在庫ソリューションでナンバーワンに 【グラッド 香取純一・渡辺サブリナ 共同CEO】

フラッシュセールサイトを運営するGLADD(グラッド)は、会員数260万人、売上高100 億円を突破し、7月には競合のギルト・グループを買収することになるなど、国内のフラッシュセール市場をけん引している。足もとではアパレルブランドなどの在庫消化のソリューションメニューを拡充しており、今期は越境EC も視野に入れる。17年1月に共同COOに、同11月には共同CEOに就任したマーケティング担当の渡辺サブリナ氏とMD 担当の香取純一氏に、成長戦略などを聞いた。

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ファッションECはグローバルに動き始めている

リアルの合同セールにも協力

─―17年11月に共同CEOに就任されました。

渡辺 会社全体を見るようになり、各部署のオペレーションはもちろん、KPIの作り方まで深堀りして見てきました。中でもチーム編成や組織のあり方に手を入れました。将来の成長を見据え、データ戦略室や経営企画室を独立させてCEO直属の部署にしたり、以前からあった採用推進室を強化しました。また、部門最適から全体最適へ舵を切りました。人数の多い制作部隊は細かいチーム体制を組んできましたが、全体のオペレーションを高めることを重視して管理体制を変え、各チームの役割とミッションを明確化しました。例えば、MDは各担当者がファッションやホーム分野などをまたがって見ていましたが、カテゴリー別のチームに切り替えました。

―― カテゴリー別のMD体制にした理由は。

香取 ファッションとホーム分野などカテゴリーによって出身やマインドが異なり、最初は同じマインドのメンバーがチームを組むことで成長のスピードにつなげていましたが、次のフェーズとして、各カテゴリーの課題を解決するのに複数カテゴリーを担当していると対応が遅れてしまうこともあるため、カテゴリーごとに分けて課題解決を迅速に行える体制にしました。

――ファッションEC の事業環境は。

香取 大きな企業がより大きくなっています。ゾゾやアマゾンの規模が拡大して影響力が高まっています。アパレル各社は利益率の高い自社ECに力を注いで成長してきています。越境ECは、ファッション領域ではまだインパクトのある企業は出てきていませんが、世界的にはアパレルECはグローバルに動き始めています。

――アパレル企業との取り引きで変化は。

香取 サンプル商品を送ってもらうという従来のアナログな部分がデジタルに変わってきています。自社開発した「グラドア」というベンダー向けポータルサイトの機能を追加し、従来はメールにエクセルを付けて送ってもらっていたものをウェブ化します。在庫確保の仕方も変化してきています。これまで、新しい商材はデータ化されていますが、当社が販売している少し前のアイテムはデータがないことも珍しくありませんでした。今はブランドさんのデータ整備が進み、サンプル品を用意してもらう必要がなくなっています。あとは、在庫連携して販売することもできるようになりました。

――ブランドにとっての在庫ソリューション機能を拡充しています。

香取 18年2月初めに複数のファッションブランドが合同で行ったファミリーセールを都内で共同運営しました。当社は売り上げを狙うのではなく、入場者管理やプロモーション、制作物などを担当しました。これまでの合同ファミリーセールでは駅前でチラシを配ったり、自社サイトにバナーを掲載して来場を促していたようです。

――顧客管理や集客がやりやすくなりますね。

香取 各社のユーザー情報が一元化されていなかったため、来場者には当社サイトの「グラッド」に会員登録してもらうことで合同ファミリーセールのデータベース管理ができるようになり、次回以降は当社から案内を送れます。今回はエリアや属性を絞って「グラッド」会員も招待しました。

――成果は。

香取 取引先ブランドとの関係性が強化できたことや、取り引きのなかったブランドさんとも接点が持てました。また、紙ベースだった会員管理を当社が担うことで、次回以降、参加ブランドが増えたり、入れ替わっても新客開拓につながります。オンラインでもオフラインでも一括でデータ管理してセールを開催できるのはブランド側の手間が省け、当社の強みになります。

