「au」のコマースはワウマが担う 八津川博史● au コマース&ライフ 代表取締役社長

タイムセールサイト「LUXA(ルクサ)」を手がけるルクサと、仮想モール「Wowma !(ワウマ)」を運営するKDDIコマースフォワードが合併する形で、2019年4月1日に誕生したauコマース&ライフ。親会社のKDDIでは、コード決済サービスに参入するとともに、「au ID」のKDDIユーザー以外への開放を予定しており、グループのポイントサービス「ウォレットポイント」の利用先として、ワウマの重要性はますます高まっている。八津川社長の考えるワウマの将来像とは。

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2019年はかつてない変化の年、ワウマのテーマは「変化を進化へ」

auユーザーの購入数急増

――2018年度のワウマを振り返って。

流通額は前年度比31%増、ユーザー数は48%増でした。両者の差は単価が下がったことによるですが、実は通常のユーザーの単価はそこまで下がっていません。18年6月にポイントプログラムの変更を行い、1回のセールで取得できるポイント数の上限を下げたことで、1人で多額の購入をするユーザーにとってのメリットが薄れた。商売としては健全に伸びていると思います。出品数についてはワウマに名称を変更した2年前と比較すると44 % 増、出店数は3.3倍となっており、店舗数は約1万5000。以前は「商品がない」とか「有名店が出店していない」という声がユーザーから出ていましたが、こうした部分はかなり解消できたのではないでしょうか。

――重視した施策は。

1つは管理ツールである「ワウマネージャー」。1年間で40以上の新機能を追加できました。複数の仮想モールに出している出店者がほとんどですが、これまでは「ワウマは面倒」「ワウマだけに手はかけられない」という声が多かった。こうした不満はほぼ解消できたと思います。ユーザー向けとしては、au利用者向け施策を強化しました。auユーザー購入数は、前期比80%増。特に直近は成長率が伸びています。サービスレベルとしては、インフラ強化や、最大15倍というポイント増量施策の定常化、ログイン周りのチューニング、表示速度改善など細かい部分まで手を入れています。auユーザー向けに実施した、仮想モール利用者の顧客満足度調査においても、競合モールに負けない数字になってきました。

――ポイントキャンペーンの変更には効果がありましたか。

auウォレットクレジットカードを保有し、ワウマを定期的に利用するユーザーは最大15倍となるため、キャンペーン定常化以降、成長速度が一段引き上げる効果がありました。au利用者向け施策としては、auショップとの連携強化や、KDDIが無料会員制プログラム「auスター」会員に特典をプレゼントする「三太郎の日」とのタイアップ、さらにはワウマで買い物した金額の最大10%を、携帯電話の通信料金に還元するサービスも1月からスタートしています。通信料金引き下げは昨今の携帯電話業界の大きなテーマでもあり、新しいユーザーの開拓につながっている手応えがあります。

――19年度の施策は。

総務省から通信料引き下げの指導があり、さらには楽天が携帯キャリアとして新規参入するという、かつてない変化の年です。それに向けて、KDDIとしても「auは他キャリアでもIDを取得してサービスを利用できる」、つまりオープン化に踏み込みます。さらにはコード決済サービスとして「auペイ」も始まり、決済領域を拡大している。そこれワウマとして「変化を進化に」をテーマとして掲げます。その上で2社を統合する形で新会社を立ち上げた。社名にも『au』を取り入れています。これまで通り『通信のau』なら、そう名乗る必要はなかったわけです。auがオープンになることを前提にしたコマースとライフスタイル・ライフデザインを担う会社となります。

――ルクサではワウマとは違う商材も扱っています。

ルクサでは「コト系」商材が力強く伸びているので、物販以外の領域やエンターテイメントも含めて、会社としてもワウマとしても担っていきたいと思っています。一方、店舗からすると、これまでワウマと、ルクサの運営するコマースサービスである「auウォレットマーケット」に分散していたものが、1社に統合されることでしょう。顧客からは「分かりにくい」という声がありましたし、会社が別のため意思決定もしづらい面がありました。そこで、今後オープンになっていくauのコマース&ライフ領域はワウマに一本化することを打ち出していきます。店舗からすれば、非常に商売しやすい形になったのではないかと思います。「サービスルクサ」はターゲットがラグジュアリーな層であり、売り方がフラッシュセール中心、商材はコト系が多いので、そこは別サイトで大事に育てていきます。いずれは連携したいと思っていますが、ワウマとはあまりにも違うサービスなので、セグメントごとにうまく紹介していくような形を考えています。

