Mon, April 22, 2019

食品流通の新しいシステムを作る 福﨑康平●クックパッド JapanVP 買物事業部本部長

クックパッドは昨年9月に、生鮮品のネット販売を開始した。ドラッグストアなどの店頭を受け取り場所として活用し、自宅や職場の近くで、好きな時間に商品の受け取りができることがサービスの特徴だ。商品を販売するだけの生鮮品のネット販売とは異なり、販売者や受け取り場所となる店舗、配送業者などさまざまなプレイヤーが参加する。事業を担当する福﨑康平氏は「食品の流通システムをプラットフォームの考え方で変えたい」と語る。

生鮮品だから宅配をやらない

レシピを中心に買い物の領域へ事業を拡大

――2018年9月に、生鮮品のネット販売「クックパッドマート」を始めました。

「クックパッドマート」は出店する肉や魚、青果などの店舗の中から自分の購入したい食材を選んで購入し、職場や自宅の近くで受け取ることができるサービスです。展開するエリアは、東京・目黒区や世田谷区の一部で、現状は約10店舗が出店しています。

――「クックパッドマート」を始めた理由を教えてください。

クックパッドは昨年3月で20周年を迎えました。レシピの開発やレシピサイト運営の会社だと思われている方も多いと思いますが、現在ではレシピを中心に、料理のバリューチェーンの構築を目指して、生産や買い物、キッチンの領域へと事業を拡大しています。

「クックパッドマート」は買い物の領域における事業のひとつで、多くのユーザーに参加してもらってサービスを提供するプラットフォームの考え方で買い物をもっと自由にもっと便利にすることを目指しています。

店頭受け取りは街への“置き配”

――なぜ商品の受け取り場所が店頭なのでしょうか。

生鮮品のネット販売だからです。宅配をやらない考え方で、店頭受け取りという形で街に置き配をする仕組みを考えました。

「クックパッドマート」はユーザーにいち早く、厳格な温度管理の中で品質の良いものを届けたいと考えました。配送業者による宅配は、配送のリードタイムが発生しますし、生鮮品の再配達は品質面を考えれば現実的に難しいわけです。玄関前への置き配を行うケースもありますが、セキュリティや鮮度に対する課題もありました。店頭受け取りであれば、こうしたハードルをクリアできるだろうと考えました。

――店頭受け取りのメリットは。

ユーザーが好きな時間に受け取れるので、受け取りを待つための時間がいらなくなります。スーパーのように基本的に持ち帰れる量を注文してもらうので、持ち帰りによる不便さもありません。食品同士であれば同じ庫内で管理できるので、バーティカルに流通できる仕組みになります。

――どのような店舗が受け取り場所になっているのでしょうか。

現状はドラッグストアや、酒類販売店、カラオケ店、クリーニング店などで設置しています。さまざまな業態と組むことで、ユーザーの利便性が高い受け取り場所を検証しています。まずは1社1カ所から始め、1社の受け取り店舗を増やしていきたいと思います。

クックパッドマートの受け取り場所になることで、店舗への来店を促進する効果を期待しています。ドラッグストアは生鮮品の取扱いニーズが高いものの、賞味期限などの商品管理のリスクがあるためなかなか進んでいませんでした。クックパッドマートの受け取り場所になることで、サービスの補完につながると考えています。

今後は、マンションの共用部や、保育園などの参加も視野に入れています。さまざまな業態の事業者と協議して、受け取り場所の拡大を目指します。

――独自配送網はどのように構築したのでしょうか。

複数の出店者を回って集荷し、受け取り場所に届けるという配送網を構築しました。スタート当初は、前日の夜までに注文した商品を当日に集荷し、受け取り場所へ届ける形で展開しています。

私の考え方では、精肉などの専門店は受け取り場所から5~10km以内のなるべく近い店舗に参加してもらおうと考えています。また、青果などの生産者は市場や漁協などの団体での参加を目指しており、片道1時間で届けられる範囲であれば充分対応できると思っています。

