Sat, July 4, 2020

世界的なECシフトが越境に追風  岡田雅之●イーベイ・ジャパン社長

 越境ECプラットフォームを運営するイーベイ・ジャパンで、2月25日に新社長に就任した岡田雅之氏。新型コロナウイルスの感染拡大が続く非常に厳しい情勢の中での船出となった。各種外出規制などによって世界の消費環境はこれまでとは大きく変わりつつあり、越境ECビジネスにおいてもその影響を強く受けることが予想されている。岡田新社長が思い描く、今後の取り組むべき重要課題や、この状況下で果たすべき越境ECプラットフォームの役割とは。(聞き手は本誌記者・山﨑晋)

サポート体制を充実させ、 新規セラーの開拓を図る

─これまでの担当領域や社長就任に当たっての抱負は。

元々、IT業界を幅広く経験していて、以前はスマホを作っている会社にもいました。外資系の会社は日本市場の中でどうプレゼンスを上げていくかが仕事の中心になりますが、色々な角度で日本市場を見ていくと、これはもっと伸ばせるのではないかという領域を感じたのです。その一つが越境ECでした。海外にこれだけ需要があるのに日本から買えないという話はたくさん聞いていて、非常にもったいないと。私自身、コンサルやマーケティングのバックグラウンドがありますので、そうした需給ギャップ、情報格差をうまくつなげば、輸出が成長するはずだと感じ、それにより国内のセラーさんや海外のバイヤーにもメリットがあるということで、3年前にこの会社に入りました。日本人が日本の良さを知らないのはもったいない状態だと思います。これをきちんと解消して日本の経済に貢献できればというのが私の抱負です。

─2019年の状況について振り返ってください。

一言で言いますと極めていつも通り堅調な年だったと言えます。日本でしかないようなハイクオリティな中古品、ハンドバッグからコレクタブル商品など幅広く高いニーズがあるという状態が続いておりました。

─2020年に入ってからはいかがでしょうか。

同じように好調な状態が1月、2月と続いていました。私が着任したのは2月25日なのですが、その数週間後には大きく状況が変わり始めていきます。2020年はこれまでとは違うモードに入ったという感じです。元々、イーベイにおりまして、この半年間ほど子会社に行っていたわけですが、戻ってくるにあたって慣れ親しんだ業界なのでブラッシュアップできるだろうという考えもありました。しかし、まったく想定外のことが起こったというわけです。

─トップの立場になってみて、改めて感じた自社の強みについて教えてください。

 一度外に出て振り返ってみると、イーベイというプラットフォームがいかに強力であったかということです。ほかの越境ECのプラットフォームを見渡した時、これだけの規模のものは中々ありません。また、日本でも数少ない越境ECプラットフォームですし、かつ、2009年から11年間やっておりますので、越境ECの第一人者になるのかなとは改めて思います。1.7億人という日本の人口よりも多いバイヤーネットワークですし、取扱高も10兆円を超えております。

 もう一つ思ったのは、日本のセラーさんの厚みの素晴らしさです。大手のセラーさんもいれば、始められたばかりの個人の方もいます。数は 申し上げられませんが相当数のセラーさんがこの越境ECで日本にしかない商品を海外に輸出されていることは、この11年間の蓄積でもあり、日本のインベントリーの強さにもつながっていると思います。加えて、かなりの数のセラーさんを日本語でサポートする組織ですので、ここまでの規模でできるプラットフォームは中々少ないと思います。

 時には日本セラーさん固有のトラブルがあったりもします。言語面というよりかは、商習慣の違いから返品をどうハンドリングするか、バイヤーさんとどうコミュニケーションをとっていくのかなどです。それを含めて我々の方でサポートできているのは大きな強みです。

