Sun, March 29, 2020

買い物と情報収集の場に 片山裕美● スタイルヴォイス 代表取締役社長

ジュンとマッシュホールディングス、デイトナ・インターナショナルという有力アパレル3社が出資するスタイルヴォイスが2019年6月に立ち上がり、11月11日には記事コンテンツが特徴のメディア型ECサイト「スタイルヴォイスドットコム」をオープンした。主婦の友社や幻冬舎で女性ファッション誌の編集長を歴任し、最近は雑誌手法を生かした通販サイト内のコンテンツ事業を手がけてきた片山裕美社長が語る新サイトの特徴や強みとは。

明日の自分がイメージできるサイトにしたい

コミュニティー作りも

――服をネットで買う人が増えています。

長く紙のファッション誌にたずさわってきましたが、ファッションECでは楽天さんなどと組んで低価格帯のアイテムやコスパの高い商品を発信し、気軽にファッションを楽しむ提案をしてきました。一方で、多少高くてもデザインなどが自分のライフスタイルにフィットし、それを着るだけで気分が上がるアイテムとの出会いもあります。とくに女性は身につけるものによって1日の気分が決まるところはあり、仕事や子育てなどに忙しく、服はネットで買ってすますという現状も理解しています。

――「スタイルヴォイスドットコム」の方向性を教えて下さい。

最近はアパレル企業の自社ECが使いやすくなってきていて、私自身も数社の自社ECを頻繁に利用しています。新しい服に出会うワクワク感や選ぶ楽しさはありますが、ECではショップスタッフとのコミュニケーションがとれなかったり、商品を身につけた自分を想像しづらかったりします。そこで、ECであっても“明日の自分”をイメージできるサイトを作りたいと思っています。

――雑誌はそういう役割を担っていましたよね。

その通りで、昔は雑誌で服のコーディネートを見せたり、その服を着ているシーンを見せることで、なりたい自分をイメージできる要素がたくさんありました。最近はそれがインスタグラムの中だったり、ショップ店員がイメージソースだったりしますが、そうした要素を手軽に体感できる場所をスマホの中に作りたいです。

――ECは価格やサービスなどで選ばれがちです。

商品に込められた思いは、商品の一覧ページや、価格比較されやすい場所では伝わりにくいですよね。最近の消費者は商品に込められた思いを受け取って「素敵だな」と思ったり、原始的な物欲を感じる機会が少ないのではないでしょうか。ただ、自分のスタイルを作りたいという思いは誰もがもっていると思います。ファッションやビューティー、インテリア、雑貨など自分のまわりに置くものは自分のスタイルを表現するものだったり、自分に自信をくれて前向きにしてくれるものだったりします。そういう商品がたくさんあるECであれば見てみたいと思ってもらえます。

――楽天などとの協業で得たことはありますか。

コンテンツの中身はもちろんですが、とくに大事だと思ったことがふたつあります。ひとつは、当たり前ですが商品購入のユーザビリティーで、これは検証して修正を続ける以外になく、直感的に買い物ができるサイトにしていきます。システムだけが優先されてもダメで、雑誌でユーザーと接してきた経験から、こういう操作をするとユーザーの気持ちはこう動くということが肌感として分かります。ただ、そうした感覚の部分をシステム担当に伝えて実際の画面に落とし込む難しさはあります。

――もうひとつは何でしょうか。

雑誌は昔、読者が集まってコミュニティーを作っていました。新サイトも買い物だけでなく、情報収集やトレンドのチェックができたり、リアルの場で講座などを開いてユーザー同士の情報交換ができるようにし、昔の雑誌と読者の関係性に近づきたいと思っています。そういうことをウェブユーザーも求めている気がしていて、サロン的なサービスを提供していきたいです。ただ便利だから利用するのではなく、ユーザーにとって存在感のあるECにしていきたいです。ふたつとも時間のかかることですが、じっくりと取り組んでいきたいです。

