Sun, May 26, 2019

「テクノロジー」でマーケティングを変える 飛鳥貴雄●ピアラ 代表取締役社長

通販マーケティング支援を行うピアラは18年12月、東証マザーズに新規上場した。前期(2018年12月期)売上高は、前年比約51%増となる109億円となる見通しだ。成長を支えるのは、広告効率の最適化に向けた「AI予測モデル」の運用。これを背景に、業界でも珍しい「KPI 保証(成果報酬型)」という形でマーケティングコンサルティングを展開する。「テクノロジーでマーケティングを変えたい」と話す飛鳥社長が語る広告領域におけるAI 活用の現状と将来像とは。

「ビューティ&ヘルス」に特化し強みを発揮する

AI予測モデルが広告予算の最適配分を導きだす

―─運用する「AI予測モデル」はどういったものになりますか。

広告の過去出稿データから予算配分を最適化するモデルになります。過去データから「ディスプレイ広告」や「検索連増型広告」「SNS広告」「DM(ダイレクトメール)」、これら施策をヤフーで行うのか、グーグルで行うのか、といった最適な予算配分でポートフォリオを組んでくれます。いわば、金融トレーダーの業界にAIトレードが普及したのと同じで、仮に運用が予測値から大きく外れた場合はアラートが出て戦略の変更を指示します。広告クリエイティブの疲弊か、検索エンジンのアルゴリズムの変更かは分析が必要ですが、株取引のロスカット(損切り)のように変化を捉えリスクを低減して最適なポートフォリオを組み直してくれます。

――なぜ、広告領域におけるAI活用を始めたのですか。

テクノロジーでマーケティングを変えたいと思っていました。これまでもマーケティングコンサルティングの中で、例えば、青汁であれば、この媒体やクリエイティブ、訴求が売れている、といったことを提案してきました。ただ、属人的な部分もあり、新卒社員など全員が同じように提案することは難しい面があります。過去に人が経験値から行ってきた広告の構成要素の中から重要と思われるものをタグづけし、その知見をAIに学習させることである程度の予測モデルが構築できると考えました。代理店の立場だからこそ知見を活かせている面もあります。複数のデータから導き出された予測モデルは、膨大なデータを学習し、新しく加工された独自の知財になります。

――「ビューティ&ヘルス」領域に特化してAIを構築した理由は。

さまざまな業種業態の購買から広告までのデータとなるとアマゾンやグーグルには勝てません。ゾゾが「ゾゾスーツ」でアパレルの採寸データを取りに行ったように、単品リピート通販、しかも「ビューティ&ヘルス」に絞れば、これも膨大なデータにはなりますが、精度を高め、大手に対抗し強みを発揮できます。以前、女性下着メーカーに在籍していましたが、下着はトレンドの予測が難しい分野です。過去データから予測すると、やはり定番のカラー、サイズのものが売れるとなり、トレンドものに挑戦しにくい。化粧品もメーク品を除けば「シミしわ」カテゴリのスキンケアが人気であるなどトレンドが変わりにくい面があります。そうでれば過去データから予測モデルが構築しやすいと考えました。

――青汁も定番商品の一つですが、訴求ポイントをシニア向けの「野菜不足」から若年層向けの「ダイエット」に変えるなどして成長する企業もあります。精度の高い予測は可能なのでしょうか。

どのような商品も利用目的は「ユーザーインサイト(悩み)」に集約されます。よく見ていると、例えば青汁に乳酸菌を加え「腸内環境」への悩みに対応するなど、根底にある〝悩み〟から市場に広がりがでています。AIは「悩み」もタグづけして学習しているので傾向値を導き出すことはできます。

人が持つ広告運用の知見を学習

――AIは広告運用のどういった要素を学習しているのでしょうか。

「ビューティ&ヘルス」領域において「商品特性」や「ユーザーインサイト(悩み)」「広告媒体」「価格帯」「オファー」「クリエイティブ要素」などを学習しています。例えば、シミしわ化粧品であれば、こういった媒体、価格帯で予定するマーケティング予算を入力することで、効果的な広告媒体の最適な配分を予測します。オファーであれば、「全額返金」や「割引」、「トライアルのクーポン」などさまざまなパターンがあります。クリエイティブにモデルを使うか使わないかなどレスポンスが変わる要素は、これまで十数年間、コンサルティングを行う中で各人が工夫してきた知見。こうしたポイントをタグづけして学習します。

