キャンプブーム受けPBの認知拡大へ 西田耕三●ナチュラム 取締役社長

スクロールでは2018年1月、フランスのアウトドア用品販売会社デカトロン エス・エー社から、アウトドア用品・釣り具通販のナチュラムを買収した。ナチュラムは1996年にネット販売をスタートした老舗ネット販売企業で、仮想モールでも知名度が高い。ネット販売売上高は10年1月期には65億円に達したものの、低単価商品へのシフトで利益率が悪化し、11年1月期には最終赤字に転落。スクロールによる買収直前となる16年12月期にも最終赤字を計上していた。近年、ネット販売企業を多数傘下に収めるスクロールだが、ナチュラムをどう立て直すのか。

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ユーザーにとって手の届く価格で多彩な機能盛り込んだ商品を開発

損益管理徹底し利益生む体質に

――買収してから1年以上が経過しました。2019年3月期はどのように推移しましたか。

売り上げが多少伸びて、利益面での黒字に転換する見通しです。私がこの会社に来たときの印象は、KPI管理はしていても、利益に結びついていないということです。ナチュラムでは年3回ほど大きなキャンペーンをやっていますが、どうしても売り上げ優先という雰囲気があり、購入金額によらず全商品送料無料にしていたわけです。ちょうど2018年4月にそのキャンペーンの開催時期と、宅配会社による運賃値上げが重なったので、注文単位での損益管理を徹底することにしました。

――運賃値上げにはかなりのインパクトがありましたからね。

そうですね。送料無料となる足切りラインの変更や、送料自体の値上げも行いました。ただ、そもそも「イベントだから全品送料無料にする」といったキャンペーンには経営的に耐えられなくなっており、これを期にやめました。

――売り上げは落ちたのではないですか。

やはりというか、低価格商品が動かなくなりました。上期の売り上げは前年割れで推移していましたが、当然そうなるだろうという予測はしていました。ただ、注文単価に関しては上がっており、比例して発送個数は減っているため、販管費のうち物流費の占める割合がそこまで上がらず、利益は改善していました。売り上げさえ戻れば利益は出せるということを社員に認知してもらいたかったわけです。そこで、下期には拡販のための施策を実行し、増収となる一方で黒字を確保する見通しとなりました。

――具体的にはどんな施策を行ったのでしょうか。

仮想モールに複数の店舗を出店することで、売り場を増やしました。また、以前と違って損益管理がある程度できるようになったので、「このラインまでなら利益が出る」ということを前提に販促を打ち、それが売り上げにつながりました。

――ポイント戦略を強化したわけですね。

そうです。ポイントを付与した上で送料を加味し、注文ごとに儲けが出るか出ないかを見極められるようになりました。そもそも粗利が薄い商材なので、少しでも判断を誤ると赤字になってしまうわけですが、見極めの精度が高まってきました。そもそも、こうしたキャンペーンが消費者に刺さるかどうかも問題になるわけですが、そういったことも戦略的にできました。20年3月期以降も、こうした施策の精度を上げていきたいと思っています。

――他の通販サイトでも購入できる商品が中心なだけに、価格競争は厳しいのでは。

プロパー品を扱っている業界はどこも同じだと思います。ただ、そういった意味では、やはり商品政策を強化しなければなりません。釣り具、キャンプ用品ともにプライベートブランド(PB)を保有していますが、現在はキャンプの方が市況は良く、「ハイランダー」というブランドでテーブルなどが良く売れています。PBを広げるためにも、さらに商品開発にシフトしていく予定です。また、大手アウトドアブランドとのコラボレーション商品や、当社でしか扱わないカラー展開などの開発も続けています。こうした商品は当社の通販サイトでしか買えないため、価格競争には巻き込まれにくくはなりますが、当たる商品もあれば当たらない商品もあるのが実態です。

――商品企画は社内で行っているのでしょうか。

そうです。生産は国内のメーカーに委託する場合もあれば、中国の工場で製造する場合もあります。親会社であるスクロールは中国に事務所が保有しているので、連携を強めればもっと良い商品ができるのではないかと考えています。

キャンプと釣り専門の会社としてコンテンツ作り込み顧客と深い関係築く

キャンプブームが後押し

――人気の出たPB商品について、その理由をどのように分析しているのでしょうか。

テーブルなどは昨今のキャンプブームに合致したのが大きいのではないでしょうか。19年1月に発売したテントは家族用の大きなものですが、1人でも短時間で設置できる点が評価されたようで、反応も良いです。もちろん、こうした機能は過去の商品にもあったわけですがが、価格が高かったのです。ユーザーにとって、手の届く範囲の価格で機能を盛り込めた点が大きいと思います。

――ブランド力の強化も重要になってきます。

ハイランダーという自社ブランドをいかに顧客に認知してもらい、育てていくかが大事です。ブランドとして認められるように、支持されるような商品の提案をどんどんしてくことが、他社との大きな差別化ポイントになるのではないでしょうか。

――PBの売り上げはどのくらいまで拡大するのでしょうか。

売り上げはまだまだ少ないので、今の数倍以上にしなければいけません。もちろん、PB以外の商品の品揃えも重要ですが、プロパー品は価格競争に巻き込まれやすいので、利益を確保するためにはPB強化が重要になってきます。

――価格競争に関してはどう対応しますか。

消費者心理として、同じ商品が並んでいたら安いサイトで買うのが当然です。ただ、アマゾンは確かに強いですが、例えばルアーだけみると、品揃えが一番というわけでもありません。当社としては専門性を活かし、愛好者に刺さるような商品を提案できるかがポイントになります。当社の場合、品揃えは充実していますが、ルアーなら何万点もあるため、探しにくいのが実情です。ユーザーに欲しい商品を見つけてもらうための工夫をもっとしていかなければいけません。