─一方で課題として感じている部分は。

 セラーサポートの体制ですが、まだまだ不十分な面があると思っていて、あまりにも数が多いので法人などに絞って提供していたのですが、そこの間口を広げるということで、法人・個人に限らず幅広くサポートしていきたいと考えています。もちろん我々だけでは、人数的にもリソース的にも不十分ですので、専門的な技能を持った外部のコンサルタントの方などの力も借りながら、可能な限り数多くのほぼ100%のセラーさんを何らかの形でサポートしていきたいと思っています。

 もう一つは、「越境ECは難しい」という、ある意味真実なのですが大きな誤解でもあるという認識に対してです。例えば、英語は必須であると言われていますが、グーグル翻訳を使っているセラーさんもおり、実はそこまでのハードルにはなっておりません。海外の顧客対応に関しても、簡単ではないと思いますが実際は我々もサポート体制を敷いているのでそこまで難しいものでもなく、過剰に反応されている部分もあるのではないかと感じます。セラーさんも数多く育っていらっしゃいますし、我々も一緒に取り組める人材を輩出しておりますので、安心して取り組んでいただければ。

─越境ECに参加するハードルを下げるために必要なこととは。

 当たり前のことですが、マーケティング活動をやることで、メディア経由で越境ECの良さを伝えることをもっと積極的にやることがあるかと思います。また、ポータルサイトについても大幅に見直しており、セラーさんが売るための機能だけでなく、実際に(成功事例を持つ既存の)セラーさんに出演してもらって短い動画でケーススタディを発信することも今は月1回のペースで実施しています。セラーさんの生の声聞いてもらうことが大きいと思います。イーベイ単独だけではなく、広いネットワークで越境EC業界全体を盛り上げていくことも必要でしょう。

インバウンドが停滞する今こそ越境ECを

新たな配送手段に注目も

─ 新型コロナウイルスの状況を踏ま え、越境 EC での直近の課題とは。

 日本郵便さんがEMSなど国際郵便のサービスを主要な国に対して一時停止している状態にあることです(5月末時点)。ただ、フェデックスさん、UPSさん、DHLさんにセミナーにご登壇いただきクーリエサービス(国際宅配便)をセラーさんに紹介しましたが大きな反響がありました。

 いわゆる郵便というサービス以外の配送方法について、まだ認知度や利用率が低かったというのが一つのチャレンジでした。ただ、直近では大半のセラーさんが(クーリエサービスに)乗り換えています。その結果、米国であれば翌日に届いたり、思ったよりも料金が安かったのでEMSとそん色がない、キャンセルが減ったなどの良いフィードバッグをセラーさんからもらいました。もちろんバイヤーからの反応もよかったようです。特に、翌日、翌々日配送となったことで、売り上げが加速するという流れにはなっているのではないかと感じます。

─2020年度の優先順位が高い取り組み施策とは。

 セラーさんのサポート体制をより手厚くしていきたいというのが基本戦略になります。その上で、おそらく米国もECが非常に好調ですし、デマンドも変わっていっています。最初は衛生関連用品が売れていって、そして巣籠り関連の商品、そしてファッション、おそらくこれからはアウトドア関連に消費が行くなど。世界のマーケットは動いているので、そのデマンドの変化をしっかり捉えた上で、セラーさんに適した商材を出品していただくということです。

 我々だけではカバーできないところもありますので、繰り返しになりますがコンサルタントの方々と一緒にやっていきたいと思います。ポータルサイトも完備 でき、クーリエともしっかりとした連携 ができているので、そういった意味では あまり大きな障害はなくなったのではな いかと感じています。

─日本ではまだ消費の力強い回復というものが感じられない面もありますが、世界の市場はまた違った段階に入っているのでしょうか。

 正直、100%正確な答えを今出すことは難しいと思いますが、確かに言えるのは(世界的な)ECシフトは一過性のもではなくて、これからも継続していくと見ています。いったんECにシフトした部分は戻ることなく、これが当たり前の世界になっていくだろうと思います。

 あとは、米国ではトランプ政権の1200ドルの小切手配布など、この先も景気対策は行われていくと思うので、それもECには追い風になっていくと思います。

─海外ではすでに外出に関わる商品の販売も伸びているのでしょうか。

 それも増えてきているというイメージです。例えば車のパーツなどもそれに当たると思います。本来ECで買われるべき物の需要のバランスがならされてきて、正常化してきているということかもしれません。