――テレビなどメディアミックスの効果はどう学習していますか。

アトリビューション効果はまだ完全に読み切れていない部分があります。ただ、予算額が増えれば、結果的にさまざまな媒体を運用します。そうなると、AIも過去、アトリビューション効果から成果のあったものからを予測していると推測できます。因果関係は分からない部分もありますが、複数の媒体を使ったシナジー効果による結果は学習できていると考えられます。

「KPI保証」だからこそ、AIの精度を高め最適な予算ポートフォリオを組める

広告運用に責任持つ「KPI保証」で成長

――不確定要素の大きい広告運用で「KPI保証」を打ち出す理由は。

これまで不動産などさまざまな業種業態の広告運用を手掛けてきましたが15年に一度、営業赤字を経験しました。当時、成果報酬型ビジネスの9割は継続しましたが、従来の一般的な広告サービスの提供による手数料型のビジネスが落ち込んだことが背景にありました。やはり、広告主からすれば〝手数料〟は目につきます。より安価な手数料で提供する代理店がいれば、そちらに流れます。一方で「KPI保証」であれば、成果を出し続けることができれば、こちらがイニシアティブを握ることができ、お互いウィンウィンの関係になります。当時の経験から「KPI保証」に舵を切りました。

――前期は前年比51%増で着地の見通しです。増収の要因は何ですか。

現在、「KPI保証」で取引関係にあるのは180社(前年は144社)。取引社数は15~20%ほど伸びました。(取引先の広告運用を)最適化すれば効率は高まりますが、最適化に向けた初期段階のクリエイティブのディレクションに労力がかかります。このため社数は少しずつ伸ばしています。一方で、1社あたりの予算額はこの2年で16年比約70%増の4750万円に高まっています。以前は、AIの精度向上が途上にあり、KPIを保証しつつ展開するとなると確実な獲得が見込めるものに絞られていました。ただ、現在は最も取引額が高いところは数億円。AIの精度が高まり、成功事例が増えてきたことで単価が高まっています。

――昨年12月、東証マザーズに新規上場しました。これに伴う調達資金はどこに投資していくのですか。

構築を進めるAI予測モデルの精度向上に向けた投資に3割ほど、人材獲得の強化に向けたに投資に6~7割ほどの資金を充てます。これまでAI活用や、いわゆる〝作業〟と言われる業務の外部委託やシステム化により、人的効率化を進めてきました。一方で「AI予測モデル」も万能ではありません。コンサルティングを行うウェブマーケティングの場合、スタートの段階で通常、バナー広告を100個ほど、キャンペーンページを4、5個制作します。ただ、AIは広告の「構成要素」を学習して一定の傾向値を導きだすことはできますが、ちょっとしたニュアンスの差など最終的な広告クリエイティブは、まだ人が構成を考えなければいけない部分があります。こうしたディレクションを行える人材の獲得を強化していきたいと考えています。

――過去データからの予測も重要ですが、SNSや動画など新たな広告メディア、マーケティング手法も誕生しています。どうAIの精度を高めていますか。

「KPI保証」の予算内で成果を出しつつ、2割ほどの余剰予算で効果が見込める新規施策を検証しています。通常なら、ユーチューバーなど動画の新たなマーケティング、「TikTok(ティックトック)」など新たな動画共有アプリが出てきても効果が分からないから販売企業側からすると手が出しにくいと思います。けれど「KPI保証」であればテストできます。当然、失敗する可能性もありますが、成功すればデータが溜まります。そうしてより精度の高いポートフォリオが組めるようになります。最近でもユーチューバーの動画広告に合わせた出稿で低いCPAで獲得できた事例もあります。

オフライン領域でもAI活用へ

――今後、ウェブの新規獲得領域のほかに、AIの活用はどういった分野に広げていかれますか。

オフライン領域、テレマーケティング領域でもAIの学習は始めています。例えば、チラシも〝D4サイズだとはみ出て目立つよね〟とか、細かなテクニックの知見があります。〝シニア系の同梱媒体でどうだったか〟、同梱の内容も〝こういったセットでは効果が出た〟など、そういった差異でレスポンスが変わることは分かっています。こうした要素をタグづけして学習しています。ただ、データの絶対量はまだ少ないので今後蓄積し、精度を高めていきます。

