Wed, August 5, 2020

ECと店どちらでも購入できる状況に 嶋田 純● ベイクルーズ 上席取締役 EC統括

アパレル大手ベイクルーズが運営する自社通販サイト(自社EC)の「BAYCREW’ S STORE(ベイクルーズストア)」が好調に拡大している。直近の売上規模では、出店している仮想モールを自社ECが大きく上回った。自社ECと店舗の両チャネル経由で買い物をしている顧客の数も増加している。自社ECを軸にネットと店舗でサービスを統合してきた同社の取り組みが、成果として表れてきている。同社のEC 事業を統括する嶋田純上席取締役が語る自社EC の強化策とは──。

自社EC比率が7割超に拡大

クロスユース売上高が40%増に

――前期(2019年8月期)のEC事業の売り上げを教えてください。

EC全体の売上高は395億円で、前期比18%増。そのうち自社ECの売上高は284億円で、前期比45%増でした。

――比率で言うと、自社ECは72%と7割強になります。

その前の期の自社EC比率が、58%だったので、14ポイント伸びました。7割は常に目標として置いていましたが、前期で達成できました。私の前任の方針として自社ECを中心に事業を組み立てようという形でやってきました。そこでエンジニアやマーケター、ウェブデザイナーなどを早くから直接雇用して内製化を進めていました。そのあたりの効果が徐々に形として表れてきたのかなと思います。お店とEコマースの会員プログラム統合や在庫の共有化も他社に比べて比較的早くから実施してきているので、そのあたりの効果も大きかったのではないでしょうか。

――前期の自社ECはどんな取り組みを実施したのでしょうか。

サイトの利便性向上や、サイト内のコンテンツ、商品情報などのリッチ化などベーシックなところはもちろんのこと、ベイクルーズの会員向けにオンとオフをつなげるというところに重点を置きました。具体的には品ぞろえや提供するサービスをできる限り均一化しようと。例えばサービスが(ECと店の)どちらかでしか受けられないとか、ネットと店頭で価格差があったりとか、そうしたことをなくそうとしました。当社では両方のチャネルで買い物をしていただいているお客様を「クロスユース」と呼んでいますが、そのお客様の売り上げは前年に比べて40%程度増えています。

――会員規模はどのくらいですか。

ベイクルーズ全体では280万人くらいです。

――そのうちクロスユースは?

人数ベースで見ると2割ですが、金額ベースで見ると5割になります。

――この方々がベイクルーズの売り上げを支えていると?

おっしゃる通りです。

――オン・オフのクロスユースはそれだけベイクルーズのブランドや商品に接する機会が多いため、購買頻度も高くなるのでしょか。

そこは社内でも議論があります。ロイヤリティの高いお客様だからクロスユースしていただけているのか、あるいはそういうこと(オンとオフをつなげる施策)を促進しているからクロスユースが伸びているのか、どちらが先なのかという議論はあります。ただ、当社としては30以上のファッションブランドを抱えているため、お客様にブランドに対するロイヤリティを持っていただきましょうという考え方です。お店かECかといった「どちらか」ではなく、それぞれは個別に最適化するのですが、加えて全体最適もするというようなイメージです。お客様は両方を行ったり来たりして最終的にどちらかで購入されますので、どちらでも買っていただける状況を作りました。

――それが品ぞろえやサービスの均一化だと?

そうです。以前はそこにバラツキがありました。そうするとお客様はどのタイミングで、どちらで買っていいのか分からない。それで結局買わない。もしくはご購入いただいても満足につながらないので、リピーターになっていただけないというケースが多かったです。それは製造小売業をやっている我々としてはマズイよねという話になり、そこはできるだけ統一しましょうと。

――サービスの均一化は会員情報の共有化などでしょうか。

そうです。ポイントプログラムをどちらで買っても同じ付与率になるということを早い段階で均一化しています。お客様からするとそこでどちらで買ったほうがお得かということを悩む必要がありません。

――以前であればセレクトショップはお店に相当数のお客さんがいて、その中で自社ECを使ってもらうために専用のクーポンを差しあげて、それによって会員を統合して、というような動きがありましたが、今の状況は?

そうした取り組みはほぼやっていません。今は例えばイベントやインセンティブを仕掛けるとなると、基本的に両方のチャネルで実施するようにしています。リアルのデベロッパーさんとのイベントとなるとECとの同期は難しいのですが、ブランド施策や全社的な施策についてはできるだけ同期させています。

――店頭に来た人が会員になりたい場合は店頭でオンラインを案内するのでしょうか。

そうです。「ベイクルーズストア」上やアプリからも可能です。

――会員の人はクロスユースにもっていくという方針ですか。

そうですね。その一環で店舗のブログを自社ECに統合しました。以前は、店舗ブログはコーポレートサイトの中にブランドサイトがあり、そこに紐づいていました。そのため別で運営していたのですが、2019年11月から統合しました。お客様にしてみると、自社ECに来ると、お店を含めたすべての情報を見られる状態になっています。ロイヤルユーザーの方は両方を見ながら、実際に商品を手に取って買いたいという人はお店に行き、行く時間がない人や店が苦手な人はオンラインに来ていただくような状態です。もともと、オンラインからオフラインへの送客効果を測定しているのですが、ブログ経由は結構大きいです。そこはもっと伸びるのではないかと思っています。

モールで商品の競争力を測る

――自社ECのUIや使い勝手などで前期に大きく変えた点はありますか。

大きくというのは基本的にありません。ただ、定期的にユーザーインタビューをしており、そこでのご意見をもとに変えるという小さな積み重ねは日常的に行っています。一方、アプリは2018年7月にフルリニューアルしました。

――アプリは検索やショッピングなど基本的なことができるのでしょうか。

あとは会員証の機能です。自分の会員情報が持て、お店で使うことができます。

――アプリの利用状況を教えてください。

直近で60万ダウンロードくらいです。100万ダウンロードを目標にしています。一般的に言われることですが、アプリを使う人はロイヤリティが高いお客様が多いので、一人当たりの訪問回数や平均の滞在時間、コンバージョンなどの数値がウェブのみのお客様に比べて少し高くなります。

――アプリのメリットは?