 日本のセラーさんの商品としては、引き続き、ビンテージの時計、カメラなどが動いているので、コレクター系商材は強いと思います。(キャラクターグッズ関連などの)コレクタブルは若干弱含んでいます。需要が落ちているというわけではなく、今は安い輸送手段がないため、例えば2000円のフィギュアが2000円の送料では中々厳しいだろうということです。今後の配送状況次第で再活性化するとは思います。

 そして、まだ未知の分野ですが、クーリエを使いはじめたセラーさんから、もっと重くて大きい物が送れるのではないかという声が聞かれるようになりました。車のパーツ、楽器、オーディオ関係、産業用機器、食材など重くて高単価なものなどです。成果は出品してみてから分かると思うので、そこは応援していきたいです。1週間かけてハンドバッグを届けていたところから、翌日に重い物が届けられるとなると、セラーさんの発想も変わってくるのかもしれません。

――コロナで海外との往来が難しい状況が続いていますが、越境ECへの影響は。

 我々もインバウンドをあてにしていたところがあり、旅前・旅後の需要を期待して、以前には京都市とQRコードの入ったステッカーを店に置いてイーベイで同じものが買えるということもやっていました。空港からのリムジンバスにQRコードを付けたりなど色々なことをやりました。そういった意味では旅前・旅後というフレームワークから外れて、日本に行かなくても買えるということがニューノーマルになるかもしれません。

─今後のセラーさん向けの施策で考えていることとは。

 インバウンドで売ろうとしていたお店の方も今はこの状況なので、事業の立て直しの一つとして、越境ECに取り組んでいただければ。また、最初にセラーを立ち上げる際に、基本は1カ月で10品、500ドルまでの出品で、そこから信頼を勝ち取っていき徐々に出品枠が上がっていきます。ですが、店舗をたくさん持っている企業はそれでは厳しいので、ある程度与信情報が取れるのであれば制限を超えてできるようにうするプログラムを始めていきます。これは日本独自の施策としてやっています。

─日本の通販業界へのメッセージは。

 越境ECを難しいと思わず、オムニチャネルの一環として捉えていただきたいと思います。まず第一歩を踏み出していただければ。日本市場が縮小傾向にある中、国策としてインバウンドを進めていたところがあり、それが(コロナで)停滞している状況になっています。だからこそ今、越境ECにトライしていただきたい。

 ECシフトが加速している、その中に越境ECもあると思います。一度手に入れた利便性は中々手放せないものなので、これからEC化率が下がるということは考えづらいです。おそらく、(感染リスクがあるので)ショッピングモールなどに行かなくなった人もいるかと思います。そういった時でも通販で何とかしのげると分かったことは新しい時代に入ったということなのではないでしょうか。また、現金から電子決済へのシフトも見られます。色々なことの針が一歩進んだのではないでしょうか。

岡田 雅之(おかだ・まさゆき)氏

1997年日本電信電話(NTT)入社。その後、カリフォルニア大学バークレー校に留学。アクセンチュアでは戦略コンサルタントとして従事。Appleのプロダクトマネジメント部門にて極東地域の市場戦略責任者および「ApplePay」事業を立ち上げ。2017年にイーベイに入社し、20年2月に現職。

取材後メモ

 社長就任後に間もなく、新型コロナウイルス禍に巻き込まれることとなりました。厳しい状況からの船出となったものの、各国での経済活動の再開に伴い消費環境にも回復の兆しが見えてくるようになるなど、状況は少しずつ前に動き始めています。“アフターコロナ”でECシフトが進むのは、世界的な潮流とされており、越境ECに期待を寄せる消費者は今後も増え続けていくことが予想されます。同社の果たすべき役割もこれまで以上に大きくなることから、さらなる飛躍を目指す年となりそうです。

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