――媒体、デバイスの違いは気になりますか。

幻冬舎に勤めていたときから、紙の雑誌ではなく、スマホというデバイスに置き換えて情報伝達の方法を考えてきましたが、伝えたいことは一緒です。ただ、ユーザーの情報収集のスピードが紙をめくる作業からスマホのスクロールやスワイプになり、速くなっていますので、そのスピードに合わせて設計しないといけない難しさはありますよね。

今の時代が必要とする情報を発信し続ける

記事コンテンツで差別化

――ファッションを軸にしたECモールが増えていますが、どう差別化しますか。

新サイトの柱になるのがキュレーターの存在で、開始時にはスタイリストやモデルなど影響力のある11人がレギュラーのキュレーターとして参加しています。新サイトはECでありながらメディアの側面が強く、各キュレーターが今の時代が必要としている記事コンテンツを発信し続けます。社名やサイト名の「ヴォイス」にも表れていますが、いろいろな人の声が集まり、ユーザーのこれからのスタイル作りや買い物の指針になることを目指します。

――キュレーターはどんな方たちでしょうか。

モデルは神山まりあさんと佐田真由美さん、竹下玲奈さんの3人で、スタイリストでは大草直子さん、白幡啓さん、安西こずえさん、望月唯さんが参加しています。また、ファッションジャーナリストのシトウレイさん、エディターの宇田川大輔さん、美容ジャーナリストの加藤智一さん、メディコム・トイ社長の赤司竜彦さんという豪華で面白い陣営になっています。

――どのような記事コンテンツがありますか。

例えば、大草さんは連載エッセイ「暮らしのエッセンス」を、佐田さんはゴルフデビューに挑戦するシリーズ連載を、シトウレイさんはパリコレ出張での西川AiR体験記を、白幡さんはショップを突撃する動画の連載企画「スタイリスト“おケイ先生”のショップ・パトロール」などです。

――キュレーターは増えていくのでしょうか。

そうですね。スタート時は女性を強めに意識していますので、モデルやスタイリストがメインで見えていますが、今後はさらにキュレーターを増やし、例えば文化人の方、作家さんやタレントさん、芸人の方に参加してもらうのも面白いと思っています。

――親会社3社を含む12社42ブランドで始動しましたが、品ぞろえを教えて下さい。

ウィメンズファッションとウィメンズビューティ、メンズファッション、メンズビューティ、ホーム&フードの5カテゴリーを展開します。ホーム&フードはライフスタイルに分類される商品を扱います。記事コンテンツもこの5カテゴリーで発信します。最初は親会社3社のほぼすべてのブランドが入り、レディースファッションの比率が高いのですが、徐々にメンズのファッションも増やしたいですし、ホーム&フードの領域ではインテリアや生活雑貨なども充実させます。取り扱いアイテム数は3万点弱でスタートしています。

――親会社以外の参画企業やブランドを教えて下さい。

これまでに参加を表明していた「ディーン・アンド・デルーカ」運営のウェルカムさんなどに加え、ファッションでは「カオス」や「バンヤードストーム」「カレンソロジー」「バビロン」を展開するエレメントルールさんや、「マンハッタンポーテージ」を展開するコードさんも参加しています。また、食や生活雑貨、アンダーウエアなどのブランドさんにも参画してもらっています。

――メインのターゲット層を教えて下さい。

オープン時は親会社3社が品ぞろえの中心で、3社とも30~40代向けのレディースブランドがけっこう多く、そう意味では30~40代の働く女性や小さい子どもがいる層が最初のターゲットになります。キュレーターもそういう層に強いメンバーです。

――ジュンとマッシュの合弁にデイトナも加わってスタートしました。

デイトナ・インターナショナルの「フリークスストア」はECチャネルも強く、「スタイルヴォイスドットコムが狙っているお客様にぴったりの商品が提供できます。引き続き、新サイトに共感してくれる企業さんに参画してもらいたいです。