――自社ブランドをどのようにアピールしていきますか。

地道に商品を増やしていくことはもちろん、ブランディングも大事です。さまざまな媒体への露出やSNSの活用も行います。また、19年3月に京セラドーム大阪で顧客向けの展示会を開催しましたが、そこで自社ブランド商品も紹介し、顧客から意見も聞きました。キャンプ関連のイベントも増えているので、ハイランダーとして出店し、ブランディングを強化していきたいですね。

――新規ユーザーの獲得も重要になります。

釣りに関しては市場が元気とはいえないが、最近はキャンプが盛り上がっています。19年放映された、女子高生がキャンプを楽しむテレビアニメ『ゆるキャン△』が人気になったり、お笑い芸人のヒロシさんによる『ソロ(一人)キャンプ』のユーチューブ動画が話題になったり、キャンプに世の中の目が向けられています。そこで、現在は商品開発もキャンプを中心にしています。

――釣りに関しては。

釣りについては底辺拡大が重要なので、「釣りを始めたい」と思っている人に興味を抱いてもらえるよう、通販サイトで初心者向けコンテンツを充実させているところです。

――複数の仮想モールに店舗を出店していますが、自社サイトの売り上げ比率はどのくらいでしょうか。

全体の40%を切りました。ポイント付与を目当てに、自社サイトから仮想モールの店舗に移行するユーザーがいるのが実情です。ただ、自社サイトはコンテンツの作り込みが仮想モール店舗と全く違うので、顧客を呼び込むための工夫はもっとしていかなければいけません。

――せっかく自社サイトに誘導しても、そうしたコンテンツを閲覧してから仮想モール店舗で購入するケースが考えられます。

やはり、高価な商品であればポイントがたくさん貰えるサイトで購入する人が多いでしょうし、それは仕方のないことだと思います。ただ、自社サイトのコンテンツを充実させていけば、競合と比較した際に好感を抱いてもらえるケースがあるのではないでしょうか。また、コンテンツの作り込みでSEOの効率が上がっていく面もあります。そういったウェブの技術面に関してはスクロールのグループ会社との情報交換を欠かさないようにしています。

――品揃え面で自社サイトと仮想モールの店舗で差をつけることはしないのですか。

基本的には、販売できる商品は全て両者で扱っています。

――釣りとキャンプが主力ですが、商材の拡大は考えていますか。

もう1、2本柱が欲しいですね。ただ、ナチュラムとしては過去にスポーツ用品などを扱っていた時期もあったのですが、赤字を出して撤退した経緯があります。まずは現在の事業を立て直すことが優先ではありますが、いろいろと検討したいと思っています。

――具体的には。

19年3月4日付で、防災備蓄品などのBtoB販売を手がけるミヨシを子会社化しました。ナチュラムの場合、地震などの災害が起きると、ランタンが売り切れになるなど、防災用品には需要があります。当社とシナジーがある商材ですから、新たなカテゴリーとして考えています。

――アパレル関連商品も取り扱っています。

売り方を見直したいと思っています。アイテム数が多いこともあり、きちんとしたユーザーへの見せ方ができていません。そこで、ナチュラムの中でそのブランドを表現するための売り場を作っていきます。

――アパレルでもPBを開発するのですか。

競合が多いので、今のところは考えていません。キャンプ用品はアパレルほど競合がなく、そこまでブランドが確立していませんから、きちんと機能を作り込んでいけば当社にもチャンスはあると思っています。実際に、プロパー品よりも売れる商品が生まれていますから。

――PB以外の差別化については。

キャンプと釣り専門の会社として、どれだけコンテンツを作り込めるか。そして、顧客と深い関係を築けるか。とはいえ、ヘビーユーザーになって高額商品を買うようになると、やはり価格で比較されてしまうわけです。それは仕方のないことなのですが、例えば釣りをすれば必ず糸や針は買うわけで、当社を利用してもらえるチャンスは出てきます。初心者からヘビーユーザーまで、コンテンツを通じていかにファンになってもらうかでしょうね。黎明期からネット販売を展開している、歴史のある会社でもありますから、ファンは多い。京セラドーム大阪のイベントも盛況でした。ですから、当社のビジネスはまだまだ大きくできると思っています。

プロフィール

西田耕三(にしだ・こうぞう)氏 1960年6月生まれ。83年ムトウ(現・スクロール)に入社。2007年通販事業部販売推進部部長。10 年よりスクロール執行役員(14年より同常務執行役員)。16年豆腐の盛田屋取締役社長。スクロールが18 年に子会社化したナチュラムにて、同年より取締役社長を務める。

取材後メモ

ナチュラムといえば、ネット販売黎明期から活躍している、業界の有名企業です。バックに大手企業の資本力などがなく、また、メーカーの直販やカタログ通販企業でもない、いわゆる「ネット販売事業者」としては初めて株式公開を果たしました。

ところが、上場後は競争激化も相まって業績が悪化。プロパー品を扱っている通販サイトは、どうしても価格競争に巻き込まれやすくなります。ナチュラムもその例に漏れず、大手サイトの攻勢を受け、利益が取れなくなっていったようです。

こうした中でナチュラムを買収したスクロールは、個人向けではカタログ通販から撤退し、ネット販売を強化。有名ネット販売企業を次々に子会社化しています。早速立て直しの成果は出ているようですが、かつての輝きを取り戻すにはPBのブランディングが重要。今後の施策に注目が集まります。

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