ワウマを使い続けてもらうためのサービス・プロダクトを磨き上げる

「店舗スコア」で「良い店」優遇

――auユーザーへのワウマの浸透も進みそうです。

コマースはau経済圏における出口戦略ですが、ワウマを使い続けてもらうためには、データや金融との連携を強めなければいけません。もちろん、国内1/3のユーザーを誇る携帯事業があるわけですから、今まで以上に太く利用してもらう。グループ全体でau経済圏を強化していきます。事業戦略としては「auベストコマース」を宣言しています。今後はオープンauとなるわけですが、コマース領域については全部当社が担い、ユーザーベースを拡大するという意味です。auユーザーにおけるワウマ利用率には、まだまだ伸びしろがあると思っているので、一本化したことをテコに加速していきます。もう一つの軸が「エンゲージメント強化」です。商品戦略、サービス両方から強化していきます。ユーザーとのタッチポイントを増やし、関係を強めていきます。この両軸が店舗と作っていくマーケットであり、ワウマならではの体験価値につなげます。ここでの付加価値がワウマの「Wow !」につながるわけで、改めて宣言しました。

――具体的には。

auショップでの入会促進については、18年12月から始めたわけですが、毎月強化しており、全店舗の店頭で新規・機種変更ユーザーにワウマ会員になってもらっていますし、ワウマで商品を購入する手前まで、手順を示すようにしています。ここで入会するユーザーは、ネット販売初心者が多く、さらには一度購入してもらえれば、リピート率は高めという数字も出ていますから、かなりの伸びしろだと思っています。一方、ネット販売慣れしていない顧客が多いわけですから、ワウマにおける「良いお店」を優遇し、こうしたユーザーに買い物してもらいたいと思い、「店舗スコア」を導入します。

――店舗スコアが高いとどんなメリットがあるのでしょうか。

まず、スコアの基本要素としては店舗レビューや納期遅延率、店舗都合によるキャンセル率、クレーム数などがあります。もちろん、レビューは良い方が、残りは少ない方が高くなります。10点満点で、ワウマネージャーから確認できますから、7月まで磨き込んでもらえれば。7月以降はこのスコアを検索結果に適応させます。また、さまざまなキャンペーンに優先的に参加できたり、当社から支援したり、こういったものにも店舗スコアを反映させます。今秋以降は追加要素として、ユーザーへのおもてなしに関する指数などもスコアに盛り込んでいく予定です。

――エンゲージメント関連では。

3月28日、ワウマアプリに「タイムライン機能」を設けました。店舗からの評価は高く、利用度も上がってきています。店舗・商品がユーザーのお気に入りに登録された店舗が、セール情報などフリーメッセージでアプローチできるという機能です。「興味はあるけどまだ商品を買っていない」という層にアプローチできるようにすることで、購入率を増やすのが狙いです。「クーポンを発行します」とか「値引きします」などという無機質なアプローチだけではなく、フリーメッセージで「おもてなし」できる流れを実現します。現在、流通のうち半分程度がアプリです。しかも、ワウマを使い続けている濃いユーザーがアプリ利用者なので、アプリにおけるセンターのタブにタイムライン機能を設けました。今後は「シナリオ配信」ができるようにしたり、セグメント接客の機能を導入したり、動画やハッシュタグによる投稿を可能にすることで、SNSのようなコミュニケーション機能を強化していきます。