テレマーケティングは、現在、自社コールセンター(徳島)のほかに、全国8社20拠点と連携体制を構築し、アウトバウンドも月50~70万件を手掛けています。今は、各拠点でどういう人にどんな商品を提案させれば良いか、ということを人がディレクションしています。ただ、AIには担当者別のデータやトークスクリプトの要素を学習しています。トーク内容すべてをテキストマイニングするとなると膨大な量になりますが、コールセンターの運用で必要な要素の重みづけを行っていくことで最適な配置バランスを導き出すことができます。

――担当者別のデータなど、具体的にどういった要素を学習していますか。

オペレーターも人によって健食が得意、化粧品が苦手、話し方のスピードなどの違いがあります。中高齢層であれば若いオペレーターよりシニアが良いといったこともあります。そうしたオペレーターの特徴を捉え、施策に対して最適な配置をすることでCPAを低減できます。通常、コールセンターの運営は効率化に傾きがちになりますが、「KPI保証」を掲げている観点からすると、視点は(取引先となる)通販企業と同じ。良い人に良い形で電話してもらうことがCPAの低減につながります。そのために必要な要素を人がすべて管理し、配置バランスを導き出そうとすると大変なため、知見を移植して学習しています。

――CRM領域におけるAIの活用の可能性は。

すでにデータ学習を始めていますが、CRMは「クロスセル」「アップセル」「解約防止」「休眠掘り起し」などKPIの数が多い。また、広告出稿と異なり、1つのアクションに対する成果が明らかになるまでタイムラグがあります。このため、データ学習に時間がかかっていなす。売り上げに占める「新規獲得施策」の割合も9割ほどになります。ただ、市場環境もCPAの高騰からCRMに注力する企業が増えており、将来的に伸ばしていきたいと考えています。

――越境ECなど海外に成長力を求める企業も増えています。この領域でもAIの活用を進めていきますか。

現在、中国のほか、台湾、ベトナム、タイで事業展開しています。中国はデータ開放に消極的な面もあり、なかなかAIにデータを学習させていくことは難しい面があります。ただ、13年の進出以降、『ウェイボー』や『ウィチャット』『大衆点評』などのSNSの運営会社、アリババの正規代理店になっており、『KOL』を活用したソーシャルコマースなど、越境ECの構築、マーケティング支援を展開しています。一方、チャットコマースの普及率が高いタイでは、自社開発したチャットシステム『ギボンズ』を使った越境ECや現地におけるECを支援しています。これら東南アジア圏では、将来的にAIを活用したマーケティング支援の展開も視野に入れています。

プロフィール

飛鳥貴雄(あすか・たかお)氏 1975 年5月29日愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。在学時からさまざまな仕事を経験し、卒業後の99 年、トリンプ・インターナショナル・ジャパンに入社。営業を経て、最年少で通販カタログ室長と直営店事業部企画室長になり、通販事業の立ち上げなどを行う。04 年11月、ピアラ代表取締役社長に就任。現在に至る。

取材後メモ

アマゾンやグーグルなど「GAFA(ガーファ)」と言われる巨大IT企業の台頭、また、スマートフォンの普及によりECを取り巻く市場環境は大きく変わりました。その影響を受け、通販・ネット販売市場では、旧来からのカタログ通販企業の苦戦も伝えられています。その中で、今なお成長を果たす企業の多くは、自らが持つ強みを先鋭化させています。メーカーであれば自らが持つ研究開発力やブランド力を、流通大手はサービス品質を武器にこれら巨大IT企業に対抗しています。

「ビューティ&ヘルス」という強みを持つ領域に特化し、また、旧来の広告代理ビジネスでは発想しにくく、その必要性も迫られなかった「KPI保証」に着目したピアラもその1社と言えるのではないでしょうか。「KPI保証」は、取引先となる通販企業に対する責任を明確にすることになります。一方、着実な成果を出すことで、新規媒体の開拓など自らの可能性を広げることにもなるなど、強みに変わってもいます。

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