IPO実現に向けマーケティング強化 佐伯 澄● MOA 代表取締役

家電のネット販売を手掛けるMOAと子会社のMOASTORE、MOA酒販は2018年3月、投資ファンドであるサンライズ・キャピタルの完全子会社となった。今後は株式公開(IPO)が目標となる。前期も2桁増収を果たしたMOAだが、近年は家電量販店もネット販売に注力するなど競争は激しさを増している。家電は仕入れ商品だけに利益率が低く、特に比較がしやすいネットの価格競争は熾烈を極める。8月に着任した佐伯代表取締役の考えるMOA の強みと今後の成長戦略とは。

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現在の当社は大手家電量販店がたどってきた道と同じ過程にある

PB好調、メーカーとの取り引き拡大

――家電のネット販売専業はたくさんあるわけですが、サンライズ・キャピタルがMOAを選んだ理由について、投資ファンド側からはどう聞いているのでしょうか。

経済産業省のデータによれば、家電のネット販売市場は全体の約30%を占め、毎年10%弱成長していることから、その比率が今後も伸びることは確実です。当社は家電ネット販売市場の伸びを上回るペースで売り上げが増えており、ファンドも投資先として魅力的と判断したようです。

――競合となる家電のネット専業の中では、最近になって伸び悩む会社もありますが、MOAはここ数年も業績が好調に推移しています。自社の強みをどう分析しますか。

当社の場合、商品を安く売るだけではなく卸販売も行っており、「仕入れる力」という点では最も強いと思います。つまり、優秀なバイヤーがいて、これまで培ってきたネットワークがあるわけです。他社よりも売れ筋商品が多く集められる環境だからこそ、短期間でこれだけの成長を遂げたのではないでしょうか。ネット専業の通販企業の場合「仕入れ力は弱いがネット関連の技術は強い」という会社も見受けられますが、当社は仕入れという現場力に優れているのが特徴だと思います。また、プライベートブランド(PB)シリーズ「マクスゼン」も好調です。PBですから、仕入れ販売と比較すると粗利が多いため、収益性も高くなります。

――マクスゼンは自社通販サイトで販売するだけでなく、他社への卸販売も行っていますね。

18年10月にはQVCジャパンへの卸もスタートします。1回目なので実験的な取り組みとなりますが、扱うのは圧力鍋です。今後はメーカーとして本格的にマクスゼンシリーズの卸を展開する予定で、テレビ通販も新たな販売チャネルとして期待しています。19年6月期のPB売上高は30億円が目標です。

――アイリスオーヤマや山善など、低価格家電製品のカテゴリーも競合がひしめきあっています。どう差別化していきますか。

低価格で機能を絞った「ジェネリック家電」の分野でいうと、5年前に液晶テレビで参入した当社は先発組に入ります。そのため、消費者にもブランドが浸透し、信頼性も生まれてきているのではないでしょうか。もともとは単身世帯をターゲットとして液晶テレビを中心に展開してきましたが、最近は女性を対象にした調理家電のラインアップを増やすなど、顧客層を広げています。

―― 家電を販売するネット専業の通販会社の中には家電量販店と提携したところもありますが、MOAはそういった道は選びませんでしたね。

当社の場合、基本的に全方位外交で、大手家電量販店とは仕入れと卸の両方で取り引きをしています。なので、どこかと提携するというのはマイナスになるわけです。

――仕入れに関して、家電メーカーとの取り引きはどの程度なのでしょうか。

現在は主要な家電メーカーとは取り引きがあり、取引額のうち約70%がメーカーとの直接取り引きです。売上規模が大きくなってきたので、メーカーとの取り引きに必要な口座を開けるようになってきています。

