Tue, July 16, 2019

各販売チャネルで商品を差別化へ 杤尾 学● ピーチ・ジョン 代表取締役社長

ピーチ・ジョンは2019年4月1日、中国ワコールの売り上げ急拡大や上海ピーチ・ジョンの立て直しなどに手腕を発揮してきた杤尾学氏が新社長に就任した。前期(2019年3月期)は、のれんの減損損失もあって58億円の営業赤字を計上するなど苦戦しているが、グループ内では“黒字請負人”と称される杤尾社長の旗振りのもと、今期は利益を重視して黒字化を図りつつ、ECへの投資を継続する。杤尾社長が語るピーチ・ジョンの再成長に向けた基本戦略とは。

品番数を増やすときには“探しやすさ”が大事

通販部門をブラッシュアップ

ーー再成長に向けて重視することは。

ピーチ・ジョンのビジネスはマーケットにどう合わせるかだけでなく、ニーズを作る部分もあります。当社の原点である「元気・ハッピィ・セクシー」を時代に合わせて商品に反映させていきます。ムーブメントを作れるように商品や広告展開を見直していきます。

ーー改めてピーチ・ジョンの強みは。

強みは通販の会社であることです。付帯して実店舗がありますが、お店ではしっかりブランド表現ができています。通販部門をブラッシュアップしてどれくらい伸ばせるかになります。

ーー下着市場のニーズの変化や事業環境は。

少子化もあって日本のマーケットは縮小し、引き続き百貨店での売り上げが落ちていくと卸ビジネスは違うスタイルが求められるでしょう。通販チャネルは伸びると思いますが、競争が激しいですよね。当社の持ち味である広告まわりで他社との差を出せれば、縮小するマーケットの中でも成長するチャンスはあると思います。

ーー中国の市場をどう見ているか。

中国市場はあまりにも変化が激しいですね。GDPは増えて消費も盛んですが、ファッションセンスはなかなか上がりません。中国の消費者が好きな色や、下着の着用感も緩めが好きなど、日本人と好みが違います。そうした違いを理解しながら対応することが求められています。

ーー昨今の業績苦戦の要因は。

売上高を落としてしまったことはマーケットの変化もあったと思います。ファストファッションなどが出てきてアウターのカテゴリーでは負けてしまった部分もあります。マーケットで売れている価格帯は二極化し中価格帯が抜けていることに、これまで十分に対応できていなかったのではないでしょうか。当社の商品は高級品ではなく中級品ゾーンで、毎シーズンお客様に買い換えを促す中で、プライスや商品の内容が合っていたのか、買ってみたくなる伝え方、コミュニケーションの取り方に、面白さや楽しさが少し足りなかったのではないかと感じています。ただ裏を返せば、そこにしっかり取り組めばチャンスはあります。

ーー売り場ごとに施策も変わる。

各チャネルやプラットフォームによってお客様が違うと認識しています。通販のお客様であればどういう商品を買いやすいか、お店ではどういうサービスを求めているのか、また外部のプラットフォームではどういうお客様が来ているのか、それらによって差別化戦略をとろうとしています。お客様が異なるそれぞれの売り場に合わせた商品差別化すれば、売り場ごとに喧嘩することはありません。どこの売り場を優先するかではなく、どの売り場のお客様も優先します。これまで、国内ではプラットフォームやチャネルによって大きな変化はつけていませんでしたが、商品面だけでなく広告の打ち方も含めて差別化しないと届きません。

ーー就任後の2カ月で取り組んできたことは。

仮説が正しいかどうかを実際の数字を見て分析し、検証しているところです。例を挙げると、当社は約2000品番を展開していますが、その中で売り上げがほとんどない商品がどれくらいあるのか調べてみると、ある程度答えが見えてきます。売れない理由は見にくいとか、探しにくい、あるいは場所が悪いなどいろいろな理由があります。そうであれば2000品番もいらないということになります。

ECを伸ばす広告費は積極的に使っていく

売上の半分が自社EC

ーースマホユーザーが多い。

スマホサイトでは見ることができる商品数は限られます。品番数や見せたい商品の量をコントロールすることが大事になります。その次にすることは、どうすれば楽しく疲れずに探してもらえるかを考えることです。

