ファッション通販のトレンドとなるか 提案型ECの狙いと効果は?

モノや情報があふれかえる昨今。膨大な数のファッションアイテムから自分に合った一着を選ぶのは簡単ではない。そんな中、個々の消費者の好みに合わせて最適な商品を届ける“提案型EC”が注目されている。オンライン上で細かく顧客ニーズを汲み取りリアル店の“接客”に近づこうとしたり、顧客の嗜好にマッチした定期便を送ったり。実際に高い購買率を出す企業も出てきている。果たして提案型EC は、モノあまり時代のトレンドとなるか──。

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【事例① ストライプデパートメント】

アンケートとチャットで顧客のニーズを吸い上げる

今年2月に立ち上がった仮想モール「ストライプデパートメント」。手厚いスタイリングサービスによって 顧客に商品を提案している

「earth music & ecology(アースミュージック&エコロジー)」などのアパレルブランドを展開するストライプインターナショナルがソフトバンクと合弁会社ストライプデパートメントを設立し、2月に百貨店アパレルを扱う仮想モール「STRIPE DEPARTMENT(ストライプデパートメント)」を立ち上げた。F 2層をターゲットに百貨店向けの高品質ブランドを取りそろえ、他の仮想モールと差別化を図るというものだ。
同モールは現時点で650ブランド・10万アイテムを取りそろえており、8割レディース、2割がメンズで、商品構成はアパレル6割、雑貨4割となっている。“試着ができない”“接客ができない”といったECならではの課題を解決する施策の一環で「ストデパ」が提供しているのがスタイリングサービス「Personal Styling(パーソナルスタイリング)」だ。

アンケートで趣味・嗜好を把握

「パーソナルスタイリング」では顧客のニーズを細かく吸い上げて、顧客が望む商品をコーディネートで提案する。ECとはいえ“デパートメント”と謳っている以上、スタイリストが個別に手厚く接客をするというのが肝になる。

「パーソナルスタイリング」を希望する顧客はまずアンケートに回答する。質問項目は多岐にわたり、体型や希望のスタイリング、住んでいる地域、サイズ、フィット感、予算など、かなり細かく尋ねていく。
ストライプデパートメントのEC事業本部スタリングチームの片淵未希氏によると「アンケートの内容は何度も手を加えています」という。「例えばお住まいの地域を尋ねるというのは最近追加しました。エリアによって気候が異なるため、提案する商品の袖の長さや素材を選ぶ際の参考にしています。仕事用やプライベート用など希望のスタイリングをお聞きする項目も少し前に加えました」(片淵氏)。サービスは内製で開発しているため、すぐに改善ができるのが強みだという。
アンケートは顧客の趣味・嗜好を把握して、最適な提案をするために実施している。好みの雑誌を選んでもらうといった項目なども設けており、スタリストがブランドを選定する際に参考にしている。ただ、顧客の好みを詳しく把握するためとはいえ、あまり多くを尋ねると離脱を招かないのだろうか。
同社執行役員CTOでプロダクトマネジメント部部長の松本均氏は「スタイリングサービスを始める前にテストマーケティングをしたのですが、実際にお客様にアンケートをして最初は20項目くらいで試しました。すると、お客様から『これでは私の好みは分からないでしょ』や『ちゃんとスタイリストと話したい』といった声があがってきた」と説明する。

そこで同社ではアンケートの項目を増やしたが、「離脱率は変わりませんでした。お客様が実際に求めているのはプロのクオリティによる提案や変身願望などですので、そこの願望をしっかりと汲み取るのが大切です」(松本氏)とのことだ。現在もアンケートに回答している最中に離脱するケースは少ないようだ。

「パーソナルスタイリング」では、アンケートで体 型や住んでいる地域など細かく尋ねて、顧客の好 みやニーズを吸い上げる

チャットで要望を直接伝える

「パーソナルスタイリング」でアンケートが終了すると、次にユーザーが所有するアイテム画像のアップデートや、全身写真の投稿といったステップがある。これらは任意だが、情報が多いほどスタリストとしてはユーザーが求める商品の把握や着こなし提案の精度などが高まるという。
その次のステップでは、チャットを通じて細かな要望をスタイリストに直接伝えることができる。これも任意だが、スタイリングチームの片淵氏は「思っていたよりも利用されています」と述べる。年齢は40代や50代の層が多いという。このチャット対応は午前9時から午後11時まで。片淵氏を含め同社のスタイリングチーム3人が平日の朝から夕方まで行い、平日の夜間と土日は外注先であるチャットセンター運営の空色が請け負っている。

CV 率は「非常に高い」

こうしてアンケートやチャットなどによって顧客の要望を細かく吸い上げ、スタイリストが個別に商品を選定する。選んだアイテムやコーディネートは1~3日後にメールで顧客に届ける。提案するのは最大9アイテムで、3パターンのコーディネートが定番だという。
顧客は届いたメールを確認し、気に入ったものを選ぶと商品が送られてくる。顧客が自宅で試着して、購入する商品を決める。それ以外の商品はストデパに返送する。送料や返送料は無料だ。このように無料で試着できて、無料で返送できるというは「デパートメントの接客としては重要です」と松本氏は言う。
この「パーソナルスタイリング」を使った場合、「コーディネートで購入していただくのでセット率が上がります」(松本氏)。結果、客単価は高くなる。また、通常のECに比べてコンバージョン(CV)率も「非常に高い」(同)という。その背景として、同社では「こちらからアンケートとチャットでコミュニケーションをとって、お客様のニーズを把握できることで高いコンバージョンにつながっています」(同)と説明する。アンケートだけでなくチャットを利用した場合だと、スタイリストがより詳しく顧客の好みを捉えることができるため、セット率やCV率はさらに上がるようだ。

ストデパ執行役員の松本均氏㊨とスタイリングチームの片淵未希氏

接客の品質は下げない

「パーソナルスタイリング」のスタイリング実績は現状、月間で約200 件。件数や成約率は毎月順調に伸びているようだ。個別に細かくニーズを把握して提案するため「誰一人として同じスタイリングをしたことはないです」とスタイリングチームの片淵氏は述べる。
実際にセット率やCV率などで一定の成果が出ているようだが、「一回の提案で決まらないということがあるので、まずは提案の精度を高めるのが大きな課題」と片淵氏。チャットの利用でCV率が高まるという傾向を踏まえ、「チャットへの促しを強化したい」(片淵氏)とする。
松本氏は今後を見据えて「スタイリストがしっかりと商品を選ぶことで、品質が高い提案ができるのが当社の強み。そこは必ず担保したいです。接客の品質を下げるという選択肢はありません。ただ、将来的には自動化やAIなどを導入し、スタイリストが業務に集中できるよう、システムでサポートしていきたい」と展望する。

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