――商圏の広げ方はどう考えますか。

受け取り場所だけを増やすサービスではなく、受け取り場所と地域の販売者を同時に開拓していかなければならないので、地域性を重視して広げたいと考えています。

必要なものをストレスなく購入できることが重要

――配送料は。

無料です。ユーザーからは徴収しない仕組みにしています。食品はクール便になると送料が高くなりがちで、他社では送料無料となる金額も高額に設定されているサービスもありますよね。必要なものをストレスなく購入できることが重要なので、パン1個でもたくさん購入しても、送料無料とすることでユーザーの心理的な負担を下げました。

――送料無料は収益に影響しないのでしょうか。

クックパッドマートは、商品を販売する出店者から手数料を徴収し、委託している配送事業者や受け取り場所で分配しています。なので、送料を無料にしても収益への影響はありません。受け取り場所単位の共同購入のようなモデルになるので、1台の冷蔵庫の稼働率が重要になります。1人がパン1個しか買わなくても20~30人が購入してくれれば、受け取り場所1カ所あたりの売上高は大きくなるので、配送の効率化につながります。サービスの普及に伴いクリアできる課題だと考えています。

配送については、ドライバーへの報酬を高く設定している一方で、徹底的な効率化を進めています。積載率をコントロールして、コンテナに入っている容積をミリ単位で計算しています。なるべく多くのものを運ぶことができるよう積載率を上げて配送するように工夫しています。配送ルートも自社で組んでいます。ドライバーと連携してルートを決定しています。配送のシステム構築には、エンジニアで組織する研究開発チームが手掛けており、ディープラーニングや機械学習を活用し、流通のシステムを作っています。

――なぜそこまでするのでしょうか。

スーパーなどの店頭小売は一般的に、グローバルに調達網を持っていて本部の依頼で調達している、いわば垂直統合型の調達網になっていると思います。災害などで交通がマヒしてしまうと、商品が届かないなどの影響が出てしまいます。中央集権の考えで調達を効率化したことで、災害に弱くなっているわけですね。一方で、クックパッドマートはインターネットと同様に分散型で考えました。地域から調達して地域に配達する配送網を持つことで、災害時でも商品が届かないリスクは低いわけです。そういった点でも、クックパッドマートの価値を提供できると期待できます。

――販売者の手数料はどう設定しているのでしょうか。

手数料は公開していません。ですが、受け取り場所への距離や食材ごとの配送コストはそれぞれ異なるため、一律ではなく変数に設定しています。そうすることで、どの食材を配送してもコストの負担がないようにしました。

さらに、販売者に対しては、全体の送料を下げていく提案をしています。例えば、ニーズにあわせてユーザーが買いやすいようにカットして販売することを提案しますが、同時にひと手間をかけることで送料も安くなるという説明も行います。最終的は全体の送料を下げることを目指していきたいと思います。

あらゆるシーンで利用してもらいたい

ユーザーの日常利用を促す

――事業における評価指標を教えてください。

ユーザーが日常的に使ってもらえるかを重視しています。そのために、必要な機能を追加していきます。クックパッドマートがどこでもスマホで注文でき、どこでも受け取れるような状態を目指していきます。

――いつごろになりそうですか。

5年以内には目指したいですね。3~5年後のスパンで考えると、カーシェアリングは、車の消費を所有から共有へと変えました。なので、5年の間に新しいサービスを浸透させ、消費行動への影響を与えることができると考えます。

――日常的に使ってもらうために、どのような機能が必要になりますか。

いろいろありますが、まず、配送リードタイムについて、当日に注文した商品を当日に受け取りができるようにすることが1つ。現状で、前日夜の注文を当日に受け取ることができるのは、他のサービスと比べると短い方ではありますが、より短くするほうがユーザーの利便性が高いと考えます。

新しい機能としては、定期購入サービスの導入も検討します。毎週同じものを注文するユーザーのその都度注文する手間を省くことで、買い物の時間を短くすることができます。個人的なイメージですが、冷蔵庫からそのまま注文できる仕組みがあれば、食材を切らしてしまうことがなくなるかもしれません。当社のIoTチームと開発を進めたいと考えています。

