Sat, December 14, 2019

通販サイト リニューアルのコツ ~不具合なくリリースするために~ 

アダストリアやユナイテッドアローズといったアパレル大手企業が、自社通販サイトのリニューアルに際してトラブルを起こした。通販サイトの大規模刷新となると、巨額のコストがかかるというだけでなく、一定の工数も必要になる。EC事業部に加え、関連部署や外部の開発ベンダーなど多くの人員が絡み、人的リソースを割くことにもなる。そのため大きなミスは避けたいところ。リニューアルを無事に行うために企業が気をつけるべき点は何か。経験豊富な識者の意見をもとに、大事なポイントを探った。

専門家2人が指摘する円滑に進めるポイント

アダストリアは自社ECのシステム刷新時の不具合で約1カ月間休止し、9月12日に旧システムで再開した

通販サイトのリニューアルを円滑に進める上で求められるのはどういった点か。本誌ではEC運営のプロ2名に話を聞いた。トイザらスやジュピターショップチャンネル、三越伊勢丹などでEC事業やオムニチャネルの事業責任者を歴任したネクトラス社長の中島郁氏と、メガネスーパーのECを統括し、アドバイザーとして他社のEC支援も手がける川添隆氏。両者の指摘を踏まえて、以下にポイントを挙げていく。

リスク回避に経験者配置を

ECシステムのリニューアルに際してはまず、「社内に知見のある人を配置する」ことが大事になる。エンジニアということではなく、“仕組み”を含めてECにまつわることが分かっている人がいないと良いシステムを構築することは難しい。システムのリニューアル時には社内の人員とベンダー、要件定義が行える人が必要になるが、例えば、ベンダーが会社として「できる」と言っても実際に担当するチームに経験がない場合もあり、そうしたことを確認して進めるためにも社内にECの仕組みを理解している人が不可欠だという。

「企業の論理に負けない」こともシステム刷新時には重要なポイントになる。企業の論理とは、ビジネス上の都合でオープン日が確定しているなど、スケジュール的に無理があったときがこれに当たる。システムは間に合わせようと無理をすると質が落ちるもので、とくに品質とセキュリティーを犠牲にしては絶対にダメだという。

そして「失敗するポイントを知っておく」ことも重要になる。リニューアルはリスクとの戦いになる。リニューアルによって改善されることに目が行きがちだが、いかにリスクを減らしていくかが成功の秘訣となる。そうなると、経験値が多いほうが有利となり、それほど経験ない企業は失敗する確率はおのずと上がる。仮に経験がない場合は、コンサルタントを含めて外部からEC運営を理解するプロを入れるという選択もある。

場合によっては、陥りやすい失敗を回避するためにも、“一度、痛い目にあったことのある人をプロジェクトに入れる”という手もあるようだ。

システム連携先を絞る

次のポイントは「規模が小さいときから内製化しておく」というもの。例えば、ECの年商が数億円という段階で、徐々に内製に切り替える。いきなりすべてを自社で手がけずに、ささげ業務だけなど部分的に外注するという手もある。システム系を自社で理解し、自社で実現したい顧客体験を構築するというあり方に徐々に移行するのだ。

これが数十億円規模のECサイトになると、運営に必要な人員や関わる人員が増え、それぞれのチームが動くことになる。結果、チーム同士で遠慮して意見交換されなくなる可能性も出てくる。つまり絡む人数が増えるほどマネジメントが大変になる。その意味でも早めに内製化してシンプルな形でリリースするというわけだ。

とはいえ、サイトの規模が大きくなってから内製に切り替えるというケースもあるだろう。そこで大事になるポイントが「システムの連携先を減らす」という方法。

アパレルの案件の場合、EC のみの運営でリニューアルするのであればほぼ事故は起こらないという。しかし、WMS(倉庫管理システム)などの物流に加え、基幹システム、さらにそこにPOSが連携し、加えて在庫連携も絡んでくるとなると、難易度が一気に高くなってしまう。連携先が増えれば増えるほど不具合が生じる確率も上がるのだ。

不具合の内容も、サイトのフロント的な部分、つまりレコメンドエンジンや決済、サイトパフォーマンス向上ツールなどに関しては、それほど深刻な問題にならないが、やっかいなのが在庫連携の仕組みや基幹システムの不具合。リアル店舗など他のチャネルにも影響を及ぼすため、場合によってはEC側を切り捨てて基幹システムを守るという選択が必要になってくるようだ。こうした事態に陥らないためにも、連携先が多い場合はリニューアル時にこれまでやっていないことをあまり盛り込みすぎず、安定稼働させることを優先することも大事になる。

次のポイントは「コミュニケーション」。リニューアルに関わる社内外の人員は遠慮しあってはっきりと発言しないのではなく、積極的に意見を交換することが求められる。

リニューアルはリスクとの戦いだ。リスクチェックをドンドンやる必要があるため、プロジェクトの統括者は早い段階でメンバー間のコミュニケーションを活性化させることが求められるという。

社内だけではなく、業務を請け負うベンダーとの間でも同様で、パートナーのマネジメントも手を抜かず、互いに連携を密にしておく必要もある。

例えば、最初のベンダーとのコミュニケーションが不十分でシステム構築がうまくいかず、そのままの状態で数年間使っていたような場合、ベンダー側もその間に知見を貯めて育ってきていても、他のベンダーのシステムに切り替えてしまうケースがある。そうした際も、結局はコミュニケーション面で同じことが起きるケースが多いよう。であれば、育ってきたベンダーと協力し、もう一度システムをきれいに作り直すことも選択肢に入れるべきだという。

ソフトオープンが大事

ユナイテッドアローズのスタッフスタイリングページ。自社ECは9月12日から休止中で、11月下旬の再開 を目指している

別のポイントとしては「優先順位を明確にする」ということも大事になる。

リニューアルを行うに当たって、「100億円規模まで耐えられるサイト」や「スマホファーストで」「実店舗のような顧客体験」などさまざまな構想を持つが、使える予算は決まっている。そのため構想がいくら大きくても、ある程度に絞るという発想が大事になる。

決められた予算にコミットするという意味合いだけではなく、「新規の連携先を減らす」という観点からも大事になる。壮大な構想が先行してしまい、やり直しを繰り返したり、予算との折り合いがつかずにリニューアルができないということは避けるべき。実現性の高いものやその時点での自社の戦略を踏まえ、何から優先的に進めればいいかを明確にすることが大事だ。

既存のシステムから新しいものに入れ替える際に、一気にいろいろな機能を足すのではなく、まずはシステム移行をするだけと割り切ることも必要だ。不具合を起こさず、安定稼動を最優先に考えて、追加でやりたいことは次のフェーズで足すというくらいの心構えで臨むのがいいのではないか。いきなり100%の達成を目指すのではなく、何よりもリスクを減らすことがリニューアル成功の秘訣だろう。

一方で、トラブルが起きたときの準備を事前に計画しておくことも大事になる。昨今、アパレル企業で自社ECのシステムリニューアル時に不具合が生じ、旧システムへ切り戻すケースが続いた。

一旦、新システムをあきらめて旧システムに戻すにしても、クローズした状態と再オープンするときの差分の情報を埋める必要があり、これにはかなりの時間とコストもかかるようで、事前にトラブル対処法の選択肢のひとつに加えておくことも必要だという。

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