ーー今期の品番数は。

今期はすでに生産計画が進んでいるため減りませんが、いまある商品を整理すれば捨てる商品と足さなければいけない商品が出てくるでしょう。いったんは2000品番から絞っていきます。各プラットフォームに共通で置く商品と、売り場限定の商品を展開することでお客様の買う理由ができます。各売り場を分析しそれぞれの役割を明確にします。当社の売上高構成比は自社ECが50%、実店舗が40%、卸が10%と自社ECが強いのが特徴です。それを補完する形で外部プラットフォームの利用方法も考えていきます。

ーー商品の探しやすさの部分は。

そこは少し先になります。カタログには見る楽しさがありますが、スマホサイトは離脱されやすいですよね。カタログの面白さをスマホサイトにどう移植するかが大事で、仕組みの部分に投資が必要になるかもしれません。

ーー通販チャネルと実店舗で強化する商品は。

機能商品を実際に着用して確認したいというお客様は実店舗に来店されますので、お店では機能性の高い商品を強化します。通販であれば写真がいいとか選びやすいとか、買い方にも違いがあり、デザイン性の高い商品を展開するというやり方もあります。それぞれお客様の顔が違うだけでなく欲しいものも違います。一度買ったことのある商品は通販でいいという傾向もあり、定番商品は通販で、新しい商品はお店でという分け方もできます。

ーー実店舗の提案力については。

お店の品ぞろえはそこまで豊富ではありませんが、3カ月ごとにリフレッシュして新しい商品に切り替えています。提案力を高め、もっと楽しい売り場にするために、インナーに限らずいろいろなアイテムを追加していくことも考えています。

ーーカタログに必要な変化は。

カタログの作り方には自信を持っています。カタログのページネーションとしても、読み進めるためのコンテンツをたくさん持っています。課題はそれを利用してECの売上高をどう上げるかです。そのときにEC用のコンテンツがいるでしょうし、カタログの内容にも変化が必要かもしれません。

ーー今後の品番数の考え方は。

通販のビジネスは品番数が多いからダメというわけではありません。2000品番を一度絞りますが、また次に伸ばそうとするときは増やすしかありません。そのときに“探しやすさ”という機能を持っているかどうかです。品番数が増えれば規模を拡大できるチャンスもあります。それが品種なのかブランドなのかはターゲットをしっかり分析して考えていきます。

インスタで新客を開拓

ーー新客開拓の取り組み状況は。

インスタグラムなどのSNS活用を強化しています。いろいろなお客様がいるため、インフルエンサーをそろえてアプローチをしないと情報を届けられません。当社には「ピーチスタ」というピーチ・ジョン公認のインフルエンサーチームがあり、常時15人~20人のマイクロインフルエンサーに加入してもらっています。

ーーどんな形で発信してもらっているのか。

最近は5月に、プロモーション品番である「ナイスバディブラ」の販促の一環として新宿三丁目店にポップアップストアをオープンし、ピーチスタを含めたインフルエンサーを約500人招待しました。ポップアップの一角にフォトスポットを用意し、可愛いミラー越しに自撮りしてSNSにアップしてもらう取り組みを行いました。

ーーインスタグラムがSNSの軸になる

自社のSNSアカウントでインスタグムがフォロワー数18万人と一番多く、前年比20%増以上で伸びています。当社はカタログ制作用にビジュアルコンテンツをたくさん持っているため、SNSでもブランドの世界観を表現しやすいと思います。シーズン感やテーマに沿ったコンテンツを数多く持つことは強みになります。インスタグラムのショッピング機能を使って商品をそのまま購入できるようにしていまして、購入者の8割が新規のお客様です。新規獲得では有効なチャネルとしてとらえており、必ずプロモーション施策と連動させています。

ーーSNS時代にも通販カタログが強みになっている。

その通りで、カタログ自体が悪なわけではありません。実際にカタログの写真にはすごく反応しています。ただ、カタログ経由で購入するお客様が減ってきたのは事実ですし、ファッション誌なども読まれなくなっている中で、引き続き読んでもらえるカタログをいかに作るかということです。