アプリは自分仕様にカスタマイズできます。お気に入りのブランドなど、よりパーソナライズが可能です。当社はブランド数が多いので、お客様はベイクルーズの会員という意識は比較的薄いと思います。むしろ特定のブランドの情報だけを知りたいというお客様がいらっしゃる。アプリであればそれをお客様が選べるようになっています。ロイヤリティの高いお客様からすると自分に合った情報が届くので、購買につながりやすく、滞在時間が長くなる要因になるのではと思っています。

――前期が終わった段階で自社ECの割合が7割強ですが、今期のシェアの目標はありますか。

いったん7割維持で進めたいです。シェアは変わらなくても自社ECの売り上げは伸ばします。仮に結果的にそれ以上のシェアになれば、それはそれでいいという考えです。

――外部モールはゾゾタウンの比率が大きいのでしょうか。

比率で言うとゾゾタウンが大きいです。

――ほかの出店先は?

アイルミネ、マガシーク、マルイウェブチャネルの3つで、ゾゾタウンを入れると4つです。

――モールに出店するメリットは何でしょうか。

自社でリーチできないお客様もいると思っており、そのお客様に対しては外部モールで接点を持つしかないと考えています。あとは商品の競争力を測る場所とも思っています。自社ECは、当たり前ですが自社の商品しかありませんので、他社の商品と比べるということができない。それが自社でも売れていて、ゾゾタウンでもお客様からご指示いただいるとなると、マーケットの中でも競争力のある商品なんだと認識できます。そうなると、この商品はもっと深く掘っていいのではと判断ができます。

コミュニケーションの最適化へ

客は店もECも両方見ている

――今期の戦略としてEコマースで強化する点を教えてください。

オンとオフを統合した状態でお客様に最適な体験をお届けするというのが基本になります。あとは店舗スタッフが自分の着こなしをアップするコーディネート投稿のコンテンツがあるのですが、そこ経由でお客様が商品をお買い上げいただくというのが分かっているので、より簡単に投稿できるように変更し投稿数を増やしていきます。それによる経由売り上げもそうですし、投稿した人間も確認できるので、自分がどのような貢献をしたかを測れる状態にしています。そうすると投稿のモチベーションにもなります。

――自社開発の仕組みだったのを、専用ツールの「STAFF START(スタッフスタート)」に変更しました。

自社開発の仕組みは大分以前に作ったので、使いづらいという意見もあり、このタイミングで全部刷新しました。スタッフのコーディネートは以前からも人気のコンテンツだと把握はしていて、店舗のスタッフもそのことは知っていました。ただ、以前のものはどういう効果が出ているかが簡単に出せない状態でした。そこで10月末にスタッフスタート版をリリースしました。

――10月末からやっていて手ごたえとしては?

全体的に見ると、経由売り上げもそうですが、訪問数が増えたという感覚はあります。いわゆるPVが高いというのは実感としてあります。

――つまり一定の効果はあったと?

あると思います。お客様はお店もECも両方見ていんるだなと実感しました。

――今期はほかにご予定は?

お客様とのコミュニケーション最適化をずっと取り組んでいます。メルマガやLINEなどお客様ごとにコミュニケーションチャネルがあり、どのブランドのどの情報をどの時間帯に欲しいかがあると思うのですが、それらを分析してそのお客様ごとに最適なタイミングで最適な情報を最適なチャネルでお届けするという仕組みを作っています。

――難易度が高そうですね。

お買い物をする時間も人それぞれです。通勤時間帯をメインにする人もいらっしゃるし、家に帰ってからの寝る前の時間であったり、子育てをしているとお子さんがいらっしゃらない昼間の時間帯とか、人それぞれのタイミングがあります。かつ情報も、女性のお客様にメンズの情報を送ってもしょうがない。特定のブランドしか買っていないのに別のブランドの情報が来てもおそらくそれほど有難くはないでしょう。今、メルマガはほとんど見られなくなっていますが、LINEであれば見る人や、プッシュ通知は見るなどチャネルも人それぞれです。その人に合ったコミュニケーションがとれるような状況を作っていきたいです。

プロフィール

嶋田 純(しまだ・じゅん)氏 1972年生まれ。1997年ベイクルーズ入社。販売職、バイヤー、MD、ブランドディレクター、カンパニーCCO 等の役職を務める中、EC 事業には立ち上げ時期より携わる。2018年から現職。

取材後メモ

ベイクルーズは他社に先がけてECと店舗の連携を進めてきた会社です。2014年にオムニチャネル強化を開始し、2016年に会員情報を統合、同年に在庫一元化も実施しています。そうして自社EC比率をじわじわと伸ばし7割を超えるまでになりました。ここまで自社ECの比率が高いと仮想モールへの依存が少なくなるだけでなく、サービスや施策、ブランディングなどを自社でコントロールできる部分が多くなります。消費者の購買行動が多様化している今日、柔軟に対応できる売り場として自社ECの重要性は強まるのではないでしょうか。そうした際にベイクルーズの自社ECは一つの成功例と言えるかもしれません。


Share This :

Twitter Delicious Facebook Digg Stumbleupon Favorites More

Comments are closed.