――「クックパッドマート」の立ち上がりは。

プロジェクトをスタートしたのは2018年1月末ですが、1年経たずに事業をスタートできたことや、順調にエリアが拡がり、出店者や受け取り店舗が増えていることを踏まえると順調といえるでしょう。特に、受け取り場所は店舗などの先方からの提案がきっかけになることもあるので、とても良い状況にあります。

出店者側からは、「こんなサービスを待っていた」と期待する声もありました。これまでは、自社の店頭やスーパーなどへの卸販売以外に、日常的に購入してもらえる販路を開拓することが難しかったようです。また、ユーザーからはツイッターなどのSNSをみると「食べてみたらおいしい」「安かった」など、値頃感を感じる投稿がみられたので評価をいただいていると思います。

累計1000回のテストで課題に対応

――良いスタートを切れた理由は何ですか。

オフィスでテスト運用を半年間実施して、社員に累計1000回使ってもらいました。受け取りの問題点や、見栄え、セキュリティの問題点を洗い出しました。例えば、温度管理や、他のユーザーの分まで持って帰ってしまうトラブル、商品に付けたシールがはがれてしまうトラブルなど、さまざまな課題が浮上し一つひとつ対応しました。

――盗難やユーザーが受け取りに来ないなどのリスクはどう対応していますか。

今は店頭で、店員の目が届くところに冷蔵庫を置いています。人の目があることで、盗難などのトラブルを未然に防いでいます。

今後は冷蔵庫に鍵を付けることも検討しています。人の目が届きにくい店舗の入り口付近や、店外などに設置するにはそういった対応が必要になります。こうすることで、商品の受け取り可能時間を24時間に延長したいと考えています。

また、受け取りの間違いを未然に防ぐために、ラベルにRFIDを実装し、間違えて持って行った場合にはアラートがでる仕組みも実験しています。

商品の受け取りは、アプリに配信する受け取り番号を用いて行います。ほかの人でも受け取れる仕組みにすることで、仕事帰りのご主人や、第三者に譲ることもできるようにしました。受け取れない場合に、チャットなどを活用して個人間の取引が成立できれば廃棄率を抑えることができます。

――自宅への個別の配送を行う可能性はありますか。

2018年11月から、バイク便の事業者が主体の配送クラウドソーシングサービス「みんなの宅配」との連携を行いました。実証実験で一旦は終了しましたが、「みんなの宅配」を介して利用すると、ドライバーが受け取り場所から商品をピックアップしてユーザーの自宅まで届ける試みでした。

宅配をやらない思想でスタートしましたが、雨の日や急な体調不良などさまざまな事情で店舗まで受け取りにいけないシーンが想定できます。普段は店頭受け取りで、家に届けてほしいときに宅配を使えれば、あらゆるシーンに対応できると考えています。

プロフィール

福﨑康平(ふくざき・こうへい)氏 1991年生まれ。在学中にバザーリー株式会社を設立し、災害時民泊サービスである「roomdonor.jp」など開発・運営。教育関連のプラットフォームサービス「サイタ」を運営するコーチ・ユナイテッドに事業開発担当として入社。取締役を経て代表取締役社長に就任。事業売却のち、2018 年にクックパッド株式会社にCEO 特命事項(新規事業)担当として入社。現在は、Japan VP買物事業部本部長として「クックパッドマート(Cookpad Mart)」の事業責任者を務める。

取材後メモ

クックパッドマートは2018年9月に生鮮品のネット販売に参入しました。地域の出店者から集荷して、自宅や職場に近い店舗で受け取ることができるものです。

生鮮品EC市場はラストワインマイルを制するためにコンビニやスーパー、ネット専業の各社が配送を強化しています。そうした市場の中で、クックパッドではユーザーの自宅への配達をあえて行わない選択をしました。送料無料で利用できることや、おいしい食材を欠品なく購入できる利便性を踏まえると、クックパッドの勝算は十分にありそうです。

クックパッドは今後QRコードやRFIDなど、新しい技術を用いた商品や流通の管理を進めており、最新のテクノロジーを活用したサービスの構築を行うといいます。テクノロジーが今後の食品流通をどう変えていくのか、楽しみです。

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