――規模が拡大しているといっても、大手家電量販店に比べると売上高は10分の1以下であり、仕入れ単価にはかなり差があるのでは。

それはこれからの課題です。やっと口座が開けたわけですから、今は実績を積み重ねていくステージだと思っています。

――これまでは、メーカー以外からの仕入れが多かったがために安売りできていた部分が大きいと思いますが、メーカーとの直接取り引きが増えると仕入れ値が上がり、価格面で不利になるのではないですか。

そういう部分もないとは言いませんが、例えば販売計画を達成できなかった商品を良い条件で引き取るなど、助け合いをすることで少しずつメーカーとの関係を強化することができるはずです。口座を開けるようになったといっても、そのメーカーの全商品が取り扱えているわけではありませんし、地道な努力で利益率を上げられるようにしていきたいですね。かつて、個人経営店が大きくなることでチェーン店となり、家電量販店と呼ばれるようになっていったわけですが、現在の当社は彼らがかつてたどってきた道と同じ過程にあると思っています。

ビッグデータを活用しながらフリークエンシー上げる仕組み導入

非家電商材は全体の10%に

――家電以外の商材の取り扱いも増えており、一昨年には酒類の販売も開始しましが。売れ行きはどうですか。

酒類に関してはなかなか難しいという印象ですね。というのも、酒を専門に扱う通販サイトは多く、対等に戦おうと思うとなかなか大変です。例えば、ワインであれば多くの種類を取り扱う通販サイトに勝つのは厳しいし、対抗し商品を揃えようと思うと利益がほとんど出なくなってしまう。どこまで商材を絞って勝負するかに関して模索中です。

――食品や日用品については。

伸びてはいますが、家電とはサイズが違うので倉庫での管理が難しい。商品数を増やせば売り上げも伸びるのでしょうが、運賃の問題もありますから、ある程度商品数を絞るつもりです。

――こうした商材の取り扱いは、サイトへの来訪回数増や購入回数増という狙いがあると思いますが、家電を購入した既存客にはどうアピールしているのでしょうか。

ここが当社の課題です。これまで1カ月あたりの購買回数についてはあまり考えておらず、当社の通販サイトで家電を買ったユーザーが二度と来訪しないということの方が圧倒的に多かったのです。会員登録したユーザーに対し、家電以外の商材や家電に近い商材を買ってもらえるよう、プロモーションをかけようと思っています。そのためにはどんな商品を販売したらいいのか、着任してから手を付けています。これまで、インターネットで通販をしていながら、あまりネットを活用していなかった部分がありますから、購入履歴などのデータを活用し、フリークエンシー(頻度)を上げて購入金額を上げていきたいですね。

――具体的には。

仮想モールも含めると当社は「エープライス」と「プレモア」という2つの名前を使って通販サイトを展開しているわけですが、ブランディングできていません。現在、KDDIの仮想モール「ワウマ」に追加出店を予定しており、家電と家電以外で商材を分けて展開したいと思っています。「エープライス」では家電を販売し、「プレモア」は日用品を扱うサイトにしていきたい。携帯電話ユーザーが中心のワウマは当社の従来の顧客層とは少し違うので、実験的に日用品を集めたショップを出店し、販売する仕組みを構築していきたいと思っています。

――自社サイトは価格比較サイト経由の顧客が多いでしょうか。

そうです。価格比較サイト経由で来訪した場合、サイト名は気にせず、価格だけを見て購入する顧客が多いので、そこから一歩進んで、いかにリピーターになってもらうかが大きなポイントになります。そのためには、ビッグデータを使いながらフリークエンシーを上げる仕組みを導入していきます。スマートフォンのプッシュ通知を使った販促や、チャットボットのような人工知能を使ったレコメンドも考えています。当然、プッシュ通知を使うのであればスマホアプリの導入が必要になります。ただ、家電はあまり購入頻度が高くないわけで、家電だけを売るサイトのアプリは、ユーザーにあまりダウンロードしてもらえないと思うので、購入頻度の高い食品や雑貨の品揃えが充実した段階でリリースしたいですね。

