBtoB向けの在庫も一元化して保管するということも行うようになっています。そんな中でこれまでとは異なるやり方をいろいろ考えると、これは唯一と言っていいほど可能性があるやり方です。そうでなければここまで一気に広げていません。

Q:物流全体で見るとロボットの導入は進むでしょうか。

A:進まないと難しいでしょう。人は集まらなくなっていきますし、荷物は増えていきますから。

Q:逆にロボットの導入を進める上で課題はありますか。

A:まず既存のセンターにすっと入れるのは難しいです。引越しのタイミングで空っぽになっていないと入れられない。あとは投資も最初に発生します。そうなると体力的に対応できるところになる。また、物流面での人材は少なくてもまわるようになりますが、別の人材として社内にシステムが分かる人や業務設計ができる人を置かないと、メーカーに頼り切るわけにはいかないでしょう。そういう意味ではITリテラシーがある程度ないと、ロボットを導入しても使いこなせないのではないでしょうか。

Q:物流の人材は減っても別の人材が必要だと?

A:そうです。それをカバーするためにロボットの数を少なくしたとしても、ロボットが3台であろうが100台であろうが必要なIT人材の数はそれほど変わりません。そういう意味で一定の規模がないと入れづらいです。規模があればコストが分散されますので。となると、荷主一社単体でこのスキームを入れていいかどうか。シェアリングのほうがよりメリットが享受されやすくなります。

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