――誰でも情報を発信できる時代に重視することは何ですか。

それは、やはりメディア感です。女性キュレーターは今回、とくに気合いが入っています。自分のSNSでフォロワーを集めるのは限界がありますが、いろいろなブランドやキュレーターが集まって発信するサイトになると、それだけ多くのユーザーをターゲットにでき、さまざまな形のコラボにつながる可能性もあります。キュレーターからはいろいろなことに挑戦したいと言われています。また、各キュレーターが運営するサイトやSNSとのリンクを自由にしています。ユーザーも行き来できるようにし、その中で「スタイルヴォイスドットコム」がネットワークのハブの役割を担えればいですね。それは、紙の雑誌にはできないことです。

初年度20億円が目標

――通販サイトの見せ方の特徴はいかがでしょうか。

通販サイトではトップ画像の下にショッピングというバナーが並びます。ECであるということをお客様にストレートに伝えたいという気持ちがあり、いま本当にお薦めしたい商品をバナーで並べてユーザーの買い物意欲を刺激します。その下から記事コンテンツが続きますが、記事コンテンツの上には、新しい記事を発信したキュレーターのアイコンが表示されます。商品とキュレーターと記事コンテンツの3つの要素がそれぞれ目立つようにしています。サイトの下の方には、他の通販サイトと同じように、アイテムや記事の人気ランキングを配置しています。

――親会社からのサポートはあるのでしょうか。

集客面ではマッシュホールディングスなど親会社3社にも協力してもらいます。また、社員を出してもらってサイト運営をしています。記事コンテンツの部分は外部スタッフの協力を得ています。親会社3社も自社ECを運営していますので、一旦はライバル関係になるかもしれませんが、ブランドのファンを増やすという観点では、自社ECのひとつだけでなく、さまざまなバリエーションがあってもいいと思います。
倉庫はクルーズグループと契約し、荷合わせで、商品が売れたら出店企業からクルーズグループの倉庫に一度送ってもらい、そこから購入者に発送します。一部、食品などではユーザーに直送するものもあります。

――KPIを教えて下さい。

売上高と会員数を重視しますが、2020年春くらいまでは登録会員数と自社SNSのフォロワー数を伸ばしたいですね。19年12月からは定期的にインスタライブを実施してファンを獲得していきます。最初に売上高を重視し過ぎると売りやすい商品に片寄りますので、ターゲット層が満足できる品ぞろえと情報力を目標にしたいと思います。売上高としては、立ち上げからの1年間で20億円、3年後に50億円を目標にしていて、親会社にはその水準で在庫を押さえてもらいます。

プロフィール

片山裕美(かたやま・ひろみ)氏 お茶の水女子大学卒業。主婦の友社に入社し、雑誌「Ray」の編集長、カジュアルファッション誌「mina」の創刊編集長などを歴任後、2007 年に幻冬舎入社。2009 年雑誌「GINGER」の創刊編集長に。2015年以降は雑誌手法を生かした通販サイト内のコンテンツ事業を手がけ、楽天市場と協業したファッションメディア「GINGERmirror」や、SHOPLISTと協業したファッションメディア「LiSTA」、阪急阪神百貨店の通販サイトのファッションコンテンツシリーズ『D-story』などをプロデュース。2019年4月に幻冬舎を退社し、6月から現職。

取材後メモ

さまざまなファッション誌の編集長を務めた片山社長ですが、最近ではECモールとの協業で買い物に直結させるウェブコンテンツ作りに強みがあり、その経験が買われて有力アパレル3社が出資する新たなEC企業のトップに招へいされたのでしょう。

昔の雑誌が持っていた読者(ユーザー)との近さを大事にしたいという片山社長が目指す“メディア型EC”の姿は大型モールとの差別化を図る上では不可欠な要素と言えそうです。

一方で、大手アパレルのストライプインターナショナルが手がけるファッションECモールは特定のアパレル企業が運営する難しさあってスロースタートを余儀なくされています。

幅広いブランドが参画し、コンテンツ力がフルに生かせる状況を作ることが、最初のハードルかもしれません。

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