――楽天との協業もスタートしました。

楽天が楽天市場出店者の物流業務を請け負う「楽天スーパーロジスティクス」を活用したワウマ加盟店向けプランの提供を開始しました。さらに、インアゴーラと提携した中国向け越境ECに関して、初期費用・固定費無料で提供します。また、新たなサービスとしてオンラインサロン「ワウマサロン」を設けます。店舗育成だけではなく、店舗からの要望や要請を引き上げて、サービスや販促に反映させていきます。新商品の企画など、店舗と一緒に仕掛けていくところまで踏み込む計画です。

――楽天との物流連携に関しては、楽天市場にも出店している店舗のみが対象です。

それ以外の店舗については、楽天と相談しながら進めていきます。また、料金については、サードパーティーの複数店舗管理ツールの利用料が安くなるような仕組みです。

――月額費の無料キャンペーンを続けてきましたが、2019年度の出店料は。

無料キャンペーンを終了し、4月以降は基本料である月額4800円をもらうようにしています。これまでは間口を広げる戦略でしたが、今後はユーザーとのエンゲージメントを高めるためにも、質を重視する形に変えました。ただ、料金を取るようになったからといって、退店が相次いだり、出店ペースが鈍ったりということはありません。auベストコマース宣言を踏まえて、出店料を上回るリターンをもたらしたいと思います。

――例えば楽天であれば、「楽天スーパーポイント」が使える実店舗を大幅に増やしています。au経済圏もその方向に進むのですか。

au PAYの拡大に伴い、その部分も増えていくでしょうが、出口としてのワウマがより重要になると思います。外で使ってもらうことは経済圏の拡大として重要なことですが、経済圏の中で消費してもらうことも大事です。「出口としてのワウマ」をいかに知ってもらうか、そして使い続けてもらうためのベネフィットをいかに作れるかがカギになります。auそのものがオープン化するという大きな戦略転換があったわけで、コト系も含めたコマース領域がワウマに統合されました。ですから、ワウマを重要度は高まっています。

――auショップとの連携に成果は出ていますか。

規模的な観点でいえば、新たなユーザーの増加ペースは飛躍的に上がっています。質的にいうと、ネット販売のリテラシーがあまり高くないユーザーが多いので、客層が拡大しています。きちんと「おもてなし」をすることで、リピート率ではポジティブな指数が出ており、よりユーザーを大事にして、使い続けてもらうためのサービス・プロダクトを磨き上げなければいけないと思っています。

――auユーザーへの認知を高めるため、どんな施策を展開しますか。

店頭での取り組みのほか、金融関連のユーザーや、有料の優待プログラム「スマートパス」のユーザーなど、auではさまざまなセグメントにユーザーがついているので、セグメントごとにどんなキャンペーンやサービスを提供していくかが大事になってきます。

プロフィール

八津川博史(やつかわ・ひろし)氏 1973年大阪府生まれ。京都大学総合人間学部卒業。中堅企業向けコンサルティングを行う会社へ新卒入社。2000 年、ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。DeNA にて営業本部長、社長室長、事業戦略部長を経て2005年にソリューション事業部長。その後、エアーリンク(現・エアトリ)の取締役、DeNAとKDDIの共同出資会社であるモバオクの代表取締役社長及びDeNAのEC事業本部ショッピングモール事業部長を務め、2016年12月よりKDDIコマースフォワードを設立。2019年4月よりau コマース&ライフ式会社の代表取締役社長に就任。

取材後メモ

経営体制が変わってから2年半が経過したワウマ。順調に店舗数や流通額は伸びているようですが、まだまだ競合には及ばない数字です。

こうした中で、「オープン化」に舵を切ったKDDI。すでに同様の取り組みはNTTドコモも行っていますが、KDDIの強みは自社で仮想モールを運営している点です。今回の経営統合により、ポイント経済圏を考える上で重要な「ネット販売における消費先」がワウマに統一されました。

あとは「ユーザーに買い物をしてもらう」だけです。楽天やNTTドコモ、ヤフーといった競合も「コード決済」を軸に経済圏を拡大しているだけに、auユーザーの囲い込みはますます重要になってきます。店頭での取り組みや、通信料金への還元といった施策がユーザー拡大にどれだけ貢献するかが注目されます。

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