中国向け越境EC 始動へ

――次の在庫ソリューションメニューとして注目しているのは。

香取 越境ECには注目しています。中国では「VIP」や「ジンドン」「カオラ」などが存在しますが、日本企業が中国のECプラットフォームに出るには知識や語学力、システム面などハードルがいくつもあり、当社がお手伝いできる部分が結構あります。

――越境EC を行うときの仕組みは。

香取 日本と中国で別々に事業展開するのではなく、ブランドさんに預けてもらった商品は国内でも売れるし、そのまま中国などの海外向けにも販売できる環境を整えるのが現時点ではベストな仕組みだと思っています。現在、複数の中国企業と話をしていて、マーケットプレイスに出るか、パートナー企業と組んで自社サイトを開設するのかを検討していて、夏以降をメドにスタートしたいです。単純に中国市場に出ても難しいため、パートナーシップを結んだ上で、販促や上位表示などを優先的に実施してもらえるようにする必要があります。中国側もこれまでメイン商材だったキッズやコスメからファッションにシフトしていきたい気持ちが強く、ファッションの得意な当社と組むことは意味があると思います。

―― MD 面の変化は。

香取 商品カテゴリーや取り扱いブランドを増やすことで顧客の継続率を高めてきましたが、次のフェーズは顧客一人ひとりの嗜好性に合わせたMD構築が必要です。データを活用してプロダクトアウト型からもう少しマーケットインのMD構成にしていきます。単一ブランドのECであればフォーカスしていると思いますが、サイト全体のお客様の需要を分析して従来以上に2回目、3回目の買い物につなげられるようにしたいです。ファッションが主軸であることは変わっていませんが、アクティブ会員1人当たり平均3点を購入しているため、継続率の観点からもホーム&ライフスタイルやデリ(食料品)、ビューティーの3分野は重要で実際に伸びています。

―― データ活用の事例などは。

渡辺 初回購入から、2回目、3回目の買い物までの期間や、ずっとファッション商材を買っているのか、複数カテゴリーの商品を買っているのか、どういう組み合わせで買っているのかを分析してシナリオ作りの精度を高めています。同時に、CRMのフロー作りに向けてメッセージの中身やタイミングの組み合わせを研究しています。

―― データ活用で重視することは。

香取 新規会員のKPIを細かく分析しています。当社では新規会員の約半数が購入し、8割が会員登録してから1カ月以内に買っているため、最初の1カ月が勝負です。1カ月間のカスタマージャーニーを作成し、購入まで導くことがひとつのKPIです。初回購入から2回目の買い物が短ければ短いほどLTVが高くなる傾向にあるため、初回から2回目までのベストな商材は何かを研究していますし、3回買ってもらうとかなりの確率で定着するため、そこまでにどういう提案をするかが大事です。初回にAという商品を買ったら2回目はBという商品を買いやすいというデータが必ず出てきます。その提案精度を高めることが大切で、少しずつ結果が出ています。

“成長をとめない”黒字化を目指していく

安定的な黒字体質にメド

――売上高の推移は。

渡辺 16年12月期は規模拡大のためのプロモーションを強化して売上高は100 億円を超えました。17 年12 月期は次の成長に向け、ユーザーが定着化するまでの課題をクリアすることを優先しました。ここをしっかり整備しないと、いくらコストをかけてたくさんのユーザーが会員登録しても、離脱してしまっては投資が無駄になります。前期はサービスレベルを含めて基盤作りに集中しました。長期にわたって成長するためのベストシナリオを作ることを優先し、集客面は少し落ち着かせていましたため、伸び率は前年ほどではないですが成長は続いています。

――今期については。

香取 今期からは再度、アクセルを踏んで新規客の開拓に力を注ぎます。同時に、コスト面では売り上げ拡大に伴って社員数も大幅に増員してきましたが、業務のデジタル化などで大幅に人を増やさなくても効率的に売り上げ拡大が図れるようになり、18 年12 月期は黒字化が見えてきました。これまで単月では黒字化していましたが、安定的に利益が出せるようになりました。