ーー新客の定着化の取り組みは。

通販では次購入に向けた差し込みを行っています。セール品を購入したお客様には、次回はプロパー商品を買ってもらえるようにプロパー品のお薦め冊子を同封するとか、ベタな手法も行います。今後はカスタマージャーニーの設計に力を注いでいきたいと思います。

中計では海外展開を強化

ーー2020年3月期の売上高と利益の考え方は。

今期は売上高よりも利益を重視します。黒字化を目指し今すぐできることを進めます。商品の仕込みはすでに終わっていて、昨年の時点で拡大策を考えていなければ増収による利益回復は期待できないため、ビジネスモデルの変更によって黒字化を目指します。利益を重視しますが、ECを伸ばすための広告費は積極的に使います。増収は来期以降になるでしょう」

ーー今期からの中計では海外展開を強化する。

中期計画では海外戦略をひとつの柱としてとらえ、日本だけでなくアジアで支持されるブランドを目指します。中国、香港、台湾を含めてすべてのお客様に、ピーチ・ジョンの「元気・ハッピィ・セクシー」という価値を提供できる商品戦略、販売戦略をとっていきます。

ーー中国市場への期待感は。

海外は中国市場が軸になります。現状、リアル店舗は中国本土に8店舗、香港に4店舗、台湾に2店舗を展開していますが中国は国土が広く、実店舗を特別に多くする方向性ではありません。知恵を絞りながら通販で伸ばし、利益を出していくことが大事になります。中国での売り上げ構成比は通販が70%、実店舗が30%で、以前よりも通販比率が大幅に高まり、利益面が改善しています。

ーーEC展開で工夫していることは。

中国では「タオバオ」を通じて販売しています。ワコールグループとして中国ワコールと上海ピーチ・ジョンがまとめて商談を行うことで、ワコールの良かった点数が当社の評価にもつながり、ピーチ・ジョンにも無料の広告枠がもらえるなど、グループで連携することを重視しています。

ーー海外のMDや広告展開は。

海外で販売する商品のベースは日本と同じですが、売れ筋が異なるため、量のつけ方を変えています。中国の消費者も今は日本のブランドを好きな人が多いため、日本と同様に中村アンさんを起用した広告ビジュアルで展開しています。ワコールは中国で60以上のブランドを展開していて、タオバオも消費者ニーズに合った商品展開を期待しています。

プロフィール

杤尾学(とちお・まなぶ)氏 1966年生まれ。青山学院大学卒業後、89年株式会社ワコール入社。MD担当として約11年間モノづくりに従事。売上分析、企画立案、商品開発にとどまらず、中国生産へ移行するための材料開発も行って利益率アップに貢献。02年中国ワコール商品部部長、中国国内販売用商品開発と日本向け輸出向上業務を兼務し売上を5倍に伸ばす。08年に日本へ戻り、ワコールCW-X 課ブランドマネージャー。12年9月上海ピーチ・ジョン総経理。中国ビジネス経験を活かし赤字経営から一転、3年で黒字化。17 年から中国ワコール董事兼副総経理、ECを中心としたビジネスモデルの再構築に取り組んでいたが、19年4月から現職。

取材後メモ

ピーチ・ジョンの売上高はピーク時の170億円に対し、前期は100億円強まで規模を縮小しています。営業赤字からの早期回復を目指して新社長に就任した杤尾社長はグループ内で“黒字達成請負人”として知られています。国内の下着市場が右肩下がりの状況にある中、中国でのビジネス経験が豊富な同氏の存在は、海外強化を見据えたピーチ・ジョン再成長の道のりには欠かせないのかもしれません。それでも、杤尾社長は主力である国内の基盤強化、とくに強みである通販部門のブラッシュアップを強調しています。取材を通じ、持論をしっかり持った経営者という印象が強いですが、会社の大半を占める女性社員への信頼感をにじませるなど、強さと柔和さを兼ね備えた同氏のリーダーシップでピーチ・ジョンがどう変わるのか楽しみです。

Share This :

Twitter Delicious Facebook Digg Stumbleupon Favorites More

Comments are closed.