――日用品についてはアマゾンやヨドバシカメラのような大手と競合します。サービス面で優れた巨大サイトにどう対抗するのでしょうか。

彼らがあまり得意としていなかったり、KPIの観点から注力していなかったりする商材を販売していきたいと思います。会社として、どのカテゴリーを攻めるかは明確にはなっていませんが、価格競争がそこまで激しくない商材を扱いたい。具体的には、ペット用品やDIY関連、住宅設備系などを考えています。ただ、まだバイイングパワーが足りないので、規模が巨大なGMSと同じ品揃えにしても仕方がないわけです。ロングテール型ではなく、分野を絞るつもりです。

――どう見極めるのでしょうか。

購買履歴やテスト販売の結果、仮想モールから得られるデータなどを通じて、家電と一緒に購入してもらえるような商材を扱っていきます。

――運賃値上げへの対処は。

5000円未満の購入に対する送料を700円から864円に値上げしました。現在の規模では自社物流に踏み切るのは難しいので、何とか対処するしかないわけです。19年6月期の業績に影響する部分ですが、経費増を吸収するために粗利を増やし、EBITDA(営業利益+償却費)ではトントンかややプラスに持っていくつもりです。

――18年6月期の業績は。

売上高は前期比35.4%増の423億8700万円、営業利益は6億6000万円、経常利益は5億4000万円でした。マクスゼンが伸びたほか、各社仮想モール店舗の売り上げが好調でした。売り上げ比率としては自社サイトが1、仮想モール2となっており、セールを定期的に開催している楽天市場やヤフーショッピングなどが好調です。

――19年6月期の業績見込みは。

売り上げは毎月のアベレージで15%増は最低でも達成したいです。

――上場の時期はいつになるのでしょうか。

まだ決まっていませんが、数年内というイメージです。

――売上高1000億円に向けた施策は。

現在の成長ペースなら6~7年後にはいけると思います。まずはデータ活用など、ウェブマーケティングができてないので力を入れていく。既存客にもう一度買ってもらうための仕組み作りやプロモーションを手掛けることで業績向上につなげたいですね。メールマガジンだけではなく、ソーシャルメディアの活用も考えています。5~6年後には非家電商材が売り上げのうち約10%を占める計算です。また、PBシリーズについても15~20%にしたいと考えています。

――佐伯さんはアマゾンジャパンにも在籍していたわけですが、その知見をどう活かすのでしょうか。

これまで勢いで伸びてきた会社ということもあり、「より安く売る」ことを重視しており、既存客へのフォローなど顧客視点の施策ができていませんでした。今後はそこに注力することで、価格比較サイト経由ではなく、直接当社の通販サイトに来てもらえるようにしていきたいですね。

プロフィール

佐伯 澄(さえき・のぼる)氏 1973年9月生まれ。東京都出身。大学卒業後、1996年東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。2005年に住友商事に入社し、海外での事業投資や事業経営に従事。その後、アマゾンジャパンにおける新規事業のカテゴリー・リーダーを経て、2018 年MOA 代表取締役に就任。

取材後メモ

家電はネット販売黎明期から利用者の多かったジャンルですが、目立っていたのは価格比較サイトに情報を掲載するネット専業でした。メーカー販売会社経由の正規ルート以外から商品を仕入れることで、大手家電量販店の通販サイトよりも安い価格で販売、売り上げを伸ばしてきたわけです。しかし、近年は家電メーカーが以前よりも商品の生産数を絞っており、量販店からの「横流し」により市場へと流れる品数が減少しています。

こうした中で、MOAは家電メーカーとの取り引きを拡大。さらには投資ファンドの子会社となることで新たなスタートを切りました。家電は単価が高いだけに急拡大しやすいのですが、大手家電量販店ほどの売上規模に到達したネット専業はまだありません。他社にはない「PB」を武器として目論見通りの拡大を果たせるか。佐伯氏の手腕に注目です。

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