―― 黒字化に向けて何が変わったのでしょうか。

渡辺 成長に結びつくコストと安定化させるコストを分けました。売り上げに対するコストの変動費化も重要です。“成長をとめない黒字化”を目指すことに変わりはないのですが、コストを見直しつつ成長し続けられるように両軸で判断しています。

競合買収で存在感高まる

―― 7月をメドにギルト・グループを買収することになった経緯は。

香取 同じ時期にフラッシュセールを始め、お互いに違った強みを持つサイトに成長していて、一緒にできたらもっとソリューションを提供できて面白いのではという気持ちはありました。両社が一緒になることでユーザーは500万人、毎月10万以上の商品を取り引きする規模になります。お互いのノウハウやデータを分析することで「1+1」以上の効果が見込めます。

――両社の得意な領域が異なります。

渡辺 「ギルト」の強みであるハイエンドファッションやメンズが強化できることや、お互いのベストプラクティスを共有し、カスタマーサービスや物流などの面でもサービスを強化できます。また、ブランドさんへの提案の幅も広がるため、双方にとってメリットになります。

――フラッシュセール市場をリードする企業としての意気込みは。

香取 いまはフラッシュセール市場ですが、目指すのはナンバーワンの在庫ソリューション企業です。フラッシュセールを強化しながら、ほかの在庫ソリューションも積極的に広げていきたいです。

――次の成長に向けた伸びしろと不安要素は。

香取 テック系の人材不足と物流費の部分は不安材料で、運賃値上げは小刻みに上昇していて、どこまでいくのか不安です。プラスの材料は、この1年、MD担当として、どこに手を加えると売り上げが伸び、利益が出るかが見えてきました。そのチューニング具合を高めます。外部環境では越境ECやオフライン、データ活用など種をまいた部分が実を結んできています。
渡辺 明るい部分はブランドさんのECリテラシーが高まっていることと、データに対する新しい技術が想像の世界から現実のものになりつつあるタイミングで事業を展開できていることです。データ活用はこれから本格化しますが、ビジネスを大きくできる可能性が高いと思います。投資家やファンドもチャレンジ精神があり、後押ししてくれています。課題は、どこの企業もそうだと思いますが、自動化が進んで行く中で、人材がどれだけスピーディーについていけるか、全体的にレベルアップしていけるかです。あとは、EC市場が成する一方で表面化している物流の問題ですね。想像がつかないリスクが出てくる可能性もあります。当社は小さくても何か貢献できる会社でありたいと思っています。健康的なサイクルを生み出せる通販業界であるために先手を打っていきたいです。

プロフィール

香取純一(かとり・じゅんいち)氏 /  渡辺サブリナ(わたなべ・さぶりな)氏

香取氏はニューヨークの大学でファッションマーケティング&マネジメントを学び、アパレル企業でMD の経験を積んだ後、グラッド株式会社の立ち上げに参画し、バイイングとマーチャンダイジング部をリードしてきた。渡辺氏はファッションやビューティーなど幅広いグローバルブランドのマーケティング経験を生かしてグラッドの立ち上げに参画し、マーケティング部をリードしてきた。現在は両氏が共同CEOとして経営の舵取りを行う。

取材後メモ

以前のグラッドは大型プロモーションを連発するなど、物販の国内フラッシュセール市場でのシェア拡大に躍起でした。ただ、売上高100億円を突破して市場をリードする立場になると、黒字化に向けた社内改革や顧客の定着化に向けたサービス水準の向上策、取引先ブランドの在庫消化機能の拡充に力を注ぐなど、“大人”の企業に生まれ変わった印象です。7月には、競合ギルト・グループの買収が完了する見込みで、得意分野や顧客層の異なる2つのフラッシュセールサイトをどのように運営し、取引先や消費者の満足度を高めていくのか、グラッドの手腕に注目が集まりそうです。

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